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双子の休日

 今回の話は、『身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!』本編の第百七話~第百九話辺り、阿東藩における改革を始め、水龍神社での問題を解決した後ぐらいの時系列となります。

挿絵(By みてみん)


 江戸時代においては、現代のような『一週間』という概念はなかった。

 つまり日曜日なんかないわけで、店舗が休みになるのは大雨の日か、盆と正月ぐらいだった。


 この時代、阿東藩の『食い物通り』に存在する『前田美海店』もその例に漏れず、ずっと営業を続けていた。


 しかし、こうなると従業員である少女達にも疲労が溜まってくる。


 店を任せられ、料理長として充実した毎日を過ごすナツはともかく、その妹である双子のユキとハルは、ずっと仕事を続けていることに疲れているかもしれなかった。


 当の本人達は、そんなことない、仕事は楽しいと、けなげに主張するのだが、二人とも満年齢に換算すると十四歳。現代で言えばまだ中学生だ。

 ナツからも、たまには休みをあげた方がいいのではないかと言われていた。


 一時『カツオのタタキ』の大ヒットにより忙しい毎日が続いていて、従業員も増やしたのだが、肝心のカツオが取れなくなってきて、かなり暇になってきている。

 だったら、ちょっと休みをとって、二人を小旅行にでも連れて行ってあげればいいのではないか、と、前田邸での会議で決まった。


 大喜びのユキとハル。

 二人にどこに行きたいか聞いてみると、以前みんなで富士山を見に行った旅行、その中でも温泉に入ったことが思い出に残っている、と言う。


 しかし、もう一度行くとなると、また大がかりな旅になってしまう。

 と、ここで俺は、一石二鳥のすばらしいアイデアを思いついた。


「ちょうど良かった! 実は、阿東藩の中にも温泉が湧いた場所があるんだ!」


 と、自慢げに声を出した。

 それを聞いて、えっと俺の顔を見つめる、凜、ナツ、ユキ、ハル。

 優だけは知っていたのだが、実はある場所で温泉の掘削工事を行っていたのだ。


 場所は、この辺りで一番大きな神社である『水龍神社』、及びその門前町の近く。

 三百年後の未来から来た俺は、この地点で深く地面を掘れば、温泉が湧くことを知っていた。


 ちなみに『水龍神社』とその門前町は現在でも存在し、少し離れてはいるが、温泉の湧く宿には、多くの参拝客が宿泊している。

 実際に温泉が掘削されたのは昭和に入ってからだが、そのポイントを知っている俺からすれば、掘るだけで源泉の湧き出る有用な場所だ。


 もちろん、それで金儲けを考えているわけではなく、少しでもこの阿東藩が豊かになればいいと思っていた俺は、藩の役人にも協力してもらって労働者を集め、掘削作業を実施していたのだ。


 この試みでは、ある重大な取り組みも展開されていた。

 歴史上は明治になってから考案された掘削方式、『上総(かずさ)掘り』の実践だ。


 この工法、それまでは井戸一つ掘るにしても莫大な資金と人手をかけて、せいぜい数十メートルしか掘れなかったものを、わずか二、三人の人力で五百メートルも掘れるほど画期的なものだった。

 試みは大成功を収め、ほんの数日前だが、温泉の湧出を確認できたのだ。


 まだ湯の量はそれほど多くなくないが、掘削をしてきた労働者や職人さん達は大いに喜んで、岩や竹を運んで、数人単位で入れる簡単な露天風呂まで作っていた。


 まだ一部の阿東藩の住民しか知らない、できたての温泉地だ。

 その話をすると、ユキもハルも目を輝かせ、行ってみたいと言ってくれた。


 ナツも凜も、


「そんな話を聞かされては、私達も行きたくなってしまう」


 とうらやましそうだったが、ここは年下の二人に譲ることになった。


 ちなみに、優は発掘作業の時点から、現代から資材を運ぶ手伝いをしてくれていたので知ってはいたのだが、彼女もまだ湧き出た温泉に入ったことはなかった。その上で、二人と楽しんできて欲しいとも言ってくれた。


「……でも、一石二鳥ってどういうことですか?」


 ハルが不思議そうに尋ねて来た。


「うん? ああ、ハルにも、ユキにも、『水龍神社』でお参りというか、挨拶をしてもらいたいって思ってね。あの神社、江戸の『明炎大社』とも深い繋がりがあるんだ」


「あ、そういうことですね。私達、明炎大社の巫女でもあったから……」


「そう、水龍神社の巫女さん達とも交流があった方がいいと思ってね」


 人と人との繋がり、絆は、この時代に於いては現代とは比べものにならないぐらい重要だ。


「特に、『常磐(ときわ)』っていう娘は、まだ若いのに『巫女長』だ。性格もすごく良い子だし、仲良くなっておいて損は……」


 と、そこまで言ったところで、目の前の少女達(優を除く)がジト目になっているのに気付いた。


「……若い娘って、何歳ぐらい?」


 ユキが鋭い質問を突きつけてきて、なぜこんな雰囲気になったのかを察した。


「えっと……たしか数え年だと、十七歳か、十八歳だったかな……」


 満年齢ならば十六歳か十七歳だ。


「それって、ご主人様と同い年ぐらいですよね……その様子だと、何度も会ってるみたいですね……」


 ま、まずい、ハルまで疑いの眼差しだ!


「い、いや、違うって。ほら、この屋敷に来た、瑠璃(るり)っていう女の子がいただろう?」


「……ああ、あの十歳ぐらいの、おかっぱ頭の!」


 ナツの一言に、みんな思い出して笑顔になる。


「そうそう、常磐は瑠璃のお姉さんだよ」


「……なあんだ、それなら先に言ってくれたらいいのに」


 ユキは機嫌が直ったようだ。


「……あれ? 拓也さん、そうでしたっけ?」


 優が首をかしげる。


「……あれ? えっと……いや、ごめん、姉妹ってわけじゃなかった。でも、姉妹みたいに仲が良くて……」


「……嘘をつくなんて、ますます怪しいです……」


 うう……ハルの視線が冷たい……っていうか、ちょっと涙目だ。


「いや、ちょっと混乱して間違えただけだよ。ほら、新しく来てくれたお梅さんと桐、あの二人は実の姉妹じゃないか。そのせいもあって、こんがらがったんだ」


「……そういえば、あの二人も拓也さんが私達の知らないところで知り合って、この阿東藩に、内緒で呼び寄せたんでしたわね……」


 今度は凜の冷たい台詞。


「いや、そんな、内緒とかじゃなくて、みんなには言う必要がないかなって思っただけで……」


 ……まずい、この一言は、ますます火に油を注いだようだ……。


「考えてみれば、海女のミヨも、貴様が独断で呼び寄せたんだったな……」


 今度はナツだ。

 うう……目が据わっている……。


「いや、ほんとに、別になんにも疑われるような事は無くて、単に知り合いになる、それでいて放っておけない女の子が多すぎるだけなんだよっ!」


 と逆ギレすると、


「……それって、単に拓也様が女好きだからじゃないのですか?」


 という凜の一言に、うまく反論できず……結局、今回の小旅行でユキ、ハルの二人がしっかり見極める、という事で落ち着いた。


 そんな中、ただ一人、俺のすぐ側で必死に笑いを堪えていた優の姿が印象的だった。


次回に続きますm(_ _)m。

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