最低で最高なクリスマス
辺りは赤や緑などの様々な色がキラキラと光っていて、いつもの町とは別世界のようだった。周りにはたくさんのカップルがいて、幸せそうな顔をうかべている。凍えるような寒さと冷たい雪がよりいっそう惨めさを際立たせる。そんなクリスマスイブの夜に私は1人で歩いていた。
遡ること、数分前。私は1ヶ月前から付き合っている彼氏とデートの待ち合わせをしていた。
「お待たせ! 待った?」
「ううん、今来たとこ。行こうか」
「うん!」
彼はひとつ上の先輩で、部活を通して好きになり、私が告白して付き合った。初めての告白で初めての彼氏だった。彼は優しくて気さくな人だった。
「あのカフェに入らない? 話があるんだ」
少し声のトーンが下がった気がして、私は嫌な予感がした。
「今から話すことはさ、君だけが悪いわけじゃないと思うんだ。僕にも悪いところはあるだろうし……。それを分かった上で聞いて欲しい」
彼はそう言ってから話し始めた。
「君が告白してくれたとき、始めは驚いたけど単純に嬉しかった。君と付き合って君の色々な一面を見れた気がしたよ。君は優しくて真面目で気遣いが出来て……いい所はたくさんあるよ。でもなんていうか……自分に心を開いてくれない気がして。もちろん緊張しているのもあるかもしれないけど。僕が話題をふらないと話してくれないし、表情も硬いし。だから疲れたっていうか……不安になって。僕たち上手くいかないと思うんだ。だから……別れよう」
こうして今に至る。
今、私はどんな顔をしているだろう?きっと涙でぐちゃぐちゃですごいブスになっているだろうな。私は今どこに向かっているんだっけ?何がしたいんだっけ?頭が全くまわらない。
「先輩もわざわざクリスマスに振る必要ないじゃん……」
そう愚痴をこぼしながら下を向いて歩く。
すると、何かキラキラしたものが男の人のリュックから落ちた。それはスパンコールで出来たクマのストラップだった。涙を拭いてストラップを拾い、届けようと男の人を見ると、その人はクラスメイトだった。クールであまり口数は多くないけど、友達は多い人。だけど私はまだ話したことがない。そのまますぐストラップを届けてもよかったが、そのクラスメイトの行き先が気になった。クリスマスイブに一人でどこに行くのだろうか?それとなく着いていくと、あまり時間が経たないうちに、お店に入っていった。そのお店はケーキ屋さんだった。私が店に入るとそこにはケーキ屋さんの制服を着たクラスメイトが立っていた。
「いらっしゃ…え?」
「あ、これ落ちてたよ」
「あ、ありがとう」
クラスメイトはとても気まずそうで、会話もぎこちなかった。
「誰にも言うなよ?」
「何を?」
「ここで働いてること」
「言わないよ」
そのケーキ屋さんは店内でもケーキが食べられるようにテーブルやイスがセッティングされていた。私は何も買わずに店を出るのもなんだか悪い気がして、お金もなかったのでホットレモンティーを頼んで席についた。
「あー、温かいなぁ……」
私の気持ちとは裏腹にホットレモンティーは温かく、その温度差になぜか泣きそうになっていると、突然テーブルの上にショートケーキが置かれた。
「え、頼んでないけど……」
「何があったか知らねぇけど、元気出せよ」
「あ、ありがとう」
「そのケーキは奢ってやる」
私は照れながらそう言った彼の優しさにまた泣きそうになりながら新たな恋を予感しつつまた一歩前に進むのだった。