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最初の武勇伝

「イバト!起きて!ねえ起きてよ!!」


 砕けた瓦礫に身体を埋めたまま微動だにしないイバトに、クレアは必死に呼びかける。ゴーレムはイバトの間近に迫っていた。


 俺はこの緊急事態の最中に、頭の中で妙な事を考えていた。一体何を間違って俺はこんな所に立っているのか。


 世界の存亡も。他人の命も。俺にはそれを受け止める器量など無い。そうだ。だからだ。


 器量が無いから。自信が無いから身重の妻を置いて一人で逃げて来たんだ。半ば自暴自棄になり、命を粗末にするが如く冒険者になった。危険な日常に身を置いてきた。


 ······だが、そんな事をしても俺は何も変わらなかった。逃げ込んだこの冒険者の日常でも、俺はいつも逃げる事だけを考えていた。


 そうだ。逃げればいい。今すぐこの場所から。幸い俺はまだ無傷だ。上手く行けば、この塔から脱出する事も不可能では無い。


 世界の破滅も。誰かの夢も。俺には関係ない。知った事では無いんだ。クレアが泣きながら何かを叫んでいたが、俺には何も聞こえなかった。


 もういい。沢山だ。さっさとここから逃げるとしよう。俺は自分の両足に命じた。下り階段に向けて走れと。


 だが、俺の両足は動かなかった。自分の意思に反して、気づくと俺は叫んでいた。


「起きろイバト!!そのままゴーレムに殺られるつもりか!?ここがお前の最期の場所なのか!?」


 ······俺は一体何を叫んでいるんだ?何故逃げない?何故身体が言う事を聞かないんだ?


「お前は勇者になるんだろう!?勇者を目指す奴が、たかがゴーレムに倒されていいのか!?そんな事じゃあ、故郷の村の連中に笑われるぞ!!」


 俺は声が枯れそうな位に怒鳴っていた。ほの声が届いたのか、イバトはゆっくりと立ち上がる。


「······厳しいなあ。エリクのおっさん。こう言う時は、逃げろって言うのが普通じゃない?」


 額からかなりの量の血を流しながら、イバトは弱々しく笑みを浮かべる。


「······冒険者の先輩として忠告しといてやる。逃げた先には何も無いぞ。空虚と孤独。あるのはただそれだけだ」


 俺は言いながら思った。この言葉はイバトに向けた物なのか。それとも自分自身に向けた物だったのかと。


「······俺は必ず勇者になる!!邪魔する奴は片っ端からぶっ倒してやる!!」


 イバトの右腕が隆起する。それと同時に俺は駆け出していた。


「イバト!ゴーレムの左足首だ!!同時にやるぞ!!」


 俺とイバトはゴーレムの左足首めがけて剣を振り上げた。ゴーレムの左拳が俺に飛んでくる。


 その時、光の閃光がゴーレムの左拳を直撃した。クロシードの雷撃が、ゴーレムの左腕の動きを一瞬止めた。


「うおおおおっ!!」


 俺とイバトは叫びながら、同時に剣を振り下ろした。二つの斬撃はゴーレムの左足首を切り裂いた。


 左足首を失い、均衡を崩したゴーレムは、地鳴りのような音と共に背中から地面に倒れた。


 俺は無意識に走っていた。両腕を伸ばし、力尽き倒れそうになる少年を抱える。


「······良くやったな。イバト」


「······へへへ。武勇伝一つ出来たかな?俺が勇者になったら、伝説はここから始まった。そう言う事にしようかな」


 満身創痍の少年は、こんな時でも笑いながら夢を語っていた。もし。もしもこの少年の夢がいつか叶う日が来たのなら。


 俺はその最初の武勇伝の語り部になってもいい。俺はこの時、そう思っていた。


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