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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第6章 始まりが終わるとき
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112. 中央大陸へ

 季節は春から夏へと移り変わった。


 中央大陸に渡る準備は万端だ。

 メンバーが私とタツキとブライなので食料は必要ないし、睡眠も必要ないから荷物は極端に少ない。

 準備に時間がかかったのは、充分な量の魔石を用意していたからだ。

 タツキはこの世界の理から外れているから問題ないらしいんだけど、私とブライに関しては魔力切れがそのまま命の危機に繋がりかねないので、地道に魔石を量産していたのだ。そうして用意した魔石も亜空間に放り込む。

 結果、手ぶらで目的地に向かう事が出来るという状況が出来上がってしまった。

 何となく物足りないような気分。

 でも手に物を持っていると何かと不便なので、落ち着かないけど仕方がない。






「ハルト、ちょっと話したい事があるんだけど……」


 準備が整ったこの日の夜、私は一大決心をして仕事を終えて帰ってきたハルトに声をかけた。

 いつもと違う私の様子に、ハルトも首を傾げながら寄ってくる。


 現在セタはサラに預かって貰っている。

 本当はセタにもちゃんと話をしないといけないんだけど、まずはハルトの説得からだと思ったから、セタには申し訳ないけれどサラに預かって貰う事にした。

 サラも何かを察している様子で、「私はお姉ちゃんが決めた事なら反対しないし、何でも協力するからね」と言ってくれた。

 何も話していないのに、サラは一体何を察してくれているのだろう。

 言われた言葉があまりにも状況に合致し過ぎていて、サラは既に全てお見通しなんじゃないかと思えてしまう。

 実際サラは勘がいいからなぁ……。


 と、今はそんな事を考えている場合じゃなかった。

 私はハルトに自分の向かい側の椅子を勧め、ハルトが座るのを待って、大きく深呼吸した。

 それから改めて真っ直ぐハルトの目を見て、意を決して口を開く。


「あのね、ハルト。急な話なんだけど、私、タツキと一緒に中央大陸に行こうと思う」


 直球も直球。これ以上ないくらい単刀直入に言うと、ハルトは一度目を見開き、けれどすぐに脱力したように肩を落としてため息を吐いた。

 その目が「またか」と言わんばかりの色を帯びている。


「それは、俺について来るなって言ってるのか?」

「うっ……だってハルトは、“神覚の加護”は使えないでしょ?」


 言い淀みながらも遠回しに肯定すると、ハルトは一瞬苦い表情を浮かべた。

 私から視線を反らし、しばし迷った素振りを見せると、もの凄く言い難そうに「“神覚の加護”なら、一応使えるけど」とぼそりと呟く。

 思わぬ一言に私は目を丸くした。

 えっ!? いつの間に!?

 そんな気持ちがはっきりと表情に出てしまったのが自分でもわかる。

 するとハルトは頬を掻き、言い難そうにしながらも事情を話してくれた。


「ランスロイドから難民を受け入れた時に、逃げてくる難民の人たちを守ろうと国境付近で戦ってたんだけど……その時にレグルスの配下に囲まれて、結構危うい目に遭ったんだ……」


 その先は言葉にされずともわかる。

 つまりハルトは私が眠っている間に命の危険に晒されていたという事か。

 そしてその時に“神覚の加護”が初めて発動して、危機を脱した……と。


 私は息を詰めてハルトの話に耳を傾けていたけれど、最後は脱力してテーブルに突っ伏した。

 恐らくハルトは、自分が危険な目に遭った事を私に話したくなかったのだろう。

 その結果身に付けた“神覚の加護”の事も、経緯を説明したくないから黙っていた……。



 あーあ。本当に、ハルトは。

 絶妙なタイミングで駆けつけるヒーローセンサーを持ってるだけじゃなくて、とことん主人公仕様なんだな。

 ピンチになって究極の力が手に入るとか、本当に、一体どこの物語の主人公(ヒーロー)なんだろう?


 そう思ったら自然と笑いがこみ上げてきて、私はテーブルに突っ伏したまま肩を震わせた。


 主人公。

 そうか、主人公か。

 じゃあ重要な戦いには、欠かせない存在だよね。


「リク……?」


 肩に手を置かれて、私は顔を上げる。

 ハルトは心配そうに私の顔を覗き込んできたけれど、私が笑っているのだとわかると訝しげな表情を浮かべた。


 説得は失敗。

 これはもうどうしようもない。

 だって、ハルトを説得する材料にするならこれだと思って“神覚の加護”が使えない事を引き合いに出したのに、あっさり覆されちゃったんだから。

 ハルトが“神覚の加護”が使えると知った今となっては、散々悩んで、一大決心をして説得に臨んでいた自分を思い出すと滑稽で、笑いが止まらない。

 どうして私は気付かなかったんだろう。

 今まで何度もハルトの間のよさは見てきたはずなのに。


「そっか。ハルトは“神覚の加護”が使えるんだ。そっか、そっか。ふふふ」


 尚も笑っている私に、ハルトは肩を竦めた。

 それから柔らかい微笑みを浮かべ、


「で、一応“神覚の加護”は使える訳だけど、俺もついて行っていいのか?」


 そう問いかけてくる。

 私は一瞬だけ考えを巡らせた。

 心配なのはセタの傍から両親共に離れてしまう状況なんだけど……セタの事は引き続きサラにお願いして、一分一秒でも早く戻って来れるようにする方針にしよう。

 確実に事を運ぶためにはハルトの存在も必要なのだと、私の第六感が訴えかけてきている。


 私は自分の中で結論を出すと大きく頷き、


「うん、ハルトも一緒に来て!」


 肩に置かれていたハルトの手を取り、両手でぎゅっと握り締めた。




 そうと決まれば、今度はタツキの説得だ。

 翌朝、私は気合いを入れて湖畔でブライと話をしているタツキの許へと向かった。

 さて、何と説得したものか……。

 頭をフル回転させて悩んだ末、“神覚の加護”の件をハルトへの説得材料とした時とは逆の方向性で引き合いに出す事にした。

 つまりタツキには、ハルトは“神覚の加護”が使えるから、問題なく中央大陸にも連れて行けるのだと主張すればいい。

 よしっ、頑張って説得するぞ!


 ……と、意気込んでいたものの。


「別にいいよ」


 ハルトも同行させて貰いたいという私の申し出はタツキにあっさりと了承されてしまい、肩すかしを受けた。

 あ、あれ?


 あまりにあっさり過ぎて呆然としていると、タツキは笑いながら「予想通りだからね」と言った。

 つまりタツキは、私がどうやってハルトを説得しようかと散々悩んでいる傍らで既に、いずれ私がハルトを中央大陸に連れて行くためにタツキを説得しにくるであろう事を予測していた、と。

 察しがいいにもほどがある。



 ともあれ、タツキの説得……という名の報告が予想外にあっさり済んでしまったので、その足でセタの事を頼むべく、サラの部屋を訪れた。

 するとサラは私が言葉を発するより先ににこりと微笑み、


「セタの事でしょう? 大丈夫。セタの事なら私に任せてよ、お姉ちゃん!」


 どんと自らの胸を叩いて力強く請け合ってくれた。

 サラと言いタツキと言い、勘がいい弟妹に私は驚かされっぱなしだ。

 血は繋がっていないはずなのに、どことなく似ている部分があるタツキとサラ。

 特にこの勘の良さと、私が何を言おうとしているのかを察し、更にどんな内容でも基本的に受け入れてくれるところがそっくりだ。

 色々と我が侭を聞いて貰っている身としては、一生ふたりには頭が上がらない気がする。




 こうして着実に状況も整っていき、すぐにでも出発できる条件が揃った。

 急遽ハルトも同行する事になったものの、いつの間にかタツキがハルトの分の食料や寝袋を用意してくれていたので、追加で用意するような物もなく。

 現在ハルトが担っているアールグラント王国の代表者としての役目に関しても、ハルトがアールグラント王国側を説得し、最終的にマリク王子がハルトの代理人として着任する事が決まった。


 そうして更に半月後。

 マリク王子が自らの執務補佐を務めるイサラの旦那様・ルカルトスさんを伴って、フォルニード村に到着。その翌日からハルトはマリク王子への仕事の引き継ぎを開始して、およそ三日間で完全に引継ぎを終えた。

 これで不安材料が消えて、安心して中央大陸に渡る事が出来る。






「出発は五日後にしよう」


 準備万端。状況も万全。

 そんな中、そう切り出したのはタツキだった。

 すっかり話し合いの場として定着した湖畔で、私、ハルト、タツキ、ブライが車座になっている。


 今回の中央大陸行きに関しては、タツキが主導する立場に立っていた。

 何せタツキの目的は、私たちがこの世界に転生してくるきっかけとなった魔力暴走事故の原因を探りつつ、リドフェル教が再び魔力暴走事故を起こさないようにする事だ。

 私も後者の目的は同じだけど、あとはフレッグラードにソムグリフの思いを伝える……うん、まぁ、そう言ってしまえば綺麗なものだけど、実際はソムグリフが密かに抱いていた“もし次にフレッグラードと再会したら友人として、ワーグリナを失った時に届かなかった怒りの分も含めて、一発殴ってでも目を覚まさせたい”という思いを実現させるために向かうのだから、重要度が最も高いのはタツキだ。

 必然的にタツキが主導する形になっていた。


「五日か。もう準備は整ってるのに、随分と時間を置くんだな?」


 ハルトが不思議そうな様子でタツキに問いかける。

 するとタツキは小さく頷き、


「ハルトとリクはもう少しセタと向き合う時間が必要でしょう? 僕も中央大陸に向かう前にやっておきたい事が残ってるし、五日くらいがちょうどいいと思ったんだ」


 応じながら視線を上げ、木々の葉の間から顔を覗かせている空を見上げた。

 その視線は空を越えたその先、遥か遠くにあるどこかを見ているような気がして、タツキが言う“やっておきたい事”が何なのかピンときた。


「あっ、もしかしてイフィラ神への報告とか?」

「うん、そうだね。それもあるけど、他にもたくさんあるんだよ」


 予想を口にする私に視線を戻して、タツキは困ったように笑った。

 他にもたくさん……か。

 気にはなるけど、ここで言葉を濁しているって事は聞いても教えて貰えないだろうし、私がタツキの事情にでしゃばり過ぎるのもどうかと思って口を噤む。


「わかった。じゃあ、出発は五日後だな。確かに俺もリクも、しばらく離れてしまう事がセタにも理解出来るように説明しきれていないと思うから、もう少し時間が必要だろう」


 そう言ってハルトは立ち上がると、私に手を差し伸べてきた。

 タツキもすべき事があるっていう話だし、ここで解散という事で問題ないだろう。

 私はハルトの手を取って立ち上がると、タツキとブライを残して湖を後にした。




 セタへの説明は思ったより難しくなかった。

 ……というか、セタはこれまでしてきた説明で既に、“私とハルトがしばらく傍にいられない”という事がどういう状況を示すのかをほとんど理解していた様子だった。

 恐らく私が戦争開始後しばらく傍から離れていた事で、「傍にいない」と言う言葉が示す状況をセタなりに把握していたようだ。

 とてつもない罪悪感を感じる。

 セタに対して申し訳ないと思うし……ちょっと切ない。


「サラおばさまといるから、へいきだよ」


 セタからそう言われてしまえば、逆にこっちが寂しくなってしまう。

 うぅ、息子はこんなに聞き分けがいいのに、私はなんて我が侭な母親なんだろう。


「セタは、お父さんとお母さんに何かして欲しい事とかない? 出発するまでまだ何日かあるから、一杯言っていいよ!」

「いっぱい?」


 セタは首を傾げながら、ちょっと考える素振りを見せた。

 それから「あっ」と小さな声を上げて、急にもじもじし始める。

 何その仕草、可愛過ぎ!

 私が自分の息子に萌えていると、セタはちらりと私とハルトに視線を向けてきた。

 その上目遣いがまた可愛すぎて、脳内で萌え死にそう……!


 そんな私の内心を読み取っているのか、ハルトの方からは呆れたような気配が伝わってくる。

 また悪い病気が始まったとでも思っているのだろう。

 えぇ、そうですとも。

 私のこの“小さい子と女の子は正義(ジャスティス)”精神は、いくつ年齢を重ねようとも消える事などないのだよ!

 などと内心で拳を振り上げていると。


「あのね」


 と、セタはもじもじするのをやめて、口を開いた。

 私もハルトも続く言葉を聞くべく、セタに注目する。


「おとうさまとおかあさまといっしょに、おひるねしたい」


 ちょっ……!

 こんな可愛い事を言われて我慢なんて出来るはずがないっ。

 私はセタを抱きしめて「わかった! お昼寝しよう!」と請け合った。


「おとうさまも……」


 全力で引き受けた私に対して完全に出遅れているハルトに、セタはおずおずと問うような視線を向けた。

 恐らくハルトも日々執務に追われていて、日中はあまりセタに構ってあげられなかったのだろう。

 だからセタも少し言い難そうにしているんだと思う。

 けれど。

 背後からふっと小さく吹き出す声がした。


「それくらい、お易い御用だ。むしろこっちがセタに気遣われてる気すらするんだけど」

「それはわかる。でもセタの気持ちもわかる!」


 大好きな人とは出来るだけ一緒にいたいもんね。

 それが身内への情であろうとも、愛しく想う人への情であろうとも。



 私はセタの願いを叶えるべく、ラーウルさんの許に向かった。

 ラーウルさんはフォルニード王国において、宰相のような立場にある。

 フォルニード村にある本部の管理も実質ラーウルさんが行っているので、ラーウルさんに事情を説明して、私の部屋にハルトの部屋のベッドを移動してもいいか確認を取った。

 本部にあるものは一応この国の備品だし、許可は必要だろう。


 事情を聞いたラーウルさんは、その場で快く許可を出してくれた。

 私はラーウルさんの手を強く握って感謝の意を伝え、大急ぎで本部に戻る。

 本部に戻ると早速、転移魔術を使って私の部屋にハルトのベッドを移動させた。

 何せこのベッド、室内で組み立てられた物だから別の部屋に移動させたくても大き過ぎて扉から出す事が出来ないのだ。

 分解すれば部屋から出せるけど、職人さんの手で分解しないと元に戻せなくなりそうで恐かったし……。

 だから転移魔術を使ったのは決して、横着なんかじゃないんだからね!



 そんなこんなで無事ベッドを移動して、私のベッドにくっつけて並べた。

 これで親子三人、川の字で眠っても狭くない。

 ハルトも引継ぎを終えているから手持ち無沙汰みたいだったし、セタの願いを叶えるための障害は何も無い。


 こうしてこの日は、私もハルトも、セタを挟んで昼寝を堪能した。

 目覚めた時、どことなく疲れ顔だったハルトがすっきりした顔になっているのを見て、ハルトが言っていた通りセタに気を遣われたんじゃないだろうかという気が……したんだけど、セタが本当に嬉しそうにしているのを見ていたらそんな事どうでもよくなってしまった。



 翌日からは家族揃って散歩をしたり、村のお店を回ってみたりと、穏やかな時間を過ごした。

 もちろんセタの昼寝にも付き合う。

 と言っても毎日昼寝をしていたらハルトが夜眠れなくなってしまうので、セタが眠っている間はふたりで声を潜めて談笑しながらセタが目覚めるのを待った。


 思えばこうして親子三人揃って、家族らしい時間を過ごす事なんて今までなかったなと思う。

 それに、自分が家庭を築いて、こんな風に穏やかな幸せを感じられる日を迎えられるだなんて想像した事もなかった。

 一度その事を実感してしまったら、何だかとても今この瞬間が大切で、どうしようもなく愛しいもののように思えて……またここに戻ってきたいな、と思った。




 そうして過ごしているうちに、あっという間に中央大陸に向かう日の前日になってしまった。

 私とハルトはしばらく会えなくなる分、目一杯セタを甘やかした。そして傍にいられない事を詫びて、必ず戻ってくると約束を交わす。

 すると明日から離れてしまうという実感が湧いてきたのだろう、さすがにセタも琥珀色の瞳を揺らめかせてぽろぽろと涙を零した。

 けれど涙を拭いながら「サラおばさまといっしょにまってる」と言ってくれた。


 健気なセタの言葉に私は、必ず戻ってくるんだという決意をより一層固くする。

 ハルトも同じ気持ちなのだろう。

 その瞳には、強くて真っ直ぐな決意の光が見て取れた。






 そして出発当日。

 転移魔術で渡るのは危険だという判断のもと、元の姿に戻ったブライの背に乗って中央大陸に向かう事になっていたので、フォルニード村の広場には既に元の姿に戻っているブライが鎮座していた。

 その周囲にたくさんの人々が集まり、私たちを見送ろうとしてくれている。


 そんな人々の中から、サラに手を引かれてセタが前に出てきた。

 何だろうと思いながらしゃがみ込んでセタに目線を合わせると、セタはにこっと笑って手に持っているものをずいっと差し出してくる。


「これ、おかあさまがもってて」


 そう言って差し出されたのは、以前私がサラに渡した紅玉のタリスマンだった。

 かつて城塞都市アルトンを去る際にリッジさんから送られたお守り。

 私が差し出されたタリスマンを受け取ると、セタは私の指をその小さな手できゅっと握った。


「かえってきてね」


 短く、一言だけ。

 そこにどれだけの思いが込められているのかは、セタから溢れ出してくる感情の波を感知すればわかる。

 私は言葉に詰まってしまって、無言でセタを抱きしめた。

 そんな私ごと、ハルトがセタを抱きしめる。


「絶対帰ってくるからな」


 ハルトの優しくて力強い声が耳朶を打つ。

 私も同じ思いなのだと伝えたくて何度も頷くと、セタは目を潤ませて、けれど強い意志を宿した瞳で頷き返してくれた。その目が、昨夜のハルトの瞳によく似ていた。

 その事に妙な安心感を得て、私とハルトはタツキと共にブライの背に乗り込む。

 手を振るセタに手を振り返していると、ブライが翼を一度羽ばたかせ、上昇を開始した。

 あっという間に遠ざかって行く地面。小さくなって行くセタ、サラ、マナ、セン、マリク王子……見送りに出てきてくれているみんなの姿を、私は見えなくなるまで追い続けた。



 充分な高度に達すると、タツキが結界を張る。同時に、ぐんっと景色が後方へと流れ始めた。

 みるみるうちに森が遠ざかり、背後を振り返ったままの私の視界の中で左手に魔族領が、右手に人族領が広がって行く。

 グラル山地の向こうにアールグラント城の屋根を見つけた時には、もう海の上だった。

 この時には既に、ぐるりと見渡せば東大陸を一望できそうな距離まで来ていた。

 神竜ならではなのか、とんでもない速度で私たちは東大陸から離れて行く。


 その景色を見つめながら、私はもう何度目になるかわからないくらい繰り返してきた決意を改めて胸に深く刻み込み、視線を後方の東大陸から前方へと切り替える。

 目指すのは中央大陸。リドフェル教の本拠地。

 視界の先、海の中に薄らと、中央大陸と思しき茶色い大地が見え始めていた……。

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