おふざけにおふざけを重ねたら面倒になった
いつも通りの学校。
音無はそんな学生生活に満足していた、変わらない日常、友達とバカやっている日常に満足できていた。
「元気か音無。お前いつも元気なさそうだよな」
無駄にテンションが高い男子生徒が話しかけてきた。
「夏川、俺の普通はこれくらいなの。そもそも、お前はいつもテンションが高い。つかうるさい、周りのことを気にしなさい。分かった、分かったらはいって言う」
朝から無駄に元気があり、毎朝音無に声をかけてくる夏川。
嫌いではないが扱いが面倒な相手だなと音無は思っている。と言うわけで理不尽をぶつけてみた、特に理由はないが。
流れ出で「はい」っと言ってしまった夏川。
「分かったか」
「いやいや、なんで俺が悪いみたいに」
「うるさいから」
「おいおい、俺がうるさいだと」
気にした様子もなく夏川は言葉をつづける。
「気づいていなかったのか、隣の席の人に聞いてみな」
夏川は自分の席の近くの生徒に聞いて回る。
「言いづらいんだけと、夏川くんて少しうるさいときがあるかな」
「耳障りかしら」
「そうそう、うるさいよな」
「同意するわ、夏川うるさい」
「うんうん」
のりが良すぎるだろ、なにか打ち合わせをしていたのかと思うぐらいに、 夏川がうるさいのは周囲で一致した意見であった。
「お前ら、そんなことを思ってたんだな」
涙目になる夏川に追い打ちをかける。
「そう言うとこがうるさいんだよ。少しは落ち込んで机に突っ伏して反省しなさい、クラス全員のたに」
なぜか音無の言葉に教室にいた生徒は頷く。
「あっれ、いつの間にクラス全員の」
音無は夏川の言葉をさえぎる。
「多数決で決まったんだ。机に座って静かに反省しなさい」
「理不尽だ」
こんな不公平な多数決があるのかと、最初から決められた多数決など平等なのかと。
「理不尽だと思っているのはお前だけだ、これはお前を除いたクラス全員の意思だ」
理不尽を数の暴力で解決してしまう。
とうぜん夏川が納得いくはずがなく。
「そんなひどい、何で何で俺がこんなめに。苛めかな苛めだよな」
苛めだと言い張る夏川に音無は。
「さて、おふざけはここまでにして」
「えっ、これっておふざけだったの」
「お前がうるさいって以外は嘘だ」
「ほとんど本当じゃないか」
「…………」
話していた生徒が黙りこんで静寂になる教室。
教室の変化に周りを見渡す夏川。
静寂を破ったのは音無だった。
「みんな、朝の朝礼があるから廊下に並ぼう」
何事もなかったことにして話を帰る音無。
「本当だ、時間になるじゃん」
「今日、朝の朝礼があるんだった忘れてた」
「早く並んで行こうぜ」
「教えてくれてありがとう。音無くん」
和気あいあいと教室の外に出ていく生徒、その中で一人残された夏川。
しばし呆然として我に返ると教室にも廊下にも生徒はいなくなっていた。
「待ってくれ。置いていかないで」
夏川を除いて、他の生徒は並んで先に体育館に行ってしまった。
遅れて体育館に来た夏川は先生に怒られるはめになる。
「理不尽だ」
「おい、反省しているのか」
「しています」
体育館の端にいる夏川は他のクラスの生徒に見られるはめになる。
「よう、戻ったか」
「お前のせいでひどいめにあったは」
「そうか、俺はお前が眠そうだったから起こすためにと思ったが」
朝から音無とのやり取りで完全に目を覚ましている夏川が眠くなることなどない。そもそも集会に遅れたのは音無のせいであるが。
「お前は俺に謝罪の言葉はないのか」
「そうだった。月一でやっていく方針が決まったのだがどうだろう」
音無から謝罪の言葉などのなく、夏川が戻ってくる間にクラス内ではなぜか月一でこの夏川をいじる行事が話され決定されていた。
「え、どう言うことで」
「要するに、集会で体育館に集まるときは今日のような起こるってことだ」
「それなんて苛め」
「おいおい。夏川これは苛めじゃない遊びだ、ちなみに朝のおふざけって言ったがクラスのみんなと話していたら思いのほか話が膨らんでな」
「なおさらひどい」
自分のことなのに自分抜きでなぜか色々決まってしまった夏川。
「まっ楽しみにしていろ」
口の両端を吊り上げ黒い笑みを浮かべる、そんな表情を見て落ち着いていられなくなった夏川は声を荒げる。
「ふざけるな」
「ちなみにあと二年とちょっとは続くから。なっ、みんな」
音無からのこれから卒業まで続く発言。
息ぴったりに「うん」とうなずく生徒たち。
「まさかの高校生活の全部でって。つかお前ら仲良さすぎるだろう、苛めなんてないだろ俺以外に」
「授業が始まるぞ席に着け」
夏川以外は席に着き先生が来るのを待ってた。
「夏川、立っていろ」
先生が入ってくるなる、席に着かずに立っている夏川を容赦なく廊下に立たせる。
「待ってください、これには深い訳があるんです」
言い訳をしようとするが、先生はそれを聞こうとはしない。
「訳は後で聞いてやるから、とりあえず廊下に立ってろ」
「そうだ、早く廊下に行くんだ授業が始まらない」
「元凶のお前が」
「話は後で聞いてやるから、廊下に行くんだ」
生徒たちは早く教室から出てけと言う
「早く行きなさいよ」
「夏川、早くしろよ」
「いつまでも粘るな諦めろ」
「諦めろ、お前は完全に包囲されている出ていくんだ」
だんだんおかしくなってく生徒の出ていけコール。
「なんだ。お前らも出ていって欲しいと思ってるのか、多数決的に出って方がいいぞ」
先生も生徒の意見を聞き入れてしまう。
夏川に味方はいないのか。
「デジャブ。朝と同じことが」
頭を抱える夏川、それを見た音無は。
「みんな、かわいそうだろ」
「音無――」
優しそうな表情を夏川に向ける。
まさかの音無の言葉に夏川は、やっぱりお前は俺の見方をしてくれるんだなと思っていると。
真顔に戻り。
「先生、時間を無駄にするだけです。早く追い出してください」
見方じゃなかった、希望だと思って手をとったらとんでもない速さで手のひらを返された。天使だと思ってたら悪魔に変わった、天使の皮を被った悪魔が潜んでいた。
「お前にばかり時間を食うわけにはいかない。早く出ていって反省しなさい」
渋々、夏川は廊下に出ていくのである。
「逝ったか」
「おい、何か聞こえたんだけど」
小さな声で言った音無の声をなぜか聴きとった夏川は突っ込んだ。
「うるさいぞ、成績下げるぞ」
「すいません」
窓どの外にはまばらに白い雲が浮き太陽の日差しが教室の中に入ってくる、時おり木々の枝を揺らす風が吹く。
いつもと差ほど変わらない教室の日常。
変わってしまった夏川の日常、無理やり夏川の日常を変えた音無。
テンションが高いバカである夏川をどうする考える音無。
夏川の不幸は始まったのに過ぎなかった。
「よし、みんな。やるぞ」
「やるぞ」
「これからの高校生活楽しむぞ」
「楽しむぞ」
「明日も頑張るぞ」
「頑張るぞ」
「今日は解散、また明日」
「また明日」
放課後の教室になぜが教室に生徒が全員帰らずに残っている。
「部活頑張れよ」
部活動があるのに残ってくれた生徒に労いの言葉をかける音無。
何なんだ、このクラスの異様なまとまりは。おかしいだろ、何で無駄なことに力を入れるのかと夏川は思う。
「なんで、おかしくね」
「どうした、夏川」
「お前らのその無駄なやる気にはどこから来るんだよ」
「無駄なことだから緊張せずやれるんだよ」
「俺の精神はゴリゴリ削られるが」
「夏川、お前の精神が普通の人間とは違く図太いだろ」
「つまりどう言うことだ」
「特別ってことだよ」
「特別なのか俺が」
簡単に夏川をちょろまかす音無。
「お前は選ばれた存在」
「選ばれた」
選ばれた存在と言う言葉に心揺さぶられる。
「そう。夏川、君は選ばれたんだ」
とりあえず夏川を持ち上げておけば大体のことは何とかなるなと、これは使えると心の奥で思った音無であった。
「そうか、俺は選ばれた存在」
音無も周りの生徒も必死になって夏川の痛いありさまに我慢している。
「お前は選ばれ者。お前は迷える人々を救いの道を照らす者、闇に落ち、魔に落ちた者を救う者。すなわち、勇者」
声色を変え、高い声で発音する音無。
「勇者、そこまで俺が」
「――この世界に勇者が存在しても、お前みたいな勇者は存在しないだろ」
自分に酔いしれている夏川の耳に小さく言った音無の言葉は聞こえなかった。
悪乗りに悪乗りをし、おふざけにおふざけを重ねる音無の道化。
教室のみんなも夏川自身も楽しめ、夏川は気分がいいのか浮かれて心ここにあらずになっていた。
「おーい。戻ってこい」
夏川の目の前で手を振るが意識がこちらに戻ってくることはなかった。
「無理やり戻すのはかわいそうだな、ほっとくか」
自分の世界に飛んで行った夏川を無理やり現実の世界に戻させるのは諦め放置することにした。
教室から廊下に出る。未だに教室のは生徒が残り話をしたり、部活動に励んでいる光景が映る。
夕日に照らされる校舎、まぶしさに目をつぶってしま音無。
「まぶしいな」
下を向き夕日の光が入らないようにして廊下を進む。
靴を履きかえて校舎から外に出る、グランドでは元気のいいかけ声が聞こえてくる。
校門から外に出って行く。
帰りの人なのか多くの人が道を歩く。
「来月まで夏川をいじることができないな、と言っても毎日いじってたらネタがなくなるか」
次回の集会の日までに何をして夏川で遊ぶか考えながら帰る音無。
夏川は卒業するまで音無の手のひらで踊ることになるとは不幸である。
「あれ、真っ暗だし誰もいない」
教室に残された夏川は週番の生徒にも、見回りの先生にもその存在を無視され学校に取り残されてしまっていた。