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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第3章 魔王討伐
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51. モルト砦へ

 マナは驚異的な回復力を見せ、意識を取り戻した翌日には歩き回れるようになっていた。ぱっと見にはわかり難いけれど、その表情からはすぐにでも村に戻りたいという気持ちが見て取れる。

 けれどマナは決して単身で戻ろうとか、私たちにフォルニード村への同行を願い出たりとかはしなかった。私と違ってマナは冷静に物事を判断し、自制が利く人なのだと思った。



 マナは歩けるようになると早々に、フォルニード村への救援手配をしてくれたことに対して、ハルトに感謝の意を伝えに向かった。その際マナから同行して欲しいと言われたので、私はマナに付き添った。

 どうやら二人は顔見知りだったようで、マナが今回の件以外にも何やら礼を言って、礼を言われたハルトは苦笑していた。


 聞けば、お父さんが魔王ゼイン=ゼルを倒した後にフォルニード村でマナに会った際、その場にハルトもいたのだそうだ。

 マナはその時お願いしていた私への伝言を伝えてくれたことに対する礼を言ったのだけど、ハルトは私に伝えたのはイムだから自分に礼を言う必要はない、と答えていた。

 それから私と再会できたことに対して「よかったな」と言ったハルトに表情を変えずに頷きながらも、間が持たなくて内心焦っているマナがちょっと可愛かった。



 そんな二人のやり取りを見守ったあと、私はセンザの魔術師団の詰所に向かった。召喚魔術対策用の魔法陣と竜対策用の魔法陣をセンザの魔術師団に託すためだ。

 こういう時すぐに偉い人に取り次いでもらえるのは有り難いんだけど、研究員としての実績以上にハルトの婚約者としての立場が効果を発揮するのは何とも言えない気持ちになる。

 まぁ今は一刻を争うからありがたくその恩恵にあやかっておくけどね。


 そうして事情説明付きで魔法陣のスクロールを渡すと、センザの魔術師団長からは大いに感謝された。そして万が一に備え、即刻この魔法陣のスクロールを量産するよう体勢を整えると請け合ってくれた。

 これで一安心。



 一方、騎士や兵士たちも町の守りとモルト砦方面の情報収集に全力を注いでいた。同時に、王都を含む各都市や町、村に念話術師によって状況が伝達され、守りの体勢を整えてもらっている。

 特にモルト砦西部に位置する港町ティリは砦との距離がセンザに次いで近く、且つ砦との間に遮るような森や山などがないため、念入りに守りを固めてもらうこととなった。




 マナが目覚めてから二日が経過した。

 この日は町で物資調達をしていた『飛竜の翼』と話し合い、明日にでも貸し馬車店で馬車を借りてモルト砦に向かう方向で調整した。

 その際にセンザより北は危険な状況に陥っている可能性が高いことを伝えたのだけど、ルースは豪快に笑いながら「これは腕が鳴るな!」と頼もしいその二の腕を叩いていた。ほかの面々もやる気に満ちた表情で、各自武器の手入れを始めている。


 そんな中、私はレネにそっと近寄った。


「レネ、未来視の星視術を使った時、かなり魔力を消耗してたよね?」

「えぇ、そうですね。星視術の未来視はより鮮明に、より多岐に渡って、より遠い時間を視ようとすればするほど消費する魔力量が増えます。先日のようにかなり条件を絞った状態でも私では半日先を見るのが精一杯です」

「ほうほう。ところでレネ、ここに私の魔力で作った魔石があるんだけど、これで魔力が不足する分を補えたりしないかな」


 そう言いながらレネの手に魔石の入った小袋を押し付ける。


「魔石!? リクさん、魔石も作れるんですか?」

「魔力操作の師匠がいてね、魔石の作り方も教えてもらったの。もしこれで魔力不足を補えるなら、ちょっとお願いがあるんだけど……」


 高価な物を渡されたレネは、日頃の落ち着いた雰囲気が崩れて動揺を露にしていた。

 魔石に関しては半数がサラの腕輪の力で作られた物だけど、それを説明する必要もないだろう。


「ま、魔石で魔力不足分を補給をすることは可能だと思います……が、こ、これ、一体いくつ入ってるんです?」

「十粒くらい。あ、小粒だけど質に関しては安心してくれていいよ!」

「じゅっ……!」


 レネは絶句した。それだけ魔石というものは価値のあるものなのだ。

 しかしこれは報酬だ。私がこれから頼む事柄は依頼になる。それに見合う報酬と、その依頼をこなして貰うために必要な素材を用意しただけだ。


 そんな私の真剣な様子に気づいたのか、レネは絶句状態から立ち直った。無理矢理自分を納得させるように小さくため息をつく。


「そうですか。では有り難く使わせて頂くとして……私に頼みとは?」

「うん。フォルニード村の現状を、未来視と過去視を併用して視ることってできないかな」


 理想は千里眼的な能力があったらそれが一番なんだけど。でもそんな便利な能力なんてこれまで聞いたことがないし、ましてやそんな魔術があるなんて……。


「それは……未来視と過去視を使わなくても、千里眼で解決するのでは」

「んんっ?」


 あ、あるの!? 千里眼!


 そんな私の驚きが伝わったのか、レネはくすっと笑った。


「星視術は、あらゆるものを見通す魔術の総称です。鑑定、探知、過去視、未来視、千里眼……これらが星視術に属する魔術になります」


 かっ、鑑定ーーー!? しかも探知もあると!?

 そうかそうか、どうもそれらしい魔術が見当たらないと思ったら、こんなレア魔術に属していたのか!


 星視術は才能がある者、且つ行使するに相応しい人格者のみに、世界にたった二人しかいない賢者様が直々に伝授する魔術だと聞いたことがある。

 それゆえか、書物では過去視と未来視以外の星視術について一切記載されておらず、どんな魔術がそこに属しているのか知りようがなかったのだ。


 というかレネ、そんな大事なこと私にばらしちゃっていいのかしら。


「大丈夫ですよ。多分リクさんは星視術の適性がありますし、人格も特に問題ないかと思います」


 思っていることが顔に出ていたのだろう。にっこり微笑まれて思わず私は自分の顔をぺたぺたと触った。そんなにわかり易いかな、私。

 その行動がおかしかったのかレネは肩を震わせていたけれど、何とか堪えるとそっと私に耳打ちしてきた。


「なので、リクさんに星視術を教えて差し上げます」

「ふぁっ!?」


 思わず変な声が出た!

 レネが口許に人差し指を当てる仕草をしてきたので、私は慌てて口を噤む。周囲の面々はそれぞれの話に夢中でこちらのやり取りには気付いていないようだ。

 私はレネに顔を寄せて、小声で疑問を投げかけることにした。


「でも星視術って、賢者様が直接伝授する魔術なんじゃ……」

「それは表向きの話です。賢者様方は滅多に人前に出ませんからね。実際は弟子が適性者を見つけて伝授してるんです」


 賢者様引きこもり説浮上!

 ちょっと親近感を覚える。前世的な意味で。


「恐らく私が千里眼を使うよりも、リクさんが使う方が魔力量の面でも魔力操作の面でも効率がいいでしょう。もし覚える気があるのでしたら、これからちょっと私の部屋に行きませんか?」

「ぜ、是非……!」


 私は内心で万歳三唱しながらレネと共に部屋を移動した。




 結論。

 レネは熱血スパルタ先生でした。




 スパルタ・レネ先生の指導の下、私は日が落ちるまでに星視術をマスターした。

 ぐ、グロッキー……。

 不幸なことに魔力が簡単に枯渇しないせいで休憩を取るタイミングが一切なかった。


 しかし、しかしだよ!

 頑張ったおかげでこの短時間で私はレア魔術、星視術をモノにできたよ!


 星視術は秘匿された魔術ゆえに詠唱が存在しない。師となる星視術師から伝えられた言葉を基に、自らの感性で習得する魔術なのだ。


 なんて言われるとすごくふわっとしているけれど、前世の知識のおかげでその魔術がどのようなものなのか想像しやすい私は使うだけならすぐにできた。時間がかかったのは、魔術を安定させるための魔力のコントロールが難しかったからだ。

 しかしそこはこれまで積み重ねて来た魔術研究と実践による経験が物を言って、何度か調整した結果コツを掴むことができた。


 もうね、新しく覚えた魔術を上手に使えたときの感動と言ったら!

 魔術は習得したか否かが明確にわかるから、成功した瞬間の達成感が堪らないね!


 ということで早速、千里眼を発動! 目的地、フォルニード村!


 イメージとしては、魔力をカメラ付きケーブルに見立てて貰えるとわかり易いだろうか。魔力という名のカメラ付きケーブルを伸ばし、その先端から周囲の様子を見る感じ。

 映像は視覚から入ってくると言うよりも、脳に直接映し出される感覚だ。


 魔力が伸びていく速度はまだ掴めていないけれど、大体の感覚でフォルニード村付近を見回してみる。

 すると、ぽつりぽつりと小さな灯りがいくつか暗い森の中に見えた。


 あの辺かな……?

 でも以前立ち寄った時のフォルニード村の規模を思うと、あまりにも灯りの数が少ない気がする。


 不思議に思いながら、さらに魔力を伸ばしていく。

 そうして目にした光景は──。


 思わず私は伸ばしていた魔力を引っ込めた。

 同時に、見えていた景色が室内の景色に切り替わる。


「見えましたか?」


 レネに問われて私は目だけをそちらに向けた。

 それから自分が息を止めていることに気付いて、細く長く息を吐く。


「……壊滅してた。でも生き残りもいるみたい」

「そうでしたか……」


 レネが沈痛な面持ちになる。

 私は一度深呼吸して、改めて千里眼を発動した。今度はモルト砦だ。

 気が急くあまり先程はモルト砦を飛び越えてフォルニード村を見たので、念のためモルト砦と関所の様子も見ておく。


 モルト砦は……特に変化なし。いや、何だか慌ただしいな。

 暗くなり始めた中を松明やカンテラを持った兵たちが忙しなく移動しているのがわかる。


 そんな中、物見塔の兵士が北の方角を指差したのが見えた。それに釣られるようにして、北の方向へと魔力を伸ばす。

 そのまま北へ北へと視界を移していくと、モルト砦と関所のあいだに広がる草原を、黒い群れのようなものが移動しているのが見えた。

 何だろうと思いながらもその先、関所を目指してさらに魔力を伸ばす。


 ──しかし。

 ようやくたどり着いた関所はもくもくと黒煙を上げていた。

 魔物や魔族の気配はない。人の気配も、ない。

 ただただ、残り火がちらちらと燃えているだけだった。


「……レネ。 私、行かなきゃ」

「え?」


 このままだとモルト砦はフォルニード村や関所の二の舞になる。

 距離からして、明日の夜には押し寄せ来ていた黒い群──恐らく魔物の群がモルト砦に到達する。


《タツキ、ブライに出てもらうことはできる?》

《……ごめん、今再構成中で出せないんだ》


 問いかけるとすぐに返答がくる。

 ブライを頼れないとなると、走るしかないか……。


「ハルトに伝えなきゃ。このままだとモルト砦も壊滅する!」

「わかりました!」


 察したレネが私に続いて部屋を出て、みんなが集まっている部屋に移動する。

 勢いよく扉を開けると、そこにいた面々が驚いた表情でこちらを振り返った。


「ハルト、今すぐモルト砦に行こう! もう関所は間に合わない。けど、今から全速力で行けばモルト砦は何とかなるかもしれない!」


 全速力。

 馬車で四日の距離をたった一日で踏破するには、かなり強力な身体強化の魔術を施してほとんど休まずに走る必要がある。そんな無茶に耐えられる地力を持っているのはこの場に三人しかいない。

 私とハルト、そしてフレイラさん。


 診療所にいるマナも魔王種だから耐えられるだろうけど、病み上がりだから置いていく。

 タツキは精霊石の中にいれば私と一緒に移動が可能だから、実質すぐさま向かえるのは四人だ。


 もしブライが飛んでくれたら……とも思ったけど、再構成中なら仕方がない。


「わかった、行こう」


 どのようにしてその情報を得たのか理由は聞かず、すぐさまハルトが立ち上がって剣を腰に佩き、最低限の道具や食料が入った鞄を背負う。

 私は視線をアレアの横に座っているフレイラさんに向けた。


「フレイラさんもお願いしていい?」

「もちろんよ!」


 一瞬状況が飲み込めなかったらしいフレイラさんも勇ましい顔つきになって立ち上がり、剣をベルトに固定し、自らの荷物を背負った。

 私も自分の鞄を背負うと、室内の面々を見回す。


「ルースたちは予定通り、明日出発して。マナのことをお願い」

「了解!」


 ルースがどんと胸を叩いて請け負ってくれた。

 私は今度はレネを振り返る。


「レネ、フォルニード村の状況を皆とマナに伝えて、明日魔術師団の方にも連絡しておいて」

「わかりました。リクさん、お気をつけて!」

「みんなも、ゆっくりでいいから気をつけてきてね。全部片付けて待ってるから」


 そう言い放つと、“飛竜の翼”の面々は快く頷いてくれた。

 ここまで数日の付き合いだけど、どことなく連体感が生まれつつある。この人たちになら安心してマナを任せられる。


 後顧の憂いはなくなった。

 急ではあったけれど最低限必要な物は各々の鞄に入ってる。センザで調達したものもルースたちが持ってきてくれるだろうから問題ないだろう。


 私は視線でハルトとフレイラさんを促して部屋を出た。宿を出たらそのまま町の外に出る門へと向かい、顔パスで門を通してもらう。

 町の外に出ると少し町から離れた場所まで移動し、そっと左腕にはめている腕輪に触れた。


「外すの?」


 隣に現れたタツキに問われて私は頷く。


「全速力じゃないと間に合わないからね」


 そう答えながら、左腕にある腕輪──サラたちから貰った、過剰魔力を魔石に変換する腕輪をゆっくり外した。

 ぶわっと吹き出すように、蒼い光を帯びた魔力が辺りに広がる。長期的に放置すると環境を改変するレベルの魔力だ。ちゃっちゃと付与魔術をかけて、すぐに腕輪をはめ直さないと。


 私はハルトとフレイラさんが追いついてきたのを確認して、そちらに向き直った。


「かなり強力に身体強化の付与魔術を使うから、覚悟してね。……大丈夫だよね?」


 一応、確認を取る。

 付与魔術は身体能力を一時的に引き上げる魔術だ。実際には熱が宿ることはないのだけど、付与された瞬間に体に熱が走る感覚がある。

 その時感じる熱量は、付与される力の度合いによって変化する。つまり、強い付与魔術をかけられると全身が焼け付くように熱く感じるのだ。

 私もそこまで強烈な付与魔術を使ったことはないけれど、これまで付与魔術を使ってきてその強弱によって体感する熱量が増減することは実体験済みだ。


 それに耐える覚悟はあるのか。大丈夫なのか。

 そう問いかけられたハルトとフレイラさんは一度互いに顔を見合わせ、苦笑した。


「大丈夫だと思ったから俺たちに声をかけたんじゃないのか?」


 フレイラさんの分も代弁するかのようにハルトに言われて、私は満面の笑みを浮かべる。


「その通り! それじゃ、いくよ!」


 明日の日が落ちるまでにモルト砦に辿り着ければいい。いくら神位種や魔王種と言えども限界はあるだろうから、そこを見極める。

 見極めるというか、予測として、内包する魔力量がその限界値の目安だと当たりをつける。


 実験的にまずは自らに付与魔術をかけた。カッと燃えるような熱が全身を走る感覚。

 私の場合は魔力量で当たりをつけると際限がないから、ハルトやフレイラさんの魔力量に合わせて身体強化を施した。特に問題はないようだ。

 よし。


 続いて私はハルトに、ハルトの魔力量に合わせた強さで身体強化を施す。ハルトは一瞬顔をしかめたけれど、何とか耐えた。

 さらに続いてフレイラさんに。フレイラさんも小さく呻いたくらいで耐えた。

 さすが勇者様たち。


 そうこうしている間にも私の消費された魔力はどんどん回復している。なので遠慮なく次の魔術を構築する。知覚と感覚を強化する付与魔術だ。これを全員に施す。

 先ほどと変わらぬ、激しい熱が体を走る感覚。しかし二度目ともなれば皆歯を食いしばる程度で耐え抜いた。

 そして最後に身体の耐久力を上げるために結界魔術を施す。全員の体を光の幕が一瞬覆った。

 準備完了だ。


「それじゃ、行きますか! 疲れたらすぐ言ってね、治癒魔術使うから」


 私が腕輪をはめ直しながら声をかけると、


「治癒魔術くらい各自で何とかなるだろ」

「そうね、私も治癒魔術は得意よ」


 と、勇者様たちが宣言してくる。

 心強い。


「じゃあ疲労時には各自で回復を行うこと!」

「「了解!」」


 うむうむ、なかなかのチームワークだ。

 そう思って私が満足げに頷いていると、ぷっとフレイラさんが吹き出して笑った。


「何だかリクさんがリーダーシップを取ってると不思議な感じ。でもすべき事が明確でいいわね。ハルト、形無しじゃない」

「確かに……」


 フレイラさんに言われてハルトが肩を落とす。


「前世のあのクラスだと、リーダーシップと言えばハルトの専売特許だったものね」


 言われてみれば……。

 今世のハルトにリーダーの資質がないということはない。むしろ領主として配下を統率する能力とかカリスマ性はあるんだけど……今はちょっと私が仕切り過ぎてるんだな。

 そう考えたら急に自分が今この場を仕切っている事への自覚が芽生えて、もの凄い違和感が! リーダーとか柄じゃないわぁ。


「あ、あー……えっと、じゃあ、ハルト。号令をお願いします」

「何言ってるんだ。今ここで一番状況を把握していて判断力があるのはリクなんだから、リクが仕切ってくれよ。俺もフレイラもそれに従う。だよな?」

「もちろん」


 そうなの?

 でも正直私、自分がリーダーとかに向いてるとは思えないんだけど……。


 しかし今は悩んでいる暇はない。

 ハルトもフレイラさんも私に従うと言ってくれているのだから、ここは思い切って仕切っちゃおう!


「わかった! それじゃあ、出発!」

「「おぉっ!」」


 号令と共に私は先頭を切って走り出す。

 応じたハルトとフレイラさんも、私の後に続いて走り出した。

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