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2ー3 ガゼフの過去

 実技訓練が終われば、制服に着替えて再び座学が始まる。

 階段状になった教室に並ぶ長椅子とテーブル。その一つに、俺とクラウディアは並んで座っていた。隣にガゼフがいないのは……あいつが女の子の隣に突撃したからだ。

 今度は、騎士見習いの女の子とお近づきになることを狙っているらしい。


 ……ガゼフは仲間思いだし、騎士としても優秀だ。ついでに顔も悪くないので、あのがっついた態度さえなければ、放っておいても女の子の方から寄ってきそうなんだけどな。


 そんなガゼフとは、初等部からの付き合いだ。

 当時のガゼフはいまと違って純情な男の子で、クラスメイトの無邪気な女の子ととても仲がよかった。というか、ガゼフは間違いなくその子に惚れていた。

 俺から見てもお似合いで、その子もガゼフに惹かれているように見えた。


 ……だけど、中等部に上がったある日。その女の子は二十も歳の離れた騎士と婚約。そのまま、花嫁修業をするために学校を辞めてしまった。


 政略結婚なんて、貴族社会では珍しくない。だけどガゼフにとってはショックな出来事で、その女の子のことをずっと忘れられないでいた。

 いつかその女の子を取り戻せるくらい、立派な騎士になろうとひたむきな努力を続けた。


 切ない恋の物語――と思った?

 残念。この物語は悲劇ではなく、喜劇で終わる。


 それは高等部に上がってほどなくのことだ。

 ガゼフはその女の子と再会した。


 ガゼフはクラスの代表チームに選抜されるくらいの実力を身に付けた。

 もちろん、それだけでは身分が届かない。

 いつかきっと、君に相応しい地位を得るから、もう少しだけ時間が欲しいと告白した。


 そうして、ガゼフは真実を知ったのだ。


 政略結婚を仕掛けたのは女の子の父親であり、その父親を動かしたのは女の子本人。彼女は元から、父親と同じくらいのおじさんしか愛せない性癖だったのだ。

 むしろ相手の方が困惑していたが、権力には逆らえなかった、という訳だ。


 政略結婚に出された悲劇のヒロインを救うナイト様。そう信じていた彼はけれど、本当は恋路を邪魔するお邪魔虫だった、という訳だ。


 まぁ……そんな訳で、ガゼフはとてもショックを受けた。いままで一途に思い続けていた自分を恥じるように、見境なく女の子を追い掛け始めた。


 だが、初恋がトラウマになっているのだろう。自分と親しい女の子を避ける傾向にある。

 つまり、脈がありそうな女の子を恋愛対象から外しているのだ。


 実のところ、ガゼフに惹かれている女性は何人か心当たりがある。

 だが、ガゼフは行動が軽薄なので、上辺しか見ていない者が惹かれることはない。ガゼフに惹かれるのは、彼とそれなりに親しい女の子だけである。

 そして、親しい女の子はガゼフの恋愛対象に含まれない。


 結果、ガゼフはいつもいつもフラれている。


 なんて喜劇……いや、悲劇。

 まあ……さっき、喜劇で終わるって言っちゃったけど。


 取り敢えず、あの事件からそろそろ一年が経つ。ガゼフもトラウマを克服してもいい頃だ。そうすれば、自分を想っている女性にも気付けるはずだ。

 ガゼフはいい奴だから、ちゃんと報われて欲しい。


 そうすれば、俺も気兼ねなく、クラウディアとの関係を打ち明けられるしな。なんてことを考えつつも、エリス先生の講義に耳を傾ける。



 聖女でもある彼女の授業は、基本的に聖女関連が授業範囲となる。騎士や魔術師にとっても聖女の能力を把握することは必須であるため、俺にとっても手の抜けない授業となっている。


「聖女としての能力は、至っている階位と魔力量によって決定します。その理由を……レティシアさん、答えてください」

「はい。私達聖女は、階位をあげることで新たな奇跡を授かります。それに、魔力量が多ければ、奇跡の使用回数が増えますし、魔力を多く注ぐことで効果の拡大も可能だからです」

「はい、その通りです。階位が低ければそもそも使える奇跡が少ない。ですがいくら階位が高くとも、魔力量が低ければ宝の持ち腐れです。必ず、その両方をあげなくてはいけません」


 第一階位の聖女が扱える奇跡は、ヒールとプロテクション。この二つの奇跡には似たような効果の魔術が存在するため、第一階位の聖女は見習い扱いだ。


 ただ、クラウディアのように魔力量がずば抜けていれば、多くの人間にヒールを掛けたり、一度のヒールで大怪我を治したりすることが可能である。


「ねぇねぇ、ノア様、ノア様」


 隣に座っていたクラウディアが囁きかけてくる。視線を向けると、クラウディアが俺から見えるように、机の上に置かれたノートの端をペンでつついた。

 そこには――


 今日はメイド服?


 そんな一言。

 その意味に気付いた俺は盛大に咽せた。


「……ノアさん、どうしました? 風邪ですか?」

「い、いえ、ちょっと咽せただけで問題ありません!」


 先生に話しかけられ、必死に平常心を取り繕った。


「……そうですか? まぁちょうどいいです。聖女の能力は階位と魔力量で決まるにもかかわらず、聖女が一人前と認められるのは第三階位からという決まりがあるのはなぜですか?」


 当てられた俺は、クラウディアを一瞬だけジト目で睨んで立ち上がった。


「聖女の最大の役割は各地に発生する瘴気溜りを浄化することです。そして、その浄化に必要な奇跡、聖域サンクチュアリを授かるのが第三階位だからです」

「正解です。座ってかまいません。では――」


 先生の意識が俺から離れ、別の生徒へと向けられる。それを確認して、あらためてクラウディアにジト目を向ければ、彼女はごめんねと声には出さずに呟いた。

 ただし、彼女のペンは今日はメイド服の文字をぐるぐる囲っていた。


 ……こいつ、絶対反省してない。

 

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