40.誰にも教えない
職員室を出たところで、絵美里が待っていた。
絵美里は両手を広げ、わたしに体当たりするようにぶつかってきた。
その体を受け止める。
絵美里はわたしの胸の中で、にっこりと笑ってみせた。
「もう、ゆりかって、最高。だいたいみんな、見てたよ。見ていない人も、話題にしてる」
そういう絵美里に、わたしはただ微笑みかける。
どう答えていいかわからない。
絵美里はわたしから体を離すと、少し心配げな顔をして、わたしにたずねた。
「それで、いつからいつまで、停学?」
矢島くんと、そして藤村早紀と、わたしは目を見合わせる。
なぜだかおかしくて、つい、三人で笑ってしまう。
「何で? 何がおかしいの?」
不思議そうな顔をする絵美里に説明をしながら、四人で昇降口まで歩く。
校則が変わる話まで行き着くと、絵美里はわたしの肩をばしっと叩いた。
「やったじゃん。ならば、これで世はすべて事もなし、ってね」
わたしは笑顔でうなずいた後、ふと、藤村早紀にたずねる。
「そういえば、藤村先輩、なんでわたしの計画、知ってたんですか?」
「それは、簡単なんだ。昨日、ちょっとしたウワサを聞きつけてね。それで、きみの親友に聞いた」
そういって、藤村早紀はじっと絵美里に目を向ける。
絵美里は、そっと、わたしの表情をうかがっていた。
「何で黙ってたの?」
「だって、口止めされてたんだもん。ですよね、先輩?」
絵美里がそう言い、藤村早紀がうなずいてみせる。
「そう。私の方でもどうなるかわからなかったから、黙っていてもらった。あてにされていても困るし。でも結果的にうまくいって、よかったんだ」
絵美里とうなずき交わした後、藤村早紀はわたしたちから離れて歩き出す。
その背中に、わたしは声をかけた。
「どこに行くんです?」
「教室。荷物とか、全部置きっぱなしだったんだ」
「あの、一緒に帰りません?」
「遠慮しておく」
そうとだけ言い残して、藤村早紀は歩み去っていった。
少しの間の後、絵美里も、突然ぱん、と手を叩いた。
そして思い出したかのように言った。
「そうだ、絵美里ちゃんも部室に荷物、置きっぱなしだった」
そうは言っているものの、その肩には普段使っている通学カバンがかけられている。
「カバン、あるじゃん」
「他にもいろいろあるの。ゆりかは先に帰ってて。私は新町くんと帰るから」
そう言い残すと、絵美里は呼び止める間もなく、走り去ってしまった。
後に残されたのは、私と矢島くんだけだった。
軽く咳ばらいをして、矢島くんが言った。
「浦下の友達って、自由奔放そうに見えて、みんな結構気を使うのな」
そのときわたしはやっと気づいた。
「ああ、そういうこと」
その後でわたしは、矢島くんから、告白の返事を聞いた。
それはわたしが勇気を出し、多くの苦労を経て手に入れただけの価値のある返事だった。
だから、それがどんな言葉だったのかは、誰にも教えない。




