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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第1章 それぞれの再スタート
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 11-2. 情報屋の考察①

 面白い客が来た。


 服装こそ地味だが、その素材がいいものだってことは一目でわかる。

 それに羽織っている黒いマントもかなり素材がいい。


 お貴族様の子供がよくやる耳の辺りまでで切りそろえた髪型ではないが、短く切った髪をそのまま伸ばしたような黒髪は長すぎず、短すぎず。琥珀色の瞳からは意志の強さが見て取れる。


 一体どこの坊ちゃんが来たんだ?


 その少年はまだまだ未成年もいいところ。

 加えて俺がいるような酒場からすれば場違いすぎる気品を漂わせている。明らかに周囲から浮いていた。


 少年は酒場の入り口からさっと視線を巡らせて、ぴたりと俺に狙いを定めた。

 その動きも浮いている。けれど本人はそのことに気付きもしないで接触してきた。


 そして第一声がこれだ。


「近々神託が下りる神位種がいるか、知っていたら教えてくれ。もし知らなかったら、調べて欲しい」


 そうして出されたのは最高品質のルビーがついたカフスボタン。


 俺ぁ目をかっぴらいたよ。


 神殿に関する情報は高い。

 それだけ危険な橋を渡って入手している情報だ。高くもなるさ。


 でも俺が驚いたのはそこじゃない。

 目の前の少年が、その目が、俺と対等だったからだ。


 あぁ、うまく説明できねぇな。

 対等ってのとはちょっと違うな。しっくりこねぇわ。


 何というか、こう、相手は子供なのに大人を相手にしているような感覚と、気圧されそうなほど真剣な目。

 同時にお貴族様にありがちな臣民を見下すような気配は微塵もなくて、この仕事を振るならこいつだとわかっているような……手に入りにくい情報は情報屋の俺に聞くのが当然だと言わんばかりの雰囲気。


 そして情報を聞くにはそれに見合う対価が必要だと知っていて、情報の危険度から十分と判断できる対価を用意してきた。

 やや大盤振る舞いなのは、情報の重要性とその価値がわかる客だということを示そうとしているのか。


 ──面白い。


 思わず軽く口笛を吹くと、一言忠告してやった。


「坊ちゃん、ものの価値がわからないと損するぜ」


 すると少年は「やっぱりそうか……」と呟いてため息をついた。


 ものの価値がわかっていない。子供らしい。

 が、ものの価値がわかっていないことは自覚しているし、このカフスボタンであれば情報料として足りこそすれ、不足はないだろうという判断はできている。子供らしくない。


 その様子も併せて、目の前の少年を年相応の子供だと侮るべきではないと判断した。



 とりあえず内容が内容だ。

 こんな誰から盗み聞きされるかわからない場所で話すのは危険だと判断して、マスターに声をかけていつも使わせてもらっている小部屋に移動した。


 それにしても……このルビーのカフスボタンは明らかに貰いすぎだ。俺は正しい価値のものを正しい価値で売りたい性分だから、落ち着かない。

 だから。


「現時点で坊ちゃんの知りたい情報は入ってないな。これから調べるが、時間が必要だ」


 そう前置きした上で、過剰対価分として別の情報も教えてやった。


 どうやらこの少年は神位種について知りたいようだから、神位種の“覚醒”について話してやった。

 これも超高価な情報だが、これを教えてもまだカフスボタンの価値には及ばない。


 ついでとばかりに神位種と神殿の関係についても聞かせてやった。余った対価よりもやや高価な情報だが、こちらとしてもこの少年からの信頼を勝ち得たいという思いがあった。

 何故なら、俺がこの少年を気に入ったからだ。



 さて、この情報を得てこの少年は一体どうするつもりなんだろうな?

 興味はあるが、互いのことを詮索するのは御法度だ。聞きたい気持ちをぐっと堪えて、最初に言われた依頼の話をすることにした。


「次はいつ来る? 神位種の神託について探るには結構な時間がかかるだろうし、いつまでにわかるとか断言できないぞ」

「なら定期的に接触しにくる。わかったらその時に教えてくれ」


 定期的にくる、か。


「じゃあ言っておくが……情報屋も危険な仕事だ。常に一所に留まっているわけじゃねぇ。俺も居座る酒場は毎日変えてる。必ず会えるとは限らねぇことは、覚えておいてくれ」

「わかった。なら会えた時に状況を教えてくれ」

「りょーかい。おっと、そうだ。名前を教えておいて貰えないかね。あ、偽名の方でな。それを合い言葉に、報酬受取済みの情報を渡すのが俺流だ」


 そう話を振ると、少年は視線を天井に向けてうーん、と考える仕草を挟んでから、再びこちらを見た。


「じゃあ、ヨウトで」


 ヨウト……?

 耳慣れない響きに、少し戸惑う。

 だが、俺も情報屋の端くれ。しっかりと目の前の少年の姿とヨウトという名を結びつけて脳に刻み込む。


「わかった、ヨウト。できるだけ早く調べておこう」


 頷くと、少年……ヨウトはにこっと微笑んだ。


「ありがとう。期待してる」


 そう言って椅子を引き、酒場去っていった。


 俺はその背中を見送りながら、何となく思った。

 あいつは大物になるかも知れねぇなぁ……と。

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