110-3. 約束と未来の物語
* * * * * シグリル * * * * *
三つの国が滅ぶという悲惨さを極めた戦争が終結して、城塞都市アルトンも復興に向けて動き始めた。
しかし残念ながら、復興拠点が完成し、復興責任者兼指導者として聖国エルーンの第四王子が到着した時点で本格的な冬に突入。あっという間に城塞都市アルトンは雪に包まれて、身動きが取れなくなってしまった。
けれど身動きが取れないならと聖国エルーンの第四王子はアルトンの領主様たちと話し合って、雪解けと共にすぐにでも復興作業を始められるようにと準備を進めている。
私やレスティも話し合いに参加して貰いたいとお誘いを受けたけれど、春になったらアルトンを去る事を理由に丁重に断って、私たちは私たちでアルトンを出た後どうするのかをふたりで話し合っていた。
「我はリクたちとの約束もあるから、人族の寿命分くらいはアールグラント王国の守護につこうかと思っているのだが」
「うん、是非そうして」
私とレスティの間には、戦争を無事乗り切ったら叶えようと交わした約束がある。
それは共に暮らす棲み処を探す事。同時に、夫婦となる事だ。
けれどその約束を交わす以前……召喚竜の契約を結んだ際にも私はレスティにひとつ、約束をして貰っていた。
その約束こそが、レスティに私の故郷・アールグラント王国を守って貰うというものだ。
私はレスティと契約する際にリク様から、水竜であるレスティにアールグラント王国を守護して貰うため、レスティと交わす召喚竜契約の契約主になって欲しいと持ちかけられた。
そして私はアールグラント王国を守って貰えるならと、レスティと契約を交わしたのだ。
だからレスティのこの申し出はとても有り難いと思う。
「本当は契約主が生きている限り、という条件だったのだがな。シグリルとは命の契約を交わしてしまったから、その約束を守ろうとすると我の命が尽きるまでとなってしまう。さすがにリクたちもそこまでは強要しないだろう」
それは初耳だ。
けれどレスティが言うように、リク様たちは私がレスティと命の契約を交わした事を知れば、期限についてそんな無茶は言わないだろうと思った。
なので同意して私が頷いていると、不意に真剣な色を帯びた金色の目が向けられた。
まるで全てを見抜くようなレスティの視線に意識を縫い止められて、私は身動きが取れなくなってしまう。
「……シグリルはどうする? もしアールグラントの魔術師団に戻りたければ、恐らく戻る事も可能だと思うが」
重々しい口調で問われて、私は目を瞬かせた。
一瞬何を問われたのかも理解出来ず……けれど問いの意図を理解すると同時に、レスティが息を詰めて私の返答を待っている事にも気付く。
本当はこんな事聞きたくない様子なのに、私の事を考えて問いかけてくれたのだと思うと嬉しさでついつい笑みが零れてしまう。
「戻らない。戻らないよ。私はレスティと一緒にいる。レスティと一緒にアールグラントを守る。それでね……リク様たちとの約束を果たし終えてからでいいから、レスティにお願いしたい事があるの」
「願い?」
そう、と私は頷いて、密かに考えていた自分の未来像を話して聞かせる。
レスティはじっと耳を傾けてくれて、そして最後には極上の微笑みを浮かべて「それはいいな。楽しみだ」と賛同してくれた。
その言葉と表情から私の願いに付き合ってくれるという意志が伝わってきて、嬉しさの余り私はレスティに飛びつく。
私の希望を聞いてくれるレスティが、優しく抱き留めてくれるレスティが、レスティの全てが好きで好きで、愛しくてどうしようもない。
同じようにレスティからも想われているのがわかって、幸せな気持ちで満たされる。
しばらく抱き合っているとひょいと抱え上げられ、気付いた時には私はレスティの腕の上に座らされていた。
不安定さに慌ててレスティの肩にしがみつきながら顔を見遣れば、眼前にはどこか不敵さを感じさせるレスティの笑顔。
「ふふふ。ようやく勝ったな」
「何に?」
実に楽しそうに、嬉しそうに笑うレスティの言葉の意味がわからず問いかける。
するとレスティはドキッとするような流し目を寄越した。
「アールグラントという国に、だ。初めて会った時のシグリルは国が一番大事そうだったからな。今はもう、我が一番だろう?」
言われてかっと顔が熱くなる。
それはそうなんだけど、そう自信満々に言われてしまうと何だか恥ずかしい。
恥ずかしさの余り素直に肯定出来なくなってしまい、対応に困りながら口を戦慄かせていると、レスティが私の頬に、首筋に、そして胸元の竜石に服越しに口付けを落とす。
羞恥心が限界を超えて爆発するかと思うくらい動揺する私を改めて眺めて、レスティはそれはそれは幸せそうに微笑んだ。
レスティが幸せならいいかと思いながらも、けれどやっぱり恥ずかしいからもうちょっと手加減して欲しいとも思う。
「そっ、そそ、そんなに嬉しいの?」
恥ずかしさを誤摩化すように口を開けば、今度は唇に口付けを落とされた。
更に真っ赤になる私を面白がるように、レスティは笑った。
「当然だ。愛する者の一番が自分である事がどれほど嬉しい事なのかを問うとは、どうやらシグリルは我が思うほど我を愛していないか、もしくは我の愛がまだ届いていないか不足しているのか……そのいずれかなのだろうな」
あっ、何だか地雷を踏んだ気がする。
今のは余計な一言だった気がする……!
時間が巻き戻せるなら巻き戻して、さっき口にした言葉を取り消したい!
綺麗なのにちょっと恐いレスティの笑顔を目の当たりにしながら、私は切実にそう思った。
……もう手遅れだったけれど。
竜とは、こうも情熱的な種族なのだろうか。
いや、そんなはずがない。
一般的に言われている竜族は排他的で、同族間でも極力関わりは持たず、夫婦であっても子育てを終えれば別々に暮らすようになるとか聞いた事がある気がする。
では何故レスティはこうなんだろうか。
それはきっと、レスティが通常の竜族とは全く異なる感覚の持ち主だからだろう。
うん、間違いない。
レスティは普通の竜族じゃない。私の中で確定。
元々行動を共にする事がほとんどだったけれど、あの日以来密着度が上がったレスティの膝の上で、私は心を無にしてお茶を飲んでいた。
向かい側に座っているアルトンの領主様が目の向けどころに困って、終始手元の器に視線を落としている。
申し訳ない。本当に申し訳ない。
「それで、そろそろ雪解けが始まるのですが、リク様から保冷用の魔法道具を賜りまして。どうやら魔石で動くそうなのですが、試したところこれがもう、商人たちが飛びつくほど素晴らしい品で」
視線を落としたまま領主様がリク様に関する話を振ってくれている。
私も決して落ち着いた心地でいる訳ではないので、つい「はぁ」とか「そうですか」とか気のない返答をしていたのだけど、魔法道具と聞いて思わず「その魔法道具を拝見させて下さい!」と飛びついてしまった。
さすがリク様、そんな凄い魔法道具を作るだなんて!
そう思ったらどうやらその魔法道具は、リク様の妹であり、魔術師団で若手育成に携わっているサラ様と共同で開発したのだとか。
姉妹揃って魔術へかける情熱が凄い。尊敬する……!
私は召使いの人が持ってきてくれたその魔法道具をしげしげと眺めた。
見た目はカンテラのような形をしているけれど、内部に魔石を設置すると冷気を放つ作りになっているようだ。
聞けば冷やす温度も一定に保てるように術式が組まれているそうで、私は益々魔法道具に釘付けになった。
「保冷くらい我にもできる」
あまりに私が魔法道具に執心しているのが気に食わなかったのか、ちょっとだけ不満そうに口をへの字に曲げるレスティ。
私はがばっと顔を上げると魔法道具を指差して、この素晴らしさを伝えるべく口を開いた。
「そういう事じゃないの! その力を魔術が使えない人でも扱えるように魔法道具にまで落とし込む事が凄いの! しかもただ魔法道具を作ったんじゃなくて、ちゃんとその先で使う人の事を考えているんだよ。地下迷宮を探索するためとか攻撃魔術の補助のためとかじゃなくて、生活を便利にするための魔法道具だなんて素敵な発想だなぁ。今まで明かり取り用とか火種用の魔法道具はあったけど、街中で使うっていう発想とは違う発想で作られたものばかりだったから、これは新しい方向性なのかも。ここの部分の術式の繋ぎ合わせなんてちょっと変わってるけど凄く合理的だし、刻まれている魔法陣すら美しい彫刻みたいで見た目も完璧……! なんて素晴らしい魔法道具なの!」
私は魔術師団で魔法道具開発について学んで来た事もあって、この総合的に完成されている魔法道具の素晴らしさについてつい熱く語ってしまった。
そんな私の話を苦笑しながら聞いてくれている領主様。一方でレスティはリク様たちの開発した魔法道具よりもむしろ、私の話の方に興味を持ったようだ。
「ほう。なるほどな。利便性の追求のみならず、芸術品としての価値をも持つ魔法陣を組み込む技術か。確かに、ここの術式の流れなどは我でも驚くほど見事だ。見た目もシグリルが言う通り美しく、素晴らしい。なるほど、なるほど……」
そうしきりに頷いているレスティの目は輝いていた。
さすが知識の宝庫と呼ばれる竜。
知識に対する貪欲さは計り知れず、興味が湧けば私以上ののめり込みようだ。
食い入るように魔法道具の隅から隅まで、魔法陣の流れを追うようにして眺めている。
「それほど凄い技術なのですか。確かに、私などは理解出来ませんでしたが、リク様はアルトンを去る際に送られたタリスマンについて随分と熱く語っていらっしゃいました。まだ幼くはありましたが、あの頃から魔術に明るい方だったのですね」
懐かしむように語る領主様。
私は一旦魔法道具はレスティに預けて、領主様の方へと向き直った。
「そうでした、リク様は以前アルトンで暮らしていたのですよね。幼い頃のリク様は、どんな方でした?」
こちらはこちらで興味深いお話だ。
私が身を乗り出すと、領主様は人の良さそうな相好を更に崩して微笑んだ。
「まだ私の頭が固かった頃に、駆け出しながらも凄腕の冒険者がいると聞きまして。護衛任務を依頼して断られたのがきっかけで、私はリク様と出会ったのです」
それからまるで堰を切ったように領主様は思い出話を語ってくれた。
護衛任務を断られて立腹した領主様がリク様を邸に呼び出した時の話。
妹を守り育てながらも冒険者として堅実に、けれど着実に力をつけていく傍ら、街中で持ち前の面倒見のよさを発揮して困った人を手助けしていくうちに、街の人々からリク様が親しまれるようになっていった話。
街の外で偶然黒狼に襲われている哨戒兵たちを見かけて助け、結果的に3つもの異名を得る事になった話。
街中の人々から密かに“守護聖”の異名を付けられて、必死に取り消して貰うように領主様の元に訴えに来た話。
リク様がアールグラント王国に行ってしまって、まるで明かりが消えてしまったかのようにしばらくの間暗く沈んでしまったアルトンの話など。
領主様の話は尽きない。
いつの間にか一緒に話を聞いていたレスティが、時々笑いを堪えて震えていた。
私も領主様のお話を聞いているだけでアルトンの街中を元気一杯に走り回るリク様の姿が目に浮かぶようで、微笑ましく思いながら領主様の話を最後まで聞いていた。
雪解けの季節がやってきた。
私とレスティは雪がすっかり解けるのを待って、当初の予定通りアールグラント王国へと向かう事にした。
領主様や街のみんなに見送られて、こそこそとアルトンにやって来た時とは逆に街の正面から、竜の姿に戻ったレスティの背に乗って盛大に飛び立つ。
あっという間に城塞都市が遠ざかり、全てが焼き払われ、その後浄化されて何もなくなってしまった平原を越えて南を目指す。
途中、元騎士国ランスロイドの領土も横断したけれど、こちらも元オルテナ帝国領と変わらないような状態だった。
ここから復興するのは大変そうだ。
……と言うか。
僅かな期間にここまで破壊し尽くしながら進軍していた魔王レグルスの恐ろしさを改めて目の当たりにして、身震いした。
そんなレグルスに恐れず立ち向かって行ったリク様と、見慣れない青年の姿は今でも目に焼き付いている。
途中で青年はレグルスを連れて姿を消してしまったけれど、その後も数多のレグルスの配下を相手に戦い続けたリク様の姿はアルトンの人々の記憶に強く残っており……リク様が帰ってしまった後、実はアルトンでは密かに、リク様に新たな異名が付けられていた。
その名も、“聖護の魔王”。
リク様がアルトンに姿を現して間もなく使った光の雨の魔術や浄化魔術の美しさと、圧倒的な強さで以てアルトンを守りぬいた事を表して付けられた異名だ。
割とそのまんまな名付けなんだけど妙にしっくりしていて、アルトンではすっかり馴染んでしまっている。
一部リク様の力を恐れた街人たちは単純に“魔王”と呼んでいるようだけど、彼らも力を恐れているだけで敵と認識しているわけではないようだ。
きっと彼らもかつて同じ街で共に暮らしていた気さくな少女の姿を思い出して、やがて他のみんなと同じようにリク様の事を“聖護の魔王”と呼ぶようになるだろう。
何となく、そんな気がする。
数日かけて、私たちはようやくアールグラント王国の首都アールレインに到着した。
アールレインの外に着地して、人型になったレスティと共に城門を抜け、王城を目指す。
王城に到着するとあまり待たされる事なく謁見の間に通された。
ここに来るのは二度目だけど、初めて来た時と変わらない緊張感で国王様と対面する。
「此度は大変重要且つ難儀な任務を引き受け、全うしてくれた事を心より感謝する。そなたたちの働きはきっと、我が国と城塞都市アルトンで長く語り継がれよう。その多大なる功績を讃えて我が国としても何か褒美をと考えているのだが……もし希望があれば、遠慮なく言ってくれ」
そう告げて、国王様は私たちに自由な発言と楽な姿勢になる事を許可してくれた。
私とレスティは畏まった姿勢から立ち上がる事なく、その場で互いに顔を見合わせる。
レスティの瞳はいつも通り、私が望むようにしていいと言ってくれているように見えた。
なので私は正面に向き直り、真っ直ぐ国王様を見上げる。
国王様も慈しみを湛えた瞳で見返してきた。
「では、ふたつほどよろしいでしょうか?」
「ふむ。遠慮はいらない、言ってみてくれ」
「ふたつ」という言葉に壁際に控えていた数名の文官がざわめいたけれど、国王様は気にした風もなく先を促してきた。
なので私は一度大きく深呼吸してから言葉を発する。
「ではひとつ目ですが、私はレスティと召喚竜契約を交わした際、レスティに我が国を……アールグラント王国を守って欲しいと願いました。レスティはリク様との間にも人ひとりの命の期間分、アールグラント王国を守るという約束をしております。その約束をレスティに守らせて頂きたいのです。そして私もレスティと共に、この国を守る力になりたいと思っております。どうか、その許可を」
この言葉には国王様も目を見開いた。
周囲からもざわめきがおこる。
「それは……願ってもない事だ。許可などいくらでも出そう。例え人ひとり分の命の期間より前にこの土地を離れようとも、そなたたちの自由だ。好きなようにして構わない。しかしそれでは褒美にはならん。もうひとつのそなたたちの希望を申してみよ。思い切り我が侭を申したとしても、私が可能な限り力を尽くして希望を叶えてみせよう」
止めていた呼吸を深く深く吐き出し、顎髭を撫でながら、国王様は困った表情でこちらに視線を向けてきた。
「では僭越ながら、思い切り我が侭を申し上げる事をお許し下さい。私たちのもうひとつの望みは、ふたりで暮らすための家を手に入れる事です。レスティが住み心地がいいと判断した土地に、共に暮らす家が欲しいのです。なのでその望みが叶うくらいの報酬を頂けないでしょうか」
再度周囲がざわめいた。
しかしそんな中、国王様だけは「くっくっく」と声を押し殺そうとして失敗したような笑い声を漏らす。
心底面白そうに笑うその姿がこれまで目にしてきた国王様とは別人のように見えて、私は不敬であるにも関わらず思わず凝視してしまった。
「ふふっ、なるほど、なるほど。そうか、そうなのか」
ようやく笑いを収めた国王様は凝視している私を咎める事なく、先程まで以上に慈愛に満ちた瞳で私とレスティとを交互に見遣った。
「そなたたちは、共に暮らしたいのか。なるほど、なるほど」
何度も頷く国王様。
ちらりとレスティに目を向ければ、レスティも興味深そうな表情で国王様を見上げていた。
「わかった。その願い、必ず叶えてみせよう。安住の地が見つかったら知らせを寄越してくれ。選りすぐりの職人を雇って、そなたたちの望む最高の家を建てるよう手配しよう」
国王様がそう請け合うと同時に、謁見は終了した。
まさかあんなにあっさりふたつ目の望みが通ると思っていなかった私は、半ば呆然としながら城を出た。
呆然としながら歩き、呆然としながら城の人々に見送られ、レスティとともに城門をくぐる。
我に返った時には既に、レスティの背に乗って大空のまっただ中にいた。
「なかなかに面白い国王だったな」
私が我に返った事に気付いたのか、レスティが語りかけてくる。
私は慌てて頷き、
「まさかあんなに快く受け入れて貰えるなんて思わなかった!」
と驚きのままに声を上げた。
「そうか。だが、我はようやく得心したぞ。あのような王だからこそ、リクとハルトは婚姻を結んだのだな。通常人族の王族は、同族の身分の高い者と婚姻を結ぶだろう? 何故王太子ではなくなったとは言え身分が高いままのハルトが、身分も何も持たぬ、しかも異種族であるリクと婚姻を結んだのかが常々疑問だったのだ。だが、あの国王なら納得だ。気にしないのだろうな、あの王は。そういう、どうでも良い事など」
レスティに言われて、私も気付く。
ついお伽噺になぞらえて捉えてしまう癖があるから忘れがちだけど、レスティが言う通り、人族の国の王族は身分の高い……所謂高貴な血筋の、それも同族の相手と婚姻を結ぶのが普通だ。
そんな中、身分差どころではない、種族差すらも越えてハルト様とリク様が結婚しているのは、本当に特殊例なのだ。
その事に今更気付いて、同時にレスティが言うようにあの国王様だからこそ実現したのだと納得して、私は自分の表情が緩むのを感じた。
「いいものが書けそうか?」
私の心情を察したように、レスティが問いかけてくる。
「うんっ。本当に、素敵な物語になりそう。物語と言っても現実を基にした物語だけど」
「そうか、それは良かった。我も楽しみだ。シグリルが綴る物語を聴くのも、例の約束を果たすのも」
レスティが喉で笑って、僅かに足下が揺れた。
今の私には、ひとつの大きな夢がある。
レスティはその唯一の理解者だ。
だからそんな風に言ってくれるレスティの存在が有り難くて、同時にいつまでも傍にいてくれるのだという安心感も貰って、私はレスティの背中に寝そべった。
固い鱗をひと撫ですると、僅かに飛ぶ速度が緩む。
「降りるか?」
優しい声音で問われて「このままでいいよ」と答える。
固い鱗に耳を押し付けて、微かに聞こえてくるレスティの心音に耳を傾ける。
ごうごうと過ぎ去ってゆく風の音が不意に消えて、レスティが結界を張ってくれたのがわかった。
そのまま私は目を閉じる。
いつか。
いつかこの背中に乗って、レスティと共に旅をしたい。
世界中を回って、たくさんの人々の物語を集めながら。
私は語り部になって集めた物語を後世へと伝え、この時代を生きた人たちの事を、この先の時代を生きる人たちの事を、命が続く限り伝え続けるのだ。
それが、私の夢。私の目指す未来。
どうか私とレスティが互いの命が尽きるその時まで共に歩み、語り続けられますように。
そう願いながら、私は未来へと思いを馳せた。