双子と混浴
数日後、早朝に前田邸を出た俺とハル、ユキ。
水龍神社に辿り着いたのは、八つ時(午後三時)頃だった。
同じ阿東藩の領内とはいえ、やはり時空間移動装置『ラプター』を使わずに徒歩で移動すると、結構時間がかかるし、疲れる。
効率だけで言えば、俺は自分のラプターで、ユキとハルは優のラプターで一緒に移動した方が早いのだが、やはり実際に歩いてその距離を実感した方が今後の経験になるし、何より今回は『小旅行』だ。
俺としても、二人の若い嫁と楽しく話しながら、風景を見たり、茶屋に寄ったりしながら歩く方が思い出に残る。
ちょっと疲れたが、天気も良く、予想通り楽しい旅となった。
水龍神社では、巫女の瑠璃が、相変わらず間延びした口調で出迎えてくれた。
おかっぱ頭で、満年齢で十歳の彼女は、ユキ、ハルの二人から見てもまだ子供。さすがに俺と瑠璃の浮気を疑うことはなく、満面の笑顔で、お互いに再会を喜んでいた。
他には、三十五歳ぐらいのおばちゃん巫女さんが数人。
こちらも、
「拓也様のおかげで常盤様が明るくなった」
と、歓迎してくれた。
歳が離れているので、ユキもハルも、俺がこの人達と浮気するなんて考えていないようだ。
そして瑠璃の案内で神社の西側の社へと進んだ。
建物に上がり、部屋へと通される。
そこにいたのは、着物を幾重にも重ね着し、冠を付けた一人の可憐な少女。
「ようこそ、『水龍神社』へ。巫女長の『常磐』です……拓也様、その節はお世話になりました!」
うん、前よりかなり明るくなっている。
「ああ、君も元気になったみたいで良かったよ。それと、この二人が……」
……ユキもハルも、なんか俺と常磐の顔を交互に見つめている。
「……色白で、綺麗な人……」
ハルがぽつりと呟いた。
「……ほら、二人とも挨拶しなきゃ」
俺がユキとハルを注意すると、彼女たちは思い出したように前を向き、かしこまって挨拶する。
「初めまして、前田拓也の嫁の、ユキですっ!」
「同じく、前田拓也の嫁の、ハルですっ!」
……そこは『明炎大社の巫女の』でいいのに……。
「えっ……お嫁、さん?」
案の定、常磐はきょとんとした顔で俺を見つめた。
「あ、ああ……えっと、実は二人とも、俺の嫁なんだ……この前一緒に来た優もそうだけど」
「……まあ、そうでしたの……そうですね、拓也様、大商人という事でしたしね。お嫁さんが三人もいるなんて、うらやましいです」
「……いや、えっと……実は後二人いて、全部で五人……」
さすがに言いにくいが、ちゃんと言っておかないと双子の姉妹に変に思われる。
うん、常磐、予想通りビックリしている。
でも、すぐにニッコリと笑って、
「……私はずっとこの水龍神社にいるので分からないのですが、そういう結婚の形もあるのですね。お二人とも、拓也さんに凄くお似合い。優さんもそうでしたけど、仲良さそうで、うらやましいです」
と言ってくれた。
この一言で、ユキもハルも笑顔になって……ようやく、俺と常磐が浮気なんてしていないと確信してくれたようだった。
その後は、神社の中をあちこち案内してくれたり、夕食をご馳走になったり、宮司様に挨拶したりと、瑠璃も含めて、和気藹々と過ごす事ができた。
すっかり仲良くなった女性陣。会話に花が咲き、気がつくと、夕暮れになっていた。
常磐も瑠璃も、明炎大社内に泊まることを勧めてくれたので、まだ宿を取っていなかったこともあり、宮司様のご好意で、客間を一部屋借りる事となった。
これで今日の予定は終わり……じゃなくて、例の温泉に入るのが残っていた。
客間の寝床を用意して、ちょっと休憩してから入浴に出発。
すっかり日が暮れてしまっていた。
水龍神社から温泉までは、約十五分。
神社に行く前にあらかじめこの施設を訪れており、ちょっと見ない間により広くなり、大きさだけでいうと全体で二十畳ぐらい、脱衣スペースまで用意され、本格的な露天風呂に近くなっていた。
湯船も、ちゃんと岩が積まれて、下は丸い砂利が敷き詰められ(その下は俺と優が持ち込んだ防水シートで湯が漏れないようになっている)、十人は入れるぐらいの広さで、すごく良い感じだった。
事前に訪れたときに、ここを管理している人に、この日は夜間、俺達の貸し切りにして欲しいことは伝えておいた。
どのみち、この日は新月だから、誰も夜に入る人なんかいないと言われていた。
実際のところ、街灯なんかないこの時代の夜は、月明かりがなければ真っ暗で、提灯がなければ歩けないし、入浴も難しいだろう。
けれど、俺はLEDランタンを持っていたので、それを二つ置いたら、俺達が入浴するのには十分な明るさとなった。
ユキとハルの二人とは、何度も混浴しているし、この時代、女性が裸を見られることは、現代でいうところの水着姿を見られる程度の恥ずかしさでしかないはずだ。
だから、俺もそんなに意識しないで済む……つもりだったが、いつもと風景が異なるせいか、はたまた彼女たちの成長が著しいせいなのか、ちょっとやばい、と思ってしまった。
満年齢で言えば、十四歳。あと四、五ヶ月で十五歳、というところか。
そんな二人が、生まれたままの姿で湯に浸かり、俺の両隣にピッタリと身を寄せている。
この温泉はちょっと濁っており、暗さもあってくっきりとは湯の中が見えないのだが……肌が触れあっている感触は、なんというか、心地良いし、ちょっとだけ意識してしまう。
脱衣の時の、LEDランタンに照らされた二人の裸も、目に焼き付いている。
まあ、ついそれを見てしまった俺も悪いのだが……。
しかし、このシチュエーションは、思ったよりずっとすばらしかった。
この露天風呂は山中だし、新月の夜中だと何も見えず、フクロウの鳴き声ぐらいしか聞こえないのではないかと思っていたのだが。
月が出ていないのが幸いし、上空には、満天の星空が広がっていたのだ。
この光景だけは、現代に於いては見ることのできないものだ。
それを、貸し切り温泉に浸かりながら、両隣に裸の、双子の美少女を侍らせ、心ゆくまで満喫する。
それだけ聞くと、まるで悪徳商人か悪徳代官がテレビの一シーンで行うような所行なのだが、ユキもハルもそれを望んでいたのだから、まあいいのだろう。
彼女たちも、今、ものすごく幸せだと言ってくれた。
思っていたよりも、ずっと雰囲気があって、富士山見物に行ったときに勝るとも劣らない、それが同じ阿東藩で体験できた、と。
何より、俺とこうして一緒にいられることが幸せだ、と。
私達だけじゃもったいない、とも。
確かに、ちょっと贅沢な気もするが……今日だけだし、まあ良いんじゃないかな、と言うと、彼女たちは、
「じゃあ、今だけ」
「もっと甘えたい」
と、俺に抱きついてきた。
俺はなんとか理性を保つのに必死だったが、それでも、この上ない幸せを感じていた。
――なのに、あんな恐ろしいことになるとは……。
この二人、想像以上の小悪魔だった……。
次回に続きますm(_ _)m。




