24-2. 情報屋の受難
ヨウトが……いや、ハルト殿下が一年ぶりに帰ってきた。
その報せはあっという間に王都中を駆け巡り、アールグラント王国全土にも広がった。
俺は驚きを隠せずにいた。
まさか本当に戻ってくるとは。しかも、たったの一年で。
王都を去るときの様子から、戻るとしてももっと先の話かと思っていた。
ハルト殿下がなにを考え、なぜこのタイミングで戻ることを決意したのか。
その理由を知るのはそう難しいことではなかった。
ハルト殿下が戻った三日後。東大陸の各国に向け、神殿からある知らせがもたらされた。
騎士国ランスロイドと敵対関係にあった魔王ゼイン=ゼルが、ランスロイドに派遣されていた勇者ジルと、彼の弟子となり行動を共にしていた“新たなる勇者”ハルトやその仲間の手によって、討伐されたというものだ。
神殿の知らせにはその戦いの際に勇者ジルが死亡し、魔王討伐と勇者ジル死亡の知らせを持って生還したのが勇者ハルトであることが記され、続く勇者ジルへの哀悼の文言と共にハルト殿下の功績が讃えられていた。
王都中に貼り出されたその知らせを目にした瞬間、俺は、ハルト殿下は勇者ジルの訃報を伝えるために戻ってきたのだと確信した。
あの義理堅い坊ちゃんのことだ、師の訃報を伝えに戻らずにはいられなかったのだろう。
一方王都の人々は、その知らせに沸いた。
勇者ジルは人柄が良く、国を越えてこのアールグラントでも人望があった勇者だから悲しむ者も多くいた。しかしそれ以上に、長らく姿を消していた自国の王子が勇者となり、魔王を倒して生還したことが人々に大きな希望をもたらしたのだ。
あぁ、あいつ。また大変なもんを背負っちまったなぁ……。
俺は、そう思わずにはいられなかった。
その翌日、今度はアールグラント国王から国民に向けて知らせが出された。
内容は、帰還した元王太子で現勇者であるハルト王子の処遇についてだった。
曰く、我が国の王太子の座はすでに第二王子のノイス王子に移っており、本人の希望も考慮して、ハルト王子は王位継承権を凍結の上、今後はノイス王太子殿下の補佐になるとのこと。
また、ハルト王子と共に魔王との戦いから生還し、ハルト王子を無事アールグラントまで送り届けてくれた大恩人である妖鬼のイムサフィート殿を国を挙げて保護すること、その恩人をハルト王子の相談役に任命することなども記されていた。
厳めしい文言で書き連ねられたその知らせは、神殿からの知らせと並べて貼り出された。
すると、あっという間にその妖鬼さんも民心を掴んだ。
勇者を守る、希少種の英雄。
街のやつらの反応を見ると、そんな感じなんだろうな。
まぁ、俺にとってその妖鬼さんとやらは国を挙げての保護対象であり、ハルト殿下の仲間であるという『情報』でしかないんだが……。
……なんて、思っていたんだが。
どこか他人事のように構えていた俺にとんでもない受難が襲いかかったのは、ハルト殿下の帰還から半年後のことだった。
その瞬間、俺は食べかけのステーキをフォークごと床に落としてしまった。
黒髪に琥珀色の瞳。以前よりも精悍さを増した少年。その後ろに続く、白銀の髪に不思議な色の瞳を持ち、こめかみの上から一対の黒い角を生やした男。
そんな二人組が酒場の入り口に現れたのだ。
肉が入ってくる予定だった俺の口は開いたまま塞がらない。
ふと少年がこちらに気付いて満面の笑顔を浮かべながら寄ってきた。
あぁ、あぁ……本物か。本物だな。
完全にパニックになっている俺を可笑しそうな顔で見ながら、
「久しぶり、ハインツ! 元気だったか?」
バシンッと背中を叩かれた。
痛いっ!
「いってぇーーーよ! なにすんだ、馬鹿力!!」
反射的に抗議すると少年の後ろに立っていた男がくすくす笑った。
「なるほど、彼がハインツか。確かにハルトが気を許せる相手みたいだね」
「ジルより先にこういう挨拶してきたのはハインツだからな。やっぱりこういうタイプにはこの挨拶が一番だろ?」
男の言葉に少年……ハルト殿下は手を振り抜く動作をしながら悪戯っ子のような笑みを浮かべて応じている。
おぉぉ、何だよ、あのときのことを根に持ってんのかよ……。
「あのときはうっかり力が乗りすぎたんだよ。もっと軽くやるつもりだったんだって。それにしても痛ぇ……」
「ふぅん? ま、それはもういっか。しっかり仕返しできたし」
「仕返しって……オイ」
「まぁまぁ」
俺がハルト殿下を睨むと妖鬼の男が間に入り、すっと右手を差し出してきた。
「初めまして、イムと申します。ハルトに話を聞いてからお会いしたいと思っていたんですよ、ハインツさん」
「どうも。ご存知の通り俺がハインツだ。いったいどんな話を聞いたんだよ……」
と、イムの手を取りつつ問いかけたとき。
「おい、ハインツ。裏にいけ」
酒場のマスターが調理場の奥にある小部屋───『情報屋の秘密部屋』の方を親指で示した。
よく見れば店内の客と、店の入り口から中を覗いている街人の視線が俺たちに注がれていた。
そうだった、今やハルト殿下と妖鬼イムサフィートの姿を知らない者はいないんだっけな。
なにせハルト殿下は行方不明になってから国中にその肖像画が貼り出されていたし、妖鬼に関してはその容姿が希少種の中でも結構有名だ。
「悪いな。ほら、ヨウト、イム、行くぞ!」
俺は敢えてハルト殿下をかつて使っていた偽名の方で呼び、ふたりを奥の部屋へと促した。
部屋に入るとすぐにマスターが「サービスだ」と言ってよく冷えた飲みものを人数分置いていった。最近人気の、冷たい水に柑橘系の果汁を少し加えたさっぱりした飲みものだ。
ハルト殿下は興味深げにそれを一口飲むと「うわ、ファミレスの水だ」とか小さく呟いた。
ふぁみれすってなんだ?
気にはなったがとりあえず今は用件を先に聞いておこう。
「……で、今日はどうしたんだ、ハルト殿下。まさか一年前に言ってたことを果しにきたとかだったら、丁重にご遠慮申し上げるぜ」
「えっ、恩返しはさせて貰いたいんだけど。まぁでも今日はちょっと別の用件で」
ちびちびと飲みものを飲んでいるイムをちらりと横目で見てから、ハルト殿下は少々考える仕草をした。
「人を探してるんだ。もし情報があれば提供して欲しいし、無ければまた探って貰いたいんだけど」
「ほう、名前は? 特徴は?」
「名前はセア。もしくはセアラフィラ。あとはタツキとサラ。セアは妖鬼の子で俺よりちょっと年下くらいの女の子。タツキっていう子の方は精霊らしい。見た目は大体俺と同じくらいの身長で、黒髪の少年の姿をしている。サラはセアの妹で、たぶん三人とも一緒に行動してるはず」
ブッと、イムが飲んでいた飲みものを吹き出した。
なんだなんだ、汚ねぇな。
「ちょっ、え、ハルト、あの子たちを探すの諦めてなかったの?」
「何で? 諦める必要はないだろ? 俺はイムの娘さんと精霊のタツキと話がしたいんだって言ったじゃないか」
泡を食っているイムにハルトは心外そうに言い切ると、改めて俺と向かい合う。
「で、ハインツ。何か情報を持ってるか?」
「あー……なんだ、イムの家族探しか?」
「それもあるけど、俺も話をしてみたいんだ」
真っ直ぐ射抜くような目を向けられて、そこからハルトの本気度を感じ取る。
この坊ちゃんのことだ、俺では考えも及ばないような意図があるのかもしれない。もしくは、純粋に探し人に会ってみたいだけなのかも。
いずれにせよ、こうしてハルト殿下に頼られるのは俺にとって誇らしいことだ。そんな感想を抱いてから、いつの間にこんなに心酔していたんだかと、つい口端が上がった。
「ふむ。セア、タツキ、サラ……なぁ」
ともあれ、仕事だ。
聞いた名と特徴を基に必死に記憶の糸を手繰ってみるが、それらしい情報は引っかかってこない。まぁ人探しなんだ、最初から情報を持ってることはそうそうないんだが……くそっ、なんか悔しいな。
「悪い、それっぽい情報は持ってないな。妖鬼だったら目立つだろうし、逆にそのタツキってのは黒髪だろ? そんなん言ったらハルト殿下も黒髪だしな。ましてや精霊じゃ、常に姿を見せてるとは限らねぇ」
そう告げるとハルト殿下は「そうか……」と、ものすごく残念そうな顔をした。
一年前と比べるとずいぶん喜怒哀楽がはっきりしているように思える。
「まぁ、とりあえず探しとくわ。ほかに手掛かりになりそうな情報があれば言っといてくれたら早く見つかるかもしれないぜ?」
「うん、そうだなぁ……たぶんだけど、冒険者ギルドに登録してると思うんだよな。それもかなりの確率で」
「はぁ? 妖鬼と精霊の三人組が、冒険者ギルドにか?」
「いや、たぶんセアだけか、タツキとふたりか……」
おかしなことを言うなぁ、こいつ。妖鬼も精霊も食事いらずの睡眠いらずなのに、なんでわざわざ冒険者ギルドに登録する必要があるんだか。
「可能性は高いね。あのふたりは食事に興味がありそうだったし、子どもだからあまりお金を持たせてなかった。自力でお金を稼ごうとしてもおかしくない」
「ほぉ? ずいぶん変わった妖鬼と精霊なんだなぁ。あ、悪ぃ、あんたの子だったっけな」
「構わないよ。僕も我が子ながらあの子たちはちょっと変わってると思ってるし。あっ、そうだ。これも大事な情報かも。あの子たちは認識阻害魔術が使えるから、見た目の特徴はあてにならないかもしれないよ」
親にまで変わり者扱いされてる子どもってどうなんだよ……。
ま、いっか。それよりも今イムが口にした面倒な情報の方が気掛かりだ。
「認識阻害魔術か……珍しい魔術が使えるんだな。しかし人探しする側としては厄介な魔術だ。それに加えて偽名を使われてたらどうにもならないぞ。この人探し、結構厳しいかもしれないな」
「偽名……」
「あぁ、それなら、セアはリクって名乗ってる可能性が高いよ。タツキの方はユハルドが本来の個体名らしいから、そっちの名前を名乗ってる可能性がある」
ハルト殿下とイムは顔を見合わせて頷き合っている。
我が子の偽名に心当たりがあるのかよ。子どものみならず親も変わってんだなぁ、イム一家は。
しかしリク、か。
……ん? リク??
なんだ? 最近そんな名前を耳にした気がするんだが……。
あぁ、駄目だ思い出せないっ!
そんな不確かな情報を口にするわけにもいかず、俺は真っ先にその名前を情報屋仲間に確認しようと決めた。
「わかった、もらった情報を基に探してみるわ」
「ありがとう、よろしく頼む。あ、報酬はこれで。あと以前の報酬も」
と、ハルト殿下が次々と硬貨が入っている小袋を机に並べ始めた。もしその小袋の中が金貨だとしたら報酬としては過剰だ。
「ちょっ、ちょちょちょ、待て! いったいいくら払おうとしてんだ!?」
「え? 今回の依頼は厳しいみたいだから、とりあえず金貨10枚からかなぁ、と。で、以前支払った報酬は換金しにくかっただろうから元の価値よりかなり低い金額になったと思うし、ほかに立て替えて貰っている分もあるはずだから、金貨50枚くらい?」
告げられた金額に、俺は座った姿勢のまま飛び上がった。
「多いって! つか、以前のって話ならちょっと待て。あのとき渡されたカフスとピンはまだ換金してねぇから、あの分の報酬を払うんならあれは返す! 返した上で以前提供した情報の料金は合わせて金貨30枚だ! んで、今回は成功率が怪しいが難易度も高くて広域で探ることになるから、前金で金貨1枚だ!!」
あれだけものの価値を知った方がいいって言ったじゃねぇか!
そんな思いで正規価格を口にしたが、ハルト殿下は不服そうな顔をした。
「えぇ? じゃあこれは気持ちってことで。正直困ってるんだよ。魔王討伐報酬が神殿から贈られてきたんだけど、大金すぎてあまり手元に残しておきたくないというか」
「あっ、そういうことなら僕も娘捜索報酬として払っていいかな! 僕もあんな大金、恐くて持っていたくなかったんだよね」
と、イムまでもが申し出てくる。
どんだけもらったんだよ! てか俺も恐いからそんな大金いらねぇよ!!
「だめだ! 俺は情報を正しい価値で売るのが信条だからな。受け取るなら金貨31枚まで。あと前に貰ったカフスとピンを返すから、このあと時間があるならちょっと俺の家まで付き合え」
「う〜……わかった。じゃあ金貨31枚な。あと、カフスとピンをまだ持っていてくれて助かったよ。あれは国庫の支出で購入されてたものだから、同じ価値のものを探して返そうと思ってたんだ。そのまま返せるのはありがたい」
「うぅーわ、相っ変わらずだなぁ」
しっかりしてやがる。
そう思いながら半笑いになる俺に、きょとんとするハルト殿下。俺がなにを相変わらずと評したのかわからないようだ。
ま、それならそれでいいんだけどよ。
「あ、そう言えば。ハインツ、俺に殿下ってつけなくていいから。王族に籍は残してるけど、実質俺は純粋な王族からは外れてるから。知らせは見ただろう? 俺はもう王位継承権を持っていない」
「そういうわけにもいかんだろう」
「いいから、いいから」
念を押すように敬称をつけなくていいと許可する目の前の王子様の顔が、ちょっと悪い笑顔を浮かべた。
あ、この顔、一年前にも見たな。俺の度肝を抜こうとしているときの顔だ。
「後日、改めて通知が届くと思うけど。俺はノイスの……王太子の補佐ってことになってるけど、割と自由に動き回れるようあらゆる権限が与えられている。身の回りの人事も俺自身に委ねられている。で、推薦しといたから。情報管理官」
「……は?」
一瞬、言われた言葉の意味がわからなかった。
しかし素で聞き返した瞬間に理解が追いつき、理解が追いつくと同時にすっと胃が冷えた。
「あ、仕事は今まで通り続けてくれてかまわない。ハインツがいないと困る人も多いだろ? こっちの方は副業として考えてくれていい。とりあえず概要としては、俺が国王やノイスのために情報収集をする場合その費用は国庫からの支出になるわけだけど、特に俺が信認を置いていて、情報収集の際に依頼を出す主な相手としてハインツを推薦してある。もちろん情報屋は危険な仕事だから、認められたとしてもハインツの情報は国の上層部、それも更に厳選された一部の人間にしか開示されないし、隠密に護衛がつく」
待て、ちょっと待ってくれ!
そう思うがうまく口から言葉が出て行かず。そうしている間にもハルトの話は澱みなく続いていく。
「あと俺の権限で、俺が指名した人を俺の友人として遇することができるんだけど、そのメンバーにハインツを加えておいたから。今のところメンバーは相談役のイムと情報管理官のハインツだけだけどな。ふたりとも俺の友人で仲間だから、敬称もいらなければ敬語も不要。じゃないと俺が仕事しにくいからな。いやぁ、ここまで整えるのは本っ当に大変だった。気付いたら半年も経ってたとか、笑えないなぁ」
すらすらと説明される内容を、情報屋としての俺の脳はしっかり頭に刻み込んでいた。が、俺自身は完全に固まっていた。
意味がわからないんだが。何がどうしてそうなった。
てかなんだ、ハルト殿下の仕事って。
「まぁ詳しくは後日説明するから、時間があるときに城の方にきてくれ。運悪く俺がいなかったら、クレイ──俺の執事に事情は話してあるから、クレイから聞いてくれればいい。はい、これ身分証な」
と、差し出されたのは冒険者カードに似た小型プレート。チェーンが通されていて、首に掛けられるようになっているところまで同じだ。
違うのは色と、プレートの一部に嵌め込まれた琥珀色の石。本体は珍しい青い金属で作られているようだ。
それを半ば無意識に受け取ってから、はっと我に返る。
「いやいやいや、ちょっと待て、俺には荷が重いっ!」
「大丈夫、大丈夫。ハインツが優秀なのは俺がよく知ってるからな。神殿の情報まで集められる情報屋なんてそうそういないし、情報を正しい価値で提供するっていうその信念も変わってないみたいだから信用もできる。情報の扱い方も慎重だし、うかつに客を詮索したりもしないだろう? そういう信頼の置ける相手はほかでは出会えなかったんだ。だから、頼むよ」
渡された身分証を突き返そうとすると、褒めちぎった上で頭まで下げられてしまった。
王族が、ただの一国民に頭を下げている……!
「わっ、わかった、わかったから! あぁ、もうっ、くそっ。仕方ねぇな! ……でも、まぁ、そんな風に評価してもらえるのは情報屋冥利に尽きるってもんだぜ。断ったら情報屋の名折れだ。引き受けてやるから、頭を下げるのはやめてくれ」
瞬時に腹を括ってそう告げると、頭を上げたハルト殿下──ハルトは、それはそれは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。引き受けてもらえてよかった」
「そう思ってもらえるってのは、こっちも嬉しいもんだぜ? ハルト。俺だって、お前を高く評価してるんだからな。情報の扱いに関してはお前だって十分慎重だ。それに、お前は自分の足で出向いて自分の目と耳で確認しねぇと気が済まないタイプだろ? そのお前が直接会って俺が適任だって判断したんなら、俺はお前の判断を信じてついていってやるさ」
今度はこっちから褒めちぎってやると、ハルトはむず痒そうな顔をした。
どうだ、さっき褒めちぎられたこっちがどんな気分だったかわかったか?
俺はニヤリと笑むと席を立った。
「そんじゃま、今日はこれで店仕舞いだ。さっさとあのカフスとピンを返して、楽になりたいもんだぜ」
言いながら俺はふたりを伴って自宅に戻ると、約束通り、以前預かったルビーのカフスとトパーズのピンをハルトに返還した。
あ〜、すっきりした。
◆ ◇ ◆
それから数日後。
俺は『リク』の情報を手に入れた。
情報元は冒険者ギルドで活動している情報屋仲間だ。情報屋仲間の言う『リク』の特徴と、こちらが持つ『リク』の特徴が一致したのだ。
ただ、情報屋仲間からもたらされた情報はハルトの活躍並みに信じがたいものだった。
さらに聞けば、『リク』の情報は常に更新されているらしく、大分派手に活躍しているようだ。
これは……とりあえず今持ち帰れる分だけ持って、ハルトのとこにいくしかねぇな。
「ありがとよ」
俺は礼を言って報酬を情報屋仲間に渡すと席を立った。
「お前さぁ、もし“番犬”の情報が欲しいなら俺に聞くよりもオルテナ帝国のアルトンからくる商人に聞いた方がいいぞ。俺の情報は奴らよりも遅いからな」
「おいおい、お前もこれが商売だろ? いいのか、そんなこと言って」
「いいんだよ。“番犬”の情報は情報料を取ってまで提供するようなもんでもないしな。ギルドに所属してる奴かアルトンからくる奴だったらみんな知ってる情報だ。ま、今回の報酬はありがたく頂いとくぜ」
「そうかい。じゃあ次回からはそうするわ」
互いに軽く手を振って別れる。
しかしあれだなぁ。話を聞いた感じだと、『リク』という名のイムの娘からはハルトに似たなにかを感じる。
まだ自分も子どもと呼べる年齢だろうに妹を育てるために働くなんて、若年ながらすでに人として出来ている。それに、聞くところによるとしっかり者で意志が強く、腕っ節も強いときた。
姿についてはイムが言った通り多少認識阻害魔術で誤摩化しているようだが、白銀の髪はそのままだったから特定しやすかった。
正直、あまりにも順調に情報が手に入って拍子抜けだ。この程度の労力なら前金を返金したいくらいだ。
何せ相手は有名人らしいからな。
俺はふと空を見上げた。太陽の傾きから時刻を読む。
これくらいの時間なら城にいっても大丈夫か。
そんじゃさっそく、勇者様ご所望の情報をお持ちしましょうかね。




