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【6話】生還

頬がペチペチと叩かれる感覚がある。

2度、3度叩かれ意識が浮かび上がってくるタイミングでそろそろ目を開けようとしたところで

顔全体にバチンと衝撃が走る。


痛い。

痛みで目を開けると誰かの手の平が顔を覆うように被せられている。


指の隙間から覗くと僕の顔に手の平を叩きつけた主の顔が見えた。

薄い栗色の髪を短めに切りそろえた女の子。

名前は霧崎悠(きりさきゆう)

年齢は17歳で僕と同い年だが見た目はとてもそうには見えない。

良くて中学生下手をすれば小学生に見えなくもない。

そんな失礼なことを考えていると顔に乗せられた手の平が徐々に顔に食い込んでくる。

表情から何かしら読み取られたらしく見た目とは裏腹に彼女の握力は強かった。


「悠。痛いよ。」


「幹也達の部隊が帰って来ないから迎えに来たのにこんなところで暢気に寝てるからでしょ。

で、回収失敗の言い訳は?」


僕の顔のあたりにしゃがみ込み相変わらず掌を乗せたまま眠そうなジト目で見下ろしてくる。

問いかけを口にしたのみであとは微動だにせず僕の回答を待っている。


「勇者は新しい力を手に入れていたんだ。正直あの戦力じゃどうにもならなかったよ。

完全に今回はイレギュラーだったね。僕らみたいな五級以下の戦闘員じゃ無理だ。

藤宮さんだって瞬殺されてたし。」


「うん。それは見た。あのでっかい肉の塊でしょ。

で、なんで幹也は生きていてこんなところで寝てるの?」


正直こんな体勢で詰問されるのは良い気がしない。

僕はいい加減に顔に乗せられた手を振り払うと薄汚れた床に座り直す。


「いててて…。勇者と戦闘になってただ単に見逃された。戦ったけど遊ばれてただけだよ。

昨日本人から直接聞いた。勇者は僕たち曝璽者の能力を集めている。

僕らの力は元々はあいつのものだと、そう言ってた。その力を植え付けて育ったら殺して刈り取る。

僕たちの能力が育ったらまた回収しに来ると、そう言ってた。

僕はまだそのタイミングじゃなかった。ただそれだけで見逃されたんだ。」


質問に答えながら体のあちこちを治癒していく。

気絶する直前まであいつに負わされた腹部の傷と切断された腕を癒していたが、

やっと出血が止まったところで力尽きて気を失ってしまった為、

いまだに体中は傷だらけだ。もっとも、傷が治ったところで体のだるさは抜けない。

少し血を流しすぎた。力が入らず頭がふらふらする。


「ふーん。じゃあこれからは私たち自身を狙って来るってことかー。たいへんだねー。」

興味なさげに返事をする悠。

既に視線はこちらに無く、床に転がる瓦礫をつま先で転がしている。

まぁ、実際悠の場合は関係ないのだろう。

本気で逃げようと思えばそうそう捕まることもない。

彼女の能力は物質透過であり壁や地面の中に隠れることが出来る。

実弾や刃物に対してもその能力は有効な為彼女を傷つける術は無いに等しい。


「自分から聞いておいてもう興味ないのか…昨日は大変だったんだよ。

それともう一つ、曝璽者の中で稀に思考に歪みが生じるのもあいつのせいだった。

かっこいいからだってさ。馬鹿みたいだろ?

そんな滅茶苦茶な理由で俺達は心を壊されてるんだ。

僕はあいつが理解できない。」


「何それ…?」

悠が僕の顔を見てきょとんとしている。


「その顔とセリフはあいつに言ってくれ。

あいつについては考えるだけ無駄だって言うのが昨日分かったよ。

結局あいつもただのオブジェクトだ。人間じゃない。僕らの物差しで

考えること自体が間違いだったって事だよ。」


悠はしばらく考え込むようなそぶりを見せた後、急に話題を変える様に話を振ってくる。


「ま、初任務でさっそく死んじゃうなんてことが無くて良かったね。

幹也の能力じゃそうそう死なないだろうけど。

初任務から全滅エンドなんてシャレにならないでしょ。」


一人だけ生き残ったことに罪悪感が無いと言えば嘘になる。

僕の能力は戦闘には向いていない。それは自分が一番分かっている。

それでもあの地獄の中で僕は果たして自分の仕事を全うしたと言えるのだろうか?

やれることが他に有ったのではないか。

傷を治すという力があるにも拘わらず僕以外、誰一人生きてはいない。

マイナスの方向にどうしても思考が傾く。

ただ、これも罪悪感を和らげるための思い込みなのかもしれない。

実際今の僕はあの地獄のような現場から生還したことに対しただただ心から安堵していた。


「さて、帰って報告しよう。幹也立てる?」

そう言って差し出された手を握ると未だふらつく体に渇を入れてのそりと立ち上がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これは…ヒロインちゃん…? 死にそう((小並感
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