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少女が見つけた野望

 公園のベンチで泣きながら鼻水を啜るクレアに、バツが悪そうにイバトが近づく。


「ク、クレア。さっきは言い過ぎたよ。その、ご、ごめんな」


 イバトが頭を掻きながら謝罪する。なんだ。捻くれたガキかと思ったら、意外と素直に謝れるじゃないか。


「······本当は私。住んでいた村に居られなくなったの」


 枯れる事を知らぬが如く、クレアは泣き続け、絞り出すように声を出す。イバトも俺も、黙ってクレアの話の続きを待った。


「私、昔から空気を読むのが下手だったの。集団の中で、言ってはいけない時に余計な事を言ってしまったり。言わなきゃいけない時に、黙ってしまったりして」


 早くに両親を亡くしたクレアは、なんとか村に溶け込もうと努力したが、全て空回りし、村での居心地は悪化の一途を辿ったらしい。


 そして決定的な事件が起きた。クレアが村の家々の半数を消失させてしまったのだ。四月に季節外れの大雪が村に降り、クレアは火炎の呪文で屋根の雪を溶かそうとしたらしい。


「······幸運にも死者は出なかったわ。でも、私はもう村には居られなくなったの」


 泣き声でクレアは語り続ける。気づくと、イバトは神妙な顔でクレアの話を聞いていた。


「······それで、仕方なく冒険者になろうとしたのか?クレア」


 イバトが傷心の少女に問いかけた。クレアは黙って首を振る。


「冒険者なんてどうでもいいの!村には私の居場所が無かった。外の世界に出れば、こんな自分でも居場所が見つかると思ったの!」


 赤毛の少女は声を荒げた。それは、胸に溜まった慟哭を吐き出すかのように見えた。


「でもやっぱり駄目!私の居場所なんて、この世界の何処にも無いのよ!!」


 少女は両手で顔を覆い、小さい背中を丸めて嗚咽を漏らした。そのクレアの前に、イバトが立った。


 イバトは両手をクレアの頬に添え、少女の顔を強引に引き上げた。


「泣くなクレア!俺が居場所が見つかる方法を教えてやる!」


 イバトの大声に、クレアの両眼は大きく開いた。


「俺は勇者を目指す!お前は魔王を目指せ!」


 ん?前半は聞き慣れたフレーズだが、後半は確か初耳だぞ?


「······魔王になったら、居場所が出来るの?」


 クレアがポツリと呟いた。ちょっと待て少女よ。脳内空っぽのガキのその戯言に、すがるような目をするな。


「出来るさ!当たり前だろう!でっかい城!大勢の家臣!宿敵の勇者!これだけ揃えば、ちっとも寂しい事なんて無いって!」


 いや待てイバト。城と家臣までは分かるが、敵の勇者が何故、居場所作りに関係している?いや、関係ないだろ。微塵も。


「······じゃあなる。私、魔王になるわ」


 いや、じゃあなるって。手頃な臨時の仕事を引き受けるような口調だぞクレア。


「よおし!お互い夢が叶うまで、一緒に頑張ろうぜクレア!」


「うん!頑張る。私頑張るよイバト!」


 自分の言葉の意味も重さも、まるで理解していない子供達が、目を輝かせ夢を語り合っていた。


 その光景を羨望するには、俺は少々歳を取り過ぎていた。だが、パーティ内の不和が取り除けた事に、俺は取り敢えず満足していた。



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