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夏の終わりに

作者: 清水悠(Yew)

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突然の・・・或いは携帯電話で人は自由か不自由か?

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 夏も終わりに近付いたある夜、涼しくなってきたから閉めようと窓に寄った。 外からは喧しいほどの虫の鳴き声。時折蜩の鳴き声が混じるのにしばし聞き入ってしまう。 それにしても、耳が痛くなるほどうるさい。まるで警報が耳元で鳴っているようだ。 はて。警報?

 その警報は携帯電話から響いていた。それが誰からの通話を意味するか気付いて充電スタンドまでダッシュする。 彼女からだ。あいつはいつまでも待たない。それを承知していたので慌てて電話に出る。

「あたし~、暇でしょ? いつものところにいるからね。(ぷつっ)」

 全くこれだ。ほぼ半年ぶりに掛けてきた電話だと言うのに。こちらの都合にはお構いなし。 自分が甘えていると言う自覚はなし。それに、私が来ることを疑ってないわけではない。 来なかったらきっと朝までそのまま待ちつづけるのだろう。そう、喩え私が電話に出なくても。

 通話の切れた携帯電話は暫くあいつの写真を映していた。その顔に顰め面をしてみせて、 溜め息を一つ大きくついてから車を出すべく着替え始めた。


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相変わらずの・・・或いはカスピ海ヨーグルトは美味しいのか?

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 久し振りに会った彼女は「夏」などなかったかのようにまるで変わらない様子だった。 そうして相変わらず、私に会わなかった間の「彼氏」のことを話し始めるのだった。

「あいつったら馬鹿でね。さっきも電車の中でカスピ海ヨーグルトの話をしてたらさぁ、 『どっかで売ってんじゃないのか?』って言うし。 だからあたし、電車降りるとき、ついてかないでここまで来ちゃった。」

 ・・・その男に願わくば神の祝福を。どうせ厭き始めた頃だったからなんだろうけど、 余りにも馬鹿馬鹿しい理由で振ってしまうもんだ。まぁ、いつものことだけど。

「でも、私もつい昨日まで知らなかったよ。」

「きゃはは、そうなんだ。でもだからって、売り物とは思わないでしょうが。 それに、そしたらすぐに調べるじゃん?」

「ま、ね。実は電話があったとき、丁度調べてたところだったんだよ。こんな感じかな? 『カスピ海沿岸地方の長寿村でなんとか教授が採取したヨーグルト株が研究室辺りから 人伝で広まったヨーグルト。株が雑菌に強くて安定して増殖するので一般家庭で簡単に 培養できる。今年に入ってからマスコミに相次いで紹介されたためにボランティア配布 していた人のところに要望が殺到したために最近は配布活動が停滞気味。』」

「ふへ~、お見事でし。相変わらず、雑学に関しては右に出るもののないって感じ♪」

 普段殆ど開いているとは思えないほど細い目を精一杯丸くして彼女が私を見詰める。 見詰められて少し照れながら、今この顔を見られるのは私だけだと思ってしまう。 暖かい気持ちになると同時に、未だにそう思ってしまう自分に少し眩暈を感じる・・・


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久し振りの・・・或いはゲームもカラオケもお風呂もあるレジャー?

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 ファミレスで軽くケーキでお茶すれば時間はもう、日付けの変わる頃。

「さて、そろそろ行くか。送るよ。」

「やだ、帰んない。送るんなら車乗らない。」

 ここまでは半ば予測していた通り。しかし、この後がいけない。

「それよか、シャワー浴びたいしラブホいこ♪」

「ちょ・・・ 久し振りに会ったってのにいきなりそれかよ。」

「久し振りに会ったんだからゆっくり話もしたいじゃん。」

 ある意味正論である。私自身、もっと話していたい気分だったんだから。 しかし、それ以上は考えてなかった。ふいを突かれて顔が赤くなるのが判る。 こうなるともう、彼女のペースだ。

「にゅ? エッチはいや?」

「いや、いやじゃなくて・・・ あ~もう、判ったよ。」

「やった~♪どうせだから、あのラブホね。プレステ2あるし。」

 プレステ2と同列かい(苦笑)。


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ひとときの・・・或いは願わくば永く続かんことを?

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 私の腕の中で転寝する彼女を見詰めながら思い出す。彼女と付き合い始めたころのこと。 やはりこうして彼女と一緒に寝ていたときだ。不眠症で一人で寝てても熟睡できない、 だからと言って他人が傍にいたらそれはそれで不安で熟睡できない、そう言ってた彼女が 私の腕の中で無防備に熟睡していた。その寝顔を見ててたまらなくいじらしくなってしまい、 「あぁ、惚れているんだな」と初めて自覚したのだった。

 あのとき以来、夏の終わりから冬が終わるまで、私は彼女と付き合った。 しかし、冬が終わって他の男を探しにいく彼女を止める事はどうしてもできなかった。

 そんなことを思い出していたら少しうとうとしたらしい。今度は彼女が私を見詰めていた。

「さっきの話だけど、カスピ海ヨーグルトを食べてみたいんでしょ。」

「そそ、育てる気はないんだけどね~。なんとか手に入らないかなぁ?」

「それこそWebで調べてみるよ。まぁ、なんとかなるんじゃないかな。」

「わーい♪そしたら育てるのも宜しくね。」

「あぁ、毎日食べられるようにうちに来るか?」

「うん。食べられるようになったらね。」

 最高の笑顔、今は私しか見られないその笑顔を見せて抱き着いてくるその背中に 腕を回し思いきり抱き締める。

 大丈夫。冬が終わるまでには未だ半年以上もあるんだから。それまでにはきっと手に入る。 ヨーグルトで引き止められるかどうかは判らないけれど。 引き止められなくてもまた冬は来る。そのときは・・・また何か、探せばいいさ。 再び眠る彼女を感じながら、私は微笑むのであった。

 えー、皆様方初めまして或いは「夏の終わりに」はお世話様。性悪狐の清水悠と申します。

 この投稿はいかがでしたでしょうか。先ずはお読みいただきありがとうございます。


 今回もあらすじにあるように再掲載です。それに至る経緯は「ラベンダーの香りに」の方に書いておきましたのでご興味の方はそちらも是非。尚、記録を残すと言う観点から、当時の後書きを引用しておきます。

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・作者から一言('02/08/14)

私のサイトの12345ヒット記念に何か書きましょうと申し出たところ、 こんなお題と縛りをいただきました。


題名: 夏の終わり

文中に含む言葉:

「~に関しては右に出るもののない」

「カスピ海ヨーグルト」

「私は微笑むのであった」

そういうわけで、このお話は「くらり」さん(くらりね)に差し上げました。

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 インターネット老人会じゃありませんが、「ホームページ」の時代です。おまけに「キリ番」ですw

 くどいようですが、公開時のコメントも引用しておきます。

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夏の終わりに'2/8/19

旧サイトの12345Hit踏ん付け記念に「くらり」さん(くらりね)に 差し上げた短編小説です。

固有名詞のない、一人称視点の恋愛物に仕上がっています。

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 と言うわけで、最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好きです♪気まぐれで寂しがり屋で野良猫みたいな彼女が、心地よい腕の中に居ついてくれますように~(笑)
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