52. モルト砦防衛戦(前編)
センザを出発してしばらくすると、周囲がすっかり暗くなってしまった。けれど私には魔族補正に加えて魔王種補正もあるので、夜闇の中でも周囲がよく見える。
正直、かつては魔族──しかも妖鬼なんて大変な種族に生まれてしまったと思ったけれど、こういう時は優れた感覚器官を持つ魔族である事を有り難いと思う。
しかし神位種とは言え、人族である後ろの二人は大丈夫だろうか。
「ハルト! フレイラさん! 暗くなったけど周りは見えてる!?」
声を張り上げるとすぐに「何とか見えてる!」「私も大丈夫!」と返答があった。
さすが神位種。普通の人族では夜闇に目が慣れたところでこの速度で走っていたらあまり周囲を認識できないだろうに、ふたりは問題無さそうだ。
ならばこのまま進んでしまおう。
日が落ちてからかなりの距離を進んだ。
遠くから一の鐘の音が聞こえる。この音はセンザの鐘の音だろうか。
ここまで私は一切治癒魔術を使用していないけれど、後ろの二人は時々使用しているようだ。
忘れかけていたけど私、火竜を吸収した時にその特性を獲得してて竜並みの身体能力が備わってるんだっけ。そりゃ体力も底なしだわ。
大型の黒狼も吸収したけれど、黒狼の特性って何だろう? 足の速さなら確実に妖鬼の方が上だから、特に何の特性も獲得できなかったのかもしれないな……。
今度余裕ができたら黒狼の記憶を探って有用な特性が身に付いていないか確認しておこう。
やがて空が白み出し、朝日が昇り始めた。
後ろの二人は眠ってない上に食事も取れてなくて大丈夫かな。かれこれもう鐘三回分くらい──十二時間くらい走り続けている。
距離的にも中間地点付近まできただろうし、そろそろ付与魔術の効果も切れる頃だ。
私は地面を蹴って道の側方に着地する。あの場で急に立ち止まると危ないしね。
私が走るのを急に止めたので、後に続いていた二人も慌てて止まった。
「リク、急に止まってどうしたんだ?」
こちらに駆け寄りながらハルトに問いかけられて、私はじっとその顔を見た。心なしか疲れが見える。続いてきたフレイラさんもちょっとお疲れの様子だ。
治癒魔術は体力や疲労の回復はしてくれるけれど、精神的疲労は回復してくれない。それに、睡眠不要の私やタツキと違ってハルトたちは眠らないと集中力が続かないだろうし、体調も崩すかもしれない。空腹だって大敵だ。
いざモルト砦に辿り着いた時、集中力を欠いて怪我をしたり、体調を崩して動けなかったりしたら大変だ。
「休憩しよう! ふたりは軽く食事を摂って、仮眠して。その間に私は状況の確認をするから」
私が懸念していることが何なのか、二人にも伝わったのだろう。一瞬苦い顔をしたけれど、二人とも頷いて荷物を降ろす。
その間に私は現在位置の確認とモルト砦の様子を見るべく、千里眼を発動した。
現在地は……センザとモルト砦の中間地点を少し越えたくらいの場所だ。
モルト砦は相変わらず慌ただしい。関所方向に向かって見張りを立てつつ、防衛戦をする準備を行っている。
私はさらに魔力を伸ばして魔物の集団がどの辺まできているのかを確認する。
視点を北上させ、やがて黒い塊となって南下している魔物の群れを見つけた。場所はモルト砦から馬車で一日半くらいの距離だろうか。
しかし魔物の群れの進行速度は当然ながら馬車よりも圧倒的に速い。恐らく予測通り、夜には砦に到達するだろう。
魔物の集団の大半を占めているのは絶対数が多い黒狼だ。そのほかに灰狼、赤猪などが混じっている。基本的に足が速く、スタミナのある魔物ばかりだ。
……が、魔物も生き物だ。昨日見た時よりも数が減っている気がする。不眠不休、食事なしで進んでいたらそりゃ脱落もするか……などと思いながら、視点を引き戻そうとした時。
魔物の群れの一部が乱れた。魔物が数匹、脱落する。
するとその周囲にいた魔物が脱落した魔物に襲いかかった。
そして、脱落した魔物に周囲の魔物が喰らいつき……。
その光景を見た瞬間、耐えられずに千里眼を解除した。
「うぅっ……」
転生してからこれまでそれなりに残酷な光景を見てきたつもりだったけど、共食いの光景は衝撃的だった……。
私はあまりのショックにうずくまる。自分たちは魔物を食肉にしてる癖に、同種での共食いは受け付けられない。
いや、でも前世でもあったな。ザリガニを同じ水槽で育ててたら、ある日突然……。
いやいやいや、それはそれで気持ち悪かったし、恐くて即刻ザリガニを川に放しに行ったっけか。
くそぅ、前世の弟め。何故ザリガニなんて釣ってきた。ましてや、何故飼おうなどと考えたんだ。
今頃考えても仕方がない恨み言を内心で呟いて、少し気持ちを立て直す。何とか立ち上がると、食事の支度をしているハルトとフレイラさんを見遣った。
炊事経験がある二人はああでもない、こうでもないと味付けについて言い合いながら作っている。その光景だけ見ていると、平和だなぁなんて思ってしまう。
実際は全く平和な状況じゃないんだけどさ。むしろ砦が陥落するかしないかの瀬戸際で、不穏な状況なんだけどさ。
そう思うとついついため息が漏れてしまう。
ため息をつくのと同時に、くいくいと袖を引かれた。振り返ると心配顔のタツキと目が合った。
「具合悪そうだけど、大丈夫?」
「あぁ、うん。ちょっと、千里眼を使ったら魔物の共食い風景を見ちゃって」
「あぁ……あれは、ちょっとキツいよね」
タツキも見たことがあるのか、思い出してしまったらしく青ざめていた。
だよね、だよね。それが普通の反応だよね。あれはいくら何でも見慣れるはずがない光景なんだよね?
見慣れたいなんて一ミリたりとも思わないけども。
「リクー、タツキー」
ハルトがこちらに声をかけてきた。どうやら食事の用意ができたようだ。
タツキと共にハルトたちの元へと移動する。
やっぱり料理もできるようになった方がいいのかなぁ。
というか、さっきのアレのせいで食欲がちょっと……でも折角用意して貰ったんだし……とぐるぐる考えながらタツキに続いてスープを受け取ろうとしたら、ハルトがぺたりと私の額に手を当てた。じんわりと温かいハルトの体温を感じる。
最近気付いたことだけど、人族と魔族の違いなのか妖鬼だからなのかはわからないけれど、どうも私やお父さん、サラの体温は人族に比べて低いようだ。
だから余計に、人族の体温の高さを敏感に感じる気がする。
「リク、顔色が悪いな。熱はない……というか、むしろ体温低くないか?」
「あー……ちょっと南下してくる魔物の群れの様子を見たら、嫌なものが見えちゃって。体温が低いのは仕様ですのでお気になさらず」
そう伝えてもハルトは納得いかない様子だったけれど、とにかく座ってもらってモルト砦と魔物との位置関係について説明する。
説明を聞いて状況が逼迫していることが明確な情報として認識できたせいか、ハルトもフレイラさんも険しい顔つきになった。
「そんなに魔物が砦に迫ってるなら、休んでる場合じゃないんじゃないの?」
「それで無理して急いだ結果、二人の体調が崩れたら助けられるものも助けられなくなるよ。だから適度に休憩を取って、万全な状態で魔物の群れを迎え撃てるようにしないと。とにかく体調管理優先で」
フレイラさんは落ち着かなそうな様子だ。しかし私の言葉に返す言葉が見つからず、黙り込む。
焦る気持ちはあっても、それで状況が好転しないことを十分理解しているようだ。
魔物の群れの数は地平線を埋め尽くすレベルだったので、正直なところ考えたくない。
古代魔術が使えれば一掃することも可能だけれど、その代償は大きいだろう。タツキが広範囲に及ぶ攻撃魔術を使っても結末は同じ。
となると環境に影響を及ぼさずに広範囲攻撃が可能な神聖魔術の使い手であるハルトの存在は必須だ。
フレイラさんも神聖魔術は中級まで扱えるらしいから神聖魔術による広範囲攻撃は可能だろうし、二人がモルト砦で戦える状態にないと持久戦になる。持久戦になった時、人族の犠牲は当然のように増えるだろう。
仮に私やタツキが結界魔術を用いて対応するにしても、あの数の魔物を相手に決め手に欠ける……というか、決め手が使えない私やタツキでは結局持久戦になってしまう。
それに、砦の人間にどれだけ気を配れるかと問われればかなり厳しいと思う。結界が切れた瞬間に、結界に依存して守りが疎かになっているであろう人族の兵が一気にやられてしまいかねない。
ここが人族領ではなく魔族領の集落外れなら……元々不毛の地が多く、生えている草木が軒並み頑丈な魔族領だったら、環境のことまで配慮しなくて済むのに。
そう簡単にはいかないってことなんだろうな……。
「……そうするしかないか。で、ここでどれくらい休憩が取れそうなんだ?」
気を取り直したように言われて私は頭の中で計算する。時間を計算する場合はこちらの世界の「鐘何回」で考えるより前世の二十四時間の考え方の方が楽なので、そちらで計算する。
現状としては十二時間ほどで全距離の半分を踏破している。魔物が砦に到達するには早く見積もってもあと十五時間はかかるだろう。
今は太陽の位置からして朝の六時過ぎくらい。思ったより私たちが進む速度が速かったから、状況は逼迫していても時間的には多少余裕を持って休んで大丈夫そうだ。
「二時間くらいここで休憩しよう。時間的には短いけど、しっかり休んで」
そう提案すると、二人は提案を受け入れてくれた。食事を終えると少し休憩を挟んでから、仮眠を取るために荷物からマントを取り出して包まる。
なかなか寝付けないフレイラさんにはそっと、私が得意な干渉系魔術をかけて眠りに誘っておいた。入眠の助けになる程度に弱くかけたから、時間になればちゃんと目覚める……はず!
二人が眠っている横で、私は周囲を警戒しながらタツキと古代魔術の制御について意見を交わしながら時間を潰していた。後回しでいいとは言え、この先で突如必要になる時がくるかもしれない。
本当はブライにも意見を聞きたかったけれど、タツキが何らかの目的でブライを魂込みで再構成しているらしく、亜空間から出せないそうなので諦める。
一体タツキはブライをどうするつもりなんだか……。
そうこうしている内に太陽がほどよい位置にまで登った。
時間だ。
私は眠っている二人を起こすと体調について問いかけ、二人とも問題無さそうだったので改めて身体強化の付与魔術をかけた。
最後に結界魔術で体を保護すると、荷物を持って再出発だ。今度は日が昇っているから周囲がよく見える。後続の二人も視界が明瞭な分、夜に走っていた時よりもストレスは少ないだろう。
そうして走って行く事更に鐘三回分ほど。秋の終わり、冬の始まりの季節なので日は再び地平線の向こうに姿を消してしまった。
しかしその頃には既に砦が見えていたので、砦の灯りを頼りに走る。
そして六の鐘が鳴る音と共に、私たちは無事、モルト砦に到着した。
「ハルト殿下!」
砦の門に着くとハルトを見るなり門番の一人が慌てて砦内に走って行き、砦の責任者らしき人物を連れて戻ってきた。
連れてこられた人物は立派な鎧を着込んだ中年の騎士で、ハルトに略式の臣下の礼を取る。
「よくお越し下さいました。私はモルト砦の責任者をしております、アズレー=ディールと申します。センザの念話術師から昨日センザを出立されたという連絡は受けておりましたが、予想以上に早いご到着でしたな。一体──いえ、とにかくハルト殿下やリク様、フレイラ様にきて頂けて心強く思います」
アズレーさんは恐らく一体どうやって短時間でここまできたのか、気になったのだろう。
しかしその視線が一瞬私の方を向き、何やら納得したように頷くと問いかけるのを止めてハルトに向き直った。私が身体強化の付与魔術を多用することは結構知られているらしいから、それで納得したのだろう。
事実とは言え明らかに常識の範疇を越える早さだったにも関わらず、それで納得してしまうのもどうかと思うけど。
門で立ち話をするわけにもいかないので、私たちはアズレーさんの案内で作戦会議室に通された。
会議室には各隊の隊長と思しき面々が集まっていて、私たちの姿を認めるなり歓声が上がった。予想以上の歓迎っぷりだ。
「アズレー殿。現在の状況を聞かせて下さい」
各自勧められた席に着くと、早速ハルトが状況の説明を求める。
ハルトは成人してから部下や一般兵に対しては基本的に敬語を使わないようになったけれど、一定以上の立場の人間が相手だと敬語で話す。一人称すら“俺”から“私”に変える。
徹底して公私で言葉遣いの使い分けをしているのだ。
まぁでも、私はむしろここは敬語じゃない方がいいと思うんだけどね……。
何せハルトは王位継承権こそ放棄していても王族であり、同時に神位種──勇者でもある。騎士や兵といった面々から見たら、この国で一番の実力者は間違いなくハルトだ。
王族にして国一番の強者。さらに言えば王族であるハルトから敬語を使われても、対応に困ると思うんだけど。
「は、はい……。ステル、説明を」
ほら、アズレーさんも恐縮しちゃってるよ。
アズレーさんは必要以上に畏まった様子で会議室内の面々に一度視線を送り、最後に上座近くに着席している男性に視線を向けた。すると指名されたその男性が立ち上がり、ハルト含む私たち側に向かって略式の臣下の礼を取った。
鎧を装着していないから多分、軍師のような立場の人なんじゃないかと予想する。
「お初にお目にかかります、ハルト殿下、リク様、フレイラ様。作戦指揮補佐官のステルと申します。アズレー指揮官に代わりまして、状況の説明をさせて頂きます」
そう切り出し、ステルさんは卓上の地図を示した。
「現在把握している状況としましては、まずひとつ目に魔族領との境にある関所が陥落したという情報です。本日早朝に関所が陥落したという知らせがセンザより入っており、こちらに関しましては関所から唯一生還した門番兵からも確認を取っております」
今日の早朝にセンザから連絡が入ったのはレネが魔術師団に知らせてくれたからだろう。今度レネに会ったらちゃんとお礼を言っておかないと。
それにしても……関所の生き残りがいたことには驚いた。それくらい、私が千里眼で見た関所は酷い状態だったのだ。よほど運がよかったのだろう。
魔物の群れが休みなく相当な速度でこちらに向かっていることを考えると、魔物たちから逃げ切った上に魔物たちよりも先に砦に到着できたことは正に奇跡としか言いようがない。
……とは思うものの、この世界の馬は魔物並みにスタミナがあるから可能か不可能か問われたら可能なのだろう。
よほどいい馬で逃げ出したんだろうな。
「ふたつ目は、迫っている魔物の群れについてです。魔物の群れは日が落ちる直前に視認できる距離にまで迫っておりましたので、恐らく次の一の鐘が鳴る前にはこの砦に到達するものと思われます」
説明しながらステルさんは関所から南へと指先を滑らせる。
「しかしこの暗闇の中で砦の外に出て戦うのは危険ですし、魔物の数も地平線を埋め尽くすような数である事が確認されております。故に夜明けまでは砦に籠城し、夜明けと共に魔術師団による攻撃魔術で数を減らし、一定以下まで数を減らしたら打って出る……と言う流れで調整していたところです」
一通り説明を終えてステルさんは一礼して着席する。
まぁこれが人族の普通の思考なんだろうな……。
でも私が見た限り、猪型の魔物が結構いた。それも大型がかなりの数混じっていたし、特に恐ろしいことに赤猪が大半だった。
猪型は突進と体当たりを多用する魔物だ。私がアルトンでよく討伐していた灰猪然り。
しかしその中でも突出して赤猪はその威力が高い。大型の赤猪が破城槌に相当する仕事をしてくる可能性が高い。
そう考えたからこそ、私は明日の朝まで砦が持たないと思ったんだけど……。
「リクはどう思う?」
と、唐突にハルトに話を振られてびっくりする。
いや本当、こういう場で意見を求められるとは思ってなかったよ。
「……では、ひとつ。迫り来る魔物の群れには大型の赤猪が多数混在していますので、籠城しても朝までこの砦が持つか不安があります」
「大型の赤猪……!?」
私の発言に場がざわめく。
どうやら関所の生還者はその情報を伝えていなかったようだ。
「リク様、それは本当ですか!」
代表してアズレーさんに勢いよく問われて気圧される。
しかし左右に座るハルトやフレイラさんからもアズレーさんたちと同じような反応が向けられているので、これは私が情報を提供していなかったミスだと後れ馳せながら気がついた。
なので素直に「情報提供が遅れて申し訳ありません」と謝罪しておく。そしてひとつ、明かしておくことにした。
「実は先日知り合った星視術師の方を通じて、私も星視術を習得することができまして」
直接レネから教わったとは言わず濁しながら明かすと周囲から驚きの声が上がり、場がざわめいた。
ハルトやフレイラさんに関してはこれでようやく私が砦が危険だと言った根拠が判明したといったところだろうか。二人とも「そういうことか……」と呟いていた。
私はさらに言葉を続ける。
……が、レネから星視術に関する情報は未来視と過去視以外は明かさないようにと言われているので、この先は誤摩化しを入れていく。
「それで道中で未来視を行い、この先起こるであろう未来を見てみたのです。その結果、私たちが砦に到着した後、砦に押し寄せる魔物の群れに赤猪が多数いる光景が見えました。魔物の構成は大半が黒狼、次いで灰狼、赤猪。ほかにもちらほら種類の異なる魔物も混じっていましたが、黒狼や赤猪に比べれば危険度の低い魔物ばかりでした。ただ、総じて足が速く、体力がある魔物の群れです。ここまで強行軍で向かってくるので魔物側も疲弊するはずですが、それでも大型の赤猪の突進や体当たりの威力を思うと砦がどれだけそれに耐えられるか……」
千里眼は私が当初レネに依頼したように、未来視や過去視を駆使すれば似たような結果が得られる。なので誤摩化すならこの誤摩化し方がいいだろう。
実際誰もこの誤摩化しに気付いてはいない。
「そうだったのですね……。リク様、情報をご提供頂きありがとうございます。しかし大型の赤猪が複数いるとなると、確かに砦の耐久力に些か不安が残りますね。これは作戦を変更する方針に──」
「しかしもう時間がございません。新たに策を練り直すよりも、結界魔術が使える魔術師を集めて朝まで持ち堪えた方が現実的です」
アズレーさんの言葉に、すかさずステルさんが言葉を被せた。どうもこの方々は私たちが参戦しない方向で話を進めているようだ。
そりゃそうか。立場的にハルトやその婚約者の私、他国の勇者に参戦の依頼なんてし難いよね……。
ってことで。
「あ、私は夜目が利くのでお手伝いします。私が魔物の位置を示して魔術師団の方々に攻撃魔術を使って頂ければ魔物の数を減らせますし、運よく赤猪の数が減らせれば砦を持ち堪えさせることも可能だと思います」
自ら挙手する。
すると、
「目標がわかるのなら、私も神聖魔術で応戦できます」
「わっ、私も! 攻撃魔術は得意なのでお手伝いします!」
ハルトやフレイラさんも私に続いて挙手した。どうやら二人も参戦の意志を表するタイミングを見計らっていたようだ。
切欠が大事だよね、切欠が。
うんうんと頷いていると、するりとタツキが精霊石から姿を現した。精霊を見慣れていない隊長たちが驚くけれどタツキは気にした風もなく私の隣に降り立ち、にこりと微笑む。
「じゃあ僕も魔物の位置を指示する方で手伝わせて貰います」
「おぉ、ありがとうございます! 勇者様方のみならず、守護聖様方にもお手伝い頂ければ必ずやこの砦は持ち堪えましょう!」
アズレーさんが大袈裟に両手を広げて喜びを露にすると、ステルさん含め、この室内にいる人々からも歓声が上がった。
いやはや、そう言えばそうでした。私とタツキは守護聖でしたね。
何となく隣のタツキを見れば、タツキも似たようなことを考えていたのだろう。私の表情を窺うように見てきて、目が合うなり苦笑いを浮かべた。
方針は決まった。
私は早速物見塔に移動して、魔物の位置を確認する。
そして見た。見えてしまった。
向かい来る魔物の後方。
そこに、もう満腹だからこなくていいよ! と全力で追い返したい相手の姿があった。
空に浮かぶ、大きな影。強烈な存在感。
「竜……」
これはもう、確定ってことでいいのかな。
今までの竜の襲撃、そして今回の魔物の群れによるフォルニード村、関所、モルト砦の襲撃。
これらは絶対、同一人物が裏で糸を引いてる……!




