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【15話】初デート

あれから悠は徐々にテンションが通常時に戻っていき僕はいつも通り虐められ始めたので

早々に仕事を切り上げて基礎体力訓練に向かった。



午後からの基礎訓練を終えてデスクに戻るとデスクの上に一枚の封筒が置いてあるのを見つけた。

封筒の色が緑色だ。

面倒事の予感がした。

嫌な事が書いてあるのは確定事項ではあるが諦めて封筒を開くと、【回収依頼】と

でかでかと書いてある紙が一枚と回収対象に関してのデータをまとめた冊子が入っている。

最先端の科学技術やCCPの技術転用までしているにも拘らずこういった通達は未だに

アナログな方式で回ってくるのが煩わしいことこの上ない。


隣の席を見ると悠の姿は無く机の上にも何も置いておらず僕の方にのみ封筒が

置かれている状態だ。

という事はこの回収任務の指揮権は僕にあるという事だろう。


僕は立ったままそのまま手元の資料に目を通し始めた。

要約すると次のような事が書かれている

・回収内容としては███市████区にて曝璽者と思われる異常存在を確認したらしい事。

・複数回エージェント及び機動部隊による回収を試みたがいずれも失敗。

・2回目の回収作業中付近の住人に目撃されたが目撃者本人に対しクラスBの記憶処理を実行

 近隣住人からの騒音の訴え等に関しては隠蔽のためのカバーストーリー【大規模下水道管工事】

 を適用済み。

・続いて能力の概略説明が記載されている。



そこまで資料を読み進めたあたりで肩を叩かれる。

「ねぇねぇ。何読んでんの?」

振り返ると悠が同じく午後の基礎トレーニングから帰ってきたようでひょこひょこと背伸びをして

僕の手元にある資料をのぞき込もうとしている。


「ああ、ちょっと待って。僕もまだ読んでる途中だから。」


そっけなく対応し目線を資料に再び戻すが背後からは悠がむくれている気配を感じる。

それでも無視して資料をを再び確認しようとすると僕の胸のあたりから腕が生えている。

その光景にビクリとするが驚いている間に資料を奪われる。


一瞬の違和感が走り次の瞬間にはその正体に気づく。

悠が僕の胸を透過して資料を掴んで奪い取っていった。

違和感を素通りしそうになったが気づいてみればおかしい。


「ちょっと!返してよ!じゃなくて、あれ?悠ちょっと待って!なんで!?」


悠の手が資料を掴んだという事は透過が一瞬でも解除されたという事だ。

そうなればグロテスクな話だが悠が紙を掴んだ瞬間に僕の胸に大穴が開いていてもおかしくない。

ペアを組んでいるわけではないが同期という事もあり割と仲がいい為お互いの能力で出来る事は

すべて把握しているはずだ。

そしてさっき想像した悲劇が起こらなかったという事は。


透過の解除の際に悠の手先だけが実体化していたことになる。


「……お?」


「お?じゃなくて、悠の透過って体の一部だけの解除は出来ないはずじゃないの!?」


「……スー…。今回の回収任務は幹也とツーマンセルか…。」


「いやいや、誤魔化そうとしないで。それって能力で出来る事の幅かなり広がってない!?」


「黙って。」

悠は無表情で僕を見つめながら口の前に人差し指を立てる。


「誰かに聞かれたらまずいから。あんまりギャーギャー騒がないで。」

いつも通り眠そうな目だが若干真剣みを帯びている。


「幹也は私の能力、今のを含めてどう思う?」


「どうって…、正直部分的に透過出来たりするのなら滅茶苦茶強い能力だと思うけど…。

壁の中から腕だけ出して攻撃したり隠密状態のままの作戦行動が求められる現場では

とんでもなく便利だと…思…う…。」


「でしょ?だから財団には知られたくない。万が一3種以上に指定されるような事があれば

仕事が増えるし、厄介事、面倒事が私に襲い掛かってきちゃうでしょ。私はやだよ。

面倒くさいもん。私にとって別に火特指定に誇りも何も無いしお使い感覚でやっていけるのが

4種まで。というわけでこの件は他言無用で。」


「うーん…。わかったよ…。まぁ正直僕だってこの間の縁さんとの訓練中に考え付いた方法は

財団に見つかってなかったら隠してただろうし。今のは見なかったことにする。

ただし、どうしても必要な時はお願いするかもしれないからそのつもりでね。」


「まぁ、その時はその時で~…。」


結局僕も悠も似た同士、面倒くさがり屋で自分第一の人間だったって事だ。

お互いこんな感じだからいまだに仲良くやれているのかもしれないなとも思う。


その後、僕らは当日の現場指示の内容と段取りを慎重に打合せする。


対象は作戦当日学校の図書委員の仕事がある。

そこで適当な仕事を教師から押し付けられ帰宅時間を遅くする。

もちろん高校には財団が買収及び脅迫をかけて協力を半強制的にだが要請してある。

更に帰宅順路上には工事現場に偽装された財団の工作員が待機

工事中を装って人気のない区画へ回り道をさせる。

そこで僕らが鎮圧及び回収を行う手筈だ。


そしてやってくる当日【21:30】。


「気が乗らないわぁ…。こんなの完全に人攫いだよね~…。」


「まぁ…、普通に考えたら嫌だよ。でも僕らは財団にやれと言われた以上やらなきゃいけないんだ。

どんな事でも僕らに選択肢はないんだよ。

それに、野良の曝璽者を放置していてはいつか勇者に殺されてそれがあいつの戦力増強に繋がる。

僕らがやっていることは曝璽者の為…なんだと思う。」


「幹也にしてはずいぶん割り切ってるんだね。こんなの間違ってる~。とか言うのかと思った。」


「ま、それも建前だけどね…。

僕の性格上、勇者が強くなるって事は自分たち曝璽者の身の危険にも繋がる

って言うのが本心かもしれない。

普通の人は自分が正義側じゃないと行動に躊躇が出てしまうんじゃないかな。

迷いなく悪に染まれる人なんてそうそうないよ。

それが初めから出来る人が居るなら、その人がその行為自体を善行だと

勘違いしてるんじゃないかな。」


「ま、どんな理由にせよ。迷いが無いに越したことはないけどね。」


「悠。もしかして、僕の事試してたの?」


「さぁ、どうだろねー?」


土壇場になって僕に怖気づかれては困るなんてことを考えていたんだろうか。

それならそれで構わない。僕も同じことを考えるはずだから。

理由のない気遣いや優しさほど怖いものは無い。

僕は財団で学んだ。

優しすぎる言葉や人は怖い。

僕にとっては悠みたいな性格の方が気が楽だ。

考えれば答えにすぐ突き当たるから。


「さっき最終誘導地点から連絡来てたからもうそろそろ来るよ。

撤収部隊も待機済みだってさ。」


「わかった、作戦通り僕がまず奇襲をかける。

悠は能力で隠密行動をとりながらターゲットに接近。

僕が僕に意識が向いたところで急襲・無力化して欲しい。それじゃよろしくね。」


悠は僕に頷き返すと付近の建物の壁の中へと隠れる。


タイミングはばっちりだったようで500m程先のトンネルのオレンジの光の中に人影が二つ見える。


肉眼で顔を確認するが間違いはないようだ。

だが、二人は既に武器を手にしていた。


度重なる回収の失敗によって相当警戒心が高まっているらしい。

それも当然かと思う。

こんな人気のない道に誘導されて勘づかない方がどうかしている。

あちら側もある程度襲撃があることを予想していることだし素直に奇襲には引っかかってくれないだろう。


彼らは直近で3回も財団からの奇襲を退けている。

大丈夫だ。二人が逃げ出すことは無い。

根拠のない自信に踊らされて必ず僕らに立ち向かってくるはずだ。


僕は堂々と正面から打って出る事にした。



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