第四話 Insert
ネフィリムの体内はメンテナンス用スペースを除き、人間が入ることの出来るスペースは少ない。
コックピットもまた、そのスペースの一つである。
コックピットに入った少女はゆっくりと深呼吸を始める。訓練とはいえ、実際の戦闘状態と同じステータスを保つ必要があるため、出来る限り冷静にしておかねばならない。だからパイロットは肉体も精神も『調整』がなされる。
調整は投薬や電気信号を脳に送ることで行われる。人権のことを鑑みるとパイロットには人権が無いのかということになってしまう。しかし、現行の法律ではパイロットはその適用範囲外となってしまっている――が、それについては国民の殆どが知らない。
「平和な世界で住んでいる人間は、その環境がすべて平和でならなくてはならない、か」
どこかで学者が言っていた、そんな言葉を反芻する。
コックピットは自転車のフレームのようになっていて、ハンドルバーやペダルが配置されている。ペダルの部分には車のブレーキとアクセルのようになっていて、実際に漕ぐような感じでは無い。
しかし、特徴的であるのは――ペダルよりもサドルの部分になるだろう。
サドルには――正確にはサドルが置かれているはずのスペースには、小さい口が開いていた。
「……、」
少女はそれを見つめて何も言うことは無く、ただゆっくりとそこに腰掛けた。
そのままなら中座で空気椅子に座っているような、そんな感じになってしまうが、実際のところそんな心配は必要ない。
ぬるっ、という音がコックピット内部に響き渡る。
そしてそれは彼女が腰掛けた部分にある口から何かが出てきた音であるということも、彼女は嫌という程分かっていた。
「……ううっ」
なるべく声を出さないようにしていたが、それでも僅かに嬌声が漏れる。
みちみち、と彼女の身体に何かが入っていく。
彼女の身体を、中から押し広げていくような、そんな感覚。
彼女の体液がぽたり、ぽたり、と音を立ててコックピット内部に落ちていく。
そしてドリルの如く彼女の体内を押し進めていった『それ』はやがてゆっくりと止まった。
ふと彼女は下を見る。パイロットスーツはもともと『それ』を受け入れる態勢が出来ていて、そのための穴が開いている。普段は閉じているのだが、『それ』によって簡単に開け広げることが出来るということだ。
そして、今はその穴が押し広げられ、すっぽりと『それ』は彼女の身体によって包み込まれていた。
それは青黒く、また脈打っていた。それだけなら血が通っている生物ではないか、と考えられることが出来るが――それは開発メンバーでも一部の人間しか分かっていない。
ただ、言えることと言えば、ネフィリムはただのロボットでは無いということになる。
ロボットで無いというならば、何だというのだろうか?
「そんなこと……、考えるまでも無かったわね……!」
少女は自らの疑問を打ち消すように、独りごちる。
戦っていくうえで、そんな疑問は必要ない。
それは戦うために調整されたパイロットだからこそ、考える最適解と言えるだろう。
『よう、どうだい。調子は?』
ちょうど彼女の前にあるモニターに顔が映し出される。
それは、整備棟の監督を務めているドルクスだった。
「ええ、問題ないわ。動かしても?」
『そいつは待ってくれ。まだいろんなものを取っ払っちゃいねえんだ。別にストレス発散で全部ぶち壊したいというのならば話は別だけれどよ!』
「私にそんな趣味はありませんよ」
『違いない』
そうして短い通信は終わった。