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【9話】全部私が悪い。


案外何も起こらず、すんなりと広場に到着することが出来た。

過度な警戒に肩透かしを食らったような気もする。


「ゆかりーん。きたよー。」


「馬鹿。あんまり相手を刺激するなよ。」


「そもそもこんな見通しいいとこまで出てきてる時点で完全にロックオン

されてるだろうから一緒でしょ。」


「僕が言いたいのは訓練なんだからもっと緊張感を・・・ってうわ!」


ガキンと上方から金属音が鳴り、反射的に頭上を見上げると空から巨大な鉄骨と

建築用クレーンのアームが僕らめがけてもの凄い勢いで落下してくる。

一瞬反応が遅れるが横から強く押されるような感触があり突き飛ばされる。


僕を突き飛ばした悠は透過を発動した状態で瓦礫に呑まれつつも半分呆れた顔をしていた。

能力の影響で喋れないがその顔からは緊張感が足りないのはどちらなんだ

というような声が聞こえてきそうだ。


すぐさま体勢を立て直すと落下してきた建築途中の建物を見上げる。

既に見上げた建物から人が飛び降りてきている。


え?そこ6階なんだけど…。

受け止めるべきかどうか迷っているとその人影は公園に生えていた広葉樹の中に消えていく。

バキ、バキ、バキと4、5回程枝の折れる音が連続した後葉っぱまみれの縁さんが降りてきた。


「ん~。やっぱりこれだけの高さの衝撃は殺しきれないわね。

少し足を捻ってしまったわね。香坂さん。治していただけます?」


ゆかりさんは右手に持っていたバールを杖にしてこちらに軽く足を引きずりながら歩いてくる。


「えっと。綾野縁さんですよね?今日の指導担当の。」


「ええ、今日の指導担当の綾野縁です。初めまして、香坂幹也さん。

資料に目は通させていただきました。先日の捕獲任務の唯一の生き残りだそうね。

それで…私の不注意で恥ずかしいのだけど足を捻ってしまったようなので治していただけるかしら?」


ダメだ。話題が完全に先日の件に向かっている。

足を治せと言っているが明らかに罠だ。

縁さんの能力は完全に近接型だ。

出来れば近寄りたくない。


ただ、ゆかりさんから無言のプレッシャーがすごい。

僕だって助けたかった。

でも、あんな瞬間を目の前で見せられたら無理だ。

あの時僕は瞬間的に走って逃げた。

あれは間違いじゃない。僕の判断は正解だ。

誰かにとって大切な人はその誰かが守ればいい。

藤宮さんは確かにお世話になったけど僕にとってはたまたま大切な人じゃなかった。


罪悪感に苛まれ動けずにいると突然風を切る音が聞こえた。

僕は今度こそ、それを横に飛んで回避する。


固いコンクリートの地面にゆかりさんの持っていたバールが突き刺さり軽く抉れている。

威力自体は大したものではない。

万が一当たったところで僕の能力ですぐさま治してしまえるだろう。


ただ、問題はそこじゃない。

彼女の能力は分離。

物の繋ぎ目をバラしてしまう能力だ。

バールで触れた物の繋がりを解除する。

人体に当たれば関節を外してしまう。


これだけ聞くと一見地味に聞こえるかもしれないが機械や部品で構成される物の場合

大きさにより多少回数の誤差はあるそうだが多くても数回叩けばネジ一本一本にまで

バラバラにしてしまう。


恐らく先程の鉄骨やクレーンもその能力で解体し僕らの頭上に落としてきたのだろう。


縁さんはその能力で機械や何らかの構造物の形を持ったCCPの回収任務に就くことが多い。

藤宮さんとコンビで藤宮さんの能力で回収。

もしそれが何らかの原因で不可能と判断され、終了させる必要があると判断されれば

縁さんの能力でそのオブジェクトを破壊。それをもって任務の完了となる。

遠~中距離タイプの藤宮さんを補佐する形で近接戦闘の穴を埋めるべく

コンビを組んでいたので当然近接戦は財団の中でもかなり上位だ。


僕自身の能力が戦闘に向かないという事で同じように戦闘に向かない能力の

縁さんから能力を絡めた近接のイロハを学び直せという事だろう。

財団の方針が改めて効率最優先だというのを感じる。


「はぁ。やっぱり逃げるのだけは得意なのね。そうやってあの人を放り出して逃げたのかしら。

あの場に居なかった私が悪いのよね。私が悪いの。私が居れば圭吾さんを守れたのに。」


「違う。違います。藤宮さんは一瞬で…。」


「今の一瞬であなたを殺せなかったのも私のせい。私がもっと引き付けてから殴りつけていれば。

もっと良く狙ってクレーンを落としていたら。全部私が悪いの。」


またこれか。

藤宮さんと同じだ。

ゆかりさんも人格を弄られているタイプの人だ。

このタイプの人は苦手だ。いつも嘘の人格から出た言葉で演技掛かっている。

まともに話が通用しない。

勇者に人格を弄られた被害者なのは確かだ。可哀想だとも思う。

人格自体はしっかりと存在していて今みたいに怒ったり普通の人と同じように喜んだり。

でも、無理矢理植え付けられた人格が表面をコーティングしているのだ。

どうも勇者の操り人形と話しているようでどこか薄気味悪い。

突然勇者の手先として牙を剥いてくるのでは?というような危惧が心の奥底で払拭しきれない。


「あなたは大事な人を無くした事があるかしら?

悲しくて苦しくて心が壊れてしまいそう。

私だってあなたが悪くないのはわかってるわよ。

でも、それで納得できると思う?

こんな風に心を弄繰り回されて捨て駒の兵器みたいに使われてそれは全部私が悪くて!」


本物の感情もある。勇者に植え付けられた感情もあるけど間違いなくこれは間違いなく

縁さんの元の感情も混じっている。


「ごめんなさい。僕の能力がもっと強ければ。僕の能力がもっと戦う事に向いていたら。

そう思います。でも、あの場にいた誰も勇者には勝てなかった。

僕には後悔することしか出来ないけれど縁さんの気持ちはわかります。」


「そんな言葉は欲しくない!そんな言葉誰でも吐けるし謝る時はみんな同じことを言うでしょ!

貴方の気持ちはわかります。私が悪かったです。ってみんな同じ事しか言わないじゃない!

私も悪いけど貴方も悪いのよ。貴方にも味合わせてあげる…。」


そう言って縁さんは僕らから離れた位置に立っていた悠を見据えた。

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[一言] 勇者君の被害者ってどれほどいるんだ…?
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