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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第1章 それぞれの再スタート
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8.【リク】五歳 魔術行使手段のお勉強

 妹誕生に関わるドタバタと魂還りによるびっくりどっきり事件を経て、私は五歳半になった。

 両親が知る範囲の詠唱をマスターした私は、魔術の次の段階を学び始めた。


 次の段階。それは、魔法陣だ。

 額とか手の甲とかに浮かぶと急に強くなったり別の人格が目覚めそうなあれだ。



 ただ、魔法陣を勉強する前にと前置きをして、母が魔術を行使する手段について教えてくれた。



「魔術を発動させるには三つの方法があるの。まずは、詠唱ね。一番一般的で、基礎と手順がしっかり押さえられている手段よ」

「基礎と手順?」


 私は身を乗り出すようにして話を聞いていた。そのことに満足そうに頷いて、母が続ける。


「そうよ。基礎と手順。魔力を繰る基礎と、正しい順に魔力を変化させることで望む事象を発現させる手順。それが、魔力に呼びかける『起動』、指向性を定める『指定』、威力を含めた詳細を決める『設定』、魔力を乗せて放つ『実行』。それを詠唱では言葉の並びで行っているの。

 この流れを掴んでおかないと、詠唱の短縮とか、詠唱を省いた魔術の行使は不可能だわ。ちなみに詠唱なしで魔術を発動する手段は思念発動と言うのだけど、それについては最後に説明するわね」


 ふむふむ。

 確かに、魔力と適性さえあれば詠唱によって魔術が発動するのはほぼ確定事項だ。詠唱を間違えなければ失敗もない。

 安全で確実とくれば、詠唱が最も普及しているというのも頷ける。


 魔術の基礎と手順についても、これまで詠唱を使って魔術を発動させてきたからか、何となく感覚で掴んでいたので理解できる。


 魔術の発動には魔力を操るという基礎があって、詠唱第一節の「総ての根源たる力」が魔力そのものを示し、「我が声を聴き、応えよ」と呼びかけて『起動』する。

 母は第一節を『起動』と言ったけれど、私の感覚的には第一節で魔力に『接続』するような感覚。


 この第一節が全ての魔術で共通するのは、そもそも魔術を操るために必要な基礎にして最初の手順だからだ。


 そして第二節の「其は〜」と言うのが指向性を決める『指定』にあたる。

 ここで属性や、付与なら対象を『指定』している。


 第三節は指向性が決まった魔術に細かな要素を組み込む箇所だ。

 なるほど、『設定』だ。


 最後にはここまでの手順で造り上げた魔術を放つ『実行』。

 うん、理解できる。


 理解はできるけど、母よ。幼児に教えるにはちと言葉が難しすぎませんかね?

 まぁ私は何とかわかるし、下手なことを言って逆にわかりやすく噛み砕かれすぎても困りそうだから言わないけど。



 でも今の話で気付いたことがある。

 これまで詠唱以外の魔術を教えて貰えなかったのは、呼吸をするようにこの手順が踏めるよう、癖付けさせていたからなのだと。


 これまで何度も詠唱を繰り返してきたお陰で魔術を行使する手順の説明もすんなり頭に入るし、詠唱によって作り出される魔力の流れがいかに円滑に魔術を発動させているのかも理解できる。

 うちの両親の魔術に関する教育方針はなかなか合理的だわ。



「ただ、詠唱は扱いやすいけれど欠点もあるの」


 私が内心であれこれ自分なりに考えていると、母がデメリットについて話し始めた。


「一つ目は、詠唱から何の魔法を使うのかが相手にわかってしまうこと。第一節で魔術を使うことが、第二節で指向性が、第三節でどんな魔法かがわかってしまうわ」


 うん、それはちょっと思ってた。

 何せ詠唱は発動する魔術の全てを語ってしまっている。相手が詠唱をヒントにして、何かしらの対応を取る可能性は無きにしもあらず、だ。


「二つ目は、当然のことながら、声が出せないと使えないということ」


 あっ、これは。


「うん。喉を痛めてうまく声が出せなかった時、詠唱できなくて魔術が使えなかったもんね」

「そうだったわね」


 そう、ちょっと前に風邪らしき症状のせいで声がガサガサになってしまったことがある。その状態で詠唱をすると正確に発音できないせいか、本当に魔術が発動しなかった。

 偶然にも実体験済みだ。


「三つ目は、詠唱を中断してしまって、第一節で『起動』した魔力からの反応がなくなると最初からやり直しになってしまうことよ」


 うんうん、と私は頷く。

 これも、もし途中で詠唱をやめて続きを時間差で使っても魔術が発動するのか気になってこっそり試していた。

 結果、うまくいかなかった。

 体感的な時間だけど、多分中断できるのはほんの数秒だろう。


「そして四つ目は、適性ね。適性がないと例え詠唱ができたとしても発動しなかったり、発動しても威力が格段に落ちるわ。私でいうところの付与魔術。セアやお父さんにとっての攻撃魔術がそうね。適性がなければ、どんなに詠唱がしっかりできても思うような結果が出ないの」


 これも理解できる。私が攻撃系魔術をまともに使えないのは偏に適性の問題なのだから。

 つまり、どんなに努力しても適性がない私では今以上の威力を持った攻撃系魔術を詠唱で行使することはできないのだ。



 しかしそこで救世主が現れる。

 それが魔法陣だ。


「次は魔法陣ね。魔法陣は詠唱の次によく使われる手段になるわ。ちょっと難しい話になるけど、頑張って聞いてね? わからなかったすぐに質問するのよ?」


 そう前置きして、母は語り始める。


「魔術には魔術ごとに理論と発動のための術式が存在するの。魔術の理論っていうのは、どういう仕組みでその事象が引き起こされているのかを明示したもので、詠唱もそれを元に組み立てられているのよ。ただ詠唱は術式を組む代わりに理論に則って魔力を言葉で誘導して魔術を作り上げているけれど、魔法陣は術式を理論に則って図として示したものなの。

 基本形は魔力を循環させやすいように外側を円で囲って、その内側に必要な文字や図を組み込んで、完成させた魔法陣に魔力を流すことで魔術を発動させるのよ」


 ふむふむ。

 魔術ごとに理論と術式があると聞いただけでちょっと頭が痛くなりそうだと思ったけれど、今の説明の感じだと詠唱が理論に則って作られているイコール、詠唱を理解していればある程度理論も理解できていると考えてよさそうだ。


 ただ、術式はまだ未知の存在だ。これから魔法陣を学ぶ上で、術式が一番の難関になりそうな予感。


 私があれこれ考えている間にも、母の話は進んでいく。


「魔法陣のいいところは、魔力を込めることで魔術の適性に関わらず一定の効果が発揮されることね」


 そう言いながら、母は魔法陣の用例を教えてくれた。


「まず一番馴染み深いのが紙に描かれているタイプね。一度発動してしまえば消えてしまうけれど、一番手に入りやすいのはこのタイプよ」


 いわゆる魔術の巻物、ゲームでよく聞くスクロールというやつだ。

 この世界でも魔法陣が描かれていて魔術を発動できる紙を、巻物やスクロールと呼んでいるらしい。


「次によく使われるのが、魔法陣を石盤に描き込んだタイプよ。これは描かれた魔法陣が破損しない限り使えるけど、嵩張る上に重くて持ち運びに向かない道具なの」


 この世界では魔法陣の描かれた石盤のことを魔法碑と呼んでいるようだ。

 魔法碑は町中や貴族の屋敷等で使われているほか、遺跡の中にもたまに置かれているらしい。設置型なのだろう。


「三つ目は魔法装具ね。あまり高度な魔法陣は組み込めないけれど、装飾品や装備品に魔法陣を彫り込んだり、特殊な手法で組み込んだりしているもので、装飾品の場合はタリスマンとも呼ばれているの。ただ相当な技術と知識がないと作れないものだから、ひとつひとつがとんでもなく高価だったり、買わずに手に入れようとすると危険な遺跡に潜り込まないと手に入らないと言われているわ」


 ……と曖昧な情報なのも両親とも魔法装具を見たことがないらしく、その希少性や価値がよくわからないからのようだ。


「ただ、魔法陣にも欠点があるわ。それは、巻物や魔法碑、魔法装具を予め入手しておく必要があるということ。それらは荷物になるということ。魔法陣は正確性が求められるから描くこと自体が難しくて、それに比例して販売価格も高額になりやすいということ。そして最大の欠点は、使用する魔術が高度だったり複雑な魔術式を持っていた場合、魔法陣のサイズが当然大きくなって、描けたとしてもほぼ間違いなく持ち運ぶことが不可能になるという点ね」


 巻物(スクロール)や魔法碑、魔法装具は魔力さえ足りていれば適性に関係なく、誰が使っても一定の効果が発揮されるのが魅力だけど、欠点が結構痛い。


 でも私は魔法陣に強い興味がある。自分で描けるようになれば相当便利になるんじゃなかろうか。

 これは俄然、やる気が出てきた。



「そして最後は詠唱の時にちらっと話した、思念発動という手段よ。これが一番難易度が高いけれど、使えたら最も便利な手段ね。思念発動は、多くても二種類の魔術で使えるようになるのが限界だと言われているわ。私なら風の攻撃魔術と幻術、お父さんなら身体強化の付与魔術と幻術が思念発動できるから、思念発動できる魔術が多い方ね」


 思念発動。

 いわゆる無詠唱、詠唱破棄。これができるとかなり便利というのは言わずもがな。


「思念発動の仕組み自体は詠唱か魔法陣を理解していればそう難しいことはないはずなのだけど、それでも使える人がほとんどいないの。そもそも思念発動というものは、詠唱で現象を作り出す行程や魔法陣が術式をなぞって現象を引き出す行程を、全て自分の頭の中で組み立てて魔術を発動させる方法なの。だから理論上では頭の中で詠唱を思い浮かべるだけでも発動できるはずなんだけど……」


 そうわかっていても、父も母も思念発動は二種類しか使えない、と。

 しかも首を傾げてる様子から、何故思念発動できる魔術とできない魔術があるのかわからないようだ。


 ふむ。

 でも今の話から何かが掴めそう。


 思念発動は、詠唱や魔法陣を使って発動する魔術を自分の頭の中で組み立てて発動させるものらしい。

 母の考えとしては、頭の中で詠唱を思い浮かべるだけでも思念発動は可能なはず……と。



 あぁ、そうか。

 頭の中頭の中って言うから変な風に引っかかったのか。

 これはつまり、頭の中でイメージするってことを言いたいんだろうなぁ。


 そしてイメージに加えて、魔術の基礎である魔力操作も必要になる。

 魔力操作を自力で行う必要がある、というのはまた難題だけど……これは魔力操作をしている時の感覚……『起動(私の中では『接続』)』の時の感覚をを覚えておいて、その感覚を自力で再現すればできないこともないだろう。


 恐らく思念発動とは、イメージ力と感覚のみで魔法を構築する手段なのだと思う。

 まだ確証がないから口には出さないけれど、今度こっそり思念発動を試してみようっと。


「思念発動も使えたら便利だけど、これにも欠点はあるの。ひとつは詠唱と同じく適正によって発動しなかったり、発動しても威力が低かったりすること。そして何より最大の問題は、その難易度よ。さっきも言った通り、思念発動は使い手がほとんどいないわ。それだけ難しい方法ってことね」


 これは後日、思念発動の実験に付き合ってくれたタツキから聞いた話だけど、思念発動のコツは私が考えた通りイメージ力と魔力操作の感覚の再現にあるそうだ。

 けれど、どうも近年は新しい魔術の開発がほぼ行われていないせいか、魔術に関するイメージ力や発想力に乏しい人が多いらしい。実際問題、無理に思念発動を会得しなくても詠唱と魔法陣で何とかなっているから、余計に思念発動が嫌厭されてしまっているようだ。


 故に思念発動を行使できる者はごく少数で、知られているだけでも各魔王と各勇者、そして精霊と、この世界に二人いると言われている賢者たち。知られていないところだと、妖鬼たちが幻術に限り生まれつき思念発動が使えるのだとか。

 私も試しに幻術を詠唱なしで使ってみたら、妖鬼特典なのか半自動的に、当たり前のように発動した。妖鬼が生まれ持っている特性とは言え、簡単すぎて逆に不安を覚えるレベルだ。


 ちなみに。この世界には魔王も勇者も複数人いるらしい。

 魔王が何人かいるって話は聞いたことあるけど……でもまぁ、そっか。魔王が複数人いるのに勇者ひとりじゃバランス悪いもんね。




 ◆ ◇ ◆


 ともあれ、私は魔法陣の勉強を始めた。

 優先度が高いのは攻撃系魔術の魔法陣だ。苦手はきっちりカバーしておきたい。


 そんなわけで私は真っ先に、徹底的に攻撃魔術の理論と術式、魔法陣を頭に叩き込んだ。

 付与は最後でいい。干渉系魔術は問題なく使えるのだから。


 こうして手首を痛めるくらい繰り返し魔法陣を描き、魔術理論と睨めっこする日々が始まった。

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