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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第1章 それぞれの再スタート
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5.【リク】四歳 魔術の適性と実力

 私が魔術のエキスパートたる妖鬼でありながら致命的に攻撃系魔術の適性が低いという事実が判明したのは、半年程前のことだった。


 三歳になった頃から両親は私に魔術の基礎を教えてくれていた。魔術の基礎とは、詠唱を使った魔術のことだ。

 詠唱は魔術を使う上で必要な手順をしっかりと踏んでいるため、魔術を学ぶ上で一番最初に教えられる項目なのだそうだ。

 ただ私は一般的な妖鬼よりも滑舌がよくなるのが遅かったらしく、両親も困り果てていたらしい。


 それでも諦めずに根気よく詠唱の文言を何度も聞かせてくれて、時には実践してくれて、私がちゃんと発音できるようになるまでに知識だけでも付けておこうとしてくれたらしい。


 そうして基本的な魔術の詠唱がだいぶ頭に入った頃、私の滑舌が魔術の詠唱に使えるレベルに到達した。

 それが半年前だ。


 私は意気揚々と攻撃魔術を使ってみた。これが一番使ってみたかった。


 その結果。


「総ての根源たる力よ、我が声を聴き、応えよ!

 其は破壊と再生を齎すもの。

 望むは我が身の丈程の炎。

 大気を飲み込み、燃え上がれ!

 火炎柱!」


 私はキャンプファイアくらいの火柱を想定して詠唱した。けれど、現れたのは松明くらいの炎だった。

 それを見て、教師役の母はこう言った。


「セアは火属性との親和性が低いのかしら。じゃあ次は水属性でやってみて。詠唱はわかるわね?」

「うん」


 もしかしたら私は火属性と相性が悪いのかもしれない。

 私はその言葉に希望を託し、水属性の詠唱を始めた。


「総ての根源たる力よ、我が声を聴き、応えよ。

 其は恵みそのもの。

 望むは大地より湧き出る水流。

 天を貫き噴き上がれ!

 水柱!」


 私は前世で見た地中から吹き上がる温泉……間欠泉を想定して詠唱した。けれど、現れたのは直径五センチ程度の範囲から湧き出る湧水だった。


「使えていないわけではないけど、何だか半端ねぇ……。じゃあ次は風属性で試してみましょうか」

「……うん」


 なんてことを、ひたすら繰り返した。

 結局どう頑張ろうとも私の攻撃魔術への適性が全面的に低く、出せる威力すらも調節不可能、常に一定の威力であることがはっきりしただけだった。


 火の魔術を使えばどんなに詠唱で威力を調節しようとも明かり取り程度の火にしかならず。

 水の魔術を使えばどんなに詠唱で威力を調節しようとも水浴びにちょうどいい程度の水が落ちてくるだけで。


 水から派生する氷の魔術を使えば、どんなに詠唱で威力を調節しようとも飲み物を冷やすのにぴったりなサイズの氷しか出ず。

 風の魔術を使えばどんなに詠唱で威力を調節しようともエアコンの送風機能のような風力が限界。


 風から派生する雷の魔術を使えば、どんなに詠唱で威力を調節しようともスタンガンにも及ばない威力で。

 土の魔術を使えばどんなに詠唱で威力を調節しようともスコップで掘るような穴を掘ったり、小石サイズの岩石を作り出したり、粘土を作ったりする程度しかできず…。


 散々だった。でも生活上では結構役に立つ。

 無駄ではない。無駄ではないが、何だか空しい。




 そんな思いを抱えながら、母からは治癒魔術も学んでいる。

 治癒魔術は傷を癒したり毒等の体調を悪化させるものを浄化したり治療したりする魔術だ。


「怪我をしていなくても治癒魔術は疲労を軽減することができるから、ちゃんと覚えておいた方がいいわよ」


 そう言って、母は私をひたすら走らせて疲労させた。そして治癒魔術を自分にかけてみるように促してきた。

 私は母に従って、治癒魔術の詠唱を始める。


「総ての根源たる力よ、我が声を聴き、応えよ。……はぁ。

 其は癒すもの。

 望むは健やかなる身。……ふぅ。えっと。

 我が身を包み、癒したまえ。

 回復!」


 息切れしつつも何とか唱え切ると、目には見えないけれど暖かい何かが体を巡っていくのがわかった。疲労感で重くなった体が、ふわりと軽くなるような感覚。

 それが治まると、走って疲労していた体が嘘のように楽になっていた。


 他にも怪我をした時やうっかり毒茸などを食べてしまった時にも試してみたけれど、治癒魔術は攻撃魔術に比べるとまともに使えた。詠唱の内容がちゃんと結果に結びついた。

 それを見ていた母も、どこか嬉しそうだった。




 一方で、父からは幻術と付与魔術を教えてもらっている。


「総ての根源たる力よ、我が声を聴き、応えよ。

 其は惑わすもの。

 魅せるは晴天の草原。

 彼の者を誘え!

 幻惑!」


 父に向かって幻術を使うと、父が目を見開いて周囲をきょろきょろと見回した。


「おぉ……これは見事だね。心地いい景色の草原だよ。これなら言うことなしだ」


 父から太鼓判を貰って、幻術は妖鬼特典であっさり習得できた。

 父が言うには、私は干渉系の魔術と相性がいいらしい。


 幻術が得意であると同時に多少の耐性を持つ妖鬼に、さらに言えば幻術を使われていると認識している相手に幻術をかけるのは本来であれば困難なことなのだとか。

 けれど私の幻術は父の目から見て相当完成度が高かったらしい。それはイコールで相手へ干渉する力が強いことを示すのだそうだ。




 結論から言うと、付与魔術への適性も高かった。

 むしろこれだ。この付与魔術こそが、私の得意魔術だったのだ。


 付与魔術。

 主に身体干渉(身体強化や弱体化はこの分類)、神経干渉、属性付与がそれにあたる。対象に干渉して望む効果を与える魔術を総括して付与魔術と呼ぶらしい。


 それを他人に施してみたら、なかなか強い威力を発揮した。というか、試しに父が自分に向かって使ってみろと言ったので、お言葉に甘えて父に向かって詠唱した。


「総ての根源たる力よ、我が声を聴き、応えよ。

 其は彼の者そのもの。

 与えるは優しき眠り。

 柔らかに落とせ、眠りの世界へ。

 睡魔!」


 睡魔。それは抗いがたき悪魔の誘惑。


 前世で散々悩まされた強敵を思い浮かべながら意識を休眠させる……つまり眠らせる付与魔術を父に向かって使ったところ、普段眠らなくても平気へっちゃらな父が卒倒した。


 そのあと半日も目が覚めなくて母に怒られた。私と、父が。

 母からは威力調整の練習をしなさい、と宿題を出された。



 自らの身体強化に関してもちょっとおかしいんじゃないかというレベルで効果が出た。


 脚力強化をして軽く地面を蹴ってジャンプしたら、十メートルくらい飛んでしまってびっくりした。

 腕力強化をして直径一メートル程の木を殴りつけたら、木が折れた。ついでに私の手や腕の骨も折れた。

 腕力が上がっても身体の耐久力はそのままだから当然の結果である。


 そして私はまた母に怒られながら、治癒魔術の練習がてら自ら骨折を治した。



 それを見ていたタツキが、付与魔術で体の耐久力を上げるのにも限界があるだろうからと結界魔術を教えてくれた。


「リクは見ていて怖いから……。僕もちゃんと守るつもりだけど、自分でも自分を守れるようになった方がいいよ。付与魔術で身体強化して効果を見ようとしたら自分の腕が折れただなんて、びっくりだよ」


 驚くべきことだ……!


 タツキは私の所行に驚いていたようだけど、私はタツキとは違う点に驚いていた。

 だってさ、私とタツキは同じ日に生まれたのにさ、しかもタツキは誰かから魔術を習ってる感じでもないのにさ……何で結界魔術が使えるの!?


 その疑問に答えてくれたのは、父母だった。


「タツキは守護精霊だろう? そもそも守護精霊は精霊の階級からすると高位の存在なんだ。高位精霊はこの世界に存在する魔術の大半を扱えると言われてる。だから守護精霊であるタツキも、生まれつき高位精霊並みの力を持っていてもおかしくないんだよ」


 なんということだ。転生チートは……魔術チートは、タツキだったらしい。

 ちょっと羨ましい。


 けれど、私が持っていても恐らく手に余って使いこなせないであろうその力を、タツキはうまくコントロールしているようだ。日頃はその片鱗すら見せないのに、両親の手に負えないような追っ手が来た時はそっと撃退してくれているのだとか。

 そのさりげなさ、見習いたい。



 そんなタツキは時々ふらりと姿を消すことがある。何でも調べなきゃいけないことがあるらしい。

 でもタツキは私の守護精霊だから、私に危険があればすぐさま私の額についているらしい精霊石を通して察知して戻ってきてくれるそうだ。


 それでもタツキ不在の時は何とも不安になる。自分たちの安全面もだけど……それ以上に、タツキがひとりで大丈夫なのか心配になる。

 チートだって負ける時は負けるのだ。どんなに強くても格上は存在するのだと意識しておくべきだと思う。


 そう考えるようになると、私の姿勢も段々と変わってきた。

 これまで以上に貪欲に知識を吸収し、次々と新たな魔術を会得していく。


 全ては、タツキの力になるため。


 タツキには目的がある。ならばその手助けがしたい。そのためには足手まといにならないよう力を付けなければ。

 その一心で、齢四歳の私は魔術にのめり込んでいった。




 ◆ ◇ ◆


 そんなある日、私とタツキは父母に呼ばれた。

 いつも通り両親の目の届く範囲にいたのに、敢えて呼び寄せるとは……何かあるのだろうか。

 そう思っていたら、本当に何かあった。


「セア。セアはもうちょっとでお姉ちゃんになるんだよ!」

「は、えっ……えぇっ!?」


 嬉しそうな父母。

 そんな両親の重大発表に、私はただただ驚くことしかできなかった。

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