表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/41

11.変人かもね

「藤村早紀のこと、わかったよ」


 火曜日の朝、そばに寄ってきた絵美里がわたしにそう言った。

 あんまり浮かない顔をしている。


「そう。どんな人だった?」


「たぶん、変人」


 鼻の付け根にしわを寄せながら、絵美里が言う。

 それから、藤村早紀のことをわたしに教えてくれた。

 絵美里が教えてくれた情報は、実に雑多なものだった。


 藤村早紀。

 通うクラスは二年A組。

 血液型はAB型。

 誕生月は四月。

 趣味は読書で、たいてい本を読んでいる。

 親しい友達はいない。

 通学は徒歩で行っている。

 部活には所属していない。


 藤村早紀は特待生である。

 それなら頭がいいに決まっている。

 そして彼女は、テストでは学年一位を何度も取っている、というウワサ。

 貼り出されたりはしないから、正確なところはわからないけれど、成績がいいのは間違いない。


 そんな彼女は、去年のバレンタインデーの日、自由登校になっていた三年生の先輩を呼びだして、告白している。

 告白は、その後のゴタゴタをのぞけば、うまく成功し、その先輩とは今も付き合っているらしい。


「そういった自分のことを、藤村早紀はあまり話そうとしないんだって。いじめられているわけではないけど、これといった友達もいない。クラスでも浮いてるみたいだね。なんか、壁がある、っていうか、そんな感じらしい。イメージつくでしょ?」


 一通りの話を終えた絵美里に、わたしはうなずいてみせる。

 なんだか近づきがたい人、というのは、わたしのクラスにもいる。

 別に嫌ってもいないし、用事があれば話しかけるけれど、あくまで表面的なもので、決して心は開かない、そんな相手。


 でも、そういう人たちはそういう人たちで、自分たちなりのコミュニティを持っている。

 むしろ、近づきがたいというのはわたしから見た感想に過ぎず、向こうから見れば、常に絵美里と二人だけできゃあきゃあやっているわたしの方が、近づきがたい人なのかもしれない。


 だけど藤村早紀には親しい人はいない。

 常に一人だとすれば、全方位に対して、開かれることのない心の壁をまとっていることになる。


 だけど彼氏はいる。

 バレンタインデーに、ハデに告白をするような相手が。

 それから一年、たぶん大学生になっても付き合っているらしい恋人が。

 なんだか、アンバランス。


「変人かもね」


 わたしが絵美里にそう感想を告げると、絵美里は深くうなずいてみせた。

 それから、首をかしげて聞いてくる。


「で、どうするの? これでも話を聞きに行く?」


「それでも話を聞いてみる。どこに行けば会えるかな?」


「放課後は、いつも図書室に行くんだって。二年の教室に行くよりも、そっちの方が話しやすいんじゃない?」


「ありがと、絵美里」


 手をグーに握って絵美里に向ける。

 絵美里も、握りこぶしをわたしの手にぶつけてくる。


「……私は、行かないからね。そもそもチョコ作戦には反対だし」


「もちろん。部活、少し遅れるかも」


 放課後を迎えたわたしは、さすがにドキドキしていた。

 正直いって、人と接するのがあまり得意な方ではない。

 人間関係は、狭く深く、というタイプだと思っている。


 しかも相手は先輩だ。

 高校に入って出会った弓道部の先輩たちは、引退間近なことと、彼女たち自身にとってはじめての後輩だったことで、すごくかわいがってくれた。

 だけどあくまで部活動の中だけでの付き合いだった。

 わたし自身がどういう人間なのかを深く知る間もなく、弓道の上達だけを目を細めて見守り、先輩たちは受験勉強へと去っていった。


 これまで、何のかかわりもなかった先輩と、わたしはうまく話せるだろうか?

 しかも彼女にとって、あまり口にしたくないかもしれない、少なくとも名誉ではないかもしれない、そんな内容を。


 尻込みはする。

 だけど、やるしかない。


 わたしはもう決めていた。

 意を決して、自分の席を立ちあがる。


 そんなわたしの目の前を、絵美里がひらひらと片手の指だけを揺らしながら横切っていく。

 目を向けると彼女はにんまりと笑っていた。

 まあ、頑張れということなんだろう。

 そんな風に、いい方に解釈をしてから、わたしは図書室へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ