第一章 2.生まれたて
身体が揺さぶられている。
「んぅ。ぬぅんんん」
ゆっくりと目が開いていく。
霞がかかった視界はさっきと変わらない。
だが、確実に異なる点がある。
寒くない
さっきまでコタツに足を入れ、寒さをしのいでいたが、今は部屋全体が温かい。
むしろ暑いくらいだ。
そして、音もしない。
いや。何かが擦れるような音が周囲からしている。
ズリ ズリ ギシ
テレビゲームの音はしていない。
(どうゆうことだ?)
(私は部屋にいたんじゃなかったか?)
ぼやけた視界が少しづつ色を取り戻していく。
再び身体をゆすられる。
(な 何だ)
何かが身体に触れていた。
温かく。そして柔らかい。
いったい何があたっているのか。
視界に捉えようと首を持ち上げようとする。
(うぅ。動かないぞ)
体の自由が効かない。
首どころか。腕も足も自由に動かない。
(どうなっているだ。何なんだこれは)
「あら。もう動いているわよ。元気な子ね」
「そうだな。将来は立派な戦士になれるかもな」
はっきりと言葉が聞こえた。
(ここは確実に私の部屋ではない)
(よく考えろ。何があったか。焦るな焦るな)
焦るなと言い聞かせても、現状からはなにも理解できず。
言葉とは裏腹に焦る気持ちしかない。
視界は未だぼやけている。
だが、言葉がした方に揺れ動く青緑の物体がいるのはわかる。
まさに物体である。
「明日には目も見えて、立てるだろう」
「そうね。あなた。この子達の名前は決めたのかしら?」
「名前か?ドル リワ ヴァル でどうだ」
「素敵な名前ね。でも、ヴァルは大丈夫?」
「大丈夫だろう。三代も前だからな。勇敢な名だ」
「あなたがそうおっしゃるなら。いいお名前を頂きましたね」
青緑の物体は遠ざかっていった。
(一体何なんだ。名前?私の?いや。三つも言っていたぞ)
まだ、現況の把握が出来ていない。
だが、分かってきたことがある。
①ここは自分の家ではない
②青緑の物体は現状、危害を加えてこない
③身体は動かないが音は聞こえる。目はぼやけている。
整理しても、よくわからない。
(ん?声はどうだ)
「ぁがあがぅ」
(出ない。音は出るが言葉にならない)
混乱している。現状を理解することができない。
(動け。逃げれるうちに逃げなきゃ)
まさにジタバタという言葉が似合いそうな動きだ。
(首が動くぞ)
しばらくすると、まだ首は持ち上がらないものの、回転できるようになった。
(よし。首を動かせば見える景色が増える。情報は多い方がいい)
ゆっくりと右を向く。
そこには茶色い高い壁があった。
(右はダメか。左はどうだ)
左を向くと、丸い青緑の物体が見えた。
(ぁあぁっ)
さっきまで見えていた物体よりも小さいように見える。
言葉は聞こえず、動く様子もない。
(はぁ はぁ はぁ)
首を繰り返し動かしただけなのに、凄まじい疲労感に襲われる。
(眠い。逃げなきゃいけないのに。眠い)
疲労感を感じた直後に睡魔に襲われた。
ぼやけている視界が徐々に閉じていく。
(ダメだ。寝ちゃダメだ)
贖おうとするが、視界は狭くなっていく。
抵抗も虚しく、ゆっくりと眠りの世界に落ちていく。