【7話】報告する疫病神
すいません。近々作品タイトルを変えるかもしれません。
ノリでなろうっぽいタイトルをつけてみましたが
このタイトルにこの内容だとどこの需要にも合致しないと気付いたので…
支部に帰るとすぐ報告に向かう事になった。
面倒だとは思うが昨日の生還者は僕一人だけだ。
報告の義務があるため仕方ないだろう。
僕も支部長も椅子に座ったままデスクを挟み向き合う。
「では、報告を聞こうか。
今回、【異常存在〈CCP-225〉】の回収任務にあたった【機動部隊-石櫃の商人-】の生き残りは
君しかいない。
一人だけでも帰還者がいて良かったよ。
ただ…戦闘中の映像も途中までは記録されているんだが黒色立方体が異常存在に
殺害されてしまっただろう?それから少ししてから君に装着されていた
映像記録用端末が現場に放棄されてね。
逃げるのは構わないよ。あんなことがあったんだ。
あの時は他の戦闘職員は戦闘不能、もしくは死亡していた。
映像も死亡後は同じ場面しか映らなくなるんだ。
その辺を踏まえて戦闘時の映像の記録はしっかりとしておいてもらいたいものだね。
あんな情報でも我々財団職員にとっては貴重な戦闘評価基準となるものだ。
なるべくデータを解析をして、しっかりと次回の戦闘に備えたいのだよ。」
さっそくの小言から始まる。
僕自身も隊服に着けてあった記録用端末がいつの間にか取れてしまっていたことにはあとから気づいた。
恐らく半狂乱で逃げだした際いろんな所にぶつかったりしていたからその際に外れたんだろう。
ただ、あんな場面から生還したのだから小言から始めずともいいだろうとは思う。
まぁ、そんな言い訳は無駄なのだろうが。
基本的に財団は異常存在の【対処|(cope)|・収集|(collect)|・管理|(preserve)|】
にしか興味はない。
人の生き死になんてはなから眼中にない。
今回の僕に対してだって精々情報の詰まった肉人形が戻って来てくれて
良かった位にしか思っていないだろう。
現状、僕ら曝璽者が有用だから利用する。
必要なければ切り捨てる。壊れてしまえばさようなら。
僕が財団に身を置いているのだって自身を壊されないようにするためだ。
逆らえばただの実験材料かよくて捨て駒。
本当は今すぐ財団の目の届かないところに行きたいけど恐らくその願いは叶わないのだろう。
僕は嘆息して報告に入る。
「えっと…映像端末の紛失の件は申し訳ありませんでした。
代わりに僕が現場で収集した勇者の情報について口頭で報告させていただきます。
まず…対象の使用可能な能力ですが、財団が把握しているもの以外にも新たに
発現しているものがいくつかありました。
そして、その能力は今後間違いなく増えていくと思われます。」
「なに…?増える?どういうことだ?」
「我々曝璽者の能力は元々は自分の物であると対象は主張しています。
ただ、何らかの原因で能力を一部失っているらしく我々人間に能力の種のようなものを埋め込み
能力が成長したタイミングで回収するのだと彼は言っていました。
状況判断に過ぎませんが、曝璽者を彼自身が直接殺害することによってその能力がCCP-225に移譲されるようです。
現に、藤宮さ…黒色立方体の生命活動の終了後、CCP-225はその能力を発動しています。
そして、殺害の際も財団のデータバンクに記録されていない能力を新たに2種類も使い
黒色立方体を殺害しています。」
「未確認の能力を2種類も…?その2種類の能力とはどういったものだ?」
支部長の語気がわずかに強まる。
「肉眼での確認の為はっきりとは断言できませんが空間転移能力…これはCCP-225の発言を
信用するなら、ですが範囲の制限はないようです。どこへでも転移可能なのだと。
それと、対象に触れる事で物体を崩壊…いや、裏返すような能力でしょうか。
この能力に関しては私の映像端末にその時の様子が記録されているはずです。
そちらをご覧いただく方がご理解が早いかと。
それら二つの能力を使いCCP-225は黒色立方体を殺害しています。
それと、もう一つですが彼は以前より所有していた能力を財団に秘匿していたようで
物質の精製能力があります。
恐らく度重なる収容違反もこの能力が原因だと思われます。
ドアのカギなどの複雑な形状の物も生成可能で思い描くものは全て作れるようです。」
「なに…!?それでは…もし核や戦略兵器を製造されれば…。」
「その可能性はあまり高くないかと。彼自身が多少の制限はあると発言しています。
100%ではないため警戒はすべきだとは思いますが…
私は、現時点でそうできるならとっくにそうしているのではないかと…。
今までそうしなかったという事は出来ないからしなかっただけ。
どちらにせよ制限がどの範囲までなのかは想像するしかありません…」
「うーむ…。今後の曝璽者の終了はそのまま敵戦力の増大につながると…。
わかった…。他に何かCCP-225との接触で得られた情報はあるか?」
「それと、以前より特定できていなかった曝璽者の性格の変異に関してですが
これはCCP-255が故意に改変しているという事が分かりました。
あいつは僕らに能力を授ける際、故意的に人格を改変する場合があると証言していました。」
「なぜわざわざそんな事を…」
「それは…その…かっこいいから…と、それと能力が育ちやすくなるという事も言っていました。
恐らくこちらが本命だとは思いますが、昨日の会話の中で得た印象ではありますが先の理由も
あながち嘘ではないように感じました。」
「馬鹿げた話だ…。そうすると…気まぐれで心理的性質を変質させている
可能性があるという事か…?
だが、研究部の分析から見てその話しもあながち嘘ではないかもしれんな…。
性格の変異にこれと言った共通点は特になし…。
研究部が頭を悩ませていたのはそれが原因なのか…?
いずれにせよ、そのような馬鹿げた話は全てを信じることは出来ないが
一つの可能性として研究部へ通達しておこう…。」
全く馬鹿げている。俺自身もそう思う。
自分自身の報告が嘘に聞こえるほどに馬鹿らしい。
それをあいつは本気でやっている。
昨日僕があいつと交わした言葉は全て嘘に聞こえるものばかりだったが不気味なほどの
無邪気さを感じていた。
小さな子供が真実だと思い込んだ夢や妄想を包み隠さず大人に話している。
そんな印象を感じた。
「わかった。今までの報告は今後CCP-255の回収の参考としよう。
もう下がっていい。」
失礼しますと言い部屋を出るがドアが閉まる直前に聞こえた支部長の「後程報告書の方も…」
という言葉に顔が歪む。
閉まりかけで後半聞こえなかったし聞こえなかったフリを決め込もうかと一瞬迷うが
深くため息をついて個人デスクのあるエリアへと足を向けた。
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自分のデスクに向かっていると僕の席の隣に既に先客がいる。
声を掛けずとも僕の足音を察してか悠がこちらを振り向いた。
「おー。………………疫病神。」
たっぷり間を置いてからチクリと刺してくる。
相変わらずの眠そうな目で出会って早々に毒を吐かれた。
「なんでだよ…。」
「だって、幹也がちゃんと帰って来ないせいで私も現場に行かなきゃいけなくなったし。
そのせいで報告書も書かなきゃだし。」
「初任務お疲れ様とか優しい言葉は無いのかよ。」
「んー…。無いよ。先輩として後輩には厳しくがモットーです。」
気の抜けた会話をしつつ机の上に嵩張っている書類をどけて席に着く。
「悠が先輩って言っても三ヶ月現場投入が早かっただけじゃないか。そんなに先輩面されても…」
「何言ってるんだね。我々曝璽者は一番古参でもたった3年だ。
その中で三ヶ月と言ったらそりゃもう大先輩だよ。
日々先輩の行動を観察し、吸収していきたまえよ。
というわけで報告書出来たら私と被ってるところだけ写すから見せて。」
「僕が吸収する立場なら悠が見せるんじゃないのかよ…。」
その後僕が苦労してまとめた報告書は悠に強引に奪い取られた。