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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第2章 人生の転機
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40. 守護聖

 目が覚めてからしばらくは毎日をリハビリに費やした。


 リハビリ中、私はひたすらイリエフォードの館の中を歩き回った。

 そんな日々を繰り返していくうちに身体強化なしでも安定して歩けるようになり、次第に走れるようになり、元通り動き回れるようになったのはリハビリを始めて一ヶ月半後。

 ようやく私は本来持っていた感覚を完全に取り戻すことができたのだ。


 四ヶ月寝たきりというのはやっぱり相当体力と筋力が奪われるんだなぁ……とじみじみ思う。治癒魔術と身体強化魔術を併用しても完治するまで予想以上に時間がかかった。

 それでも普通にリハビリするよりかは断然回復が早かったとは思うけれど。

 前世でドラマか何かで落ちた筋力を取り戻すリハビリには半年くらいかけていたような気がするから、それを思えば半分以下の期間で復帰できたのは回復が早いどころの話ではないのかも知れないけども。


 何はともあれ、私は無事復帰することができたのだ。




 季節はすっかり春真っ盛り。

 館の前庭も中庭も裏庭も、庭という庭に花が咲き乱れていて外を散歩するのが楽しい。

 心地いい風を受けながら、私は現在中庭を散歩中だ。


 春と言えば……寝ている間に季節が冬から春に変わっていて、私は十六歳になっていた。

 十六歳と言えばJKですよ、JK。花の女子高生だね!

 いや、この世界に高校はないけれども、気分の問題で。

 何だか若返った気分。

 いやいや、今世ではむしろ年を取ってるのか、ややこしいなぁ。


 意味の無い事を考えながら気分良く歩いていると、本館からイズンさんがやってきた。

 驚きの表情を浮かべて駆け寄ってくる。


「リク殿! もう歩き回って大丈夫なのですか!?」


 そう言えばイズンさん含む騎士たちはアールグラントのあちこちで魔物が大量発生しているせいで忙しいらしく、私が全快したことを知らないんだっけ。


「もう完全に治りましたよ。ご心配をおかけして申し訳ないです」

「ご回復、おめでとうございます。リク殿がいなかったらイリエフォードは廃墟になっていたかも知れないですからね。その節はありがとうございました。本当に、リク殿が無事目覚められてよかったですよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 満面の笑みでお礼を言うと、イズンさんも釣られたように微笑む。

 イズンさんはハルトが見込んだだけあって、人柄もよくて腕前も一流、仕事もできる。こんな好青年なのに、どうやら片思いをしていたギルド職員さんには振られてしまったらしい。

 負けるなイズンさん! ファイトだイズンさん!!


「お、ここにいたか。リク! ハルトが探してたぞ」


 と、今度は政務館舎の中からハインツさんが現れた。

 今日は館内の仕事らしく、服装はきっちりしているけれど無精髭はそのままだ。服装とのアンバランスさが実にハインツさんらしい。


「ハルトがですか? 何だろう?」

「何だか国王様からの書簡が届いて、その中身を見るなり“リクに言い忘れてた!”って叫んで執務室から飛び出してったんだが」


 えぇー……何だろう。嫌な予感。

 でもあちこち探してるんじゃ大変だろうから、こちらから見つけてあげよう。


 私は二次覚醒を経て驚異的なまでに鋭くなった感覚を研ぎ澄ませ、意識を感覚器官に集中する。遠く離れていたり、壁に阻まれていて視覚が頼りにならない時は音と魔力が頼りになる。


 ふと、ハルトの声が耳に届いた。

 声を頼りにハルトの魔力を辿る。

 どうやらハルトは前庭側を探しているらしい。


「ハルトは前庭にいるみたいなので、そっちに行ってみますね。何の用事だろうなぁ……」


 私はイズンさんとハインツさんにそう告げて、本館を経由して前庭を目指した。途中すれ違う人たちに挨拶をしながら本館を抜ける。

 そのまましばらく歩いていくと、ほどなくして前庭から本館へ戻ろうとするハルトとかち合った。


「リク! 悪い、伝え忘れてた!」


 ハルトは私の顔を見るなり両手を合わせて頭を下げた。


「何を?」

「陛下からリクが目を覚まして落ち着いたら、リクとタツキへの称号授与式典を執り行うって言われてたんだよ。で、そこで授与される称号について前もって伝えておこうとしてたのに忘れてた!」


 手を合わせて謝り倒してくるハルト。

 なぜそんなに必死に謝るんだろうか。そんな風にされると、その称号とやらを聞くのが恐くなるんだけど。


「……ちなみに、その称号とは?」

「…………『守護聖』」


 ノォー!

 それはアルトンで必死に抹消した異名だ!!


「何で!」

「そりゃあ……我が国の首都と第二の都市を竜から防衛した上に撃退したから、だな」

「何でそれで『守護聖』なの!」

「他にも候補はあったけど、それが一番嫌がらなそうだなと思ったんだよ。タツキにも意見を聞いてみたけど、ほかの候補に比べるとやっぱり『守護聖』が一番マシだって言ってたし……」


 私の問いに答えながら、ハルトはほかに挙がっていた称号と、ハルトがそれらを省いた理由を教えてくれた。

 うぅ、確かにそれを聞いてしまうと『守護聖』が一番まともに思える……。


「それなら仕方が無いか……。でも式典をやるの? 別にやらなくてもよくない?」

「そうはいかない。さっきも言った通り、リクとタツキは我が国の首都と第二の都市を守った英雄だからな。それだけ大きな功績があるのにひっそり称号を渡すだけで終わらせたら、我が国は恩人への態度が冷たいのではないかと他国のみならず国民からも疑問に思われてしまうだろう?」


 むぅ……それは、確かにそうかも知れないけど。

 いや、そうだね、ここは私が折れるべきところだ。お世話になっている国王様の顔に泥を塗るわけにもいかない。


「了解。じゃあ日取りが決まったら教えて。まぁ、もうほぼ問題なく動けるからいつでもいいんだけども」

「そうか。じゃあ出発は三日後ということで。リクが大分動けるようになことを先日王都側に知らせたら、すぐにでも王都にきて欲しいって返信が届いたんだ。式典は十日後。ちょっと急だけど、三日後に出立しないと間に合わないだろう?」

「えぇっ!?」


 それはまた急な……!

 ……あぁ、でも。そうだね、そうだったね。アールグラントの王族はみんな一癖二癖あるんだった。それは国王様も例に漏れず。

 子供たちには苦労させられている国王様だけど、国王様自身もなかなかの曲者だったっけ。


 私は深々とため息をつくと改めてハルトに了解の意を伝えて、自室に戻った。




 ◆ ◇ ◆




 そして三日後。

 準備は万端だ。


 私、タツキ(と異空間に収納中のブライ)、サラ、お父さんは同じ馬車に乗り込み、ハルトは別の馬車に乗り込んでイリエフォードを出発した。

 今回お父さんも同行するので、留守のイリエフォードの政務はクレイさんをメインに、シタンさんとハインツさんが補佐して代行する。



 馬車に揺られながら、外の景色を眺める。

 長閑(のどか)な風景だ。この景色を見ていると、竜が二体も襲来しただなんて嘘のように思える。

 平和だなぁ。平和って、いいなぁ……なんて、しみじみ思ってしまう。



 一行は予定通りアールグラント王国の首都、アールレインに到着した。イリエフォードから首都アールレインへの旅程的に式典の当日に到着したので、支度ができ次第王城へと向かう。

 今回はイリエフォードからドレスを着せられるようなことはなかったので、王城に向かう前に街の高級住宅街にある王族用の別邸に寄って着替えることになった。


 ドレスアップ中はこれまで同様、メイドさんたちには逆らわない。されるがままにドレスを着せられ、装飾品をつけられ、薄く化粧をされ、髪を結い上げられる。

 以前に比べるとかなり気合いの入った仕上がりになった。


 てか、ちょっといいですか。

 すごい装飾品があるんですけど、何ですかこれ。


 それは妖鬼の角用に作られたとしか思えない、螺旋状の装飾品だった。黒い角に巻き付くような形状になっていて、蔓薔薇の細工が施されている。ものすごく凝ってる。

 ちなみにサラには小花の細工が入った同様の装飾品が付けられた。

 今日のためにわざわざ作ったのかしら、これ。


 ドレスも薔薇の飾りとコサージュが付いた、紫を基調としたものだった。

 以前はもっと可愛らしいドレスを着せられたものだけど、年齢的なものなのか、すっきり綺麗なシルエットに見えるドレスが着せられる。

 新鮮だけど、ドレス負け感がとんでもないことになってるよ!


 そして肩が寒い。と言うか首周りの布が少なくて落ち着かない。以前はサラが着ているような袖付きの襟ぐりが浅いドレスだったのに、今回は袖なしの襟ぐりが深めなタイプのドレスだ。

 前世も今世も胸元が寂しい私としては、このようなセクシーさが求められるドレスは居たたまれない。

 恐る恐る上着かショールを所望すると、爛々と目を輝かせたメイドさんたちから即却下された。

 だめだ、やっぱり勝てる気がしない……。



 寒い……落ち着かない……と思いながら廊下に出ると、たまたま廊下の向こうを通りかかったハルトに遭遇した。だめもとで上着が欲しいと言ってみたところ、すぐに自分が着ていた上着を肩に乗せてくれた。

 紳士……! 紳士がここにおる!


 それにしてもこれ、意外といいな……。

 ドレスの上にボレロやショールではなく、王族や貴族の男性方が着るような豪奢なコート。何だか格好良い。

 ハルトにほかのコートでもいいから借りれないか聞いてみたら、呆れた顔をされてしまった。

 何で何で?


「まぁどうしてもって言うなら、衣装部屋から好きなの持っていっていいけど……」


 最後には折れてくれるハルト、プライスレス!


 私は嬉々として衣装部屋へ赴いて、紫のドレスに合う色合いのコートを選び出した。

 紫って色合わせ難しいなー……と思いながらもお祝いの席なので明るめの色を意識しつつドレスに合うようなコートを探し出す。

 そうして見つけたのが表が白地で裏側が紺色の生地になっている、品のいい金糸の刺繍が入ったコートだった。


 折り返した襟元が紺!

 紺に金糸の刺繍が映えて格好良い!


 ちなみにこれはハルトが成人する前に着ていたものらしい。サイズの合うものを探したら、これがちょうどよさそうだった。


 ふっふっふ。

 これで肩も寒くないし、ドレスの気恥ずかしさよりもコートの格好良さで気分も上々だ。


 しかしコートを着込んだ姿を早々にメイドさんたちに見つかってしまった。

 咄嗟にまずい! と思ったのだけど、なぜか黄色い声が上がった。


「リク様、素敵です!」

「凛々しくて、正に『騎士様』です!」

「新しいファッションですね! 今後のためにもリク様のドレスに合うコートを仕立て屋に注文しないと……!」


 彼女たちの闘志にさらなる火がついた!

 でもこれは私にとってプラスじゃないかなと思ったので、特に止めることもせずに早速仕立て屋を呼び出そうとしている彼女らを温かく見送った。

 よしよし、これで今後露出度の高いドレスに涙目にならずに済みそうだ。


 ご満悦な私の隣でハルトが深いため息をついていることには、気付かない振りをした。




 そうして支度を整えて、いざ、王城へ!

 王城に辿り着くと、今や見慣れた騎士たちが作るエントランスへと続く道を、ハルトにエスコートされながら歩いていく。

 これまた慣れた光景ながら、騎士の後ろに集まっている貴族女性たちから悲鳴が上がる。ハルト人気は相変わらずのようだ……と思ったら、中には私の名前を呼ぶ声が混じっていた。

 どうやら今回の功績がかなり高く評価されているようだ。


「すごい人気だな、リク」

「そっちこそ」


 ハルトとそう言い合って、つい互いに笑ってしまう。

 周囲からはさらに黄色い悲鳴が上がった。

 「今お二人とも笑っていらしたわ!」「素敵〜!」「殿下ー!」「リク様ー!」とか聞こえる。

 ハルトは元々モテていたけれど、どうやら私もモテ期のようですね。ありがとうございます。



 そんな周囲の反応を確認しながらエントランスに入り、そのまま真っ直ぐ謁見の間へ。


 まずは国王陛下に無事回復した報告と顔見せをし、今回の称号授与に関するお礼を申し上げる。

 陛下は相変わらず威厳がありながらも優しい眼差しで私の回復を喜んでくれた。続いて火竜討伐の礼の言葉を頂き、今日の式典を楽しんでくれとのお言葉を賜って、謁見の間を退出する。


 その際に同席していたお妃様方の私に向けられる視線がやたらキラキラしていたのが気になった……けれど、見なかったことにする。ああいう目をしている時のお妃様方に捕まると色々と弄られることを、私も学習したのだ。

 とりあえずあの反応を見る限り、ドレスにコートを合わせてきたことに関しては特に問題なさそうなので、よかったよかった。



 そして太陽が天頂から傾き始めた頃。

 まだ日が高いうちに、称号授与の式典が開催された。


 場所は王城の、夜会等が行われるホール。国王陛下による口上のあと私とタツキの名が呼ばれ、御前へと進み出ると跪いて臣下の礼を取った。

 隣に並んでいるタツキも貴族の子弟のような出で立ちになっている。恐らくタツキもメイドさんたちにあれこれやられたのだろう。少々げっそりした表情をしていた。


「火竜を打ち倒し、我が国の都市・イリエフォードを救いし者、リク=セアラフィラ。風竜を打ち倒し、我が国の首都・アールレインを護りし者、タツキ。その功績を讃え、両名に我が国より称号『守護聖』を与える」


 国王陛下はそう述べると、私とタツキに立つように命じて、順に勲章を差し出した。それを私とタツキは事前に指導された通りに恭しく受け取る。

 すると、参列者たちから歓声と拍手が巻き起こった。


 うわぁ、ここに来るまであまり実感がなかったけど、称号を貰うのって思っていた以上にすごいことなのかも知れない。

 そう思ったら一気に緊張してきた……!


「そなたたちは我が国の恩人だ。何か望みはあるか? できる限りその望みを叶えよう」


 緊張でガチガチになっていると、陛下からそんな言葉を賜った。思わず私とタツキは顔を見合わせる。

 望みと言われてもね……。

 悩んでいると、タツキが陛下に向き直った。


「僕は特に望むものはありません。この国にきて家族が幸せに暮らしているからこそ、本来の守護対象であるリクから離れて力を尽くそうと思ったのです。アールグラントが無事であり、そこにリクの居場所が存在するならば、それ以上望むものはありません」


 きっぱりと言い切った。

 本当にタツキはできた子だなと、思わず感動する。

 こういう場でなければ思い切り抱きしめていたこと間違いなしだ。


「そうか。では今後望むものができた時は遠慮せず言ってくれ」


 陛下は少し残念そうにそう言うと、気を取り直して私に視線を向けた。


「それではリク。そなたは何か望みはあるか?」


 問われて、改めて考える。

 望み。望み、か。

 そうしてしばし考えを巡らせていると、あることに思い至って視線を国王陛下へと向けた。


「では陛下。この場での発言の許可と、ひとつだけ、私の望みを聞き届けて頂きたく存じます。宜しいでしょうか?」

「構わん。申してみよ」


 よし、許可を貰ったぞ。

 私は「ありがとうございます」と礼を言って、一度深呼吸する。

 そして意を決して言葉を紡いだ。


「陛下、王族の皆様……そしてこの場にいる全ての方々へ申し上げます。私は皆様もご存知の通り魔族であり、紫目の魔王種です。そして今回の火竜討伐を経て、魔王種として二次覚醒をしました」


 そう切り出すと、会場内がしんと静まり返った。

 その沈黙の意味を考えたら続きが言えなくなりそうで、私は口を動かすことに意識を集中する。


「魔王種が二次覚醒するということは、魔王種としてはほぼ完成体になることを意味しております。私も二次覚醒を経て、人族から見ても、魔族から見ても、とても危険な存在へと変質しました。まずはそのことを、皆様に知っておいて頂きたいのです」


 一度言葉を切って、深呼吸する。言葉を発するのに、ものすごく気力を使う。

 でも最後まで言わないと。伝えないと。

 その思いが、私の言葉を紡ぐ原動力になっていた。


「だからこそ私は、このままこの先もこの国で暮らしていくことはできないと考えておりました。でも、そんな私を救ってくれた人たちがいます。それは父や妹、弟、同僚……そして、友でした。私がこれからもこの国で暮らしていきたいと望んでいることを知って、その望みを叶えるために尽力してくれたのです」


 自然と私の視線が腕輪に注がれる。

 今、何よりも私に勇気を与えてくれる、大切な人たちからの贈り物だ。


「彼らだけではありません。私の身を案じて下さっていた陛下や王族の方々……ほかにもたくさんの方々がいて、私は今こうしてこの場に立つことができているのだと思っております。私は今回の件で、自分が何ものにも替え難いものをたくさん持っていることに気付けました。これ以上、何を望むことがあるだろうと……そう思っておりました」


 相変わらず場は静まり返り、私の声だけがホールに響き渡っている。

 緊張する。

 けれど、これだけは確認しておかなければいけないと思った。


「……陛下。私はこれからも、これまで通り、このアールグラント王国で暮らしていきたいと思っております。ですが、この国には私にとって大切な人たちがたくさん暮らしています。そこに私のような異物が混ざり込んでいては、不安に駆られる方々もいらっしゃることでしょう。そのような事態が予測できるからこそ、国主たる陛下のご判断を仰ぎたいのです。そしてもし許されるのであれば、私の望みを叶えて頂きたいのです」


 さぁ、言うぞ。

 私は最後の一言のために、大きく息を吸った。


「私には今、ひとつだけ、望むべきではないと思いながらも切望しているものがございます。それは先ほども申し上げた通り、これからもこの国で、これまで通り暮らしていきたいというものです。どうか、この望みをお聞き届け下さい。この望みさえ叶えて頂けるのであれば、私はこの度頂いた称号『守護聖』に恥じぬ存在として、必ずやこの国を守る盾となりましょう」


 よし、言い切った! よく頑張った、私!

 あとは陛下の返答を待つだけだ。


 拒絶の言葉を聞くのは恐い。けれど、これは確実に確認しておかなければいけないことだ。

 誰がどれだけ「ここにいていい」と言ってくれたとしても、最後の判断は国主である陛下にしてもらわなければならないのだから。


 私は緊張しながら、陛下の言葉を待った。

 しかし、陛下は「はぁー……」とわざとらしいくらい深いため息を吐き出す。

 その様子が王城に来る前のハルトの姿に重なって、親子だなぁ……と、どうでもいいことを考える。


「……リクよ。そなたが魔王種として二次覚醒したことは聞き及んでいる。そして魔王種の二次覚醒がどのようなものか、私も友好国の魔王方より聞いたことがある」


 えっ、そうなの……!?


 私は思わず目を見開く。

 てっきり私が二次覚醒したことと、魔王種の二次覚醒がどのようなものなのかは知られていないんだと思ってた。でなければ、二次覚醒した魔王種に国から称号を贈るなんて話は出てこないはずだと……思ってた……のに。


 呆然とした私の反応に、国王陛下は苦い笑いを浮かべた。

 そしてすぐに表情を引き締めて、国王としての威厳をその身に纏う。


「ゆえに、リクが自らのその強大な力を持て余して迷っているのであろうことは想像できる。だが、これだけは言っておく。私も我が家族も、そして国民の誰もが、そなたのことを危険な存在であるとは思っておらぬ。むしろ誰もがそなたを頼りにしている。だからこそ、此度の称号授与となったのだ。それだけは、忘れることなく心に留めておくように」

「は……はい……」


 陛下の威圧感に負けて、私は姿勢を正して返事をした。

 すると陛下は満足げに相好を崩し、優しい微笑みを浮かべる。


「よろしい。ではそれを理解した上でよく聞くように。リク、そなたはこの国の盾とならずともよい。盾ではなく、この国の一員として、そなたが望むがままに、健やかに暮らしていくがよい。我々もそれを心から望んでいるのだからな」


 嚙んで含めるように言葉を切って、まるで幼子に言い聞かせるように陛下が言い切った。

 途端に、私の胸にじわりと熱が灯る。


「──はい! ありがとうございます!」


 うわぁ……もう、何だか泣いちゃいそう……!

 こんなに恵まれてていいんだろうか。


 ぐっと涙を堪えていると隣に並んでいたタツキがぽんぽん、と優しく背中を叩いてくれた。

 うぅぅ、やめて、余計泣いちゃいそうだからっ!


 こちらのやり取りを見ていた参列者たちからは拍手が送られてくる。

 私があちらの立場にいたら「いい話だなぁ……」とか暢気に思っていたのだろうけれど、当事者ともなるとぐっとくるものがある。


 私はタツキとタイミングを合わせて陛下へ深々と頭を下げると、事前の指導通りに御前から下がった。下がった先でちょっと泣いた。

 泣いていたら参列していたミラーナがハンカチを差し出してくれた。


 うぅぅっ、本当にもうっ、なんで皆こんなに優しいの……!

 人の優しさが身に染み過ぎて、俄然、この国を守ろうという想いが強くなる。


 そうだ、私はアールグラント王国の『守護聖』になったのだから、遠慮することはない。

 思う存分この国を、この国に暮らす大好きな人たちを守護しようじゃないか!


 そう決めてしまえば、次にすべきことも決まる。

 次にすべきこと。

 それは、不自然に二体の竜が襲来したあの事件の原因究明だ……!!

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