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俊足の少年

 俺の名はエリク。今年で三十歳になる冒険者だ。職業は戦士。基本的に一人で行動する事が多いが、冒険者職業安定所の依頼次第ではパーティも組む。


 今回の依頼は割と大掛かりだった。町長直々の依頼で、砦に巣食った魔物退治には、二十人の冒険者が集められた。


 幸い死者を出す事無く依頼は達成された。俺は税金を天引きされた報酬を受け取った。俺はその足で銀行に向かい、手堅く報酬を貯金するつもりだった。


「なんで十五歳じゃ登録できないんだよ!」


 受付カウンターで、子供が係の者に叫んでいた。俺は子供を一瞥する。黒髪の短い髪。鎧は身につけておらず平服だ。


 腰の剣は子供が持つには高価そうな剣に見えた。子供が不平を言っても仕方ない。この冒険者職業安定所は、法改正され十六才からしか登録出来なくなったのだ。


「じゃあいいよ!街の外の魔物を狩るから!」

 

 膨れっ面で子供が大股で歩いて行く。この街の周辺は七割が銅貨級魔物だが、三割の確率で銀貨級の魔物が出る。


 装備は剣のみの子供。このまま街を出れば、早々にあの子供は命を落とす確率が高い。俺は余計なお世話と自覚しつつ、子供に一言だけ忠告するつもりで後を追った。


 俺の忠告に従うかどうかまでは、責任は取らない。ただ冒険者の先輩として、世間知らずの子供に一言助言をするのは義務だと感じた。


 冒職安の建物を出ると、子供の姿は消えていた。この建物の正面には、一番近い北門へ続く大通りがある。


 俺は咄嗟に目を細めて北門の方角を見る。小さくなった人影が走っているように見えた。あの子供、なんて俊足なんだ。


 仕事終わりの重たい身体を無理やり動かし、俺は子供を追った。一言。一言だけだ。それを言ったら俺は宿に帰る。


 入浴施設で汗を流し、冷えた麦酒を飲んでいい気分で眠りにつく筈だった。無報酬の残業を押し付けられた気分の俺は、不機嫌な気分で重い両足を走らせた。


 北門を出ると、またも子供は先を走っていた。そして行路から外れ、林の方へ向きを変えていく。


「いい加減にしろよガキが!」


 俺は鋼の鎧を脱ぎたい欲求に駆られたが、歯を食いしばり子供を追いかける。呼吸も苦しくなって来た頃、やっと子供に追いついた。


 早速子供は三体の魔物に囲まれていた。俺は素早く魔物を観察する。奴等は銅貨級魔物、人食い猟犬。


 通常の犬の三倍の大きさの身体に、鋭い牙と爪で人を襲う。三体の魔物は、奇声を上げ子供に襲いかかろうとした。


 俺が加勢するには、まだ距離があった。俺は剣を抜きながら叫ぶ。


「おいガキ!後退しろ!」


 だが、子供は振り向きもせず動かなかった。三体の人食い猟犬が、断末魔の声を上げて燃え尽きていく。


 あれは魔法か?まさか、あの子供が?大粒の汗を額から流し、俺はようやく子供の側に辿り着いた。


 子供の前には、紅いローブを身に着けた少女が立っていた。

 

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