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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第1章 それぞれの再スタート
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27.【リク】九歳 再会への道程

 旅路は順調だった。城塞都市アルトンを南下し始めて四日で騎士国ランスロイドの関所に到着する。

 関所は『アールグラント王国のハルト王子』……と言うよりも、『勇者ハルト』の遣いの者であるイズンさんがあっさり手続きを済ませて簡単に通過できた。


「ずいぶん簡単に通れるんですね?」


 疑問に思って問いかけると、イズンさんは首元からギルドカードのような物を取り出した。近付いてよく見てみると、ギルドカードより少し大きめの青いプレートだった。


「これは少々特殊な、ハルト殿下の配下である証しです。ハルト殿下には神殿より各国の関所を自由に通過する権利を与えられておりまして、その権利を一部の配下にも使えるようにとこの証しを作られました。乱用はできませんので数は少ないのですが、神殿特製の認定証なんですよ」

「へぇー」


 神殿、神殿……ねぇ。


「その神殿って、神官服の色は黒だったりします?」

「は……? いえ、イフィラ教の神官服は白ですよ」

「そうですか、よかった」


 てことは、あの“研究者”に関わる神官服たちはこの大陸の神殿とは無関係っぽいな。裏組織って可能性は捨て切れないけども。

 イズンさんはちょっと不思議そうに首を傾げていたけれど、そのまま御者としての仕事に戻った。


 はぁ〜、それにしても馬車って結構揺れるなぁ。

 乗り合い馬車に比べれば貴族用のこの馬車はきっとかなり快適なんだろうけど、徒歩でしか移動したことないから落ち着かないわぁ。

 そんなことを暢気に考えていると。


「あっ! お姉ちゃん、あそこにおっきな牛さんがいる!!」


 唐突にサラが叫んだ。

 おっきな牛さん??

 首を傾げながらサラが示す方を見ると、とんでもなく巨大な黒い牛がこちらに向かって来ていた。イズンさんもそれに気付いて慌てだす。


「くっ、黒牛魔だ! まずいですね、このままだと逃げ切れません!」


 何ですと!?


「あれが、黒牛魔……! タツキ、やっちゃおっか!」


 黒牛魔とは、討伐依頼ランク5の難敵だ。

 通常はパーティで挑むような相手で、今ここにいる人数で挑むような相手ではない。


 ただ、私たちは知っていた。あの巨大な牛は高級干し肉の素材であり、その身はとんでもなく美味で高値で取引されていると。

 前に黒牛魔を倒したリッジさんが大盤振る舞いでギルドにいたみんなに食事を奢っていたのを思い出す。

 それだけ実入りがいいのだ。見逃す手はないし、初見だけどやってやれないことはないだろう。

 タツキもやる気のようで、すぐさま精霊石から出てきた。


「あれくらいならリクだけでも倒せちゃいそうだけどね。僕は何をすればいいの?」

「私に結界魔術をかけて。私は思いっきり強化するから、それに合わせる感じで!」

「ちょっ、リク様!? 本気ですか!」


 やる気満々で馬車から下りる私に、イズンさんが大慌てになる。

 私は実際には出ないけれど力こぶを作るポーズを取って、


「当然! 任せて下さいっ!」


 すぐさま自分に身体強化の付与魔術を強めにかける。直後、体が一瞬熱を帯びた。

 よしよし、なかなかのかかり具合だ。


「そう言えば、黒牛魔の弱点ってどこだっけ?」

「角じゃなかった?」


 私とタツキは顔を見合せて目をぱちくりと瞬かせる。


「あれ? 角は力を削ぐだけじゃなかった?」

「お姉ちゃん、リジさんが弱点はうなじって言ってたよ!」


 ひょこ、とサラが馬車の窓から顔を出す。

 さすがサラ! 天才っ!


「ありがとう、サラ!」

「大丈夫だと思うけど、一応気をつけてね」


 言いながらタツキが結界魔術を発動する。

 刹那、私の体の周りを金色の光が包み込み、そのまま消えた。

 結界魔術もしっかりかかったし、心置きなく全力で行こうか!


 私はさっそく地を蹴って走り出した。黒牛魔も突進しながら向かってきていたので、すぐに互いが互いの射程距離に入る。

 それにしても本当におっきいなぁ。ゾウの倍くらいの大きさに見える。

 一体何を食べてこんな巨体を維持してるのか気になるところだけども──。


 黒牛魔が突進しながら頭を下げ、角を突き出す。人族からしたら相当なスピードに感じるだろうけど、妖鬼なら何ということもないスピードだ。

 身体強化中の私ならしっかり見極めてからでも余裕で回避できる。


 私は黒牛魔の突進を跳躍して躱すと着地と同時に振り返り、助走をつけて黒牛魔の後ろ足に飛び蹴りを放った。

 ボギンッと音がして、黒牛魔の足の骨が折れる。


「グモォォオオ!」


 バランスを崩した黒牛魔はそのまま倒れ──なかった。根性で三本足で踏みとどまる。

 あの巨体を三本足で支えるなんて、一体どういう体の造りをしてるんだろうか。


 それにしても、こっちの世界の牛も鳴き声は「モー」なんですね。

 鳴き声が同じってことは体の構造が前世の牛と同じ、もしくは近いのかしら。

 てことは、草食? あの巨体で??


 そんなことを考えているあいだに、黒牛魔は方向転換しようとしていた。

 しかしやはり足が一本使えないのは相当な痛手のようだ。その動きはどう見てもよたよたしている。

 これは足をもう一本折って動きを止めた方が安全かな……。


 そう判断して、黒牛魔が方向転換を終える前にもう一本の後ろ足に向かって走る。

 しかしさすがに同じ手は食わないようだ。私が飛び蹴りをしようとした瞬間、黒牛魔の足下から砂塵が噴き上がった。魔術を使われたらしい。


 予想外のことに反応が遅れ、慌てて目を庇った──ものの。

 幸いと言うか何と言うか。失念してたけど私、タツキに結界を張って貰ってたんだっけ。

 そのタツキの結界が迫り来る砂塵を弾き飛ばしてくれた。

 危なかったぁ。けどセーフセーフ。


 しかし思ったより面倒そうな相手だなぁ。やっぱりタツキに頼めばよかったかな。

 いやいや、チートに頼って自分が楽してたら、将来自力で生き残れなくなっちゃうから駄目だ。

 気をしっかり持て! 私っ!


 黒牛魔はどうやら自らが使った砂塵の魔術のせいで私を見失ったようで、きょろきょろし始めた。

 決めるならこの砂塵があるうちかも知れない。安全を重視して足をもう一本どうにかするよりも、いっそ弱点をダイレクトに攻めるのも手かな?

 うーん、どうしよう。


 少し迷ったけれど、私は黒牛魔の弱点、うなじを狙う方針に切り替えた。

 足を狙うたびに砂塵を使われていたのでは手間がかかりすぎるし、時間がかかればかかるほど危険度が増すのが魔物というものだ。


 決断と同時に私は地を蹴って黒牛魔の背中に着地した。皮膚が厚すぎるのか私が上に乗っている感覚がないらしく、全く気付かれていない。

 それは良いことなのか、悪いことなのか……私からしたら、悪いことかな。

 何せそれだけぶ厚い皮膚を突き破らなければならない。となれば、取れる手段は少ない。


「早速使わせて頂きます!」


 今持ってる刃物はこれだけだ。勿体ない気持ちもあったけど、アルトンで貰った魔剣を鞘から引き抜いた。

 そして思いきり振りかぶり、黒牛魔のうなじを斬りつける。


 しかし。


 ちょっとしか傷がつかなった。

 しかもそのちょっとした痛みで黒牛魔に私が背中に乗っていることに気付かれてしまった。

 マズい。


「リク様、魔剣は魔力を流して使わないと切れません! 魔剣に魔力を流して下さい!」


 馬車の方からイズンさんが叫んだ。黒牛魔がその声に反応して馬車の方に向き直る。

 うわぁぁ、これは黒牛魔を仕留めるかこっちに気を引かないと馬車が危ないじゃんっ!


 私はイズンさんのアドバイスに従って、魔力を魔剣に流す。

 要領は付与と同じだ。付与は得意だから、呼吸をするようにできる。

 魔剣に魔力が流れると、刀身が蒼い輝きを纏った。


 ……うん。そろそろわかってきたよ、この蒼く輝いて見えるものが何なのか。

 これは魔力そのものだ。魔力を視覚的に認識した時、現れるのがこの蒼い光なのだ。

 つまり今魔剣に起こっているこの現象は、ちゃんと魔剣に魔力が流れている証。


 黒牛魔が馬車に狙いを定め、ぐっと身を低くした。恐らく突進に向けた予備動作だろう。

 後ろ足が一本使い物にならないのに、この黒牛魔の闘志に揺らぎはないらしい。


 私は急ぎ黒牛魔の頭頂部へと移動した。

 うなじへの攻撃が確実に決まるかわからない。ならば確実に黒牛魔の気を引く!

 策はある。妖鬼も含め、角を持つ生物の多くは角を失うと大きく力が削がれるのだ。

 ならば。


「はっ!!」


 魔剣を一閃。

 左右の角を一息に切断すると「グモォォオアア!!」と叫びを上げて黒牛魔が横倒しに倒れた。うっかり下敷きになって潰されないように、慌てて黒牛魔から飛び降りる。

 黒牛魔は角を切られたのが余程痛かったらしく、その巨体で地面をのたうちまわった。


 こ、恐いっ! こんなに暴れられたらうなじなんて狙えない!

 これは完全に順番を間違えたなぁ……やっぱり最初から弱点を狙っとくべきだったかしら。

 優柔不断って、こういう時裏目に出るよね。


「お姉ちゃん!!」


 どうしたものかと悩んでいたら、いつの間にか走り寄ってきていたサラがさっと構えた。

 そして。


「──其は空を渡るもの。

 我が声を聴き、応えよ。

 望むは大気を走る刃。

 その身を磨ぎ、集い、我が敵を切り裂け。

 風刃!」


 風属性の攻撃魔術が放たれる。

 風の刃が次々と生み出され、黒牛魔に襲いかかっていく。


 あぁ、この魔術。懐かしいなぁ……。

 お母さんがゼイン=ゼルの手下を仕留めた時に使ってたっけ。


 なんて考えているあいだに、風の刃が黒牛魔のうなじに次々と突き刺さっていった。

 えぇっ、ちょっとサラ、魔術の狙いまでつけられるようになったの!?

 いつまでサラを守る立場にいられるんだろうなぁとか思ってたけど、すでにサラは十分な強さを身に付けているみたい。これならそろそろ魔法陣を教え始めてもいいかも知れない。


 サラの教育計画を前倒しする算段を立てる私と呆気にとられているイズンさんの目の前で、黒牛魔はぴくりとも動かなくなった。

 そりゃそうだ。だってサラの魔法が強すぎて、黒牛魔の頭は奇麗に胴体から離れてしまったのだから。

 本当、お見事としか言いようがない完璧な魔術だ。


 あぁ、私が欲しかった能力はサラが持ってたのかぁ。

 ……う、羨ましくなんてないんだからねっ!




 その後は倒した黒牛魔をどうするか話し合い、寄り道をしている時間が勿体ないという結論が出たため、タツキの力に頼ることにした。


 タツキの力、即ち、分解と再構成。


 一旦黒牛魔を分解して、どこにその分解されたものが消えるのかはわからないけれどそのままタツキが保持し、道中の食料として適宜再構成して戻すことにしたのだ。

 仕組みはよくわからないんだけど、分解したものを再構成しても鮮度は落ちないらしい。

 タツキに詳しく聞いても濁されてしまうから、言いたくないことなのかも知れない。


 正直なところ、黒牛魔の肉はギルドに持って行って売りたいところだけど、今は事情が事情だから半分諦めている。私も一刻も早くお父さんに会いたいし、ハルト殿下の正体も気になる。

 なので、もしお父さんと再会するまで黒牛魔の肉が残っていたら最寄りのギルドで売り捌けばいいかと思っている。黒牛魔の毛皮と角も売れるらしいから、その部位の回収と保持もタツキにお願いしておこう。


 それとは別に、本当はランスロイドがどういう国かもちょっと気にはなっているんだけれど、それもまたの機会に観光にこようかなと……思いつつ、イズンさんに途中で街に寄る予定はないか問い合わせてみたところ、残念ながら宿場町が二カ所あるだけの最短ルートでアールグラントに向かっているという返答を頂いた。

 ……うん。やっぱり別の機会にゆっくりランスロイドの観光をしよう。




 馬車の中で私は早速サラに魔法陣についての説明をした。

 内容は私がかつて母から教えられたものと同じだ。


 魔術の発動手段は三つあって、一つ目が詠唱、二つ目が魔法陣、三つ目が思念発動。

 身内贔屓とかそういうのを抜きにしても、サラはとても賢いと言うか、記憶の引き出しが多く、知識の吸収速度もすごく早いように感じる。


 詠唱について説明するとこれまで覚えた詠唱を魔力を込めずに口にして、私が説明した詠唱の第一節から第四節までのその構成を再確認したり。

 魔法陣は道具として使うことが多いことと、主な形態としてスクロールとコードとタリスマンがあることを話したら、すぐさま私がアルトンでリッジさんたちから貰ったブローチを指差して「それがタリスマンなんだよね?」と言ってきたり。スクロールについては、私が日頃魔法陣を描く練習をしていたのを指摘して「お姉ちゃんがいつも描いてたのがスクロール?」と聞いてきたり。


 残念ながら私はまだスクロールを作ったことがないけど、サラは的確に記憶の中のものと今説明されているものを符合させていった。

 これが天才というものか。




 そうこうしているうちに一つ目の宿場町に到着した。

 オルテナ帝国と騎士国ランスロイドの国境にあった関所を通過して、すでに半月が経過していた。


 この宿場町はランスロイド北西部に広がる山地の中ほどにある。

 わりと魔族領に近いため、魔王ゼイン=ゼルと敵対していた際にはこの宿場町にも時々魔族が襲いかかって来たそうだ。しかし立地的に侵入が難しい場所なので、そう何度も攻め込まれることはなく。被害もさほど酷くなかったらしい。

 実際、魔王ゼイン=ゼルが倒されてまだ一年にも満たないけれど、この宿場町は活気に溢れ、そのような爪痕は見当たらなかった。


 何事もなくこの宿場町で一泊して、食料品や必要な物資を購入するとまた翌日には馬車で南下を始める。山地を抜けると今度は森が広がっていた。

 イズンさんが言うには次の宿場町に辿り着くまでのあいだ、ほとんどの道程が森の中になるそうだ。


 森は魔物が多く出没する危険な場所だけど、そんな場所に街道が整備されているのが何とも不思議だ。

 思わず「なんでこんなところに街道を作ったんだろう」と呟いたら、「この街道はかつて各国の神殿を巡礼する際の順路だったそうです」とイズンさんが説明してくれた。

 どうやら神殿の巡礼のための街道は基本的に危険な場所に設置されているらしく、巡礼者はそういった場所を護衛を連れて巡り、恐怖に打ち勝って精神を鍛える……と言う、命懸けの修行を兼ねた旅をしていたらしい。

 この街道も今となってはアールグラントとオルテナ帝国の最短ルートとして使われているけど、交易路としての使い道もあるからランスロイドが有償で管理しているのだとか。


 そんな話を聞いていると、不意に道の横に石造りの建物が見えてきた。


「あそこが街道を守護する騎士が常駐している簡易砦です。ここまで魔物がいなかったのも、彼らが頻繁に魔物を討伐してくれているおかげですね。もう少し進むと通行料を支払う関所があります」

「へぇー」


 何となく、イメージ的には高速道路っぽいなぁと思う。通行料を支払う関所は料金所みたいな感じだろう。


 しばらく進むとイズンさんが言った通り、簡易的な造りの関所があった。

 街道を塞ぐようにちょっとした建物があり、街道を直進するには通行料を支払って門を開けて貰わなければいけない。

 うんうん、やっぱり料金所っぽい。


 イズンさんが例の青いプレートを見せつつ、角銀貨を5枚渡した。

 通行料、日本円にして五万円也。

 私たちは商売人じゃないのに結構取られるんだなぁ。それだけこの街道の安全を維持するのが大変だってことなんだろうけども。


 通行料を受け取った役人さんの指示で、門が開いた。

 そのまま関所を通過し、次の宿場町を目指す。




 その後もトントン拍子で馬車は進み、ランスロイド通過中は最初に黒牛魔が出たこと以外は何事もなく全行程一ヶ月半の道のりを走破した。

 あまりの呆気なさにびっくりする。


「ランスロイドは優秀な騎士が各地にいて魔物の間引きに余念がなく、元巡礼路の街道もあの通り完璧に管理されてますからね。最初に黒牛魔なんて大物と出くわしたことが異例中の異例なんですよ」


 と、苦笑するイズンさん。


 つい今しがたランスロイドとアールグラントとの国境を越え、今は国境から三日の距離にあるセンザという町を目指している。

 その町から更に五日かけて移動したらアールグラント王国の首都・アールレインに着くそうだ。しかし今現在、父もハルト王子もアールレインにはいないらしい。

 今二人は王都から更に南西へ六日移動した位置にあるアールグラント第二の都市、イリエフォードにいるそうだ。


 何でもハルト殿下はアールグラント王国の第一王子で、本来なら王太子の立場にいるはずだった……のだけど、色々な事情があって王位継承権を放棄。現在は現王太子ノイス殿下の補佐に任命されているのだそうだ。

 だったらアールレインにいるんじゃないの? と疑問を抱くところだけど、その役割とは別にアールグラントの王族男子は成人したらイリエフォードを一定期間統治することが定められているそうで、ハルト王子はまだ成人していないながらもすでにイリエフォードで領主の補佐についているらしい。


 なんだかとても忙しそう。王族に生まれてさぞ大変な思いをしてるんだろうなぁ、ハルト殿下は。

 私も妖鬼に生まれて大変っちゃ大変だったけど、頭を使うよりも体を張ることの方が大半だったから、元一般人としては王族に生まれるよりはましな生まれだったんじゃないかと思う。

 まぁ、魔王種ではありますけどね。幸い魔王種だからってそんなに不便は感じてないからなぁ……。



「本来であれば一度アールレインにて王と面会して頂きたいところではあるのですが、陛下からは親子の再会を優先するようにとの命を受けておりますので、このままイリエフォードに向かいます」


 そうイズンさんが説明してくれたのは、王都アールレインを横目に馬車を走らせている時のことだった。


「すごいおっきいねぇ」


 サラが城壁の奥の更に奥に見える城を見ながら感嘆の声をあげた。

 私もこの世界にきて城を見るのは初めてだ。城塞都市の領主の館とは比べ物にならない……そもそも造りが違う、本物のお城だ。

 すごいなぁ。あぁいう城は前世のテーマパークでしか見たことがないよ。

 あそこに住む権利があるという点では、王族に生まれたハルト殿下がちょっと羨ましくもあるな……。


「後日アールレインにて陛下との面会の予定がありますので、その時に中に入れますよ」


 よほど城に興味があることが顔に出ていたのだろう。イズンさんに言われてちょっと恥ずかしくなる。

 いやいやでもね、やっぱり折角だからね、入ってみたいと思うのが人情ってもんですよね?


「楽しみだねぇ」


 珍しくタツキも食べ物以外に興味津々な様子で声をあげた。

 やっぱりそうだよね、お城入ってみたいよね! 楽しみだよね!!


「どういう食べ物が名物なんだろうね」

「……」


 結局タツキは食い気だったらしい。

 私はひとり脱力して、がくりと項垂れた。




 そこからの道中はちらほら魔物と遭遇したけれど、ほとんどが小型から中型の黒狼の群れだった。本当にこの世界、黒狼が多すぎる。

 いい加減戦い慣れてきたのでちゃっちゃと片付けたら、共闘するつもりだったらしいイズンさんから久々に耳にするあの異名を次々と挙げられてぎゃあっ!ってなった。

 本当にその異名で呼ぶのやめて!!


 ともあれ、アールレインを通過してから六日後。

 予定通り、私たちは父とハルト殿下がいるというイリエフォードに辿り着いた。

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