81. 幸福の到来
帰途も聖国エルーンの首都イリスに向かった時と同様に、順調に進んだ。
特に危険な魔物とも遭遇せず、魔術の研究や開発にも手を出さなかったので、魔力切れの心配だけしていればよかった。
……というか、一応早急に対処した方がよさそうな空間魔術での動物と静物の選別をどうするかタツキに相談してみたら、すぐにタツキが「任せといて」と請け負ってくれたんだけど、どうするつもりか気になって手伝おうとしたら「リクは大人しくしてて」とはっきり拒否されてしまったのだ。
タツキにこんな風に遠ざけられるなんて珍しい。
ちょっと吃驚したけれど、言葉の強さとは裏腹にタツキの私を見る目が気遣わし気だったので苦笑するしかなかった。
やっぱりそういう事なのかなぁ。
そうして聖国エルーンの首都イリスを出発して半月後。私たちは無事、アールグラント王国の首都アールレインに帰還した。
ほとんど寄り道をしなかったし、道中も順調だったからあまり他国に行ったという感覚がない。
でもアールレインを出発してから戻るまで1ヶ月経っている。あっという間過ぎて数日しか経過していないように感じるのは、長期的な旅に慣れ過ぎてちょっと感覚が狂っているからかも知れない。
王城に戻ると、結婚式の際に集まっていた各国の王族やその代理人たちは既に帰国していた。勿論、オルテナ帝国のマイス皇太子殿下も帰国している。
神殿へ向けて出発してからこれまで何事もなかったのが信じられないくらいだけど、マイス殿下も私が思うほどフレイラさんに執着していなかったのかも知れない。それならそれで一安心だ。
私たちは城内に入るなり、エントランスに控えていた国王陛下の近衛騎士に案内されて謁見の間へと通された。
そこで陛下やお妃様たち、ノイス殿下に無事帰還した事を報告する。
すると陛下から労いの言葉と共に、今日はこのまま旅の疲れを癒すための休息日にするようにと指示された。
「この後どうする?」
すっかり旅疲れした様子のリッジさんとアーバルさんの背中を見送ってから、私はハルトを振り返った。
「どうするって言われても……今はイリエフォードの領主に戻るのか別の役割が与えられるのか定まってなくて、特にする事もないんだよなぁ」
ハルトはしばし考える様子を見せると、困ったように呟く。
このワーカーホリックめ。
これまでいつでもどこでもすべき事があったからか、急にやる事がなくなると何をしたらいいのかわからないようだ。
「じゃあ、中庭の散歩に付き合って!」
私は半ば強引にハルトの手を引いて、城の中庭に向かった。
王城の中庭は庭師さんが腕によりをかけて育てた楽園のような場所だ。
派手さはないけれど、そこにいるだけで穏やかな時間の流れに包まれているような感覚に陥る。
私たちはしばらく散策してから庭園の中央に設置されている東屋に入り、椅子に座って一息ついた。
「調子は良くなったか?」
開口一番。ハルトからここ最近ですっかり聞き慣れた言葉を投げかけられた。
毎日のように問いかけられるその言葉には最早苦笑しか返せない。
けれど、そう。そろそろ、確証が得られたと言ってもいいだろう。
今一息ついたばかりだけど、私は立ち上がってハルトの手を取った。
「そんなに心配なら、医務室まで付き合ってくれる?」
「え……」
一瞬にして不安そうな顔になるハルトに私は微笑みかけ、小さく首を傾げてみせる。
「私ひとりで行ってもいいけど……」
「いや、行く。行こう。」
何かを決意したような面持ちでハルトは立ち上がった。
これは悪い病気か何かと勘違いしているんだろうなぁ。違うんだけどなぁ。
思わず笑ってしまいそうになりながらも辛うじて堪えて、私はハルトに手を引かれながら医務室に向かった。
さぁ、ハルトはどんな顔をするのかな?
医務室は医師を兼ねた治癒術師とその助手が常駐している。
私たちが到着した時、医務室には他に患者がおらず、私たちが姿を現すなり女性の治癒術師さんも男性の助手さんも慌てた様子で椅子から立ち上がり、ばっと頭を下げた。
そんなに畏まらなくても……。
「ハルト殿下……いえ、ハルト様、リク様。どうかされたのですか?」
いち早く対応してくれたのは治癒術師の女性だった。
心配そうな表情で近寄ってくる。
どう答えたものか悩ましそうな顔でハルトがこちらを振り返って来たので、私は小さく肩を竦め、ちょっと緊張しながら問いかけた。
「あの、確認なんですけど、干渉系魔術にかかってる訳でもないのに魔力が削られる現象に心当たりはありますか?」
「えっ……!?」
私の問いに、心当たりがあったのであろう治癒術師さんと助手さんが、顔を見合わせた。
「そ、それはいつ頃からですか?」
「1ヶ月ほど前からです」
「えぇと、魔力に関わる事で魔術師団ではなく医務室にいらっしゃって、そのような問いかけをなさるという事は、お心当たりがあるという事でしょうか」
「はい。確証がなかったので様子を見ていましたけど、そろそろ確証が得られるのではないかと思ってこちらに来ました」
私と治癒術師さん、助手さんの3人の会話を不思議そうな顔で聞いているハルト。
一方で私は治癒術師さんたちの反応でやっぱりか、という本格的な確証を得た。
「念のため確認しますね」と断りを入れてきた治癒術師さんに手を引かれて椅子に座らされると、何やら魔術をかけられた。この感じは……。
「星視術ですか?」
「えっ……あ、そうでした。リク様は星視術が使えるんですよね。お察しの通りです」
恐らく彼女が使ったのは鑑定と探知だ。
なるほど、そうやって確認する方法もあったのか……思わず感心していると、治癒術師さんは視線を助手さんの方へ向けて頷いた。
そして私の確信を裏付けるように、治癒術師さんたちの表情が明るくなる。
「十中八九、リク様の魔力が減少するのは、異種族婚で御子を授かった際に母体に起こる現象からくるものでしょう。おめでとうございます、ハルト様、リク様!」
「ありがとうございます」
歓声をあげるように告げた治癒術師さんと拍手を送ってくれる助手さんに私がお礼を言うと、「へっ!?」と間抜けな声が横から聞こえて声の主を見上げる。
視線の先では、声に負けず劣らず間の抜けた表情で目を見開いているハルトが立ち尽くしていた。
びっくりしてる、びっくりしてる。
そりゃそうだよね。私だってそうなのかな?と思った時には信じられない気持ちで一杯だった。
何せ私は希少種で、更に異種族婚だ。
この出生率の低さに更に出生率の低さを掛け合わせたような私たちに子供が出来る確率なんて、人族の出生率と比べたら1割にも満たないだろう。
故に、私とハルトの間に子供は望めないものだと思っていた。そう思ったからこそ、婚前に私はあんな話をハルトにしたのだ。
なのに結婚後すぐになんて、予想外すぎる。
しばらく驚いたまま固まっていたハルトが、ゆっくりとこちらに視線を向けて来た。
「ほ、本当に……?」
「まだ実感はないけど、星視術が使える治癒術師さんが言うなら間違いないでしょう。それに私も自分の魔力がどこへ消えて行ってるのか毎日探ってて、実感こそないけど最近やっと確証が持ててきた所なんだ。私の魔力はここに引っ張られて消えて行ってる。だからきっと、間違いないよ」
私が腹部に触れながら告げると、信じられないと言わんばかりの様子だったハルトの顔がみるみるうちに笑顔に変わっていった。
ハルトが感じているのであろう幸福感が、その笑顔から溢れんばかりに伝わってくる。
「本当か……! ありがとう、リク!」
ハルトは私を抱きしめ、耳元で何度も「ありがとう」という言葉を繰り返す。
こうも手放しで喜ばれると、嬉しいのと同時にちょっと照れくさいような気もしてくる。
そんなこちらの様子を微笑ましそうに見ていた治癒術師さんが、ふと思い出したように声をかけてきた。
「そうそう。ハルト様、リク様。大切な事なので予めお伝えしておきますね。まずこれだけ早く判明したのは、偏にリク様が妖鬼だったからです。妖鬼はその特殊な性質から着床までの期間が短く、安定するのも早いのでちょっとやそっとの無茶は何とかなると聞いた事があります……が、今回問題なのは異種族間の御子であるという点です。
異種族で御子を授かった場合、必ず母体の魔力が削られます。その原因は、両親となる種族の相違が大きければ大きいほど母体への負担が増え、母体の生命を維持すべく魔力が絶えず消耗されてしまう点にあります」
へぇ、そういう理由で魔力が削られていたのか……。
確かに、妖鬼が睡眠も食事も不要なのは魔力で生命の維持をしているからだ。
タツキの言を借りるなら魔力は万物の素。
妖鬼に限らず魔力を持つ者ならば全て、その生命の危機の際には治癒魔術の適性や種族特性如何に関係なく、生命を維持すべく魔力が消耗されるという事なのだろう。
「同時に、大変申し上げ難いのですが…御子も通常より無事生まれてくる確率が低いのです。リク様がどれほど魔力を削られているのかまだお聞きしておりませんが、極力リク様のお体に負担をかける事のないよう、ご配慮下さい」
「「えっ……」」
治癒術師さんの言葉に思わず私たちは顔を見合わせた。
何せ私たちは今日、急ピッチで向かった聖国エルーンの神殿から急ピッチで帰国したばかりなのだから。
「と言いましても個人差がありますからね。何もかも駄目、という事ではございません。それに、日頃からハルト様がリク様を溺愛されて大事に扱っていらっしゃる事は皆存じておりますので、我々としてもさほど心配はしておりません。エルーン聖国への旅路に関しましても、リク様や御子に異変もなく無事に戻られているので、特に問題なかったという事でしょう」
何だ、その認識の仕方は……。
治癒術師さんの言い様にちょっと恥ずかしくなる。
溺愛とか、前世の恋愛小説とか漫画とかでしか見た事も聞いた事もないぞ……。
でも確かに、私はハルトから過剰なまでに大切に扱われている。その自覚はある。それが傍から見たら「溺愛」の領域に達しているのだと言う事だろう。
うぅ、嬉しいやら恥ずかしいやら。
いや、嬉しいんだけどさ! なんか、それを人から言われるとやっぱり恥ずかしい。
一方ハルトは問題なかったという言葉に安心したのか、深く長い息を吐くと同時に肩の力を抜いた。
私はハルトの腕の中から解放されて、椅子に座り直す。
「ところでリク様、魔力の消耗具合についてお伺いしたいのですが……。確かリク様の魔力保有量と回復速度は竜並み、でしたよね。ちょっと未知の領域なのでどこまで正確に判断出来るのかわかりませんが、大体どの程度の魔力が消耗されているか感覚でわかりますか?」
この質問への返答はすぐにできる。
何せ毎日のように自分の体内の魔力の流れとその状態や状況を探ってたからね。
「はい。大体ですが、何の対処もせずに半日過ごしていると魔力切れに陥るくらい消耗しています。今は魔石で半日毎に魔力を回復させていますが、半日経過するとまた魔力切れギリギリの所まで減っている感じです」
私の言葉に、治癒術師さんが助手さんを呼んで手元の紙に何やら書き始めた。
「通常、異種族婚で御子を授かった際に魔力切れを起こすのは、母体が魔力保有量の少ない種族である事がほとんどです。しかしリク様の場合、魔力切れを起こす事の方が稀なくらい大量の魔力をお持ちのはず……。仮にですが、平均的な妖鬼の最大魔力保有量を10と仮定しましょう。それに対して現在のリク様の最大魔力保有量はどれくらいになるか、おわかりになりますか?」
「えぇと……? 多分、80から90くらいですかね?」
魔王種としての1次覚醒後に大体魔力保有量が3倍くらいになったかなぁと思って、2次覚醒後は火竜の特性も加わってそれが更に3倍近くなった感覚がある。
能力の数値化は困難なのであまり厳密に考えた事はないけれど、元々魔族は感覚器官が優れている分己の能力をしっかり把握している面がある。
その記憶を頼りに覚醒する前の自分の魔力保有量を思い出すと、今の私の魔力保有量が平均的な妖鬼の魔力保有量の8倍から9倍だという予測は大体合っているはずだ。
「そ、そうですか……。通常、妖鬼や精霊のように日常的に魔力によって生命維持をしている種族は、その魔力保有量に比例して魔力の回復速度も速くなるそうです。そう考えると、現在のリク様の魔力消耗速度が異常である事がわかります。私が思うに恐らく、ハルト様とリク様の種族差はただの人族と魔族という種族差ではなく、神位種と魔王種の種族差という形なのではないでしょうか。故に、リク様の魔力の消耗が激しい」
そう考察を述べながら、治癒術師さんはすらすらと手元の紙の中央に「人族」「魔族」と書き込み、その外側に「神位種」「魔王種」と書き込んで、文字の上に各種族間の開きを線の長さで示した。
神位種と魔王種は両端にあるので、当然のように線が最も長い。
「日頃から活発に活動されているリク様には退屈な事かも知れませんが、無事御子が生まれるまで、魔力を必要とするような活動は自粛して下さい」
「えぇっ!?」
それってつまり、外に出るなって事!?
思わず不満が声に出てしまって、慌てて口を塞ぐ。
しかししっかり聞き咎めていたハルトは、私がどこかに飛び出して行くとでも思っているのか押さえ込むように私の肩を掴み、その手に力を込めてきた。
ちょっ、痛い痛い……!
「ちなみに魔力を回復する為の魔石は足りそうですか?」
「大丈夫です。十分あります」
「そうですか。魔力切れになると必然的に体そのものが生命維持の為に眠りに落ちようとします。そのまま眠り続けて魔力が回復するなら問題ないのですが、リク様の場合は眠りに陥るとそのまま魔力が枯渇して生命維持すら出来なくなる恐れがありますので、魔力の補給は忘れず行って下さいね」
何それ、恐いっ!
今まで補給し忘れて猛烈な睡魔に襲われたりもしたけど、今こうして無事ここにいられるのはギリギリ補給が間に合ってただけで、もしそのまま放置してたら命の危険があったのか。
ゾイとの戦いの最中にうっかり忘れかけたりもしたけど、私は今世こそ寿命まで生きると決めているのだ。絶対魔力補給は忘れないようにしよう!
そんでもってハルト! さっきより肩を掴む手に力が入ってて痛い!
反射的に結界魔術で自らの耐久力を上げようとしたけれど、すぐに我に返る。
今はどんな僅かな魔力でも惜しい時なのだ。こんな事で魔力を消耗するわけにはいかない。
なので、私はハルトの手をバシバシ叩いた。ハルトも自分の手に力が入り過ぎていた事に気付いて慌てて肩から手を放してくれた。
ほんと、冗談抜きで痛かった……ちょっと泣きそう。
しかし、やっぱりハルトは神位種なんだなぁ。
私があんなに痛いと思うほどの握力とか……常人離れしているにも程がある。
神位種は覚醒後にどんどん能力が伸びていく。ハルトも例に漏れず。見た目には全くわからないけれど、ゾイと戦った時よりも力が伸びているのかも知れない。
「もし魔石が不足するようでしたら、早めにお声がけ下さいね。神位種と魔王種の混血例はこれまで恐らく存在しないでしょうから、見守りたい治癒術師や医師が数多くいるはずです。きっと魔石集めにも協力してくれるはずですのでご安心下さい。私もこの報告を治癒術師会と医師会に上げて協力者を募りますので、サポート体勢もこれから充実しますよ!」
治癒術師さんはやや興奮気味の様子でばっと立ち上がると、助手さんにあれこれと指示を出し、助手さんが大急ぎで室外へと去って行った。
それを見送ると「陛下にもご報告しなければ!」と言って、私とハルトを促す。
こうして私たちは治癒術師さんを同伴して、緊急の謁見申し込みを申請して国王陛下とお妃様方に懐妊の報告をする事となった。
陛下たちにこうして何かしら報告しに来るのは本日二度目だ。
懐妊の報告は通常、もう少し様子を見てから報告をする所だけど、神位種と魔王種の混血は異例中の異例なのでサポート体制を一刻も早く整える必要がある……らしい。
無事申請が通って謁見の間に案内されると治癒術師さんにせっつかれてハルトが報告し、陛下やお妃様方が喜びの声をあげた。
それからハルトの後を引き継いだ治癒術師さんがあれこれと異種族間での出産の危険性等を説明し始め、如何にしっかりとしたサポート体制を整える事が重要であるかを懇々と説き、その真剣さに気圧された国王陛下はサポート体制を整える責任者として治癒術師さんを指名した。
この時になって初めて私は、この治癒術師さんの名前を知った。彼女の名前はエイクリーナさんというらしい。
エイクリーナさんは責任者に任命されるなり恭しく拝命の言葉を述べて一礼すると、早々に必要な手配をすべく謁見の間を去って行った。
医務室では落ち着いた雰囲気だったけど、もの凄い行動力だ。国王陛下を前にしても職務を優先して謁見の間から去って行った。
その姿を見て、「リクと同種の人間だな……」とハルトが小さく呟いた。
えっ、どういう意味?
陛下たちへの報告を終えて謁見の間を出ると、すぐさまいつも私の面倒を見てくれているメイドさんたちがわらわらと集まって来た。
どうやら陛下が早々に手配したらしい。
彼女たちはハルトを押しのけるようにして、私が転びそうになっても支えられるようにがっしり両脇を固め、うっかり誰かと衝突しないように私の前後左右を満遍なく取り囲んで来た。
ちょっと、大事にし過ぎていないだろうか……。
「凄いな……」
過保護代表のハルトですらそんな言葉を漏らすくらいの鉄壁の守りだ。
私もそれに同意してメイドさんたちを見回した。
「ちょっとやり過ぎなんじゃ……」
「いいえ! 陛下も仰っておりましたが、リク様に無事ご出産頂きたいという思いは私たち傍仕えも同じなのです!」
「これまで何度となく我が国を守って頂いたご恩に報いたい気持ちも勿論あるのですが……それより何より、私たちは傍仕えとしてこれまでリク様と共に過ごさせて頂いて、私たちの不敬を笑って許して下さり、友人のように接して下さるリク様の事を心より尊敬し、お慕い申し上げているのです」
「ですからどうか、私たちにも何かさせて下さい!」
相変わらずの押しの強さでメイドさんたちが口々に言ってくる。
うぅっ、そんな風に見てくれていたのか……!
男の友情いいなって思ってたけど、女の友情もいいよね!
「ありがとう。これはちょっとやり過ぎな気もするけど、お言葉に甘えちゃおうかな」
「「「お任せ下さいっ!」」」
お、おぅ、気合い十分だね。
キラキラした瞳で請け負うメイドさんたちに、私もハルトも苦笑せざるを得なかった。
ちなみに。お父さんとサラにも報告をしたけれど、反応は薄かった。
私はその理由がわかるからそんなもんだよねと納得出来るんだけど、ハルトは訝しんで反応が薄い理由をお父さんに問いかけた。
問われたお父さんは困惑した様子で、
「本来妖鬼は孫どころか子供の婚姻相手にすら会わずに一生を終える種族だからね。どういう反応をしたらいいのかわからないんだよ」
と、私の予想通りの回答を口にした。
サラもお父さんよりは喜んでくれたけど、どちらかと言えばお父さんの感覚に近いものがあるはずだ。
本来妖鬼は10歳で独り立ちするから、兄弟の伴侶や子供に会うことはない。
どう反応したらいいかわからないのは当然だ。
むしろ私としては、お父さんやサラがハルトとの婚約や結婚をあんな風に喜んでくれた事の方がびっくりだった。
それを知って、ハルトは何とも言えない複雑な表情を浮かべる。
「こんなところにも種族差があるのか……」
私すらも家族の反応が薄い事を当たり前のようにしているのを見て、ハルトは少なからずショックを受けたようだ。
「私もお父さんやお母さんに兄弟がいるのか、おじいちゃんやおばあちゃんは生きてるのか、従兄弟はいるのかどうかも、全く知らないからね。妖鬼基準で考えると本来この年齢まで親兄弟と一緒にいる事自体があり得ない事なんだし、仕方ないよ」
ハルトはまだ感情では納得出来ずにいる様子だったけれど、頭では理解したのだろう。渋々ながら頷いた。
お父さんやサラの反応の薄さに関しては、何とか受け入れたようだ。
きっともっと喜んで貰えると思ったんだろうなぁ。
あんな顔をさせるくらいなら、事前に言っておけば良かったかも。
でも私もすっかり感覚が妖鬼基準になってるから、人族として当たり前の感覚が大分遠のいてて気付きもしなかった。
前世では絶対ハルト寄りの感覚だったはずなのに……と思うと、育った環境や種族による習慣の違いって結構根深いんだなぁ……としみじみ思った。




