自転車少女と夏蜜柑(800字)
爽やかで酸っぱい感じが表現できていれば嬉しいです
良ければ感想ください!短くて良いので!
夏至の夕暮れ、梅雨の間隙を縫う快晴。
空は東から西に向かうにつれ、青から茜色へとグラデーションがかかる。
摂氏28℃。
田舎の長い一本道路。緩い上り坂と下り坂。
道路の両脇を埋めるのは、夏蜜柑のカーテン。まだ酸っぱいままだ。
車も歩行者もいない直線を、一台の自転車が駆け抜ける。
自転車を駈るのは女子高生、二人乗り。
早めに終わった部活の帰り、彼女らはこの後家で遊ぶ。
今、彼女らは最後の難所を登りきる。
「降りて、自転車を押して坂道を登ろう」
なんて彼女らの選択肢はないのだ。
漕ぎ手の彼女は立ち漕ぎ、力一杯ペダルに力を込めている。
荷台に、ちょい、と腰掛けた彼女はその姿を横目に、
呑気に口笛を吹いたりしている。
ようやく登り切って、彼女らが遊ぶ家までは、もう下るだけ。
自転車はぐんぐん加速する。
漕いでいた彼女は、荷台に座っているだけの彼女に、
仕返しと言わんばかりに、ちょっとスピードを出し過ぎる。
荷台の彼女は堪らず、サドルの彼女に腕を回す。怖いのだ。
怖いよ〜、なんていう荷台の娘の懇願に、
ちょっとしたお返し、といたずらっぽく笑うサドルの娘。
それからブレーキを柔らかにかけていって、
ちと暑い初夏の夕暮れの空気を、彼女たちは全身で感じる。
キラキラ笑い出す彼女達。
楽しくって仕方がない。
彼女達の白い制服が、少し酸っぱく匂うのも、
汗だけではなくて、
早熟な夏蜜柑の香りが、風にまで染み出したからだろう。
その自転車は、二人のうら若き少女を、
ゆっくり、ゆっくりと運んで行く。
夕凪の直線道路でも、彼女達が通った後だけは、
すっ、と爽やかな柑橘の香りが通り抜けるのだった。