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【11話】気付きとひらめき


「わかりました。お願いします。その代わり僕が諦めるまでは悠をこれ以上傷つけないと

約束してください。」


勝てる算段はない。

でも、どんなに無理な勝負だろうと僕は受けるしかない。

縁さんに頼み込んだのは僕だ。

現時点では問題の先延ばしにか見えない。

僕の能力だっていつかは底が付く。

体力をすべて失ったら能力は発動できない。

それでも悠が死なないためには僕はここに立ち続けるしかない。


僕は縁さんから少し距離を取り、外れた関節をすべて直し体中についた傷も治す。

この位はハンデとして待ってくれるみたいだ。


「さあ、そろそろ準備は良いかしら?始めましょう。」


一番警戒すべきは何よりもバールに触れる事。

ただし、縁さんが意志を持って振るわないと能力は発動しない。

防戦一方に持ち込めれば能力を封じることは出来ると思うが残念ながらそう簡単にはいかないだろう。


まずはこちらから仕掛ける。

隙を生まないためになるべく大振りにならないよう小まめに死角に回り込むように意識する。


行動を読まれないよう時にフェイントを入れたりしているが正直2割も引っかかってくれない。

ただ、縁さんの動きに翻弄されながらも辛うじて紙一重で避ける様な戦闘を続けていると

少し動きが分かってくる。


彼女の攻撃はとにかく早い。ただ、その反応速度や体捌きに反して攻撃はやや大振りだ。

攻撃用の獲物として相手に強い打撃を加えるために市販のバールよりかなり重量を増した設計になっている。

そのため縁さんは若干それに振り回されるように振るっている時がある。

それを恵まれた反射神経や身体能力で無理矢理カバーしている。


僕がつけ込むとしたらそこだけだ。

わざと大振りな攻撃を繰り出し縁さんの攻撃を誘発させる。

案の定縁さんは上段から振りかぶる形でバールを叩き下ろす。

バールの先端がめり込み地面が大きく陥没する。

それを狙っていた。

僕は地面に振り下ろされたままのバールを左足で踏みつける様に足場にすると不安定ながら

そのまま右から腰を捻るようにして回転を乗せ回し蹴りを浴びせ掛ける。


これは入っただろうと確信していた。

だが、僕の放った渾身の蹴りはあっさりと縁さんに掴み取られる。


「そんな不安定な場所じゃこんなものよ。精々フェイントに使うくらいに留めておけば良かったのに。」



そこからはひどいものだ。

掴まれた足を外す為藻掻こうとする前に僕の体をバールがトンと小突いた。

その瞬間手足に激痛が走り関節が外れる。

そしてそのままうつ伏せに転がされると同時に上段からの全身全霊の攻撃

が僕の背中めがけて振り下ろされる。

「っ!!!がはっっっっ!!!」

背骨が粉々に砕ける感覚があり、肺の中の空気が強引に全て押し出される。


そのまま二回、三回とバールが振り下ろされる。

痛みで気絶しそうになるがここで気を失ってしまったらだめだ。

朦朧としながらも振り下ろされる合間にも何とか治療をし意識を繋ぎ止める。

痛みだけでも気絶してしまいそうなのにこれ以上血を流そうものなら間違いなく

意識を手放すことになってしまう。

攻撃の合間が短すぎて完全に傷を治すことは出来ない。

それでも傷つけられては治し、また傷つけられては治す。


攻撃の合間に運が良ければ強引に外れた関節を無理矢理ゴキリと嵌め

もはやただの虐待と言っていい暴力の中から逃げ出す。

そしてまた彼女に捕まって再び発狂しそうな痛みと暴力の渦の中に放り込まれる。


いったい何度目だろうか?こんな辛い試練が始まって何時間経っただろうか?

もう意識は半ば混濁していると言っていい。


目を開けた先には折れ曲がり指の骨が皮膚から突き出してしまっている自分の右手が見える。

幾度となく強制的に繰り返されたルーチンせいで半ば無意識で右手を修復する。


修復されたはずの右手に違和感を感じる。

右手の拳から突き出た角のような物。

妙に鋭く、とても鋭利だがそれは改めて見てみると僕の骨だった。

いつも通り元に戻るはずが間違った形で修復してしまったのだろうか?

何百何千回と他人も含めて治してきたがこんな事は今まで一度もなかった。

これで突けばダメージを与えられるだろうか?そんなことを考えていると

治ったばかりの手を再び砕かれる。

「っっっっぐぅぅ…!」

もはや叫びすぎてまともな声すら出ない。

それでも許容量を超えた痛みは僕の喉から濁り掠れたうめき声となって絞り出される。


そして再び右手を修復すると右手はいつも通りの姿に戻った。

今まで自分や他人の傷を治す時元に戻すことだけ考えて治してきた。

開いた傷が塞がる様に。失った肉を元に戻すように。


マイナスからゼロに戻す事だけを考えてきたがそれ以上は考えもしなかった。

僕に与えられた役割は治療すること。傷を癒す事。

無意識に思考が停止してそれ以上自分に何が出来るかなんて考える事を止めていた。

意識下で自分の能力を消極的な方向へ追いやってしまっていた。


幸い縁さんは僕の閃きに気づいてはいない。

チャンスは一回きりだ。意表を突く行動は一回だけと相場が決まっている。

これで勝つしかない。


それにしても戦う力ではないと思っていた僕の能力にこんな使い方があったなんて思ってもみなかった。

勝てる算段が付いて思わず笑いが出る。

尤も、叫びすぎて爛れ切った喉からは「ヘヒッ、ヘヒッ」と薄気味の悪い空気の漏れるような

音しか出ていなかったが。

縁さんに企みがバレたら終わりだ。だからそんな笑い方で良い。




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