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苦労人な少年と厨二病な少女の場合

無理矢理感を詰め込み、設定を瓦解させた結果です。

 季節外れなフード付きの青いジャージを着た少年と、フリルの多い、真っ黒なゴスロリ服を着た少女が、とある家の前に佇んでいる。


「……へ、へへへへへ……」


「……コホン、陸斗、我が盟友よ……そう落ち込むでない。貴様はまだ地獄の業火に焼かれる運命でなかった、というだけまだマシであろう」


「フ、フヒ、フヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ、ハハハハハハハハ!!」


「……り、陸斗?」


 壊れたように笑う少年に、最初は尊大な態度で話しかけていた少女。だが、その呼び掛けに反応せずただ笑う少年の迫力に、その威勢も剥がれ、ビクビク震えてしまっている。


 分からなくもない。狂ったような笑い方をする人を間近で見て、平気な人間は一体いくらいるのだろうか。


 そして、少年が笑い続けるのも分かる。何せ、


「家燃えんの何回目だよクソッタレェェェェェェェェェァァァァァァァ!!!!!!!!!!」


「ひぅっ」


 火の手が回り、大炎上した自分の家を目の当たりにしているのだから。頭を抱えて怒号を上げる気持ちも分かるというものだ。少女は涙目である。



 ───────────────────────


「盟友よ、これを食うといい。貴様の好きな“全てを死に至らしめる毒草を練りこみし悪魔の菓子”、だ」


「……おう、草餅な。ありがとう……てか、よく残ってたなコレ……」


 叫びながらのたうち回っていた少年だったが、自分達まで燃えるのでは無いか、という少女の言葉で平静を取り繕い、二人で何とか燃える住宅街から脱出した。


 そこからしばらく歩いた所にある更地で、二人は座っている。


 少年の心はもはや虚無に支配されていたが、少女がフリルの裏から取り出した(どうやってしまっていたのか、などは謎)大好物の草餅に、少しだけ救われた気になる。しかし目は死んでいる。


 よく残ってたな、という少年の呟きに対し、少女は左掌で口を隠し、広げた親指、人差し指、中指の間から両目を覗かせるという独特なポーズで答える。


「盟友はこの悪魔の菓子を食えば活力を取り戻す……故に我は盟友のために常備しているのだ」


「ほんな単純じゃあないっへの、んぐっ。つか、もしかしてまだあんの? 欲しいんだけど」


「餌付け用故に、渡す訳にはいかない。そして相も変わらず食す速さは光の様だな」


「曲がりにも盟友じゃないの? 餌付けって何? それペット扱いしてない? ねぇ。あと草餅程度一口だろ」


「……こう、一人で何処にも行かないかなって」


「ペット扱いじゃねぇか! そうじゃなくてもお前四六時中俺といるだろうが! 特に夏休み中は!」


 少年の指摘に、キョトン顔を返す少女。少年はため息をつく。


「お互い親が旅行だって言うから一緒にあの家にいたんだろうが……思春期の男女を一緒に住まわせるか普通……」


「……家は既に灰となったがな」


「望叶、俺をそんなに発狂させて、楽しいか? ん?」


「……ごめん」


「「…………はぁ〜……」」


 大きなため息をつき、空を見上げる二人。少年の見上げる空には、少年と少女、それぞれの両親がニッカリ笑ってサムズアップしている様に見えている。ご丁寧に歯がキランと光っているのが、いっそう腹立たしい。


「……陸斗」


「あん?」


 空に両親達の面影を見て、かなり複雑な気分になっていた少年、祇洲陸斗(しじまりくと)は、ジャージの裾を引っ張る少女、氷澄望叶(ひすみののか)の方を見る。


「二人っきり……だね」


「? そうだな……」


 白い頬を紅潮させ、俯く望叶。陸斗がしばらく眺めていると、望叶は紅い顔を上げる。目が潤んでいるのを見て、陸斗は自分の身にラブコメ的な気配を感知した。


「誰も、いないね」


「……おい望叶、お前キャラ付けどうしたんだ? いつにも増してブレブレじゃねぇか」


 体ごと陸斗に向き合う様に座り直す望叶は、キャラのブレを指摘される。


 余談だが、彼女がちょこちょこ尊大な態度で話すのは、彼女がハマっているダークファンタジー小説、“夢無きものへ喝采を”の主人公を真似ているかららしい。


 結構古株な小説で、長い間中高生をその道に引きずり込んでいる。今も尚現役ということもあり、知らない人はいないほどなのだ。


「……………………ここ、人いないね」


「スルーかそうか……それより、ジリジリと顔近づけてくるのやめようぜ? 何するつもりだお前?」


「……いつもの?」


「ああ、なるほど。不幸の帳消しか。人いないのを確認してたのそういう事か。いるんだよなぁ向こうに」


「……ぇ?」


 陸斗の視線の先に、人影が動いているのが分かる。角度的には確かに望叶からは見えない位置である。公園である事を考えると、草むしりをしているおばちゃんとかだろうか。


 望叶はその人影を体を捻って見つけ、固まる。微動だにしない、という訳ではなく、小刻みに振動しているのが、密着している陸斗に伝わった。耳が赤くなっているのも丸わかりだ。


「油断して随分と恥ずかしい事してたってわけだな……」


「…………は」


「え?」


「早く言ってよバカ!!」


「イッデェェェェェ!?」


 パチィィン、と乾いた音が鳴る。綺麗な弧を描いた全力の平手打ちが、陸斗の左頬に真っ赤な紅葉を作り出した。見るに鮮やかである。


「あ、ご、ごめん! 大丈夫?」


「何でだ……何でなんだ……どうしていつもこうなんだ……クッソ痛てぇ……別に大丈夫だけどさぁ……昨日も同じこと無かったっけ?」


「……昨日? ……あ」


 思え返す二人。脳裏に浮かぶのは昨夜。まだ燃えていなかった家でのことだ。



 ───────────────────────


 陸斗はトイレへと向かうために廊下を歩いていたのだが、その途中にあるドアノブに腕をぶつけた。


 そのドアノブはドアから外れて飛んでいき、コロコロと床に転がることとなった。


 一方陸斗は当たり所が地味に悪く、かなりの痛みを噛み殺して再びトイレへ向かおうと一歩踏み出した。


 そこに先程のドアノブがあった。


 見事に踏んづけた陸斗は転びそうになったため、バランスを取ろうと壁にもたれかかったのだ。


 その壁が綺麗に抜けてしまい、倒れた先には。


 入浴中の望叶がいたのだ。


 そんな何処ぞのピタゴラ装置もビックリな経緯で、陸斗は悲鳴と共に回し蹴りを側頭部に食らい、ダウンすることとなった。


 ───────────────────────


「本当に何なんだ……俺何処に行ってもこんな感じじゃんか……」


「……盟友よ、貴様の不幸は確率的に起こり得ぬ事をも引き起こすな……」


「要素一つ一つがそうはならんだろって確率だし、それら全部絶妙に最悪な巡り合わせで起きるから尚更な」


 陸斗は、生まれてから定期的にハプニングが起こる。時にそれは他人の運命をも狂わせる程に大きな騒動に発展することもあった。


 不思議な事に、望叶が近くにいる時はせいぜいラブコメの範囲で済む等、比較的マシなのだ。彼女が何らかの理由でいない時、その不幸は先程の例が霞む程に、仕組まれた様な事件に巻き込まれる。


 実際、陸斗は無辜の人々を巻き込んで死にかけたことがある。それも三回だ。


「……何かもう疲れた……修司ん家にお邪魔するか? 親父達に家燃えたって連絡入れて」


「何時も申し訳と思うな……」


「しっかし、なんで急に燃えたんだ? アレ。周りの家も軒並み、同タイミングで出火したっぼいしさぁ」


「遂に我にも抑えられぬ程に……」


「やめろやめろ、おっそろしい想像するな。ますますお前から離れらんねぇじゃんか。幼なじみっつったってそろそろ辛いだろ、異性を意識しちゃう年頃だろ。俺らは良くても他の目がキツイんだよ」


 陸斗にとっての天敵は、自身と望叶をからかう輩である。ある種最強のボディガードはいるものの、何度もからかわれていれば精神が擦り切れてくるのだ。が。


「私は完全に役得」


 超小声で呟く望叶。幼い頃から片思いを続ける彼女にとっては、寧ろ望むところであろう。素でラブコメ主人公な陸斗は全く気づいていないが。



 ───────────────────────


「さて、現実に戻るか」


「現実逃避はもう終わりでいいのか? 我は嫌だ」


「諦めてくれ望叶。俺も嫌だけど、そろそろ限界が来てるんだよ……まさかさぁ……」


 燃え盛る街をバックに全力で走る陸斗と、そんな彼にお姫様抱っこをされている望叶。何故こんな事になっているのかというと……


「草むしりのおばちゃんがゾンビとか思わんだろうがァァァ!!」


 彼の後ろを、大量の人型が追いかけているからだ。


 腐りかけ、内臓も転び出ているのが、ざっと数十程追いかけてくる。動きは遅いが、めちゃくちゃ怖い。


 ちなみに、走り出したのは昨夜の事を思い返していた時だ。望叶のビンタの音に反応したのか、焦点の合わない、というか片目がない、正しくゾンビな顔が振り向くのを、陸斗は見たのだ。


 徐々に近づいて来るので、思わず望叶を抱き上げ、走り出し、今に至る。


「盟友よ、我も走れるぞ。下ろすがいい」


「前にそう言って走って服破けただろうが!! 器用にスカートだけとっぱらいやがって!!」


「……」


「ア゛ア゛ア゛ァァァ!! 何でこうなるんだよぉぉぉ!!」


「……その、いつもごめんね?」


「お前はいいんだよお前は!! 問題は現状だっつーのマジでどうすんのコレェェェェェェェェ!!!!」


 走り、叫ぶ間にも、人型は増えていく。横からも出てきているが、躱しつつ走り続ける。


 ふと、望叶が提案する。


「ホームセンター……」


「え!? 何!?」


「ホームセンターまで! 頑張って! ある程度! 対抗! できるかも!」


「こっからどんだけ離れてると思ってんだ!! 最悪俺死ぬんだけどォ!?」


「草餅! あるから!」


「うっしゃ任せろォォォォ!!」



 こうして、全速力でホームセンターまで走る少年、祇洲陸斗と、普段より想い人に密着できている状態をタネに現実逃避しようとする少女、氷澄望叶の二人組が、天変地異に巻き込まれた。


 この街の一番近くのホームセンターまでは、陸斗が走る場所から、約三キロ。


 彼らの旅路は恐らく、多数のハプニングで舗装されていることだろう。

陸斗の不幸は、起こる確率がゼロでも強制的に百にするという、逆に幸運な不幸だったり。


望叶の言う埋め合わせは、その通り陸斗の不幸を埋め合わせるものである(陸斗は望叶を妹の様に思っているため、一種のセラピーとして認識している)


……のは建前で、実際には陸斗に女性として意識されようと望叶がアレコレ頑張る口実だったりする。

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