第一章 3.生後3日 すでに適応
私が状況も分からず、混乱した世界で目覚めてから3日が経過しようとしていた。
霞んだ視界は鮮明になり、事実が明確になってきている。
そう。
私はゴブリン生まれ変わっていた。
人としての最後の記憶。
テレビ画面に映る ゴブリンノ エイコウ
その点から考えても、あのゲームが何らかの関係をしていると思われた。
が、確認をするすべなど持ち合わせてはいない。
今、私はゴブリンとして生活している。
天井は高く、ごつごつとした岩。
地面は湿った土と砂利が混じっている。
たぶん洞窟だろう。周囲は薄暗い。
壁のところどころに松明が明かりを放っている。
(ん?あの松明?木が燃えている訳じゃないのか)
黒い光沢のある石のような物の先が燃えている。
全体が燃えているのではなく、先の一部が燃えている不思議な光景だ。
隣には青色の小さな個体。
視界が鮮明になったことでぼやけた色がはっきりと見える。
青緑に見えていた物体は、濃い青色に見えている。
「トトが呼んでる。行かない?」
「あ。あぁ。行くよ」
私に話しかけたのは、兄弟の括りになるであろう。ドルだ。
その横にちょこんと座っている個体はリワ。
性別は存在し、ドルは雄。リワは雌。
ちなみに私はヴァルと呼ばれ、雄のようだ。
違いは?と聞かれると、若干の肉付きの違い。
それと雄には額に角がある。ドルの角は小指ほどの出っ張りがある程度だ。
「飯だぞ。早く来い」
声の方に顔を向けると、再び呼ばれる。
「早く来い」
生まれてから3日であるがすでに立ち、歩ける。
小走りをするとよろけて倒れるが、ドルは走れていた。
(運動神経悪い感じか。。。)
小さいことで落ち込みながら、声の主に近づく。
あれほど状況に混乱を見せていたが、今は少し落ち着いている自分が怖い。
(適応ってすごいな)
「飯が冷める前に食べるぞ」
この大きな青色の個体。
額にはこぶし大の立派な角。
目は大きく開けられ、力強い。
首は太く、腕の筋肉も発達している。
腹は割れており、俗に言うマッチョだ。
「いっぱい食えよ」
このマッチョな個体が父親だ。
トトと呼ぶが、愛称であり、実の名はトリート。
ちなみに奥で料理を作っている個体が母親だ。
名はドリ。とても優しい母親だ。
3日間でだいぶ慣れてしまった。
目の前に置かれている食事を見る。
何かの肉を焼いたものと、砕かれたドングリのような実。
それにニラのような草が枯れた大きな葉に置かれている。
ドルとリワは肉にかじりついている。
「慌てるなよ。ん?ヴァルは食わんのか?」
「あ。え。うん。食べる」
観察として見ることや兄弟たちと話す事は慣れたが。。。
急に声を掛けられると、未だに焦ってしまう。
目力が強く、声がでかい。
トトは親として当然でも、私は子供としての心構えができていない。
どうしても、もぞもぞしてしまう。
(はぁー取り敢えず食べよ)
食事を食べ始める。基本的に手で掴む。
焼いているものでも不思議と熱くない。
(手の皮が厚いのかな)
血と塩の味。
この肉が何であるか。実は知っている。
この居住空間の奥にぶる下がり、鳴いている生き物だ。
ーーコウモリーー
知った時はゾッとした。
そんな物を食べたのか。と。
だが実際に知る前に食べてしまっていた。
鶏肉のような歯ごたえと味で美味しい。
知らなければ。。。
(食べたくないな。食べたくないけど。。。)
空腹には勝てない。
それから毎食。食べれば気にならなくなる。
すでに常食だ。
食材が気にならなくなると逆に気になるのが塩味だ。
薄暗い洞窟の中で、どのようにして塩気を出しているのか?
食事を終えた後、母親の横に行ってみる。
奥は火が付いた竈があり、その横で母も食事をしていた。
「あっちで食べないの?」
この3日間で母が一緒に食事していることはない。
いつもこちらで食べているようだ。
「いいの。ここで」
母は父と違い、丸みを帯びている。
角はなく、全体的に軟らかい雰囲気だ。
ちなみに服は誰も着ていない。
私も裸だ。
「ドリ、美味しかった」
どうやらゴブリンの世界では父親や母親なども名前で呼ぶのが通例らしい。
「ヴァルはお利巧だね。ありがと。次も美味しいの作るからね」
ドリはにこやかな表情で答えた。
ここまでの食事は基本的に同じものが出てきている。
そのうち飽きてしまうかもしれない。。。
そんな事を思っているいと。
「ヴァルあっちで遊ぶよ」
ドルの声が聞こえる。
(あれ?何でこっち来たんだっけ?)
(あ?塩味の正体を知りたかったんだ)
「先に行っちゃうよ」
ドルがせかすように声を掛ける。
トトの声掛けじゃなきゃすでに焦らなくなっている。
(ドルには悪いが聞いておこう)
「ドリ。この味ってどうやって付けるの?」
ドリは優しい表情を崩さず、私に答えてくれる。
「そこの味石に乗せるだけだよ」
「そんな事より早く、ドルと遊んでおいで」
ドルは待てずに、向くに行ってしまっていた。
ちょこちょことリワが後を追っている姿が見えた。
「はーい。行ってきまーす」
私はドリに答えて、リワを追った。
今日も平和に過ぎるんだな。
その時は思っていた。