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出発

「あの時こうしておけば良かったのに」


 そう思った事は誰だってあるはずだ。

「あの時に戻れたらな」と思った事もあるはずだ。

 人は失敗を繰り返しながら反省し、そこから学習して少しずつ成長していく。

 そんな事は誰だって知っているし理解している話だ。

 しかし人生というのは非情なことに自力じゃどうしようもない展開や予想だにしないような出来事で溢れかえっている。

 失敗してそこから学習し成長していく、なんてのは「また次がある」時だけで実際ほとんどの場合がどうしようもないものである。

 そうやって失敗し、後悔しながら一生を終えていくものだ。

 人は皆そうやって生きているしこれからもそうやって生きていく。こればかりは何年、何十年、何百年経とうが変わらないだろう。

 何故なら、そうやって生きていくしか無いからだ…


  ―序章―


 季節は春――

 春は出会いの季節でもあり別れの季節でもある、なんて言われているが、引きこもりのクソニートであるこの神崎冬馬に出会いなんて無いし出会いが無ければ必然的に別れも無いのだ。

 小、中、高、とコミュ障全開で「友達」なんて呼べる相手はいたことが無い。努力はするも全て空振り三振に終わる永遠のノーヒットバッターだ。

 ちなみに俺の容姿に関しては上の中…いや、ちょっと盛ったな、中の上ってとこだな…あくまで自称だが…。勿論モテた事など一度も無い。当たり前だよなぁ。だってコミュ障だもん。

 大学に入る前は「大学デビューするぞォ!」なんて意気込んでいたが、今までこんな人生歩んで来た陰キャラ日本代表みたいな奴ができるはずもなく現在に至る。

 今年でもう19歳になる俺は親に高い学費を払ってもらっているくせに大学をサボり日々ネトゲに時間を費やし続ける社会のゴミである。何に対してもやる気が起きず目標も無くただ生きながらえているだけのクズだ。

 そんな生活をしていたある日のことである。いつものように適当に食べ物を買いに行こうと家を出てコンビニに向かう途中だった。正面から1人の男がこちらに向かって真っ直ぐ歩いて来て俺に声をかけてきた。

「あなたが神崎冬馬さんですね?」

 俺は見知らぬ男から急に名前を呼ばれた為少しの間固まってしまった。

(誰だ…?記憶に無いぞこんなイケメン野郎…しかもめっちゃ良い声だし。)

 その男はスーツ姿で身長は大体170㎝ぐらいだろう、どこでも普通にモテそうな整った顔立ちでニッコリと何処と無く気持ち悪さを感じるような笑顔をこちらに向けながら更にこう続けた。

「神崎冬馬さん、おめでとうございます!あなたは人生再興プロジェクトの1人に選ばれました!」

(…はぁ?)

 意味が分からなかった。

(なんだ、人生再興プロジェクトって?それに何がおめでとうございますなんだよ。新手の詐欺かなんかか?)

 そう俺が頭をひねっていると男はさっきと同じ表情を一切崩さないまま更にこう続けた。

「何言ってんだこいつ…って顔してますね。まぁいきなりこんな事言われても意味分かんないですよねー…ハハハ…」

 男は笑顔は崩さないままだが少し寂しげにも見えるような表情になり自虐的に笑った。

 その後沈黙が続いた為気になっていた事を聞いてみた。

「その人生…再興プロジェクト…?ってのはなんなんですか?というかそもそもあなたは誰なんですか?」

 すると男はまた元の笑顔に戻り話し出した。

「えーっとですねぇ、簡単に説明しますと神崎さんのようなヤバい状況の人にもっと楽しい世界に行って暮らしてもらおう、というものです。まあ要は別世界へワープ!的なやつです。」

 その話を聞いて余計に頭が混乱した。

「いや、意味分からないんですけど…。何なんですか別世界って…最近よくある異世界転生ってやつですか?俺トラックに轢かれて死ぬんですか?」

 俺がやや早口でそう畳み掛けると

「異世界転生?トラックに轢かれて死ぬ?何を言ってるんですかあなたは?www」

 思いっきり馬鹿にしたように笑われてしまった…。

「別に死んで転生する訳じゃ無いですよ。ただもう少し楽しめる所に行けるだけです。今までの自分の人生を胸張って他人に言えますか?」

 ぐうの音も出ない…。

「無理でしょう?だからもう一度あなたの事を知らない人達の世界で最初からやり直そう!っていう良いお話なんですよォ。Do you understand?」

 痛い所を突かれたのと喋り方にムカついたがまだ聞きたい事がある為ぐっと堪えた。そして一番気になっていた質問を投げかけた。

「それでどうやってその楽しい世界とやらに行くんですか⁉︎常識的に考えてできる訳ないでしょ!あなたは特殊な力でも持ってるんですか⁉︎人をからかうのも良い加減にしてください!」

 やや強めの口調で言ってしまったが男は顔色1つ変えずに話し始めた。

「おぉ、すみません、そういえば最初の質問に答えていませんでしたね。私はこの世の神の使い、所謂"天使"ですよ。」


 冷めた。一瞬で冷めた。そう、一瞬で。

 俺の人生で最高レベルの真顔になってるのが実感できる。今俺の顔はクソワロタ(真顔)のAAみたいになっているだろうな。

「…その顔は絶対信じてませんね…まあ無理も無いですが…」

 自称天使野郎は困った表情になったが相変わらず気持ちの悪い笑顔は崩さない。

「"私は天使です。"…なんて言われて信じる奴がいる訳ねえだろ!そんなくだらねえ嘘つくんならせめて男を騙しやすい女で来いよ!」

 ついキレて怒鳴ってしまったがこの際もうどうでもいい。この自称クソ天使に溜まってた文句をブチまけて――

「女性の容姿の方が良かったですか?」

 え?

 そう言うと自称天使野郎の体が一瞬消えた…そしてめちゃくちゃ綺麗な女性が目の前に現れた。

 …………は?

 100人に聞けば100人が美女だと言ってもおかしくないレベルの女が――

「これなら信じてもらえますよね?」

 そう言い放った。

 訳がわからなかった。さっきの自称クソ天使が消えたと思ったら美女が現れた。何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった…

 10秒ほど何もかも停止していた、そんな感覚だった。相変わらず目の前には女性が笑顔で立ったいる。

 本当に性別ごと一瞬で変わった。正直「天使」なんて信じられなかったが目の前の異常な光景を目の当たりにした以上信じるしかなかった。

「えらく驚いてるようですけど天使なんてただの概念に過ぎませんので性別ぐらいいくらでも変われますよ。」

 そう言ってまたさっきまでの男の姿に戻った。

「どうですか?これで信用できたでしょう?」

 天使はそう言った。俺はその気持ちの悪い笑顔を見ながら無言で頷いた。

 すると天使はより一層ニッコリと笑い

「ではこれから楽しい楽しい別世界へと参りましょうか。聞きたいことがまだあると思いますがそれは移動しながらでも良いでしょう。」

「い、今から⁉︎準備とかは――」

「ご心配なく!いろいろとあちらに用意してありますので困る事は無いでしょう。万が一何か必要な物などがあれば私がお送りしますので。」

「そんな事までできるんだな…まあ折角こんなクズの俺に舞い降りて来たチャンスだ、有り難くやらせてもらうよ。人生再興プロジェクト…。」

 実際これはチャンスだ。俺にとって新しい大きな一歩になる筈だ。

 俺はいつのまにか期待に胸を膨らませていた。

「では参りますので私の手を掴んでください。」

 そう言って天使は手を差し伸べてきた。

 俺はこれからの新しい世界への期待感をそのままぶつけるようにその手を力強く握った。

「お?良いですねェ〜、ノってきましたねェ〜。人生再興して、新しい最高の人生を歩んでくださいね〜…あ、実はこれ再興と最高がかかってるんですよ〜。」

 ――やかましいわ。

 そして俺と天使は一瞬にしてその場から、もといその世界から消えた。







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