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ゴブリン戦記  作者: 亀ノ助
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第一章 5.初めての日の光

暗闇の中、ゆっくりと着実に奥へ進む。

部屋の中と違い、ヒンヤリとしている。

壁はゴツゴツとした岩。地面は何かで削られたようになっている。

それでも平らではなく、注意しないと躓いてしまう。

「見えないよ。。。」

リワは弱弱しい声でつぶやく。

私の左手に握られたリワの手が湿っている。

よく考えれば、生まれて3日。

この状況によく耐えられていると考えるべきだろう。


少し先を歩くドル。

1mも先ではないことから、小声でも会話ができる。

「まだ続いている」

さっきまで泣いていたドルだが、今は落ち着いている。

「ドリは奥が広くなっているって言っていたけど。。。」

私は暗闇の中で、目を凝らしてよく見た。

この穴は子供大きさより一回り大きい程度である。

襲撃されることが分かっていたのか。

地面が削られていることなど、抜け穴であることがよくわかる。

どれくらい歩いただろう。

用心しながら歩いているため、距離としては少ないかもしれない。

しかし、不安と恐怖の中、時間の感覚は完全に狂っている。

5分程度かもしれない。でも1時間以上にも感じる。

(まずいな。リワがもたないな)

隣のリワの呼吸が早くなっている。

手を握る力も弱くなっている。

精神的な疲労から肉体の疲労につながっている可能性が強い。

(休める場所があれば。。。)

岩ばかりの暗闇で休息すると、そこから立ち上がる事が出来なくなる可能性がある。

休息することで緊張感が切れることが怖い。

今は奥へ、前へ進むしかない。

「ヴァル、明るいぞ」

「この先だ。光が見える」

横にそれた道からドルの声が聞こえる。

リワに注意が向いていたため、ドルが進んでいることに気づかなかった。

「リワもう少しだ。行こう」

リワの手を引き、再び歩き始める。

道を曲がり、少し下り坂を恐る恐る進む。

削られた地面が天井からの水滴に濡れ、滑りやすい。

(確かに光だ)

道の先には光が溢れていた。

ドルの顔も見える。

「大丈夫そう。何もいない。けど岩もない」

言っている意味がよく分からなかった。

(岩もない?洞窟を出たのか?)

道を進み、光の溢れる場所へ溶け込んでいく。


「眩しい」


ドルの言っていた意味はこれだ。

天井を囲む岩がない。

ぽっかりと穴が開いている。

つまり空が見えている。

太陽からの光が洞窟内に降り注いでいる。


(眩しい)


そういえばゴブリンとなって初めて日の光を浴びた。

久しぶりの日光浴だ。

そんなに悠長に構えている時ではないのだが。。。

(やっぱり太陽の光は気持ちいいな)

ゆっくりと背伸びをしたい気持ちになる。

「眩しい。この光はなに?」

リワは私の陰に隠れながら訪ねた。

「お日様だよ」

「お日様?」

当たり前だが初めて日の光を浴びたリワは眩しさに目が慣れず、陰から出てこれない。

「こっちはなんだ?水が流れている」

ドルが何か見つけたようである。

「川か。地下水が流れているんだ。飲めるかな」

ドルに近寄りながら、私は言った。

陰にリワが隠れているから、歩きずらい。

しかも日の光の向きに合わせて、リワも位置を変える。

少し愛らしい。

川の周囲には草が生えている。

「これって」

そう。ニラのような草。

「さっき食べたね」

リワは陰から笑顔で答える。

「ドル、ここが広い場所だよな」

先ほどの通路から考えれば、この空間は広く開けた空間だ。

母が言っていた場所はここだろう。

「ドリが待っていてって言っていた場所だよ」

ドルは少し緊張が抜けたのか、寂しそうな表情で川岸にへたり込む。

「少し休もう」

ドルの近くに腰を掛ける。

リワももちろん一緒だ。

徐々に目が慣れたのか、リワは陰から出てきて、チョコンと座り、草を触っている。


(一体、何があったんだろう)

生まれ変わり3日。状況を無理やり飲み込もうとした矢先の現状。

とりあえず整理して考えよう。


①ゴブリンに生まれ変わり父と母、兄弟3匹で生活していた。

②どうやらほかの家族も近い位置に住んでいたい様子。集合体であった。

③ヨロイと呼ばれる敵に襲撃された。しかも以前にも襲撃はされている。

④今はドリをここで待つ。


(はぁ・・・よくわからない)

(考えても仕方ないのかもな)

ドルは完全に緊張の糸が切れたようだ。

かみ殺してはいるが泣いている。

リワは川の水に手を入れ、チャポチャポと遊んでいる。

意外とリワの肝は据わっているのか。

いや。状況が分かっていないのだろう。

そっとしておこう。


(喉が渇いた)

水を飲もう。川岸に向かい、腰を下ろす。

辺りは日の光が降り注ぎ、川のせせらぎが聞こえる。

時折、天井の穴から風が吹き込み、草を撫でている。

「はぁ・・・」

(溜息を吐いても仕方ないな)

   ・

   ・

   ・

(・・・・)

(・・・・)

(・・・・)

絶句した・・・。

   ・

   ・

   ・



当然と言えば当然。

私はゴブリンに生まれ変わった。

当然。姿はゴブリン。

分かっていたが、自分の映像だけは当たり前のように人間の自分を思い描いていた。

水際に映る1匹のゴブリン。


・・・そう。私です。


青い体。額には角。

(ん。2本??)

父親であるトリートも兄弟であるドルも1本の角。

なぜ、私だけ2本。

しかもすでに親指程度の大きさ。

振り返り、そこにへたり込むドルを見る。

やはり角は1本。

「なぜ私は2本の角なんだ?」

疑問がつい言葉として出てしまった。

「知らないよ」

ドリは俯きながら答えた。

(そうだよな。同じ3日目。知っているはずがないよな)

(もう考えても仕方ないことは考えないようにしよう)

ゴブリンに生まれ変わり、環境の変化が著しい中、人間であった頃とは明らかに性格が変化している。

細かいことを気にしていたら、やっていけない。

リワは水遊びに飽きたのか、私のそばに寄ってきた。

「リワは喉が渇かないのか?」

「喉が渇く?」

不思議そうな顔をリワはしている。

(あぁ・・・言葉の意味か)

改めてリワに話しかける。

「水飲むか?」

ニコッと笑うリワは

「もう飲んだよ。冷たいよ」

リワにとっては部屋とは違う環境で楽しいのかもしれない。

ゆっくりと手で川の水を掬う。

(冷たいな。でもとりあえず飲めそうだ)

地下から流れ出ている清らかな湧き水。

ホッと一息つけた。


どれくらいの時間が経っただろう。

この日の光で暖められた空間。

ドルとリワは疲れたのか。傍らで寝ている。

だが、時間の経過により、洞窟内に降り注ぐ日の光は薄く陰ってきている。

さっきよりも風が冷たい。


ドシッ ドッシッ ドシッ


私たちが抜け出た穴とは違う方向から足音が近づく。

「おい!!ドル起きろ!!何か来る!!」


一番うれしい展開は父親か母親が迎えに来ること

一番恐ろしい展開はヨロイってやつが来ること


ドッシッ ドッシッ ドッシッ


近づいている。

川の上流の方からだ。

日が陰り、そちらまで光は届かない。


ドッ ドッ ドッ


速度を上げている。

まずい。恐れていた方か。

ここでヨロイに襲われたら、逃げるしかない。

もっと周囲を探索しておくべきだった。

今更ながら、休んでいた時間を悔いた。

「逃げる準備をしておけ」

ドルに声を掛ける。

ドルも心得たようにリワの体を揺さぶり、起こしている。


その時、足音のする方から声が聞こえた。

「トリートの息子、いるか~」

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