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2ー10 妹の実力

 クリフォード王子が以前にも声を掛けていた仲間候補。そんなティリアだが、まさかここまでパワータイプだとは思っていなかったのだろう。

 息を呑んで俺達の試合を見学していた連中から溜め息が零れる。


 だけど――


「お兄ちゃん、このまま引き分けで終わるなんて言わないよね?」

「もちろん、本番はこれからだ」


 俺の言葉を受け、ティリアが首筋向けて剣を押し出した。俺はとっさに首を捻って回避し、自分の剣でティリアの剣を側面へと弾いた。


 同時に立ち上がり、振り返りざまに右腕を振るう。

 だが、その先にティリアはいなかった。


「こっちだよ、お兄ちゃん!」


 側面に回り込んだティリアが、死に体になった俺に剣を振るう。


「――掛かったな」


 ティリアの剣が届く寸前、左腕に持った剣でその一撃を弾く。

 右手を振るったのはフェイク。

 ティリアが回り込んでいるのに気付いて、わざと剣を持たない腕を振るったのだ。


 今度はティリアが剣を弾かれて死に体になる。

 対して、俺は空いた手でティリアに掴みかかる。ティリアはとっさに下がるが、不意を突いた俺の方が早い。胸ぐらを掴んだ俺は、慌てるティリアを思いっきり投げ飛ばした。

 だが、ティリアは自ら飛んで空中で姿勢を制御する。


「まだだよっ!」

「いいや、終わりだ」


 着地したティリアの胸に剣を突きつける。この状況から、ティリアが勝ち筋は残っていない。それを理解したティリアは――にへらっと笑った。


「ん~、やっぱりお兄ちゃんは強いなぁ~」


 清々しいほどに潔く負けを認める。

 自分が負けたというのに、どことなく誇らしげに見えるのは気のせいなのだろうか? 彼女はクリフォード王子に一礼して下がった。

 俺も剣を鞘に収め、クリフォード王子へと視線を向ける。


「満足いただけましたか?」

「十分だ。これで、彼女の加入に文句を言う者は……いや、文句を言う者はいないが、挑戦したがる者は増えてしまったようだ」


 クリフォード王子の視線をたどれば、仲間である学生の騎士達がさっそくティリアに挑んでいる。どうやら、しばらく訓練は終わらなさそうだ。



 ティリアが次々に挑んでくる学生騎士達と戦っている。ティリアの相手は同い年か年上ばかりだが、勝率は五割を優に超えている。

 自分よりもずっと体格の良い騎士を相手を力でねじ伏せている。


「ノアの妹はなかなかの曲者だね」

「……ええ。見かけによらずパワータイプってだけでも厄介なのに――」


 ティリアと鍔迫り合いで競う相手が、ムキになって押し込んだ。

 刹那、ティリアは身体を捻って剣を受け流す。

 相手はとっさに踏みとどまろうとするが、そうやって身体が浮いたところを押し込まれては為す術もない。尻餅をついたところ、ティリアに剣を突きつけられた。


「見ての通り、意外と技巧派なんですよね」


 見た目が華奢なのに力が強い。

 そこで力一辺倒だと油断すると、その技術に為す術もなく切り崩される。


 だからかどうかは知らないが、ティリアは自分の華奢な見た目を隠そうとしない。むしろ、いまも制服姿で、自分が華奢な女の子であることを前面に押し出している。


 あのスカートの下、スパッツを穿いているのだが……見えそうで見えない。見えなければ、スパッツの存在も分からない。

 しかも、意識を向けると回し蹴りが飛んでくるなど、なかなかに鬼畜な動きをする。ティリアが妹じゃなければ、俺ももう少し苦戦していただろう。


「ところで、クリフォード王子。俺をお呼びだとうかがいましたが……もしかして、ティリアのスカウトが目当てでしたか?」

「あぁ、いや、彼女は嬉しい誤算だよ。キミに用事があったんだ。知っての通り、学園祭では特派クラスの代表以外に、僕や兄のように王子が率いるチームなども参戦する」

「はい。そのために訓練をしているのは知っています」


 特派クラスは、聖女を連れて穢れを浄化する部隊の卵である。そしてこの国の上に立つ者達もまた、穢れを浄化する任務から無関係ではいられない。


 そんな訳で、王子を初めとした一部の王侯貴族も、自分で集めた仲間を模擬訓練に参加させる。そうすることで、この国の上に立つ者としての資質を証明するという訳だ。


「それで俺に用事というのは? メンバーは決まっているのですよね?」

「あぁ、もちろんだ。ただ、僕は一年で、二年に兄さんがいるだろ? その辺りの事情で、僕のチームは層が薄くてね。他の種目もあるし、控え選手が決まっていなかったんだ」

「つまり、俺を控え選手にする、と言うことですか?」

「あぁ、キミとクラウディアとティリアの三人、かな」

「……なるほど」


 そんな訳で、俺達はクリフォード王子の模擬訓練のメンバーの控えとなった。と言っても、控えが実際に出場することはないだろう――と、完全にフラグである。

 

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