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マスターは透明人間  作者: 蒼北 裕
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第3節 メイド

 私が御主人、ジラードの屋敷【霞屋敷】で働き始めてから一週間が経とうとしていた。元々、この屋敷には住み込みで働いている……人(?)がいたから、ほぼつきっきりで仕事を教えてもらえた。


 


 でも、彼女は夜には動かなくなってしまうからいつでもジラードの身の回りの世話を出来なかったのだという。そこで私に声をかけたのが理由だそうだ。「いつでも動けるような人が、一人くらいは欲しくてね」と。




「ほら、新人。何ボーっとしてるの。いいご身分ね、もうしっかり仕事を覚えてサボり方まで身につけてしまったのかしら」




「あたっ…!」




 私の背中を箒の取手で叩くと、彼女はそのまま屋敷の玄関へ行ってしまった。




「(確かに少し気が抜けていたのかも、これもお仕事。しっかりしなくちゃ、私!)」




 廊下の奥へと消えていく彼女を見送りながら、私は窓を丁寧に拭いていく。一枚、また一枚と。そんな時だった。私の左腕に巻かれたブレスレットが小刻みに震え出した。






「また、ですか…」




 半分呆れながらも私は彼女が消えた廊下の先へと小走りで向かう。すると、玄関の扉には大きなねじまきが挟まっていて、私はそれを拾い上げ外へ出てみると――




 彼女が倒れていた。背中には大きな穴が開いている。そう、彼女は自動人形(オートマタ)なのだ。そのため時々何かにぶつかったりした弾みで後ろのねじまきが近くに投げだされてしまうことがよくある。




「んっしょ、んっしょ……と」




 私は近くの壁際に彼女を座らせ、背中の穴にねじまきをしっかりと押し込みゆっくり回していった。カチリ、カチリと音が何度か鳴り、ある程度回していくとやがてそれ以上回せなくなる。こうなればもう手を離してしまって大丈夫だろう。


 


「(さて、と。しばらくすれば目を覚ますでしょう。)」




私が雇われるまではジラードが彼女のこの問題をいつも解決していたのだと言う。




「…ごきげんよう」




 目覚めた彼女はムスッとした顔をして私を見上げながらそうこぼした。




「ごきげんよう、リリー。ねじまき、また外れてましたよ」




「直してくれてどうもっ!」




 ジラードの屋敷で住み込みで働いているこの自動人形には「リリー」という名前が付いている。私はここに来るまで自動人形という物を見たことは無かったが、彼女に出会ったときは端正な顔立ち、まるで絵本の中のお姫様のように可愛らしい普通の女の子だと思っていたほどだ。


 


「(た、確かに。少し常人離れしたところがあるかなぁ、とは少し感じたけど。)」




 背中のねじまきで動いていて、さらに日が出ているうちしか活動出来ない。夜になると彼女はただの人形に戻ってしまうのだ。だからこそ、私がその分、ジラードの世話をする。


 どうしてそんな身体なのか私は彼女に訊けないでいた。それは彼女がこの屋敷から外に出れないということから察するに自身のことについて他人に踏み入って欲しくないのだろう。




「ジラードに早くこの身体をなんとかしてもらいたいものね。出来れば、ハナ。あなたと同じようにね」




「そうだよね、リリー。長く生きてる割には身体が子供っぽいものね」




「違うわよ!この()()()()をなんとかして欲しいのよ!!」




「えぇ、でも可愛いよ。そのねじまき。取っちゃうなんて勿体ないよ」








 ―――自動人形のリリー。


昔はただの人形だったみたい。だけど、ジラードが見つけて彼女に“心”を与えた。




その話を聞いた時、私はジラードが魔法使い(ウィザード)だと思った。でも、彼は違うと。




「魔法使い、そうだね。ただ私はそれほど万能なモノではないんだ。強いて言うなら、手品師(マジシャン)、かな」




なんて彼は言うけれど、本当のところはどうなんだろう。彼の仕事、お役所仕事とは知ってるけど、厳密に何を担当しているのかとか、全然知らない。




今度、聞いてみようかな―――

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