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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第3章 魔王討伐
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63. 一目惚れ

 私たちがギルテッド王国に到着した翌日、ハルトはフィオと協力関係を結ぶ上での詳細な取り決め等を話し合うべく、朝から会議室に向かった。

 調査隊としてきた面子の中で交渉事ができるのがハルトしかいないとは言え、負担になっていないか心配だ。



 ランサルさんとのやり取りで知った人族領側の動きに関しては昨日、センと自己紹介し合ったあとにハルトに報告しておいた。

 その際に後続となるセレン共和国やヤシュタート同盟国の調査隊の人員に関して、方針が定まるまで一旦アールグラントに駐留してもらってはどうかという私の考えをハルトに伝えた。ハルトとしては複雑なようで、微妙な反応を返されてしまったけれど。その気持ちもわからなくはない。


 何せアールグラントに駐留させるにも費用がかかるし、食料などの物資も必要になる。かと言って、すでにアールグラントに到着している人員をそのまま返すというのも厳しいだろう。どちらを選んでも各国の協力を取り付けるのは難しい。

 それに、現時点で敵が何者かおおよそ絞り込めたとは言え、何かしらの結果を出さねば派遣された調査隊のメンバーも報われない。同時に派遣したセレン共和国やヤシュタート同盟国の面子が潰れる。

 一方で、仮にこのまま魔族領入りさせて無理に魔王ゾイ=エンや黒い神官服とぶつからせても、そこで人的被害が出てしまっては何のための調査だったのかという話になり、この作戦自体の根底が揺らぐ。


 ……何と言うか、国規模になると色んなことが簡単に運ばなくなってくるんだなぁ。




 そんなわけで色々と複雑な問題を抱えたハルトとフィオの話し合いは長引きそうだ。結果が出るまで待つほかない私は、フレイラさんに念話の心得を説くべく部屋を出る。

 そうだ、フレイラさんに会う前にマナの様子も見に行こう。


 さっそくマナにあてがわれた部屋の前に立ち、扉をノックする。当然返答などないものだと思っていたら、内側から静かに扉が開かれた。

 出迎えてくれたのはフィオと同じ翼魔人の女性だ。彼女はこの城のメイドで、マナの世話をフィオから命じられている。


 メイドさんに挨拶をして室内に通してもらうと、先客がいた。フレイラさんだ。

 フレイラさんもマナに懐かれて嬉しそうにしてたし、マナが眠ったまま目を覚まさないのが心配なんだろうなぁ。


 私はじっとマナの顔を見つめているフレイラさんの隣に立つと、感知能力を全開にしてざっとマナの状態を探る。覚醒直後に比べるとマナの体から溢れ出ていた魔力も落ち着いて、安定してきているのがわかる。

 ちらっとフィオにも金目魔王種の二次覚醒について聞いてみたけど、どうやら金目魔王種も二次覚醒後に何らかの新しい能力を獲得するらしく、マナも例外ではないだろうという話だった。


 金目魔王種の二次覚醒は保有魔力量が跳ね上がり、魔力回復速度も大幅に上がるそうだ。とは言っても竜族には及ばないらしいのだけど。

 そのことから、魔術特化型魔王種ですら魔力量と魔力回復速度が竜族に届かない中、私が竜族並みの魔力量と魔力回復速度を獲得したのは火竜を取り込んだからだろうと推測できる。


 ちなみにフィオは二次覚醒後、目覚めるまでおよそ三ヶ月かかったらしい。そう考えると、近々マナが目覚める可能性も高いのではないだろうか。


「フレイラさん、このあと時間ある?」


 マナの様子に異変がないことを確認すると、私は小声でフレイラさんに問いかけた。


「大丈夫だけど……何か用?」

「念話の心得についてちょっとだけ話が」

「……リクさん、人に教えるの好きよねぇ。わかったわ、昨日の件でしょう? ぜひ聞かせてもらいたいわ」


 フレイラさんはくすくす笑いながら頷くと、先導するように部屋を出た。私もメイドさんにマナを任せて部屋を出る。

 そのままフレイラさんの部屋に向かおうとした、その時。


「よっ、おはよう。リクさん、フレイラさん」


 背後から声をかけられた。振り返るとそこには黒い軍服風の制服を着たセンが立っていた。

 昨日は訓練服だったから赤い髪や目の印象ばかり強かったのに、かっちりした服を着ると妙に様になって格好良く見える。

 また黒チョイスなのがいい。センの纏う赤がよく映える。


「おはよう」

「おはよう、センくん」


 私、フレイラさんの順で応じると、センはニカッと笑った。

 その明け透けで邪気のない様子のせいか、同じ年なのにやんちゃな弟のように思えてしまう。


「なぁなぁ、もし時間があったらちょっと手合わせしてくれないか?」


 センは笑顔でそう言うと私とフレイラさんの手を取った。

 そしてねだるように「一戦だけ、頼む!」と言いながら練兵場へと引っ張って行こうとする。


 私にとって弟と言えば、普段は大人しいくせに突飛なことをして周囲を驚かせるような前世の天然系の弟と、今世でようやくちゃんとした姉弟になれたのにできすぎてて手の焼きようがないしっかり系の弟しかいない。こういうおねだり系弟というのは何だか新鮮だ。

 こういう弟というのも、悪くない。


 同時に、やはり戦闘狂同士、通じるものがある。感覚的に優劣がわかろうとも、私もセンの実力が知りたい。

 そんな私の心情を察知したのだろうか、センは不敵な笑みを浮かべた。きっと私も似たような顔をしてるんだろう。


「ちょっと、リクさん」

「ごめん、フレイラさん。念話の心得講座はまた今度で!」

「えぇ……もう、しょうがないわね」


 私が受ける気でいるとわかって、フレイラさんはため息ひとつ。

 センに促されて、練兵場へと向かった。




 練兵場に行くとルースやウォル、アレアが魔族に混じって武器の調整をしている姿が見えた。端の方ではレネが怪我をした魔族に治癒魔術を掛けている。

 そんな練兵場に私とフレイラさんを引き連れたセンが入っていくと、魔族の兵士たちがわらわらと集まってきた。


「おぉ、セン! なんだ、口説き落としたのか!?」


 白い角を持った鬼人族の青年がセンに声をかける。ちらちらとこちらを見ているのは、同じ鬼人族だからだろうか。

 私も白い角を持つ鬼人族を見るのは初めてで、つい目が行ってしまう。


「一戦だけお願いしてきたから、みんな場所を開けてくれ」


 センがそう告げながら上着を白角鬼人族の兵士に渡すと、白角鬼人族の兵士を含むその場にいた兵士たちは練兵場の壁際まで引いた。

 状況が飲み込めないルースやウォル、アレアも近くにいた兵士に促されて壁際に寄る。


「俺はふたり同時でもいいけど」

「本気でやるならその言葉、後悔すると思うよ? タツキ、結界をお願い」


 私は強気のセンににっこりと笑って見せてからタツキを喚び出す。タツキは精霊石から姿を現すと、くるりと空中を舞ってから着地した。


「リクが本気を出すの?」

「それをセンがお望みなら」


 私がセンに視線を遣ると、センは当然とばかりに頷く。


「本気でやってくれるなら、それに越したことはないな」

「だってさ。よろしくね、タツキ」

「了解」


 私はサラの腕輪に手をかける。

 それを見てタツキはフレイラさんの手を引いて壁際まで下がると、強固な結界を練兵場中央部を覆うように構築した。


「リク! 古代魔術だけはやめてね!」

「了解!」


 タツキの呼びかけに応じると、私は腕輪を外した。途端に辺りが真っ青に見えるほどの魔力が溢れ出す。

 それに気付けた人は一体どれくらいいるだろう。少なくともタツキ、神位種であるフレイラさん、魔術師であるレネ、魔王種であるセンは気付いたはずだ。センの表情から余裕が消えた。


 そうしているあいだにも私は次々と身体強化魔術を自らに施す。相手は赤目の魔王種だ。肉弾戦特化型魔王種が相手なら、思いっきり強化しても大丈夫だろう。

 最後に結界魔術で自らの耐久力を上げ、軽く構えた。

 ちゃんとした武術はイリエフォードで騎士たちに混じって習ったけど、基本は幼少時から培ってきた独学武術。なので構えも適当だ。


「マジか……」


 ぽつりとセンが呟いた。恐らく大した魔力を持っていないからと私を甘く見ていたのだろう。しかしそれはフェイクだった。

 というかセンよ。そもそも私は紫目の魔王種なんですよ。紫目が特殊能力特化型魔王種だってことくらい、センだって知っているはずだ。


 私もほかの紫目の魔王種に遭遇したことはないけれど、タツキをボロボロにするほどの実力を持つ魔王ルウ=アロメスも紫目だという。

 そのことから、紫目はどんな能力を持っているかわからないぶん、警戒すべき相手なのだと言う認識くらいは持っている。


「センは準備万端かな? いくよ!」


 答えを聞く気もなく、先制攻撃を仕掛けた。

 素早く走り寄ると反射的にガードに入ったセンの横をすり抜け、同時にその背中に裏拳で一撃入れてその反動で体の向きを変える。


 想定外の方向から攻撃を受けたセンは仰け反ると、すぐさま体勢を立て直してこちらに向き直った。そのまま身を低くして地を蹴り、地面すれすれを突進してくる。

 足下狙いか。はたまた別の狙いがあるのか。いずれにせよこのまま突っ立っているわけにもいかない。


 私は地面を蹴って上空に逃れた。別の狙いがあるなら、この動作こそが狙いだろう。

 案の定、センは私の真下で立ち止まると素早く直上へと跳躍してきた。身体強化なしで身体強化済みの私の速度と跳躍力についてこれるとは、さすが赤目の魔王種。


 でも私、空中戦は苦手なんだよね。

 このまま空中戦をするつもりはないので、すぐに自分とセンのあいだに固さ重視の結界を構築し、センの一撃を結界で受けた。ガンッと固い音が響く。

 こっそり結界に付与した反射特性によってセンは自らの重い一撃をそのまま跳ね返され、跳躍時以上の速度で落下していく。


 一方私はセンの攻撃を弾いた結界を足場にして着地すると、結界を思い切り蹴ってセンを追撃。

 しかしセンは私が使用した結界の特性をあの一瞬で把握したのだろう。追撃を受けることは予測済みだったようで、地上に到達するなり受け身を取って素早く立ち上がると私の追撃軌道を確認。その軌道から外れるべくバックステップで距離を取った。

 当然、回避行動を取られることは私も予測している。なので空中で、不得手の攻撃魔術を構築する。


 属性は土。相手を殺すのが目的じゃないから丸い石つぶてでいいだろう。

 数は多くなくていい。手のひらサイズのものを五個ほど作り出す。

 そこに重ねるように付与魔術を追加。属性は火と風。五個の石つぶてが炎と渦巻く風を纏う。


 付与が完了すると同時に射出した。推進力は付与した風属性だ。魔術に込めている魔力量が一般の比ではないので、ものすごい勢いで飛んでいく。

 それでも付与した炎は消えない。何せ魔力を燃料にしてるからね。


 センは迫りくる炎を纏った石つぶてから逃れるべく跳躍した。炎の石つぶてが先ほどまでセンがいた地面に着弾して爆音と土煙を上げる。

 そのあいだに私も地面に着地し、センを見上げた。空中に舞い上がったセンは追撃してこない魔術には目もくれず、空中で姿勢を変えるとこちらを睨んできた。


 あれは闘志に火がついた目だね。まだまだやる気満々の様子。実力差がわかっていても諦められない気性のようだ。その意気やよし。

 私も魔王種の血が騒ぐというもの。だんだん楽しくなってきた。


 けれど、敵対しているわけでもないのに戦いを長引かせても無意味だろう。

 センの実力も大体わかった。

 ただ、あの様子じゃいざというとき本当に逃げるという選択肢を取れるのか不安だなぁ。


 そんな私の心配を余所に、センは着地と同時に再度突進を仕掛けてくる。


 私は静かに、手のひらをセンに向けた。その動作だけで私の能力を知るフレイラさんやルース、レネ、ウォル、アレアが息を飲む気配。

 タツキだけは私が分解能力を使う気がないことに気付いているようで、動じていない。


 私は不敵に笑むと、周辺に溢れている自らの魔力に干渉した。干渉を受けた魔力はタツキの結界を越えて練兵場内を覆い尽くすように広がっていく。

 それを確認すると、大きく息を吸って肺に空気を取り入れた。そして取り入れた空気を吐き出すと同時に、思念発動で魔術を放つ。


「光よ、切り裂け!」


 空気中の魔力が反応し、光の刃を象った。

 光の刃は顕現すると同時に標的に向かって走る。


 突進中で回避が遅れたセンは、咄嗟にガードの姿勢を取った。

 しかし光の刃は容赦なく襲いかかり、センの体を真っ二つに──する、幻覚を見せた。


 うん、だって私、古代魔術しかまともにダメージを通せる攻撃魔術は使えないもの。

 でもそんなことを知らないセンやこの場にいる魔族の面々からしたら、私は魔術のエキスパートたる妖鬼だ。どんな魔術を使ってきてもおかしくないと認識しているだろう。

 そこに付け込んで練兵場内を私の魔力で満たし、私の魔力に触れた人全員に幻術を施した。私の魔力に触れるもの、という大雑把な対象指定で。


 見事幻術にかかった証拠に、練兵場にいる兵士たちは手で顔を覆っていた。

 センも切り裂かれていないはずなのに、まるで痛烈な一撃をもらったかのように目を見開いて固まっている。固まったまま、慣性の法則に従って突っ込んできたので回避する。

 そのまま転倒して地面を転がっていったけれど、大したダメージは受けていないだろう。


「えげつない……」


 ぽつりとタツキの声が聞こえてそちらを見れば、すぐ隣にタツキが立っていた。

 あれ?


「タツキ、レジストしなかったの?」

「一体どうするつもりなのか気になったからね。もうちょっと違う方法はなかったの?」

「咄嗟にあれくらいしか思い付かなくて」


 闘志に燃える相手の動きを止めるには、死のイメージを与えた方が効果的かと思いまして。


「まぁ大人しくさせるには効果的だったとは思うけど……。それにしても、やっぱりリクの幻術はリアルすぎるね。幻術だってわかってても本当にセンが真っ二つになったかと思ったよ」

「私自身はそんなリアルに思い描いてないんだけどね」


 そんなやり取りをしているあいだに、壁際に退避していた兵士たちも我に返った。慌ててセンに駆け寄っていく。

 駆け寄った先でセンが五体満足で倒れているのを見て一瞬呆然とするも、すぐに私が妖鬼であることを思い出して安堵からと思われる笑いが起こった。

 妖鬼は魔術のエキスパート。とりわけ幻術が得意です。

 そのことを彼らも思い出したのだ。


 しかしその笑い声も間もなく止み、こちらに畏怖の視線を向けてきた。

 どうやら私がこの場にいた全員に同じ幻覚を同時に見せるという離れ業を行った事実に気付いたようだ。

 その辺はほら、魔王種だから。


「──リク!」


 向けられる視線にたじろいでいると、唐突に名前を呼ばれた。


 その声に思わず耳を疑う。

 久しぶりに聞く声。鈴を転がしたような、綺麗な──


 一瞬遅れて声の方へ振り返った。

 そこには、翼魔人のメイドさんに支えられたマナが立っていた。


「マナ!」


 私がマナへと駆け寄っていくと、こちらに気付いたフレイラさんも駆け寄ってくる。

 マナはまだ覚醒時の恐怖の中にいるのか、まるで幼子のような頼りない、今にも泣き出しそうな表情で両手を伸ばしてきた。私は伸ばされた手を取ってメイドさんからマナを預かると、そっとマナを抱きしめる。


 こうしてマナを抱きしめるのは一体何度目だろう。

 不安に駆られた時や助けを求めようと思った時に、こうして真っ先に頼ってもらえるのは素直に嬉しい。


「マナ、もう大丈夫だよ。マナはちゃんと力を受け止められた。恐いものなんて何もないんだよ」


 よしよしと背中をなでてあげると、マナの背中に生えている翼が震えた。小さくしゃくりあげる声が聞こえる。

 そのまましばらく私にしがみつくようにして泣いていた。



 そうこうしている間に、センがやってきた。

 無事幻術から抜け出せたのだろう。ばつの悪そうな、どこか釈然としない顔でいたものの、泣いているマナを見て少し離れた場所でぴたりと動きを止めた。


「その人……フィオが養女にするって言ってた魔王種の翼人か?」


 泣いている女の子を目の前にしているからか、狼狽えた様子でセンが問いかけてくる。

 その言葉にぴくりとマナが反応した。しゃくりあげる声も止む。


「魔王種の翼人と言ったら今この城にはマナしかいないと思うけど……フィオさん、マナのことを養女にするって言ってるの?」

「ああ。もともと父親代わりのつもりでいたから、その子さえ了承してくれたら養女に迎えるとか言ってたぞ」


 そうセンが口にした瞬間、私の肩口に顔を埋めていたマナが勢いよくセンの方へと振り向いた。

 目にはまだ涙が浮かんでいるけれど、その瞳には強い光が宿っていた。


「フィオが、そんなことを言ってたの? 本当に?」


 マナの声音はいつか聞いたような凛としたものだった。その様子から、どうやらフィオの申し出には否定的なようだ。

 一方、問いかけられたセンは目を見開いて息を詰め──わかりやすいくらい、顔を真っ赤にして硬直した。マナの問いに答えようにも、口を戦慄(わなな)かせるばかりで声が出ない様子だ。


 あぁ、これが一目惚れってやつか。


 見開かれたセンの目が、キラキラしている。まるでこの世ならざる至宝か、はたまた世界にただひとつの宝物でも見つけたかのような、そんな目だ。

 会話もできないのに、その視線はただただマナに釘付けで。


 わかる、わかるよ。マナは美少女だもんね。

 しかもこの芯の通った凛とした佇まいのマナは本当に綺麗なんだよね。姿も、声も、そこから感じられる真っ直ぐな意志も。

 一瞬で恋に落ちてしまうのもわからないでもない。


「……リク、あの人黙り込んじゃったけど、どうしたのかな?」


 しかしマナは全く気付いていない様子。

 澄み切った雰囲気を崩して狼狽え始める。

 マナは鈍感系だもんね……。


「えぇと……顔が真っ赤だから、風邪でもひいたのかな? そうだ、紹介するね。あの人は獣人の魔王種で、センっていうの。彼のことは同僚の人たちに任せて、私たちはフィオさんのところに養女の件について確認しに行こうか」


 完全に硬直してしまっているセンは再起動まで時間がかかりそうだから一旦放っておこう。そうしよう。


 私はマナの背中を押して、フィオのもとへ向かうべく歩き出した。

 すぐにタツキもフレイラさんもあとに続く。


「センくんのあれ、一目惚れって感じよね」

「私もそう思う」


 練兵場から城内に入るなり、フレイラさんがこそっと耳打ちしてくる。私もこそっと小声で返す。

 どうやら見立ては同じらしい。


「あんなにお手本みたいな一目惚れの瞬間を見るのは初めてだわ」


 そう言いながらもフレイラさんの口許は笑みの形を作っている。私もついつい笑みが浮かんでしまう。

 だってなんか微笑ましいんだもの。


 そんな私とフレイラさんの様子を、タツキとマナは不思議そうな顔で眺めていた。

 この鈍感さんたちめ。

 まぁ私も人のことは言えないけどさ。

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