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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第3章 魔王討伐
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55. 水竜の契約

 レスティに腕輪を渡した二日後、『飛竜の翼』のメンバーとマナがモルト砦に到着した。

 門まで迎えに出ると、到着した面々がほっとした表情を浮かべた。


「よかった、皆さん無事だったのですね」


 レネが安堵の声を上げ、


「無事に決まってるだろう。何せ勇者様と守護聖様だからな!」


 ルースが豪快に笑う。

 ああ、たった数日行動を共にしてたった数日会わなかっただけなのに、何だか懐かしく感じる。


「リク、怪我とかしてない?」


 マナも小走りで駆け寄ってくると心配そうに聞いてくる。

 いきなり私がいなくなって不安にさせてしまったかもしれないなと思い、安心させるように微笑んだ。


「大丈夫! 遠距離攻撃で片付けられたからね。私は攻撃魔術が使えなくて役に立てそうにもなかったから、夜目が利くのを活かしてこう、目印を打ち込むだけの作業をね……」


 集中力は必要だったけれど、魔物の討伐数としてはゼロだ。攻撃魔術が使えないことをこんなにもどかしく思ったのは久しぶりだ。

 敵の数が増えれば増えるほど個々に撃破するのが難しくなってくるから、範囲攻撃可能な攻撃魔術がどうしても欲しくなる。そう思うとますます古代魔術の制御術式の開発を急いだ方がいい気がする──


「いえいえ、リク様の目印がなかったら手も足も出ませんでしたよ!」


 今回の反省点と今後の課題について考えていると、すかさず門番兵がフォローを入れてくれた。

 ありがとう、ありがとう。


「リク、大活躍だったの?」

「えっ? ど、どうだろう?」

「大活躍でしたとも!」


 マナに問われて返答に詰まるとまたもや門番兵が力説する。

 ありがとう、ありがとう。

 でも何でそんなに全力でフォローを入れてくれるんだろう?

 思わず首を傾げると、察したのか門番兵はさっと敬礼をして声を張り上げた。


「リク様の魔術師団の指揮っぷり、魔術が使えない自分たちは後方からしっかり拝見させて頂いておりました! 気負いすぎず親しみやすいお言葉で、士気が落ちそうなタイミングを見計らった見事な鼓舞! そして明確かつ的確な指示! 自分、魔術師団ではございませんが、リク様のような指揮官の下で戦いたいと思いました!」


 テンションが高すぎる門番兵の力説にちょっと吃驚する。そんな高評価をもらってたのか……。

 でも戦術とかからっきしだから、今回みたいに指揮官を引き受けることは今後ないと思うけどね。


「確かに、リクの指揮官っぷりは高く評価されてたな」


 砦の中からハルトが出てきた。

 門番兵は凍り付いたように敬礼の姿勢から動かなくなる。


「アズレー殿やステル殿、魔術師団団長も、あれが初めての指揮だなんて思えないって言ってたし。兵士たちが戦い続けられるように配慮するのも上手いとか何とか」

「えっ、本当に?」

「ああ、上層部の評価は間違いなく高かったよ。まぁ、俺は集団戦と縁がないから普通の指揮官がどんな感じなのか知らないけど、リクの指示は明確だったし、鼓舞のタイミングもよかったと思う。あの暗闇の中じゃ、どれくらい成果が上がってるかわからなくて不安だったからな」


 やっぱり状況が把握できないとモチベーションの維持も難しかったか。よかった、戦闘中実況中継を入れといて。

 何とか戦線の維持に自分も役立てたらしいことがわかってほっと胸を撫で下ろしていると、砦側から手を叩く音がした。フレイラさんだ。


「ほらほら、こんなところで立ち話してたら門番さんが困っちゃうわよ。今後の行程を調整し直さないといけないし、会議室の使用許可を取ってきたから移動しましょ」


 フレイラさんはてきぱきした物言いで皆を促す。

 私が思うに、気配り上手なフレイラさんも指揮官向きだよね。でも神位種は今回みたいなことでもない限り基本的に単身で戦うことになるんだろうな。


 私もどちらかと言えば集団戦よりも単独か少数の方が向いてる気がする。そもそも妖鬼が家族単位、もしくは単独で生活する種族だから余計に。

 これまでは一緒に行動する人数が少なかったからよかったものの、今回のように共闘する人数が多くなると全体に気を配れなくなりそうで恐い。




 私たちはフレイラさんの案内で会議室へ向かった。


 ちなみにフレイラさんは最後自分だけが体調を崩して倒れたのが悔しかったらしく、ここ数日は練兵場で騎士や兵士を相手に鍛錬していたらしい。

 騎士や兵士たちはフレイラさんに自ら挑んでいったものの、相手が神位種とは言えまるで歯が立たず。その悔しさをバネにフレイラさんに教えを請い、フレイラさんはかなり厳しい指導をしたようだ。

 その厳しい鍛錬について行った騎士や兵士の顔つきが、数日前とまるで違っている。廊下ですれ違った彼らはフレイラさんに対してハルトに対する以上に緊張して、しかし緊張によって固まることなく廊下の端に避けると九十度のお辞儀で私たちを見送っていた。

 やっぱりフレイラさん、練兵とか指揮とか向いてそうだわ……。



 会議室に入るとアズレーさんとステルさん、魔術師団副団長、そしてレスティがいた。


「ハルト殿下、リク様、フレイラ様。先日は多大なるご助力を頂きありがとうございました」


 私たちの姿を認めるなりアズレーさんが定型句を述べて、ステルさんと魔術師団副団長と共に頭を下げる。

 私が戦いに関する詳細を報告をして以降、彼らは王都への報告や報告書の作成、今回の損害の確認などを行っていて会う機会がなかったのだ。


「第五調査隊の皆様、マナ様、モルト砦へようこそ。ここまでの旅でお疲れでしょう。どうぞ(くつろ)いでいって下さい」

「ありがとうございます。しばしお世話になりますが、宜しくお願いします」


 一拍置いて頭を上げたアズレーさんが今度は『飛竜の翼』の面々とマナに笑顔を向けて歓迎の意を表すと、代表してルースがアズレーさんに返礼する。


「出立の時まで、どうぞ自由にこの砦をご活用下さい」


 どうやらアズレーさんやステルさん、魔術師団副団長はここまでの一連の言葉を伝えるためだけにここにいたらしく、そう言い残して会議室を去っていった。

 律儀だなぁ。


「さて、それじゃあ今後について打ち合わせをしよう」


 ハルトの言葉を合図に、一同はそれぞれ席に着く。暗黙の了解で上座にハルトが、その左右に私とフレイラさんが着席する。『飛竜の翼』は下座側だ。

 すると座る場所がわからなくてマナがおろおろしていたので、私が自分の隣の席を勧めて座ってもらった。そしてさりげなさを装って混じっているレスティは、フレイラさんとレネの間に着席する。

 レスティは自分がどれだけ目立つ存在なのかを全く把握していないようだ。隣に座られたフレイラさんとレネがぎょっとしている。


 全員が着席したのを確認すると、ハルトはゆっくりと全員の顔を見回した。


「モルト砦に迫っていた魔物の群れについては、そこにいる水竜のレスティと魔術師団の尽力で掃討することができた」

「水竜!?」


 さらっと状況説明をしたハルトに驚きの声を上げたのはウォルだ。驚愕の表情を浮かべ、この場で唯一知らない顔のレスティに視線を向ける。

 ウォルのような大袈裟な反応こそしなかったものの、ルースやレネ、アレア、マナも室内で異様な存在感を発揮しているレスティに視線を向けている。

 当のレスティは腕を組んで踏ん反り返り、得意満面だ。


 すっかり人族に染まっちゃって……それも、面白い方向に。

 もはやそこに竜の威厳など微塵も感じられない。


「レスティは人族に友好的な竜だから、そう身構えることもない……ってことでいいよな? レスティ」

「いかにも。我は人族に興味がある。この知的好奇心を満たしてくれる限り、人族を守護してやろう」

「……知的好奇心を満たしたあとは守護してくれないの?」


 私が小声で問いかけると、レスティは踏ん反り返ったままだらだらと冷や汗を流し始めた。


「で、ではこうしよう。我が守護する期間を定めようではないか。竜も精霊や魔獣と同じ、契約が可能な種族だ。誰か、我と契約するに値する人物を据えてだな、その契約主が生きている限り守護するというのはどうだろうか」


 竜との契約か……。それを成すには相当な魔力量と召喚魔術の適性が必要になる。

 何せ対象が格上の竜なのだ。喚び出すにも契約を維持するのにも、魔力を大幅に消耗する。


「私に召喚魔術の適正があればなぁ……」


 つい思ったことが口から出てしまう。魔力が減ろうが何だろうが、魔力回復量が多い私なら痛くも痒くもない。

 タツキはどうなんだろう。すでにブライと契約してるけど、竜二体と契約って可能なのかな? でもブライは神竜種だし、さすがに厳しいよね……。


「ふむ、確かにリクでは我と契約することはできないだろう。魔力量は十分だが、妖鬼は召喚魔術への適性が無に等しいからな」


 ですよねー。

 となるとできればアールグラントの人間で、且つ今回の調査に参加していない、魔力の絶対量が多い魔術師に頼むのが最適か。


 うーん……うん、心当たりがある。

 あとはその人物に召喚魔術への適性があるかを確認しつつ、適性があればレスティと契約してもらえるよう説得しよう。


「この砦の魔術師団に何人か魔力量的に竜との契約に耐えられる人がいるから、あとで紹介するね。顔を合わせてみて互いに問題がなければそこで契約してもらって、駄目なら総当たりでいこう」

「了解した」


 よしよし、人の寿命分とは言え竜が守護してくれるなら心強い。

 レスティの件が解決すると、ハルトはテーブルに広げた地図を見るよう促した。


「現状、本来の行程に遅れはない。ただ問題なのは、壊滅した関所だな。そこがちゃんと通り抜けられるのかがわからない。通れない場合は魔術なり何なりで瓦礫を一掃する必要があるが、いずれにしても国境が無人のままなのは治安面を考えるとあまりいい状況ではないだろう」

「それは、魔族領からの侵入を警戒してるの……?」


 ハルトの言に反応して問いを投げたのはマナだ。

 マナは自分たち魔族が警戒されていると思っているのだろうが、実際には違う。

 ハルトもゆっくり首を左右に振った。


「確かに魔族領側からの侵入も警戒してるけど、同時に人族領側から魔族領への侵入も警戒してるんだ。人族領には盗賊や人攫いといった犯罪者がいる。一応アールグラントではそれらの行為を禁止してるけど、申し訳ないことに取り締まり切れていないんだ。そんな人間が魔族領に入ったら魔族にも被害が出るだろう? だから、関所を見張る人間がいないと治安面に問題が出るんだ」

「そう……」


 マナは安心したようにほっと息をついた。ただでさえ慣れない人族領にいてマナも緊張しているだろうし、不安も抱えているのだろう。

 フォルニード村のことも気掛かりだろうし……。気掛かり、だよね。


「ねぇ、ハルト。最速で出発するとしたら、いつくらいに出られそう?」


 フォルニード村に生き残りがいることはマナもレネから聞いて知っているとは思うけど、ならばなおさらその生き残りの村人のことが気掛かりだろう。

 そう思ってできるだけ早めの出発を提案すべく、問いかける。ハルトも顎に手を当てて真剣な表情で地図を見つめた。


「そうだな……物資はルースたちに持ってきてもらってるし、馬車も砦の馬車を借りられるだろう。最短で明日、余裕を見て明後日には出られるんじゃないか?」

「ルースさんたちはその行程でも大丈夫そう?」

「ああ、俺たちは冒険者だからな。多少の強行軍には慣れてるし、ましてや今回は馬車での移動だ。問題ない」


 『飛竜の翼』の面々は頼もしい表情で頷いてくれた。

 それから私はフレイラさんに視線を向ける。フレイラさんは私が問うより先に「大丈夫よ!」と力強く宣言してきた。やっぱりこの前倒れちゃったの、気にしてるんだな……。


 でもルースの言う通り、移動は馬車だ。自分の足で移動するより負担も少ないだろう。


「では、議長。私は最短の日程で出立することを提案します!」

「そうだな、それがいいだろう」


 はいっ! と元気よく挙手して言えば、ハルトも頷いてくれた。


「今回のようなことが続けば、いずれこの砦も破られる日がくるかも知れない。一刻も早く原因そのものを摘み取る必要がある。その原因の正体も大分見え始めてはいるが、まずは当初の予定通りフォルニード村を目指す。この砦からも救援を出すよう手配してるけど、まずは俺たちの目で確認しよう」


 ハルトは地図を示し、その指先をモルト砦から関所、関所からフォルニード村へと移す。


「状況を確認しつつ救援がくるまで村民を警護。救援の人員が到着したら急ぎギルテッド王国に向かう。ギルテッド王国にもフォルニード村の状況を伝えて、救援依頼を出すつもりだ。……ただ、なぁ。」


 ふぅ、とため息を漏らすハルト。

 どうしたんだろう。


「ギルテッド王国の位置は、魔族領中部、西寄りだ。以前徒歩で移動した時、ギルテッド王国からフォルニード村まで戻るのに三ヶ月かかった。馬車を使っても二ヶ月はかかるだろう。往復四ヶ月ともなると、ギルテッド王国の救援が届くのは村の復興が始まったあとになるだろうな……」


 えぇっ! ギルテッド王国ってそんなに遠いの!?

 確かに地図上ではそれくらい離れているし、魔族領で生活していた時、中部から南部に移動するのに結構な日数かかった記憶はあるけど……そんなに遠かったのか。


「そうなると必要な救援が届くまでに時間差が生じる分、その時必要なものが必要とされているタイミングで届かない可能性がある。まぁ、それを今悩んでも仕方がないから、その辺はギルテッド王国に着いてから向こうと相談するとして……」

「実質、壊滅状態のフォルニード村に救援の手を差し伸べられるのはアールグラント王国のみということね。その辺は問題ないの?」


 フレイラさんが難しい顔で地図を睨む。


「大丈夫。アールグラントにはフォルニード村と交易している商人が多いし、フォルニード村との交流も盛んな方だ。それに、いざとなればイム辺りが何とかしてくれると思う」

「お父さんが?」


 急に父親の名前が出て吃驚する。

 どうしてお父さんがどうにかしてくれるという話になるのか、根拠が不明なんだけど……。


「イムも俺と同じように魔王討伐報酬の使い道に困ってたからな。大喜びで復興資金を提供してくれるだろう」

「ああ、なるほど」


 確かに、そんな話を聞いたことがあったっけ。

 ハルトも早く使い道を見つけて使ってしまいたそうにしてるもんね。

 本当に、一体どれだけの報酬が支払われたんだか……。


「じゃあ問題なさそうね。これで安心できた?」


 と、フレイラさんは僅かに表情を輝かせ始めていたマナに問いかける。

 唐突に話しかけられたマナは一瞬吃驚した顔になったけど、すぐにこくこくと頷いた。


「ありがとう。フレイラさん」

「ふふ、どういたしまして」


 お礼を言われたフレイラさんはその猫のような大きな目を細め、心底嬉しそうに微笑んだ。


 いやぁ。いいわぁ、フレイラさん。

 何で私、前世でもっと五十嵐さんと仲良くしてなかったんだろうなぁ。

 ……あぁ、そうだ。私が元気一杯グループを遠巻きにしてたからだ。



 こうして今後の予定が決まった。

 マナも一安心したのか、ここまで気を張っていた分急激に疲れが出たようだ。会議室を出ると少しふらついてたので、私はマナを抱き上げて部屋まで連れていった。

 周囲の反応は面白かったけれど、マナ自身はもう目も開けていられないくらい眠かったらしく、すぐに眠ってしまった。


 ちなみにこのあとフレイラさんから「そういうことするから“騎士様”って言われるのよ」と言われ、一方でアレアからは「さすが『騎士様』! 生でお姫様抱っこする姿が見られるなんて……!」と感激した旨を伝えられた。

 複雑。



 その後私はレスティを引き連れて魔術師団が集まる区画に移動した。そしてお目当ての団員さんを捜す。

 名前は知らないけれど、顔はバッチリ覚えてるから見つけるのにそう時間はかからなかった。


 魔術の訓練場に行くと、訓練に励む団員の中に私がレスティの契約主候補と(もく)する面々が全員揃っていた。


 まずは第一候補から。


「こんにちは」


 私は的に向かって火弾を打ち込んでいた女性に声をかけた。

 振り返ったその女性は少し幼い顔つきをしている。

 ぱちくりと瞬く大きな瞳は榛色でたれ目、髪色は明るい灰色で眉の上で切りそろえた前髪、長い後ろ髪はゆるめの三つ編みでまとめている。身長はそう高くなく、その幼い見た目に似合わぬかっちりとした団服に身を包んでいた。

 ぱっと見、なぜ私がこの子に目を付けたのかわからないであろう容貌をしている。


 しかし同行しているレスティはあからさまに驚きの気配を発していた。

 振り返れば目をまん丸にして、目の前の女性を食い入るように見ている。


「あ、こ、こんにちは、リク様、水竜様」

「訓練の邪魔をしてしまってごめんなさい。お名前を伺ってもいいですか?」


 明らかに見過ぎなレスティの脇腹に重い一撃をお見舞いして視線を別方向に反らさせると、私は何事もなかったかのように女性に名前を聞いた。

 隣でレスティがうずくまってうめいているけど気にしない。


「は、はい! 私はモルト砦魔術師団、攻撃魔術兵のシグリルと申します」

「シグリル。可愛らしい名前ですね」


 にっこり微笑みながら言うと、シグリルがちょっとだけ頬を染めて俯き「ありがとうございます」と呟いた。

 可愛いなぁ。


 って、別に可愛いから目を付けたわけではなくて、ちゃんと根拠があるんだよ!

 彼女こそモルト砦防衛戦の際に朝まで魔力を枯渇することなく戦い続けられた魔術師団団員のひとりなのだ。


 それに私の見立てだと、この魔術師団で最も魔力の絶対量が多いのも彼女だ。レスティとの契約や召喚にどれだけ魔力を必要とするのかわからないけど、この子なら耐えられると思ったのだ。

 問題はそんな優秀な魔術師をひとり、レスティと契約するために戦闘員として使えなくしてしまうことなんだけど……レスティの戦力を思ったら許容される範囲だと思いたい。


「シグリル、あなたにお願いと言うか、聞きたいことがあるのですが」


 とりあえずレスティの契約に関しては、モルト砦魔術師団の団長と交渉済みだ。団長は自分が契約主になりたそうだったけど、モルト砦魔術師団の責任者なので諦めてもらった。

 それに、魔力量という点で適任者は団長よりもシグリルやほかの団員の方に軍配が上がる。


「何でしょうか?」

「実は今、この水竜……レスティの契約主を探しているのです。彼はこの砦とこの国を守護してくれると約束してくれたのですが、守護してもらうために召喚竜としての契約が必要になりまして。召喚竜の契約にはどうしても契約主となる人間が必要なのです。そこで、シグリルに契約主になってもらえたらと思って。私の見立てだとシグリルなら十分素質があるのですが……」


 私はシグリルに契約をするとレスティを召喚したまま維持する必要があり、その間魔力の消耗が続いてしまうこと、その結果、シグリルがこれまでのように魔術が扱えなくなる可能性について話をした。

 召喚魔術への適性については、レスティの様子を見る限り問題なさそうだ。


「了承していただけるのであれば、是非シグリルにレスティと契約を結んで欲しいと思っています。どうでしょう?」

「ど、どうでしょう、と言われましても……私に、本当にそんなことができるのでしょうか?」

「できるのでしょうか?」


 私はレスティを振り返り、シグリルの問いをそのまま丸投げした。

 レスティは脇腹を押さえながら何とか立ち上がり、改めてシグリルをじっと見つめる。


「その娘なら召喚魔術への適正も高いし、魔力量も十分だ。合格点だな」

「……ということなのですが」


 私は改めてシグリルに向き直る。

 シグリルはうーん、うーん、と唸りながら考え込み……。


「わかりました、私でよろしければ、水竜様と契約させて下さい。それでこの砦も、この国も守って頂けるんですよね?」

「任せておけ」


 シグリルに問われたレスティはどんと自らの胸を叩く。

 本当にどこで覚えてきたんだ、そういうの。


 そんなレスティの姿を見て少し緊張が解けたらしく、シグリルは柔らかい微笑みを浮かべた。

 そしてレスティに向けて手を差し伸べる。


「よろしくお願いします、水竜様」

「こちらこそ、よろしく頼む。シグリル」


 レスティがシグリルの手を取る。すると一瞬、繋がれた二人の手から青い光が舞った。

 初めて見る光景だけど、何となくわかる。あれは契約が成立した証なのだろう。


「ではリクよ。我はシグリルに召喚魔術や竜族に関して話があるのでな。ここで失礼する」

「うん。じゃあ、不在の間、この国をよろしくね」

「了解した」


 レスティが片手を上げて何やら待ち構えるポーズになる。あれか、ハイタッチがしたいのか。仕方がないな。

 私は手を挙げてレスティが上げている手にハイタッチした。

 レスティは何やら満足そうに頷くと、シグリルの背中を押して訓練場をあとにした。

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