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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第1章 それぞれの再スタート
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31.【リク】九歳 騎士様、再び

 タツキには念話で呼びかけたものの、どうやら友人と食事をする約束をしているとかでこちらには来れないそうだ。

 タツキのお友達かぁ、気になるなぁ。



 そんなことを考えて気を紛らわせながら、私は先日学んだ通りドレスに着替えさせられているあいだは大人しくメイドさんたちに身を任せていた。

 イリエフォードとアールレイン、場所は違えど彼女たちの闘志に変わりはなし。コルセットだけは意地でもお断りしたけど、それ以外は一切口出ししてはいない。


 なぜか途中から現れたハルトの母親である正妃様が、私が着ているドレスに合わせるアクセサリー類についてあれこれと指示を出し始めた。

 もうどうにでもして下さい。


 そうして着飾った私を意気揚揚と連れて、正妃様は隣室のサラの許へ。

 サラの方は側室さん二人がああでもないこうでもないとメイドさんたちに指示を出していた。


「お姉ちゃんー……」


 サラが怯えた目をしている。

 頑張れ、サラ。負けるな、サラ!

 お姉ちゃんはここで見守っているからね……!


 そうしてサラも無事にドレスチェンジすると、そのままお妃様方に連れられてパーティ会場へと移動した。

 連れられて、と言えば聞こえはいいけれど、こっちとしては連行されている気分だ。そんなぐいぐい引っ張っていって一体どうするつもりなんだ、このお妃様方は。


 その理由は、間もなく判明する。




 パーティ会場にはすでに多くの貴族たちが入場していた。外で見た時も思ったけど、貴族ってこんなに一杯いるんだね……!

 きっと総人口から見た割合だと少ないんだろうけど、人数にすると意外な人数になるんだろうな……。


 そんな景色を、私とサラは王族が入場する側──王族が座る席が設置されている、舞台で言うなら舞台袖側から顔を半分覗かせて見ていた。私たちの後ろではお妃様方が第三王子と第四王子にあれこれ指示を出している。

 どうやら私とサラは彼らにエスコートされて会場内に入ることになったらしい。


 ……というのはたぶん、お妃様方の独断だろう。傍にいる陛下とハルトが困惑を隠せずにいる。

 私としてはもうどうにでもな〜れ! な気分なので、暢気にこうして会場ウォッチングをしているわけだけど。


「お姉ちゃん、人が一杯いるね」

「そうだねぇ、こんなに沢山人が集まってると、ちょっと恐いね。サラは絶対お父さんかお姉ちゃんから離れないようにするんだよ。あと、何かあっても絶対攻撃魔術は使っちゃ駄目だよ。お城が無くなっちゃうからね」

「はぁい!」

「よし、いい子!」


 よしよし、とサラの頭を撫でていると、いつの間にか横に小さな女の子が立っていた。さっき紹介して貰ったぞ。確かこの子は第三王女のレナ王女だ。

 サラをエスコートする予定の第四王子のマリク王子と同じ、6歳だったはず。


 レナ王女はじっと私を見上げてきた。


「どうかしましたか、レナ王女」


 年齢的にそこまで離れてはいないけれど、やっぱり年下の子を見るとついつい妹にするような態度を取ってしまう。腰を屈めて目線を合わせてから問いかけた。

 そうしたら。


「わ、私もそれ、やってもらっていいですか?」


 と言われた。

 それ?


 彼女の示すものが何か考えていると、その視線が私の手元に向く。

 もしかして、頭を撫でてもらいたいのかな。でもそれって不敬罪になったりしませんかね。

 まぁいいや、やってしまえ!


「レナ王女はしっかりされていて、偉いですね」


 よしよし、と頭を撫でてあげるととても嬉しそうに笑った。

 うぉぉっ! ここにも、ここにも天使がおったっ!!

 なんて癒されていると、いつの間にかマリク王子も頭を差し出して立っていた。

 えぇぇ、ちょっと、ここの王族弟妹みんな可愛いな!


「マリク王子、サラのことをよろしくお願いしますね」


 よしよし、と頭を撫でる。マリク王子は笑いこそしないものの、照れた顔になった。

 もぉぉっ、可愛いなぁ!


 そんなやり取りを見ていた陛下とハルト、ノイス殿下がくすくすと笑っている。

 ちょっとそこの笑ってる男性陣、お宅の年少者さんたち本当に可愛いんだから、もっと愛でてあげてよね!

 恐れ多くて直接言えないけどさ!


「リクもいい子いい子」


 唐突に頭を撫でられたのでそちら見上げると、お妃様方が次々と私の頭を撫でてきた。

 は、恥ずかしいっ! けど何だか嬉しい。

 母がいなくなってから大人の女性で甘やかしてくれたのはラセットさんだけだったからなぁ。ついにまにまと口許を緩めていたら、正妃様にぎゅっと抱きしめられた。


「あぁっ、私この子欲しいわぁっ! ハルト、リクを婚約者にしたら?」

「「えぇっ!?」」


 私とハルトの声がハモる。

 いやいやいや、何言っちゃってるの、正妃様!

 私とハルトは揃ってぶんぶんと首を横に振った。


「あらぁ、ハルトがいらないなら、わたくしが頂いてもいいかしら」


 そんな会話に、遅れて現れた一人の女性が割って入る。深紅のドレスに身を包んだ、豊かな黒髪に空色の瞳の超絶美女だ。

 だ、誰……。


「初めまして、リク。わたくし、ハルトの姉のイサラですわ。よろしければ今日はわたくしをエスコートして下さらないかしら?」


 その美女は何とハルトのお姉さんだった。

 そう言えばさっき他の王族兄弟を紹介された時、今日は所用で遅れているハルトのお姉さんがいるって聞いたっけ。てことはこの美女さん、まだ14歳だよね。凄く大人っぽい!


 けどちょっと待って。

 今この人、私にエスコートを依頼してきませんでしたか?


「……私、ですか?」

「そう、あなたですわ。『騎士様』」


 バチン、とウィンクしながら優雅な所作で手を差し出される。

 うぉぉ、やばいやばいっ! 何でかわからないけど、私、女の人に弱い傾向にあるんだよね。ちょっとぐらっときた。そっちの気はないけども!


 しかし今、イサラ王女が現れてくれたおかげで怪しげな方向に進みかけていた会話が上手いこと途切れてくれたんだよね。その感謝の意として依頼を受けることに吝かでない。


 私は差し出された手を取り、にこりと微笑んだ。


「承りました、イサラ王女。私でよろしければ、ご一緒させて頂きます」


 そう応じると、周囲から何とも言えない、微妙な反応が半分。男性陣の反応だ。対して女性陣からは「あら素敵ね〜」と、のんびりした反応が返ってきた。

 この王族の女性陣、変わり者が多いのかも知れない。

 ここまでのやりとりを振り返って、なんとなくそう思った。




 国王並びに王妃様方が会場に入ると、夜会開催の宣言が成された。先ずは王太子のノイス殿下が呼ばれ、次にハルトが呼ばれて会場へと入っていく。

 裏側ってこうなってるんだなぁと関心しながら見ていると、さっそくイサラ王女の名が呼ばれた。同時にエスコート役の私も名前を呼ばれて、イサラ王女をエスコートしながら入場する。


 その異色の組み合わせと私の姿に、会場はざわめいた。父はすっかりこの国に馴染んだようだけど、やっぱりまだ魔族に対する反応は様々なようだ。

 覚醒後の私の地獄耳はしっかりと「魔族だ」と呟いたどなたかの声を認識しておりますよ。


 その後も次々と王族が呼ばれては会場に入り、途中、第四王子のマリク王子と共にサラが入場した時も会場内はざわめいた。しかしサラがあまりに可愛いからか、私の時のような恐れを帯びた声は上がらなかった。

 この差! まぁいいんだけどさ。私だってちょっとくらいは傷つくのよ……。


 王族が全員会場入りすると、二階層分の吹き抜けになっているホールの左右、劇場で言うなら貴賓席のような場所に控えていた音楽隊が緩やかな楽曲を演奏し始めた。貴族方は我先にと王族席へと挨拶に訪れる。

 そのタイミングでさりげなく父がサラの隣に立った。ちら、と視線を向けると小さく頷いていたから、サラのことは任せて大丈夫そうだ。

 私は相変わらずイサラ王女をエスコート中で身動きが取れないし。


 本当に、冗談抜きで身動きが取れない。


 イサラ王女の許にはその美しさゆえに、若い貴族が殺到してきていた。本人はにこやかに対応しつつ、私の腕に手を乗せている。

 その手をちらちらと貴公子たちが見ているのがわかってしまうから落ち着かない。とりあえずイサラ王女を見習って微笑みを崩さない努力だけしておく。


「イサラ様、本日もご機嫌麗しゅう」

「今度我が家で催される茶会には是非」

「先日我が家の庭に咲いた大輪の花がまるでイサラ姫のようで」


 すごい猛攻だ。

 しかしイサラ王女も歴戦の王女。ものすごい回避力で彼らからのお誘いを躱していく。

 本当、王族って大変だなぁ。


「ところで本日エスコートされているリク様は、冒険者たちのあいだでは大層有名な御方だそうで」


 不意に話の方向性が変わった。急に話を振られて反応が遅れる。


「そうですの。皆様ご存知? リクは女性の味方、『騎士様』ですのよ。本日はお願いして、特別にわたくしの騎士様になって頂いたんですの」


 私が対応できなくてもイサラ王女が綺麗に対応してくれた。ほっ。

 ……としたのも束の間。


「リク様は大変可愛らしい御方ですね。あちらに飾られている可憐な花によく似ておられます」

「えっ、あら、それは……恐縮です。花に例えて頂くなんて、初めてです」


 イサラ王女が他の貴公子たちにまたもや猛攻を受け始めたタイミングで別の貴公子がなぜか私に声をかけてきた。どう対処したらいいのかわからず適当に言葉を並べ立てて対応する。

 ていうかよく見たらイサラ王女側の列とは別に、なぜか私の前にも列ができてるよ!?

 妖鬼が珍しいのはわかるけど、私は見世物じゃありませんよ!


「リク様、実は我が家にはリク様と年の近い妹がおりまして。以前からリク様の武勇伝を聞いてはお会いしたいと……」

「リク様、それでしたら我が家にも幼い妹が」

「それでしたら私の姪も」

「私の弟も」


 っぎゃー! 対処しきれないっ!!

 ていうかそっちか、武勇に憧れてる系か!

 そう言われちゃうと断りにくいわっ。


 イサラ王女がちらちらとこちらを見ながら何とか助けようとしてくれているのは伝わってくるものの、お年頃の美しい王女様への貴公子たちのアタックは留まるところを知らない。

 私は頭が働かず、「光栄です」「ありがとうございます」「よろしくお伝え下さい」を壊れたロボットのように繰り返すことしかできなくなっていた。

 その時。


「失礼」


 横から割って入るように、ハルトが現れた。その後ろには大量のご令嬢たちがついてきている。

 そっちもか!


「申し訳ありませんが、彼女はこのような場に慣れておりませんので少々疲れている様子。お話し中ではありますが、少し休憩を取らせてあげてもよろしいですか?」


 ハルトー! ブラボーーー!!

 私は内心でハルトに拍手喝采を送った。隣で貴公子たちを捌いていたイサラ王女がびっくりした顔をしている理由はわからないけれど。


「あら。それでしたら申し訳ございませんけれど、わたくしも少々失礼させて頂いてもよろしくて?」


 すぐさま表情を取り繕って、イサラも便乗してきた。

 勇者様と超絶美女の申し出に逆らえる者などなく、私たちは無事貴公子たちの列から脱出できた。ついでとばかりにハルトも背後にいた令嬢たちに似たような理由を話して脱出する。

 三人揃って壁際までくると、給仕さんが持ってきてくれた冷えたジュースを受け取る。


「た、助かった……。ありがとう、ハルト」

「いや、なんだかかつての自分を見ているようで……」


 目を回す寸前まできていた私が礼を言うと、ハルトの方は苦笑いを浮かべた。


「そうですわねぇ。かつて囲まれて捌き切れずにいたのはハルトでしたのにね。あの頃はわたくしが助けて差し上げていたものですが、今日はびっくりしましたわ。まさかそのハルトがリクを助けるなんて。成長しましたわね」

「姉上の真似をしてみただけですよ」

「ふふ。よき姉を持ったことに感謝なさいな」

「えぇ、感謝していますとも」


 なるほど、さっきイサラ王女がびっくりしていたのはそういうことだったのか。

 しかしこの姉弟、仲がよさそうだなぁ。会話のテンポがいい。息が合っているというか。


 そんなことを考えながらも視線はテーブルに並べられた料理に向いてしまう。立食でも食べ易いように一口サイズのものが多い。

 つい物欲しげに眺めてしまっていたのだろう。


「これとか美味しくてお勧めだな。こっちは酸味があるデザート系。そっちのは塩味がある主食系」


 横からハルトがお勧めを教えてくれた。


「あら、でしたらわたくしからはこちらをお勧めしますわ。リクは甘いものはお好き? こちらはクリームがさっぱりしているのですが、スポンジに挟まれている果実がとても甘くて美味しいんですのよ」


 すかさずイサラ王女もお勧めを教えてくれた。

 親切姉弟!


「じゃあお二人のお勧めを頂きます」


 勧められたものはどれも見るからに美味しそうで、どれから食べようか悩んでしまう。

 でも私は主食からのデザート。この流れを乱す奴ぁ許せねぇ! というタイプなので、塩味があると言うキッシュに似た料理に手を伸ばす。


 美味しいっ! あぁ、幸せ〜。

 タツキもこっちにくればよかったのに!


「ふふふ。妖鬼は食事はしないと聞いていましたけれど、リクは幸せそうな顔で食べますのね」

「だって美味しいんですもの! あ、でも父は全く食べないんですよ。私や弟や妹がどんなに勧めても全く興味を示さなくて。ん〜、このイサラ王女お勧めのデザートもすごく美味しい〜!」


 ここが天国か! 布団はふかふか、ご飯も美味しい。幸せコンボのレベルが違い過ぎる!

 もちろん、アルトンのラセットさん特製料理とあの家の布団のふかふかも負けてないけれど、あちらとこちらではジャンルが違うから比べようがない。


 私が一口料理に舌鼓を打っていると、「あら」とイサラ王女が会場の方を振り返って声をあげた。


「あらあら、ミラーナ様が嫌な御方に絡まれてますわ……」

「あれはルーガ侯爵家のご令息ですね。嫌な方なんですか?」


 イサラ王女が声を潜める。対してハルトも声を潜めてイサラ王女に問いかけた。

 私もフルーツ入りで酸味のあるデザート系キッシュもどきを食べながらそちらを振り返ると、金髪碧眼の美少女が二十歳くらいの男性にしつこく声をかけられている光景が目に飛び込んできた。


 おぉっ、あの子、サラ並みに可愛い!

 そしてその子が表情には出していないものの、嫌悪感を持って対応しているのが感じ取れた。

 私はごくりと口の中の物を飲み込むと、ジュースを一口。


「彼はお見合いと言うお見合いで失敗を重ねて、未だに婚約者がいないことで随分とお父上からせっつかれているようですわ。そこで彼が見初めたのがミラーナ様。彼女可愛いから……」


 そこまで口にして、イサラは声を一層潜めた。


「ただ噂によればあの男、しつこく言いよるだけでは飽き足らず彼女の縁談を片っ端から邪魔しているとか。本当、碌でもない下衆な男」


 お、なになに。今、美しい王女様の口から聞こえたとは思えないようなドスの利いた声がしたような?

 しかも表情がすごく険しい、険しいよ!


「姉上、素が出てますよ、素が」

「あら、嫌だわ。忘れて下さいな」


 すかさずハルトが突っ込みを入れる。するとイサラの表情もころりと変わる。もとの美しい微笑みが帰ってきた。

 なるなる。イサラ王女はなかなか面白い御方のようで。


 それにしても。


「あの子、本当に嫌そうですね。あれって邪魔したらまずいですか?」


 思わずそう問いかけると、私の意図が理解できずにきょとんとするハルトに対して、私の意図を正しく理解したイサラ王女が黒いオーラを纏った微笑みを浮かべた。


「さすが『騎士様』ですわ。ぜひ助けてあげて下さらないかしら」

「わかりました、暴力なしでがんばります!」


 私は応じるなり素早く移動した。走ってはいないけど、歩ける速度では最速だ。

 すぐに(くだん)のふたりの許へ辿り着くと、私はミラーナという名前らしい少女の手を引いた。うっかり折ってしまわないように、細心の注意を払いながら。

 そのまま彼女を背中側にかばうと、熱心に彼女に話しかけていた男が表情を険しくする。


「何ですか、あなたは。私は今ミラーナ様とお話しをしているのです。邪魔しないで頂きたい」

「申し訳ございません。こちらのお嬢様の顔色が優れないようでしたので、休憩にお誘いしようと思ったものですから」


 さっきハルトが助けてくれた時の文言を流用してみる。しかしルーガ侯爵家の御曹司はあからさまに不機嫌顔になった。

 背後にかばったミラーナさんは私の背中に隠れるようにして身を縮みこませている。御曹司の顔が怖かったのだ。御曹司に向けられている恐怖の感情が背後からビシバシ伝わってくる。


「ミラーナ様は、そんなこと一言も仰っていませんよ」

「こちらのお嬢様のような内気そうな御方はなかなか言い出せないものですよ。そういう時は、周囲の人間がさりげなく気遣って差し上げるところではありませんか?」

「何を……魔族の、分際で……!」


 おっ、言ったな。

 まぁ確かに私は魔族だけども。でも分際って、ねぇ?


「それとこれと、何か関係がありますか?」

「何だと!? 黙れ、魔王種が!」


 おぉ、おぉ。そんな大声出しちゃって。それは御家の恥になりはしないかね。

 というか、私が魔王種だってわかってるならもう面倒くさいから怖がってくれてもいいのよ?


 さて、それは口に出さないにしても、暴力なしで解決するには次は何と言えばいいかなぁ。

 挑発しているつもりはないのに、勝手にヒートアップしていく御曹司の相手をするのが割と本気で面倒くさくなってきた。このままミラーナさんを搔っ攫っちゃった方が楽かもしれない。

 そう思った時。


「聞き捨てなりませんね、ルーガ侯爵家の御方」

「わたくしもですわ。まさかこの王家の夜会にこんな野蛮な人がいるなんて、信じ難いですわ」


 いつの間にか左右にハルトとイサラ王女が立っていた。


「あなたが魔族と罵った彼女は私の友人です。私の友を罵ることは、私を罵るも一緒。しかもあなたの言葉は我が国が保護する人物にかけていい言葉ではない。魔族であることが悪であると言わんばかりなのも理解し難い。一体どういうおつもりか、お聞かせ願いたい」


 これまでに聞いたことがないような強い口調だった。

 ハルトが一歩、御曹司に近付く。対する御曹司は自分よりも身長が低く年下のハルトに気圧されて一歩引いた。


「さあ、お答え下さい。一体どういうおつもりなのか」

「もっ、申し訳ありません……! 失礼致します!」


 更にもう一歩踏み込んだハルトに気迫負けして、御曹司は慌てて会場の外へと去っていった。

 周囲の人たちもそれとなく様子を見ていたようだけど、一件落着したのでそれぞれの会話に戻っていく。ただその会話の中にちらほら「魔族が殿下の友人」とか「勇者が魔王種と馴れ合って」とか、あまり聞きたくない類いの単語も聞こえてきた。


 向こうは聞こえていないつもりなんだろうけど、私の地獄耳にはしっかり届いちゃってるんですよー……はぁ。そう思いながらちらりとハルトを見ると、ハルトも何とも微妙な、苦い表情をしていた。

 ハルトも覚醒済みの神位種だから、五感とかが通常の人族と比べて鋭くなっているのかも知れない。だったら私と同じように色々と聞こえちゃってるんだろうなぁ。

 お互いに、難儀なことだ。


「あっ、あの……!」


 小さくため息をつくのと同じタイミングで、背後から声をかけられる。振り返ると金髪碧眼の美少女が私の手を取り、じっとこちらを見ていた。

 うっ、眩しいっ!


「ありがとうございます、リク様! 私、本当に困っていて、どうしたらいいのかわからなくて……!」


 安心したのか、目が潤み出す美少女ことミラーナさん。守ってあげたいタイプとは、正に彼女のような人を指す言葉だと思う。

 私はそっと彼女の手を握り返した。


「もう大丈夫ですよ、ミラーナさん。あの陰険男、またしつこくしてきたら言って下さいね。私がミラーナさんを必ず守って差しあげますからね!」

「あぁっ、騎士様!」


 おっと、そうか、これがいけなかったんだった。

 私は久々に自分が『騎士様』と呼ばれる所以を思い出した。


 でもま、いっか。

 ララミィさんの時も思ったことだけど、今世の私は結構強いからね。彼女を守る力くらいは持っているつもりだ。


 涙ぐむミラーナさんの頭をよしよし、と撫でてあげる。

 たぶん同じ年くらいなんだろうなぁ。身長も似たような高さだから端から見たらちょっとおかしな光景に見えるかも知れない。


「ははぁ、なるほどなぁ……それで『騎士様』か。なるほど、なるほど」


 そんな私たちの傍らでしきりに頷いているのはハルトだ。

 いやいや、本来だったらあそこはもっと早くハルトが助けに行けばよかったんじゃないの?

 そうは思うけれど今更言っても仕方がない。今回は私が手柄を頂いたということで目を瞑ってあげよう。




 その後の夜会は何事もなく終わりを迎えた。

 結局この夜会でハルトやノイス王太子殿下が婚約相手を決めることはなかったようだ。


 夜会終了後にはミラーナさんのお父さんにあたるエルストン公爵から重ね重ねお礼を言われて、今度遊びに来て下さいと招待までして頂いた。

 ミラーナさんも去り際に是非お友達になって下さい! と言ってきたので、大喜びで了承した。


 ふふふ、予期せず美少女なお友達ができちゃったよ!

 今度ガールズトークしに遊びに行っちゃおうっと!

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