No.000 誰もが恐れる魔王、しかし実際は
この世界には魔族という人間とはちょっと違う種族がある。
魔族というのは魔力の高い人間が突然変異して生まれた種族と呼ばれている。魔族は生まれつき高い魔力を持って生まれ、身体能力も高い。そしてなにより大きな違いがあるとすればその見た目だ。
魔族の体は動物の耳や尻尾などの器官が生えている。そのため魔族の中でも『鳥人族』、『犬人族』、『魚人族』......と様々な種族がある。
魔族のほとんどは魔界と呼ばれる土地に住んでおり、そこに住む魔族を束ねる存在が魔王だ。
彼について聞けば皆、こう答えるだろう。
「人間の宿敵、倒さねばならない悪魔」
「人間族の平和を乱す憎き相手」
「日々血に飢え、争いを望む種族」
町の小さい子供からじいさんまで、誰もが知っている事だ。
なにせ魔族一人だけで魔法と呼ばれる魔力を利用した術を言わせれば街は滅び、武器を渡そうものならたった1振りの剣だけで足元は血の海に変わるほどの実力なのだ。
誰もがその実力を恐れ、彼がいつ本格的に人間族の領土に侵攻してくるのか日々恐怖しながら1日を生きている。
......そんな誰もが恐れる魔王という男は現在。
「エイジイィィィ! 行くなあぁぁぁ~」
俺の足にしがみつき、涙と鼻水で酷い顔をしながらそう叫んでいた。