乱暴者な少年の場合
もう一個をほっぽっての投稿。罪悪感に胸が締め付けられるような気もしますが、思い出してしまったから仕方ない。
ジリリリリリリリリリリ……
「……うるせぇ」
グーで思いっきり目覚まし時計のボタンを殴りつける。毎朝毎朝いい気分で寝てるって時に邪魔しやがって……セットしてんの俺だけど。
夏休みでも規則正しい生活を心がけろ〜、とか親父が言うから頑張ってるけども、それこそ夏休みなんだしゆっくりさせてもらいたい。ただ、6時には起きて、花に水をやり、親父に電話しないと小遣いが減らされる。管理社会かクソッタレめ。
「……はあ〜、あっちい」
デカいため息をついて布団から起き上がり、外に出ようとするが。
「……何か燃えてる? ってか妙に明るいな?」
何処からか妙に焦げ臭い臭い。窓の方を見てみれば、朝日とは違う光がカーテン越しに確認出来る。
何事かとカーテンを開けてみれば……
「……………………Oh.」
街一帯が、見事に炎上していた。
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「……銀世界ならぬ紅世界ってか? 何があったんだよコレ……なんかもう面白いぞ」
カーテンを閉めて、少ししたらゆっくり開ける。未だ炎は煌々と民家を燃やしている。
カーテンをもう一度閉め、今度は下からくぐるようにして窓の外を覗いてみる。ガソリンスタンドの方で大爆発が起こったのが見えた。
「開け方が悪いとかじゃねぇのか……本格的に大災害? 俺逃げ遅れた? 死んじゃう?」
とりあえず、こういう時は……
「……親父ィ!!!!!!」
肝心な時に居ない親父へと電話してみる。火の手が回ってこないことを祈ろう。
「知ってた」
電話が繋がらない。テレビもラジオもつかない。情報源が軒並み死んでやがる……詰みゲーですか?
ラジオもつかないっておかしくねぇ? 電池変えてもこの有様だ。ノイズが酷すぎてまともに聞こえないっていう状況なわけで。
「……………………家捨てるか」
まあ、いつまでも家で燻ってるわけにもいかんだろうし、さっさとトンズラかますことにしよう。
まさか、中2の夏休みが危険地帯からの命懸けの避難から始まるとは思わなかった。色んなところで自慢できそうだ。
リュックに着替えや食料、水をできるだけ詰め込む。そして俺自身は、学校指定の体操服……白い半袖シャツと青い短パンに着替え、雰囲気だけでも明るくしようと(そもそも炎でめちゃくちゃ明るいが)、意気揚々と言った調子を無理矢理作り出した。
「うっし、めげずに頑張ってこ〜! ってな」
明るさを保ちながら、遊ぶ約束をしていた友達との待ち合わせに向かうが如く、元気に扉を開け放った。
「グヴァァァァァ……」
すぐに閉めた。
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「……………………何アレ」
扉を、チェーンをかけた上でもう一度、今度はこっそりと開ける。
「ヴゥゥゥゥゥ……」
もう一度閉め、今度は執事の様に、丁寧に開けてみる。
「ヴァゥゥヴヴヴ……」
再び閉める。
二回確認したが、意気揚々と開けた時と同じく、何かがいた。さっくり言うと……ゾンビだろうか。
見た目は人間なんだが、皮膚があちこち爛れていて、なんなら溶けかけているまである。というか腐ってる。眼は血走り焦点が合っていない。唸り声からは人間特有の理性が感じられない。むしろ獣というのが近いだろう。
まだ冷蔵庫に残っている2Lペットボトルの水を、直接口をつけて飲む。電気は夜の間に止まっていたらしく、地味に温かい。
「…………○イオハ○ードじゃねえんだからよ……シリーズ詳しく知っている訳じゃねぇけど」
SAN値チェックくらいそうな物を見た割に、俺は冷静だ。緊張感が極限超えたせいだろうなぁ。
とにかく、冷静なうちに対策を……
「籠城……は、ダメか。どうせこの家そのうち燃えるだろうし」
あんなにパーリィしている炎だ。陰キャなこの家にまでしつこく絡んでくるだろう。
「潔くハラキリ……論外。生きるために対策立てるってのに、何考えてんだ俺」
訂正、あんまり冷静では無い。当然のことではある。朝起きたら家の周りが火事。しかも外に出ようとしたらゾンビ的なアレがいるときた。ただまあ、普通は怖いだろうが、俺は……何故かそんな恐怖はない。
「特攻するか」
よって、ゾンビ達に突っ込む事にした。
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「鉄バットヨシ、チャリの鍵ヨシ、体調……寝みぃのと昨日から腹下し気味なの以外はヨシっと」
妙に腹痛てぇんだよなぁ……1日置いた刺身が祟ったか? 解凍方法がまずかったか? ……まあいいや。
いざという時に振り回すため、俺の部屋にあった鉄バットを右手に装備する。そして、背中にさっきのリュック。結構重たいが、チャリをこぐのに支障はない。
俺のチャリは玄関出て右。すぐに乗っちまえば後はどうとでもなる。人を探してしばらく行ってみようか。
チェーンを外し、扉を思いっきり開ける。目の前にも横にも、さっきのクリーチャーみたいなのはいない。ならとっとと……
「冒険カッコ笑いに出かけましょうかね!」
ひとまずの目的地を、物資がまだありそうな近くのスーパーにして、チャリを漕ぎ出す。全身に熱い風が当たるが、今更どうこう言ってはいられない。
まあ、この時の俺、鬼灯遊冥は、まさか自分が世界の危機を救いに行く事になるなんて、微塵も考えていなかったわけだ。
主人公の一人、鬼灯遊冥。14歳とは思えない程肝が座った少年。