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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第4章 結婚
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75. 懐かしい人々

 お披露目が終わると、私たちは夜会用の服装に着替えた。

 あの裾持ちが必要になるドレスから、ひとりでも歩ける通常のドレスへ。

 ドレスの色合いと装飾品だけは変わらないけれど、大分動きやすくなった。


 そうして着替えた後、クレイさんに案内されてリッジさんたちが待っている来賓向けの応接室に向かう。

 同行者はハルト、そしてお父さんだ。お父さんは応接室で待って貰っている人たちが、私やタツキ、サラがアルトンでお世話になった人たちだと聞いて、挨拶がしたいと言い出したのだ。

 応接室に向かう途中、すれ違った城務めの人々からも祝福の言葉を貰いながら進んで行く。


 やがてクレイさんがひとつの部屋の前で立ち止まり、一度ハルトに目配せした。

 ハルトが頷いて応じると、一礼してから部屋に向き直り、扉をノックする。


「どうぞ」


 室内にいる人々の中で唯一アールグラント王国に所属しているサラがノックに応じた。

 クレイさんは返答を受けて静かに扉を開き、室内に向かって一礼する。そして「ハルト殿下、リク様、イムサフィート様がいらっしゃいました」と伝えるとこちらに向き直り、私たちを室内へと促した。


 あぁ、何だか緊張してきた……!

 会えるのは嬉しいけれど、久しぶり過ぎて何を話したらいいのかわからない。

 前庭であれだけアピールしてくれていたしアーバルさん夫妻がサラを優しく抱きしめている姿を見たから、嫌われている心配がない事はわかってるんだけど……。


 すぅはぁと深呼吸していると、不意に視線を感じてそちらを見た。すると気遣わしげに私を見ているハルトと目が合う。どうやら緊張しているのがハルトにも伝わってしまったらしい。

 なので大丈夫だと言う意味を込めて頷いて見せると、ハルトはふわりと優しく微笑んだ。

 何だその可愛い笑顔は!

 うぅ、今日はハルトの甘さの威力が強過ぎて、ちょっとやられすぎている気がする……。

 そんなこちらの気持ちなど露知らず、ハルトは私をエスコートしながら歩き出す。私もエスコートされながら歩き、部屋の前に立った。


 顔を上げて正面を真っ直ぐ見る。

 そこには先程遠目に見た、懐かしい顔ぶれが並んでいた。

 応接室の扉に一番近い場所にサラがいて、その奥に席に座らず立っているリッジさん、ララミィさん、アーバルさん、ラセットさん、そしてラセットさんの隣にローシェンくんがいた。


 彼らは私たちの姿を認めるなり、深々と頭を下げる。

 かつて気安く彼らと接していた身としては違和感を覚える光景だけど、今自分の隣にいる人物の立場を考えれば仕方がない事なのだと気付く。

 同時に、臣下でもなくアールグラント王国国民でもないリッジさんたちが取る行動としては、これがハルトに…延いてはアールグラント王国に対して、最大限に敬意を払った行動なのだとわかる。


「みなさん、どうか楽にして下さい。折角の再会なのだから、堅苦しいのは無しにしましょう」


 この場で一番立場が上のハルトがそう告げて、リッジさんたちの頭を上げさせる。

 頭を上げたリッジさんたちは半ば呆然とした顔で、でも優しく穏やかな目で私を見た。そこには嫌悪も蔑みも畏怖もない。私の感知能力で以てしても、そのような感情は感知できない。

 そんな事をひとつひとつ確認していて一歩も動かずにいると、ハルトがそっと背中を押してくれた。

 思わずハルトを見上げれば、笑顔で頷いて視線でリッジさんたちの方へ行くように促される。


 そうだ、何も尻込みする事はないんだ。


 その事を改めて確認し、ハルトの視線の先を追うようにして正面に向き直る。

 私は意を決して懐かしい人々に向かって足を踏み出した。

 僅か数歩。あっという間にリッジさんたちとの距離が詰まる。


「お久しぶりです、リッジさん、ララミィさん、アーバルさん、ラセットさん。ローシェンくんはまだ生まれたばかりだったから覚えてないですよね? みなさん、お元気でしたか?」


 咄嗟にそんな言葉しか出てこなかった。けれど、一番聞きたかったのはこれだ。

 だからこそ自然と零れるように言葉が出て来たし、この言葉をかけると同時に勝手に感じていた壁のようなものが氷解したような気がした。

 それを証明するかのように、目の前の人々の顔に笑顔が宿る。8年前に戻ったかのように錯覚するほど、みんながあの頃と同じ姿勢で私に向き合ってくれているのがわかった。


「お久しぶりです、リクさん。私たちはあれからもずっと、元気に過ごしていましたよ」


 楽にしていいと言われてもやはり王族を前にして緊張しているのか、リッジさん、アーバルさん、ラセットさんはどう話しかけたらいいものか迷っているようだった。

 そんな中、日頃から多種多様な人々を相手にしているララミィさんが私の問いに応えてくれた。


「なら、よかった。あれから色々あって、いつかまたアルトンに行くと言いながらなかなか行く機会がなかったので……みなさんお元気そうでほっとしました」

「リクさんも、お元気そうでよかったです。この度はご結婚、おめでとうございます。リクさんがアールグラントのハルト殿下とご結婚されると聞いて、慌ててアルトンからこちらに向かってきたんですよ。ちょっとギリギリでしたが、間に合ってよかったです」


 ララミィさんのこの言葉に、思わず私とハルト、そしてお父さんは顔を見合わせて苦笑した。

 アールグラントの王族一家に加担していたサラはちょっとだけ居心地悪そうに視線を反らしている。


「その件に関しては申し訳ない。私たちも魔族領からの帰還を理由も告げられず急かされ続けて、大急ぎで戻ったら既に式の日程が決まっていた状態だったので。本来ならリクから招待するように手配すべき所だったのですが……」


 代表してハルトが謝罪すると、ララミィさんは慌てたように「殿下が謝るような事ではございません!」と手と頭を左右に振った。

 その様子を見てハルトは軽く肩を竦めると、


「えぇと、俺もちょっと楽に喋ってもいいかな?」


 私に意見を求めて来る。

 こうも恐縮されていてはまともに話も出来ないと思ったのだろう。なので私も「いいんじゃない?」と軽い口調で返す。

 後ろに控えているお父さんもハルトの心情を察したのか、くすくすと笑っている。

 私はそのお父さんの手を引いてハルトの隣に立たせると、自分はリッジさんの横に立った。


「とりあえず、みんなを紹介するね……って言ってもアルトンを出てからもう8年も経ってるから、正確な紹介は出来ないかも知れないけど。まずは、私の隣から。この大きくて頼りがいがありそうな人が冒険者のリッジさん。リッジさんのパーティは黒牛魔も仕留められるくらい強いんだよ。大物を仕留めた時はご飯を奢って貰ったりしてたんだ」


 紹介しながら懐かしい記憶を掘り起こす。

 するとリッジさんも「懐かしいな」と呟いた。


「そのお隣がリッジさんの奥さんで、アルトンの冒険者ギルドの受付嬢をしているララミィさん。私が冒険者ギルドで登録した時、すごく丁寧にギルドについて教えてくれたの。その後もメインギルドの移管手続きとか、色々と助けて貰ったんだ」


 私がふたりを紹介し終えると、リッジさん、ララミィさんは再度頭を下げる。


「ララミィさんのお隣にいるのが、アルトンで哨戒を中心に街を守護している兵士のアーバルさん。人族領で途方に暮れていた時に助けてくれたのがアーバルさんたち哨戒兵の人たちなの。ギルドまで連れて行ってくれたのも、宿が取れなくて困っていたら家に泊まらせてくれたのもアーバルさんだったんだよ」


 あの時はアーバルさんの優しさが嬉しかったなと思い出しながら、続いてラセットさんを手で示す。


「その更にお隣にいるのがアーバルさんの奥さんのラセットさん。美味しい手料理を沢山食べさせて貰ったの。まだ小さかった私たちを気にかけてよく家に呼んでくれたりして、沢山お世話になったんだ。そしてラセットさんの横にいる子がアーバルさんとラセットさんの息子のローシェンくん。私が最後に見た時はまだまだ乳児だったんだよね。大きくなったね、ローシェンくん」


 アーバルさんやラセットさんもリッジさんたちに倣って頭を下げた。

 ローシェンくんは自分の名前を呼ばれて不思議そうな顔で私を見てきたので、にこりと微笑みかけてみる。すると慌ててラセットさんの後ろに隠れてしまった。

 可愛いなぁ。


 ローシェンくんに癒されつつ、私はハルトの隣に移動する。


「リッジさん、ララミィさん、アーバルさん、ラセットさん、ローシェンくん。今度はこちらを紹介しますね。まず私の隣にいるのがアールグラント王国第一王子であるハルト殿下です。現時点ではまだ王族ですが、今日はノイス王太子殿下の婚姻の儀も行われましたので、新たな家名を陛下から賜ると同時に正式な王族からは抜ける形になります」


 まずはハルトを、続いてお父さんを示す。


「ハルト殿下の隣が私の父親、イムサフィートです。現在、ハルト殿下の相談役としてアールグラント王国に所属しています」


 私の紹介に合わせてハルトは会釈で済ませたけれど、お父さんはすかさず前へと進み出た。

 そして迷わずアーバルさんの手をがっしりと握る。


「あなた方がアーバルさん、ラセットさんですね。リッジさんとララミィさんの事も、娘たちから聞いております。娘たちを色々と気にかけてくれて、親身になって接してくれたそうですね。娘たちがお世話になりました。ありがとうございます!」


 がばっと90度の最敬礼をしたお父さんに、アーバルさんたちは慌てた。


「いえっ、そんな! リクちゃんやタツキくんはしっかりしてましたし、サラちゃんもよくリクちゃんの言う事を聞いていたので、お世話ってお世話はしてないんです!」

「そうですよ。むしろリクちゃんはうちの旦那の命の恩人なんです。それに3人ともみんな可愛くていい子で、私たち夫婦にとって……失礼ながら、本当の子供のように思えて、幸せな時間を過ごさせて頂きました。こちらこそ、お礼を言いたいくらいです」


 アーバルさん、ラセットさんの順でそう口にすると、お父さんは頭を上げて嬉しそうに微笑んだ。

 駄目だお父さん、その天使の微笑みを人妻に見せてはいけない。

 案の定、正面から見てしまったラセットさんと間近から見てしまったララミィさんの目が釘付けになってしまっている。


「あっ、あぁ、そうそう! その事とは別にもうひとつ、イムサフィート様にお礼を言いたい事があったんです!」


 そんな奥さんの様子に慌てたアーバルさんが割って入るように声を上げた。

 全く現在どういう状況なのか気付いていないお父さんは天使の微笑みを収めて、首を傾げながらアーバルさんの方へと向き直る。

 アーバルさんは気を取り直すように小さく咳払いすると、お父さんに掴まれたままの手を握り返した。


「よく無事生きていて下さいました、イムサフィート様。8年前にアルトンの外で私たちがリクちゃんたちを見つけた時、リクちゃんたちは泣いていたんです。詳しい事情は聞いていませんでしたが、両親を失ったと言って、オルテナ帝国でも特に危険な区域の真ん中で泣いていたんです」


 アーバルさんは見たことがないくらい真剣な顔で、お父さんを真っ直ぐ見据える。


「リクちゃんたちはしっかりしてるからつい忘れがちでしたが……でも初めて会った時は両親を亡くして泣いていた子たちなんだっていうのがどうしても、私は忘れられなくて。だからイムサフィート様が生きているとハルト殿下が知らせを下さった時、その事を知って心の底から喜んだんです。私だけではなく、アルトンでリクちゃんたちと関わった全ての人が、です。喜ぶと同時に感謝しました。よく無事生きていて下さったと」


 そう言いながらアーバルさんは、今度はハルトに視線を向けた。


「そしてハルト殿下。あの時、リクちゃんの許に知らせを出して下さって、本当にありがとうございます。私たちはあのままリクちゃんたちがアルトンにいてくれたら、それはそれで嬉しかったと思います。けれど、こうして幸せそうにしているリクちゃんとサラちゃんを見たら……」


 アーバルさんが言葉に詰まる。

 その目には涙。よく見れば、ラセットさんやララミィさんも涙ぐんでいる。

 私やサラもアーバルさんの話を聞いて、それほどまでにアルトンの人たちが私たちの事を気にかけてくれていたのだと知って、ちょっと目が潤んでいた。


「幸せそうにしているリクちゃんと、サラちゃんと見たら……あの時、送り出して良かったなって、思いました。ですから殿下。どうか、リクちゃんを幸せにしてあげて下さい! こんな事言うのは不敬かも知れませんが、私たちにとってリクちゃんもタツキくんもサラちゃんも、大切な、特別な子たちなんです!」


 そう言ってがばっと頭を下げるアーバルさんに続くように、ラセットさん、リッジさん、ララミィさんまでもが頭を下げる。

 私は……嬉しさの余り喉が詰まって言葉が出ない。気付いたら目から涙がぽろぽろと溢れてしまっていた。

 申し訳ないけど、お父さんとハルトのやり取りは最早旧知の仲で互いをよく知っているからか「男の友情いいなぁ」くらいの感覚で見ていられたけれど、アーバルさんの言葉は胸に迫ってくるようだった。その言葉から、そこに秘められている温かさと優しさが伝わって来るような。


「頭をあげてください。みなさんの気持ちは良くわかりました。ただ、無礼を承知の上でひとつだけ言わせて下さい。誰に言われずとも俺はリクを幸せにするつもりでいますから、ご心配なく」


 ハルトはアーバルさんに答えながら、私の目元の涙をそっと指で拭ってくれた。

 これでは折角メイドさんたちが施してくれた化粧が落ちてしまう。それはわかっているんだけど、涙が止まらなかった。

 ていうかお父さん、何でお父さんまで泣いてるの。

 ハルトもその事に気付いて苦笑うと、そっと私の肩に手を置く。


「どうもリクの保護者たちはリクが大事で大事で仕方がないようですけど、俺はこの世界で一番、誰よりもリクを大事に思っている自信がありますよ。どうしたら信じて貰えますか?」


 困ったような表情での問いかけ。しかし。


「みんな、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。だってハルト殿下、本当に本当に、お姉ちゃんの事が大好きだもの」


 くすくすと笑いながら、サラが割って入った。

 「そうですよね?」とサラに問われて、ハルトはちょっと照れたような様子を見せながらも頷く。

 そんなやり取りを見て、私は居心地が悪くなって視線を床の上で彷徨わせる。あまりにもストレートなサラの言葉に、急激に恥ずかしくなって来た。


「お姉ちゃん好きでは負け無しの私よりもお姉ちゃんの事が大好きで、大事にしてくれてるんだよ。それにね、タツキもね。ハルト殿下が傍にいるなら大丈夫だって安心してお姉ちゃんの傍を離れられるんだよ。今も安心してるから、タツキはここにいないんじゃないかな」


 いや、今タツキにはフレイラさんの護衛をして貰ってるんだけどね……。

 それは口に出せないから黙っておく。


 でも、そうか。

 ちょっと忘れがちだけどタツキは私の守護精霊だから、基本的には守護対象である私と行動を共にするものなんだよね。実際アルトンに行ってからはずっと一緒にいたし。

 アルトンに行く前までは、お父さんやお母さんが傍にいたから安心して調べものをしに行けてたって事なのかも。

 そう考えると、タツキはハルトを私の両親と同等か、それ以上に信頼しているのかも知れない。

 何せハルトに呼ばれてアールグラントに来て、その後イリエフォードに腰を落ち着けたら間もなく調べものをすべく私から離れて行動するようになったからね。


「だから大丈夫!」


 だめ押しのようにサラが力強く訴えると、アーバルさんたちのみならずお父さんまでもが「サラがそこまで言うなら……」と納得した。

 うん。こういうの、アルトンでもあったよね。

 私がどんなに主張しても笑い飛ばしていたのに、何故かサラが言うと素直に受け取られるの。

 サラの言葉には何かそういう、人を納得させる力があるのだろうか。



 その後は時間が差し迫ってしまったので、後日ゆっくり話をする事にした。

 と言っても明後日には神殿に向かわなきゃいけないと話したら、リッジさんが真剣な面持ちで「リクを利用するようで申し訳ないが、是非アールグラントの王家の方とこちらにいるオルテナ帝国の勇者様、フレイラ=ソーヴィス様にお話したい事がある」と言われたので、神殿への道中にはリッジさんとアーバルさんにも同行して貰う事になった。


 今回アールグラントに来た面々は、アルトンの領主様のご厚意で暫くアールグラントに滞在出来るそうだ。なので私たちが不在の間、ララミィさんやラセットさん、ローシェンくんはサラと共に過ごして貰う事になった。

 聞けばサラは城内の魔術師団用宿舎で寝起きしているらしい。そして今回アルトンから来てくれたリッジさんたちに関しては、陛下から手厚くもてなすように言われているらしく、クレイさんが王城内にある客室を用意してくれた。

 リッジさんたちは大慌てで辞退しようとしたけれど、サラとお父さんが結託して最適な客室をクレイさんに指定して、クレイさんどころかハルトまでもが「そこならサラと部屋が近いしイムも同列の客室が使えるな。」と同意して半ば強引に部屋を決められてしまっていた。

 呆然と立ち尽くすリッジさんたちの肩を、私は憐れむようにぽんと叩いた。

 諦めたまえ。ここはアールグラント。その中枢たる王族の住まう場所。

 アールグラント王家とその家臣は手強いぞ。



 ひとまずリッジさんたちに関してはサラとクレイさんに任せて、私たちは夜会に向かう……前に、一旦私は化粧を直してもらう。

 アーバルさんの言葉が心に染みて、泣き過ぎたからだ。


「僕がハルトにリクを託した時には泣かなかったのに、何だか悔しいなぁ」


 化粧を直し終えて夜会会場へ向かって歩いていると、一緒に行動していたお父さんががっかりしたようなため息をついた。

 だってねぇ…。


「アーバルさんとラセットさんは私にとって第2のお父さんとお母さんみたいなものだし、それに、あんな風に想って貰えてたなんて考えてもみなかったから……」


 私の言葉に同意して、ハルトがうんうんと頷く。


「まぁ、あんな風に言われたらぐっとくるよな。イムはほら、俺の事知ってるからアーバルさんたちほど心配してなかっただろ?」

「そうだけどさ。でもほっとしたよ。離れていた間もリクたちは素晴らしい人たちに囲まれて、安心して過ごしていたんだってわかってよかった」


 と、お父さんは不満そうな表情から一変、例によって嬉しそうな天使の微笑みを浮かべる。それから会場が近くなったからと、別行動を取るべく去って行った。

 私がその背中を何とも言えない気分で見送っていると、


「……なぁ、リク」


 ぽつりとハルトが呟いた。


「何でしょう」

「どうしてお前の父親はあぁなんだろうな?」

「それは、天然タラシの事を言ってるのでしょうか」

「娘から見てもそう見えるのか……」


 こくりと頷くと、ハルトは苦々しい表情になる。


「イリエフォードでもそうだったけど、アールレインでもあれにやられてしまう城内勤務の女性が沢山いるんだよな。リクたちには悪いけど、早いところ後妻でも取って貰った方が城内も安定すると思うんだ……」


 それはそれは、父がご迷惑をおかけしまして。

 そうは思うものの、お父さんに後妻と言うのはちょっとまだ抵抗がある。もしお父さんがそれを望むなら後押しするつもりではいるんだけど……お父さんとしてはどうなんだろうか。

 今度聞いてみようかな。

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