第一章 6.情報の整理
「トリートの息子。いるか~」
少し間の抜けたような声だ。
日の光の届かない場所から、足音は大きくなる。
ドッシッドッシッドッシッ
大きな青色の個体。
父親と同じ程度の大きさだろう。
私が子供のため、大きさの比較に困るが、きっと2m行かない程度だと思う。
額には立派な1本の角。
(あれはなんだ?)
左肩から肘にかけて、茶色の物体が嵌められている。
(布?板?)
遠い距離でよくわからない。
右手には父と同様に棍棒を持っている。
よく見ると両膝から下も茶色い物体が見える。
つまり 裸じゃない。
その状況を見るとなぜか自分が恥ずかしい気持ちになった。
人間であった名残だろう。
羞恥心というやつだ。急に動きがぎこちなくなってします。
「おめぇ~らか?トリートの息子は~?」
言葉の語尾が伸びる特徴的な話し方だ。
「はい」
ドルもリワも私の陰に隠れている。
いつの間にかリーダーのような立ち位置になってしまった。
仕方ない。生まれて3日でこの状況はさすがに厳しい。
ホントのよく耐えている。
「上の方は落ち着いたから戻るぞ~」
そう言うと、来た道を引き返すように体の向きを変えた。
「私はヴァル。こっちがドルとリワ。よろしくお願いします」
これも人間の名残だろう。というより社会人か。
(身に付いたものはなかなか抜けないな)
そんな思いの中、一人で苦笑いをする。
「なかなか利口だな~おめぇ~は~」
首だけを私たちに向けニヤリと笑いかける。
「ダブルはやっぱり違うんだな~」
(ん?ダブル?なんだ?)
呼び名に違和感を感じる。
「じゃ~俺も名だな~」
「ガルボだ。トトとは長い付き合いだな~」
そう言うとゆっくりとガルボは歩き始めた。
父親の愛称で呼ぶこのガルボ。
(とりあえず大丈夫なんだろう)
緊張していた気持ちに少しゆとりができた。
「ガルボさん。ここはなんですか?」
私たちが休息した場所はどんなところなのか?
疑問に思っていた私はガルボに尋ねた。
「ここか~?特になにもないぞ~」
「川を渡れば、採石所だろ~。下れば森に出れるくらいだ」
(採石所?鉱山かな?)
一つ尋ねると、複数の疑問が出てくる。
私は住居に戻る前にガルボに様々な質問をした。
生まれたての私には情報らしい情報がない。
初めて家族以外のゴブリンに出会えた、この機会を逃さない手はない。
色々質問をしていると、ガルボは面倒くさそうになっていた。
それでも一つ一つ答えてくれる点、優しいゴブリンなのだろう。
ドルも一緒になり、話を聞きながら歩いた。
リワはつまらなそうにしていたが、時折咲いている草や花に興味を示した。
ガルボとの話で多くの情報を得られた。
まずはゴブリンについて
①今住んでいる集落は洞窟内に50世帯ほど。近隣の洞窟や森にも集落があるらしい。
②この集落の族長の名はアルザ。
③さらにゴブリンにも階級があるとのこと。
ちなみに族長のアルザはナイトの称号を持っているらしい。
ガルボはファイターの称号。
本人は自慢らしく、何度も同じ話をされた。
日本で生活した人間時代では階級といえば会社の役職だった。
(ん~ナイトは課長くらいなのかな・・・)
(生まれ変わっても、そんな振り回されたくないよな・・・)
少しドンヨリした気持ちになった。
次に世界について
①ゴブリン以外の種族が多数存在する
②友好的な種族としてウルフ族。ダンフロッグ族。ブラッタ族。
③敵対関係はオーガ族。ヨロイ族。
他の種族はあまり交友関係がないとのことであった。
「襲撃してきたのはヨロイ族でしたよね」
「あ~ぁ~あいつらちっちゃいけど、色々な道具使うんだよ~」
「この棒も~小手も~ヨロイ族から奪ったやつだよ~」
よくみるとさっき気になった茶色い物体は獣の革で出来た小手であった。
革の内側は木で作られている。
ガルボの体に合わせ、似た小手を一か所に2つ繋げていた。
(ちょっと嫌な予感がする・・・)
この形状の小手。
そしてヨロイの名称。
「あの・・・ヨロイ族って人間です・・・か?」
「おめぇ~物知りだな~昔はニンゲンって言ってたみたいだぞ~」
「王様がヨロイって呼ぶようになったから、今はみんなそう呼んでいるんだ~」
(やっぱり。。。)
よくよく考えればスタートはゲーム機だった。
ゴブリン生活に慣れてしまい、見失うことだった。
私が始めようとしていたゲームは王道のRPGって評判だった。
その世界にゴブリンとして生まれてしまったのか。。。
(人間を倒すのか)
気が引ける。というより倒される。
ゲーム初期に倒して経験値を上げる相手がゴブリン。
つまり最初の標的。
(絶対無理だろ)
今日の襲撃も人間がゴブリン狩りをしたって事だ。
その時、文字が頭に浮かぶ。
ーーーゴブリンノ エイコウーーー
(勝てるのか。生まれてすぐ死ぬのは嫌だよ)
(いやいや。王様がいるって言ってたし。生まれたてに何ができんだよ)
そんな気が滅入る情報を整理しながら歩いていると、住居に近づいた。
薄暗い洞窟の中。
そこには傷を負った母の姿があった。