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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第3章 魔王討伐
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68. 乱入者たち

 迫り来る黒い神官服たちの姿に戦慄する。

 咄嗟に身構えたものの、私だけで対処できるはずがない。

 しかし今上空で戦っている面々に声をかけるのは憚られた。

 集中を乱してしまう訳には行かない。


 やるしかないか……!


 私は手のひらを黒い神官服たちに向けた。

 そこから魔力操作で古代魔術の術式を紡ぎ出す。

 術式は次々と輪を成し、重なり合って巨大な魔法陣を形成した。

 とりあえず今ここに来られても困るから、古代魔術の結界の中に隔離してしまおうと考えたのだ。


 組み上がった魔法陣が立体的な形状を成す。

 それに気付いた黒い神官服たちが少し離れた場所で足を止めた。

 まだ距離はあるけれど、私の視力なら十分に顔が認識出来る距離だ。


 一人は以前センザ手前の森の中で遭遇した、治癒術師らしき女性。

 もう一人は、同じくセンザ手前の森で見た魔獣使いの白神種の少年。

 そして、もう一人は。

 関所に火を放った、強力な干渉系魔術を使用する可能性が高い白神種の青年……!


 一瞬過去視の際に感じた感覚が蘇る。

 逃げなきゃ、と考えかけて、すぐに歯を食いしばって踏みとどまる。

 あれは干渉される事を本能的に察知して、回避しようと思ったが故の感覚だったのだと、今ならわかる。

 そうとわかれば、対策の取りようもある。怖がる必要はない。


「隔離せよ!」

「破壊せよ」


 私が古代魔術を発動すると、それにに被せるように青年が魔力を放った。

 途端、彼らを包み込もうと展開されかけていた古代魔術の魔法陣が、糸を解くように崩れていく。


 嘘でしょ!?


 あまりの出来事に一瞬思考が停止しかけたけれど、そんな隙を見せるわけにはいかない。


「……あなたたちは、誰?」


 どうしよう、どうすればいいだろう。

 そんな事をぐるぐると考えながらも、先ずは問いかけてみる事にした。

 答えてくれればラッキー、答えてくれなくても想定内。


 答えは期待せず、向こうが仕掛けて来たらすぐ対処出来るように身構えていると、


「……俺たちは破壊と再生の神、リーセラ=リドフェル様に仕える使徒」


 予想外にも、青年があっさりと正体を口にした。

 その青年が驚きの感情を抱いている事を微かに感知する。

 もの凄くじっとこっちを見てくるんだけど、もしかして関所で過去視をしていたのが私だって事に気付かれたとか……? だとしたら恐いんだけど!


「もしかして──姉さん?」

「は?」


 青年の言葉に、私のみならず魔獣使いの少年や治癒術師らしき女性までもが青年に注目した。

 妙な沈黙が降りる。

 しかし気にした風もなく、青年はかくりと首を傾げた。


「あぁ、顔がそっくりなだけかな?」


 いやいや、あなたの顔をどんなに見ても、私との共通点が見出せないよ!?

 何で姉だと思ったのか。

 しかしこの会話のテンポ、何だか懐かしいような……。


「イザヨイ。知ってるのか?」

「うん……いや、似てるだけかも」


 この世界で日本人顔な人は、フィオの言が正しければ魂還りの転生者に限定されるんだけど…。

 にも関わらず、彼の言う「姉さん」に似ていると言われると、何だか気になってしまう。


『転生者』


 不意に、上空から声が降って来た。

 見上げればちょうどタツキが降下してきた所だった。


 同時に、タツキの言葉──日本語で発せられた言葉に、青年と少年が反応する。

 驚愕に目を見開いて、じっとタツキを見た。

 それから私の方にも視線を向け直し、改めてタツキに視線を戻す。


「そっくり……」

「だな」


 青年、少年の順に呟く。


《リク、ちょっと不利かも知れないよ》

《うん。制御して威力は落としてたけど、古代魔術の結界も無効化されちゃったし》

《え、嘘でしょ!?》


 こちらはこちらで念話でやり取りしていると、ひとり取り残されている治癒術師らしき女性がおろおろとしながら仲間2人を交互に見ていた。


「イザヨイ、シスイ、どうしたの? マスターから彼らには関わるなって言われてるんだから、接触するのはまずいよ……」


 どうやらここまでの会話の流れだと青年の名前がイザヨイで、少年の名前がシスイのようだ。


 十六夜、止水。


 その名の響きは、明らかに日本語からの引用だ。


 まさかと言う気持ちを抱きながら、イザヨイとシスイを注視する。

 当のイザヨイとシスイは、魔術師らしき女性の問いに顔を見合わせていた。


「ちょっと予想外の展開になってきたんだ。リムエッタ、少しだけ待ってくれないか」


 シスイが魔術師らしき女性リムエッタにそう告げると、リムエッタは困惑の表情を深めながらも一歩下がった。

 それを確認すると、シスイはこちらに警戒の視線を向けつつ、改めてイザヨイに問いかける。


「で、イザヨイはどうしてあの魔王種を姉だと思ったんだ?」

「……転生者。なるほど、なるほどね。だったら本当に姉さんかも。魔王種のお姉さん、真名を聞いてもいいかな?」


 今度は私とタツキが顔を見合わせる番だった。

 いや、そんなの急に聞かれてもね……。

 しかも今は上空でハルトとフレイラさんが魔王ゾイ=エンと戦闘中で、それどころじゃないんだけど。


 でももし本当にイザヨイが転生者で私の弟なのだとしたら、それはもう前世の弟の睦月(むつき)しか思い当たらない。

 思い当たらないけれど、イザヨイの顔はどう見ても前世の弟である睦月とは似ても似つかない。何せ睦月は私に負けず劣らず、大衆の中に埋もれてしまうような素朴な顔立ちだったのだ。

 今目の前にいる青年は、表情こそぼんやりしているものの、整った顔立ちをしている。

 まぁ見た目に関しては、魂還りじゃないから違うと言う可能性もあるけれど……。


 あぁ、もうっ、頭の中でごちゃごちゃ考えてても仕方がない!


「名を知りたかったら、そちらからどうぞ?」


 ここは竜族式に、対話がしたかったら先に名乗れパターンを採用する。

 すると、


「俺の真名……前世の名前は、瀬田(せた) 睦月(むつき)

「ちょっ……!」


 あっさり答えたイザヨイに、シスイが慌てる。

 しかし私はシスイ以上に慌てた。


 う、嘘でしょ?

 まさか本当に、前世の弟の睦月!?

 それも、恐らく敵であろう黒い神官服──リドフェル教に、前世の弟が所属してるなんて!


 いや、でも、もしかしたら同姓同名なだけかも知れないし。

 いやいや、でもでも、さっき魂還りで前世と同じ顔をしている私を見て姉さんって呼んでたか!

 妹の理緒(りお)は私の事を「お姉ちゃん」って呼んでたけど、睦月は私の事を「姉さん」と呼んでいた。

 その点と、この少しテンポがズレた感じの話し口調が一致している。

 イザヨイが睦月だと言われたら、何となく納得出来てしまう。


 私とタツキはお互いに目配せし合いながら変な汗を浮かべ始めた。

 これは、一体どうしたら……!


「それで? こっちは名乗ったけど」


 淡々と、イザヨイが話しかけてくる。

 私はイザヨイの声に慌ててそちらに向き直った。

 じっと見つめてくるその目と目が合う。

 その目に、小さな期待が込められているような気がした。


 もう一度タツキに視線を向ける。

 その視線を受けてタツキが小さく頷いた。

 私も頷きを返して、決断する。


『お察しの通りだよ、睦月。私は……私の前世の名前は瀬田(せた) 理玖りく。それと、こっちはタツキ。瀬田(せた) 龍生(たつき)。睦月は知らないだろうけど、私の双子の弟』


 日本語で名乗りつつタツキについても告げると、睦月は一瞬目を見開いた。

 しかし改めて私とタツキの顔を交互に見て、ひとつ頷く。


「やっぱりそうか……しかも、“白の遣い”は兄さんだったのか。うん、わかった」


 何やら一人納得顔になり、睦月は踵を返す。


「イザヨイ?」


 シスイが睦月に声をかけると、睦月は去ろうとする足を止め、視線だけをシスイに向ける。


「帰ろう、シスイ、リムエッタ。もうゾイは放置でいい」

「はぁ!?」「えぇっ!?」


 あっさりとした睦月の言葉にシスイもリムエッタも驚きの声を上げる。


「折角の素材(・・)なのに、みすみす手放すのか!?」


 シスイがずいっと睦月に詰め寄る。


「マスターは姉さんたちに手出しせずにやり過ごすようにと言っていた。確かにゾイは()のひとつだけど、今ゾイを手助けしようとすると姉さんたちとも戦わなければいけなくなりそうだ。それではマスターの言葉に反する。だから、ゾイの事は諦める」


 素材? 駒?

 どうにもひっかかる単語を混ぜた会話を交わすシスイと睦月。

 やや険悪な雰囲気が2人の間に立ち込め始め、リムエッタが忙しなく2人の間で視線を彷徨わせる。


《どうする? リク。このまま行かせるの?》


 タツキに念話で問われて、返答に詰まる。

 目の前では険悪な空気を漂わせている白神種が2名。

 途轍もない脅威だと思っていた、恐らく敵であろう人物たち。

 けれど、その内のひとりは前世の弟……。

 頭を抱えたくなる。


《どうやら向こうは私たちに手を出すつもりはないみたいだし、今は見送るしかない気がする……》


 何とか答えを絞り出すと、タツキがふぅ、と小さくため息をついた。

 同時に空を仰ぐように視線を上に向け……「あっ」と声をあげた。

 タツキが声をあげるのとほぼ同じタイミングで、私の感知能力が強烈な気配を察知する。


「やばっ……。リク、どこかに隠れよう」

「え? 何?」


 ぐいぐいと手を引くタツキに怪訝な視線を向けていると、ほどなくして「あーはっはぁ!」と、大きな笑い声が空気を震わせた。

 あまりの大声に、思わず視線をそちらに向ける。隣でタツキが頭を抱えたのがわかった。

 険悪な雰囲気を醸し出していた睦月とシスイ、困り果てていたリムエッタも私と同じく声の主に視線を向けている。


 4人からの注目と、一人のうんざりした深い深いため息の先。

 そこには、身長2メートルはある有翼系統の魔族……華奢な体格で美しい翼を持つ翼人とは異なり、大柄な体格で禍々しい翼を持つ翼魔人の男が立っていた。

 朝焼け色の鮮やかな髪をなびかせ、真夜中の空のような黒に近い深い紺色の翼を大仰に広げている。


 そして、その瞳の色。

 思わず目を疑いたくなった。

 紫色だ。

 私が知っている、私以外の紫目の魔王種は一人しかいない。


「無敵の魔王! ルウ=アロメス参上っ!」

「あぁ……」


 豪快に仰け反って笑い声をあげている翼魔人こと魔王ルウ=アロメスの名乗りに、隣にいるタツキが絶望を滲ませた声を漏らした。


「よぉ、久しぶりだなぁ、タツキ! 何だよ、俺様とは遊んでくれないのに、ゾイとは遊ぶのか? ずるくないか? もっと俺様とも遊ぼうぜ!」

「嫌だよ、この戦闘狂! 自分が負けないのわかってる癖に、勝負する意味がわからない」


 活力に満ちた顔つきの魔王ルウ=アロメスは片手を挙げて、気心の知れた友人に声をかけるかのような口調でタツキに話しかける。

 しかしタツキは心底嫌そうな顔をしながらも私の前に立ち、ルウに向かって追い払うように手を振った。


「何だよ、つれないなぁ。でも俺様、もっと面白そうな奴らがいるのもちゃんと知ってるんだぜ。なぁ? そこの黒服たち。ちょっと俺様と遊ぼうぜ……!」


 問答無用。

 タツキに執着しているのかと思いきや、あっさり鞍替えして魔王ルウ=アロメスは睦月たちの方へと走り出した。

 この魔王も動きが速い!


 一方睦月たちは迫り来るルウに対して、すぐさま精霊を召喚。

 睦月の隣には炎の人型精霊、シスイの隣には水の人型精霊が姿を現す。

 リムエッタはどうやら精霊と契約していないようで、精霊を召喚する代わりに杖を構えて魔力を集める。

 そして、思念発動で錐型に成形した無数の石をルウに向けて放った。

 あれではさすがの魔王ルウもひとたまりもないだろう。

 というか、やっぱりあのリムエッタって子もただ者じゃなかった!


 しかし。

 ルウは向かってくる石の錐を気にする事なく直進し続ける。

 このままだとルウは穴だらけになってしまうだろう。

 そんなスプラッタ、さすがに見たくないっ!


 思わず目を閉じそうになった時。


「リク、良く見てた方がいい」


 タツキが真剣な声を向けて来た。

 えぇー、スプラッタを良く見ろって……ちょっとないわぁ。

 そう思いながらもタツキが無意味にそんな事を言うはずもないかと考え直し、視線をルウに向け──


 あぁ、なるほど。

 納得した。


 ルウに向かって行った石の錐はひとつ残らず、ルウにぶつかる直前で魔力へと還元されて蒼い光となって散っていった。

 恐らくあれが、紫目の魔王ルウ=アロメスが持つ特殊能力なのだろう。


 魔術無効。


 リムエッタが「嘘っ!?」と驚愕の声をあげる。

 睦月やシスイも先程までの余裕を消して、身構える。

 睦月の隙のない構えと、戦いに慣れた様子にちょっとだけ悲しい気持ちになった。

 自分もそうだけど、睦月も、もうこの世界の人間なんだなぁ……。


 それがどうして悲しい気持ちを齎すのか。

 考える暇などなかった。


 睦月とシスイが、ルウと衝突する寸前に見失いそうになる程の速度で動いた。

 武器を持たずに向かって来たルウに対して、睦月とシスイも体術で応戦するようだ。

 睦月が最小限の動きでルウの攻撃を躱してその首を狙って手刀を放つ。

 しかしそれは空を薙ぐ。

 ルウの鮮やかな朝焼け色の髪が幾筋か刃物のように鋭い手刀に切断されて、風に流されて行く。

 それに気付いてルウがヒュウッと口笛を吹いた。


「やるな、青年! うはは! 楽しいなぁ!」


 などとルウが暢気に笑っている間にも、シスイが睦月と時間差で手刀を繰り出す。

 ルウは軽く姿勢を変えて回避すると同時に身を低くし、シスイに対して素早く足払いをかけた。

 シスイは一瞬反応が遅れたけれど、その隙に背後から睦月がルウの頭部を狙った中段の回し蹴りを放つ。

 その気配に気付いたルウは頭を一層低くして回避し、そのせいでバランスを崩す。

 ルウがバランスを崩した事で、シスイは軽く一歩引いて足払いから逃れた。


 速い。

 タツキはその様子を苦々しい表情で眺めている。

 あの速度で攻め込まれる上に魔術無効能力を持っていられたら、そりゃタツキにとって魔王ルウ=アロメスは相性が悪い相手だよね。道理でいつもボロボロになって帰って来てたわけだ。


 その事に納得すると同時に、何となく、ルウはただ戦うのが好きなだけで、命を奪おうとか考えていない事にも気がついた。

 一撃一撃は必殺の威力を持っているけれど、相手を見てこれは避けるだろう、これは防ぐだろうと言うのを読みながら戦っている気がする。

 相手が強ければ強いほど全力を出せるから楽しくて仕方がないって顔をしている。

 そう言う意味では、あれだけ気に入られているタツキもルウとは結構いい所まで渡り合えているって事なんだろうなぁ……。


 何だかなぁ。

 いつもタツキを虐め抜いているルウをいつかこてんぱんに伸してやろうと思ってたけど、そんな気持ちもすっかり萎えてしまった。

 魔王ルウは見た目こそ成人男性だけど、中身は無邪気な子供のようだ。

 どことなく、フィオに通じるものを感じる。


 などとひとり得心していると。



「リク! 避けろ!!」


 唐突に、上空からハルトの声が降って来た。

 避けろっていきなり言われても、どっちにどう避ければいいのかわからない。

 状況を確認すべく声の方を見上げると、傷だらけで自らの血を撒き散らしながら、魔王ゾイ=エンがこちらに向かって猛スピードで落下してきていた。

 その目はまるで得物を射程内に収めた肉食獣のように、ギラギラと輝いている。


 今から回避しても間に合わないと判断して、咄嗟に私は右腕でガードする姿勢を取った。

 すぐ横では睦月たちと戦いながらでも余裕があるのか、横合いからちょっかいをかけてくるルウの攻撃をタツキが防いでくれていて、タツキも身動きが取れない様子だった。


 私もタツキも、魔王ゾイ=エンの射程内にいる。

 万事休すか。

 いや、今からでも悪あがきするか……!


 心の中で決断すると、すぐさま得意の幻術を思念発動すべく、イメージを膨らませる。


 しかし、それより先に真っ直ぐ落下してきていたゾイが、横から飛び込んで来た何者かの攻撃によって、真横に弾き飛ばされた。

 もの凄い勢いで飛んで行ったゾイが、唯一残っている巨大な塔の壁に激突する。

 そこで止まるものかと思いきや、塔を破壊し、反対側まで突き抜けて行った。

 その轟音から遅れて、穴の開いた塔がガラガラと足下から崩れ始める。

 最初はゆっくりと。しかしすぐに見えざる巨大な足に踏み潰されるかの如く、一挙に崩壊し、辺りに砂煙を蔓延させた。


 呆然とその様子を見ていると、ゾイを吹き飛ばした人物が少し離れた所に着地する。

 その気配に反応してそちらを見遣れば、睦月がそこに立っていた。


 助けてくれたの……?


 思わずじっと見ていると、視線に気付いて睦月もこちらを見た。

 しかし表情に乏しい前世の弟はすぐにふいっと顔を背けると、魔王ルウ=アロメスと戦っているシスイやリムエッタの方へと戻って行ってしまった。


 ぼんやりとその背中を見送っていると、すぐ近くにハルトとフレイラさんが着地する。

 そして私やタツキに駆け寄ってきた。


「無事だったか!」

「タツキくんも大丈夫!?」


 私と同じくぼんやり睦月を見送っていたタツキはフレイラさんに呼ばれてはっとした表情になる。

 それから視線をハルトとフレイラさんに向けると、真剣な表情でぺこりと頭を下げた。


「急に戦線離脱してごめん」


 そう言いながらも、治癒魔術を使う暇もなく戦っていたのであろう傷だらけのハルトとフレイラさんに治癒魔術をかけた。


「気にするな。それにしても、いつの間にあの黒い神官服たちが来たんだ? 全く気配がなかったから、タツキが降りて行くまで気付かなかったな……」


 ハルトが険しい表情でちらりと睦月たちの方に視線を向ける。

 フレイラさんも頷いていた。


 一方で私とタツキは複雑な表情で顔を見合わせた。

 あそこにいるうちのひとりは前世の弟だと言うべきか、言わざるべきか……。

 考えている事は一緒のようだった。


 が、その答えを出す前に、崩れた塔の方面からガラガラと盛大に瓦礫が崩れる音が響いた。

 反射的に身構える。


 落ち着きつつあった砂煙が、崩れた瓦礫によって再度舞い上がる。

 その砂煙の向こうから、ゆらりとひとつの影が進み出てきた。


 現れたのは砂に塗れて黒い体表を灰色に染めた、満身創痍の魔王ゾイ=エン。

 遠くてもわかるほど、殺意に満ちた強い感情が伝わってくる。


 そして。

 ギラリと、その金色の瞳が怪しい光を放った。

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