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魔王候補になりました。  作者: みぬま
第5章 新たなる魔王の誕生
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 91-2. 暗躍する者たち

「サギリ。急にいなくなったけど、どこに行ってたんだ?」


 大きな館の薄暗い廊下で、感情を読み難い抑揚のない声に呼ばれて少女が振り返る。

 闇に沈む廊下の向こうから月明かりが射す場所へと姿を現した青年を目にして、呼び止められた少女…サギリは、わざとらしいくらい楽しそうな笑顔を青年に差し向けた。


「どこって、睦月のお姉さん(・・・・・・・)に会いに」


 途端、青年はつかつかとサギリに近付き、詰め寄るようにして身を乗り出す。


「何のために!」


 常にない強い口調で問われ、しかしサギリはその怒気をひらりと躱すと浮かべている笑みを薄くする。

 そして少女らしからぬ妖艶な雰囲気を纏い、赤い瞳を細めて青年を見上げた。


「ゾイはあげたけど、レグルスは頂戴ねってお願いしに行ったの」


 本当の事を伝えても、青年は疑いの目を向けて来るばかり。

 1000年を越える付き合いなのに信用ないなぁと、サギリは内心で苦笑する。

 でも確かに、青年に伏せている事もある。

 自分があの妖鬼の魔王種に接触した一番の目的は、睦月の前世の姉であるという魔王種がどのような人物であるのかを見極める事だ。


 見極めた結果、サギリは“この人は信用出来る”と判断した。

 警戒心が強く、状況判断力も悪くない。警戒心が強いと言っても端から相手を信用しないわけでもなく、聞く耳も持っている。

 更に言えば、サギリと会話を交わしながらも一方で常に思考を止めず、刻一刻と変化する状況に対応すべくサギリを観察していた。ちょっと気が緩む瞬間もあったけれど、終始、いつサギリが襲いかかっても対処出来るようにそれとなく身構えていた。


 とは言っても、魔王種や神位種、更に言えばサギリたちが“白の遣い”と呼ぶイフィラ神の眷属もいるあの村で暴れていたら、サギリとて無事では済まなかっただろう。

 それ故に大人しく退散したけれど、本心としてはその力量のほども知っておきたかった。

 ただ、力量に関してはシスイから口頭では聞いているので、確かめられなくても問題はないのだが。


 そんな思考を巡らせると、サギリは今度は自分の方から青年に詰め寄った。


「ねぇ、イザヨイ(・・・・)。私思ったんだけど、先々の事を考えると、お姉さんに協力を仰いでおいた方がいいんじゃないかなぁ?」


 そう切り出すと、あからさまに青年…イザヨイは嫌そうな表情を浮かべた。

 きっとサギリが提案した内容の重要性はイザヨイも理解している。

 けれど、巻き込みたくないという思いがその表情からありありと読み取れた。

 予想通りの反応ではあったけれど、サギリとしてはこれをどう説得したものかと悩ましく思う反応だ。


「イザヨイの気持ちはわかるよ? でもねぇ、このままだとマスターの暴走、止められないよ? もしマスターが暴走しちゃったら、今度はこの世界の大陸がくりぬかれて地球で町がひとつ消えるくらいじゃ済まないかもね。この世界そのものが、地球に落ちて行くかも知れない。ま、行き先が必ずしも地球とは決まってないけどさぁ」

「それは……」

「僕もサギリの意見に賛成だ」


 サギリに鋭い視線を向けられて言い淀むイザヨイに、少年の声が被さった。

 イザヨイがやってきたのと同じ側の廊下から、月明かりの下に少年が姿を現す。


「マスターはもう限界だろう。僕たちだって、いつセツナのように終わるかわからない。打てる手は打っておいた方がいい。その点リクは信用出来るし、実力もある。リクだけじゃない。あの人の周りには、強い力を持つ者が多く存在している。もしリクが協力してくれたら、彼らの協力も得られるかも知れない」

「そんな、姉さんを出しに使うような真似……」


 俯くイザヨイを前に、サギリは少年シスイと顔を見合わせて肩を竦め、シスイはシスイで呆れたように小さくため息を吐く。


 サギリたちは本来であれば、この世界の北大陸で白神種として生まれた時点で怪しい儀式の生け贄として、年端も行かぬうちにその人生を終える運命にあった。

 なまじ前世の記憶があるせいでそんな運命を受け入れる事の出来なかったサギリにとって、「皆、おかしいんじゃないの?」と声を上げてそんな運命を打ち破ってくれたイザヨイは正に救世主だった。

 生け贄の洞から脱出し、生死の境を彷徨った末に“マスター”に拾われて今日に至るまで、自分たちを引っ張ってきてくれたのはナギとイザヨイだ。

 サギリにとって“マスター”は自分たちの庇護者であってリーダーではない。サギリにとってのリーダーはナギとイザヨイなのだ。


 けれどこの正念場に来て、イザヨイは弱気になっている。

 ナギはもう自分たちを引っ張っていけない状態にあって、サギリが頼れるのはイザヨイだけなのに。


 故に、サギリはイザヨイが弱気である事が気に食わなかった。

 物静かな性格にも関わらず、ずっと先頭に立ち続けてくれていた頼もしい背中が、今は小さく見える。


「……このシスコンめ」


 ぽつりと零して、サギリはぐっと目に力を入れるとイザヨイを睨みつけた。

 ふつふつと沸き上がってくる怒りに任せ、俯くイザヨイの顎を掴んで自分の方を向かせる。

 急な事に目を丸くするイザヨイを見上げ、サギリは思いっきり口をへの字に曲げた。


「あのねぇ、もうあたしたちには時間がないの! 悠長な事言ってる間に、あんたの姉さんごとこの世界が滅ぶかも知れないんだからね! あんたの姉さんは何も知らないまま、また、ある日突然死ぬ事になるんだよ!? それでもいいの!?」

「サギリ、声がでかい」


 サギリが思いきり声を張り上げると、慌てたシスイがその口を塞ぐ。まだ言い足りないのか、それでもサギリはもごもごと何かを訴えていた。

 そんなサギリを半眼で眺めていたシスイは、ふと立ち尽くしているイザヨイに視線を移す。イザヨイは愕然とした表情で固まっていた。どうやらサギリの言葉が余程刺さったらしい。

 あともうひと押しかと思い、シスイは静かに言葉を発した。


「……イザヨイ。僕はサギリの言う通りだと思う。もう僕たちには時間がないし、このまま僕たちだけでどうにかしようとしても手遅れになる可能性もある。手遅れになってこの世界ごと全てが滅んで後悔するくらいなら、協力の有無については一旦忘れて、せめて事情だけでもリクに説明しないか? それでこちらを手伝うと言ってくるなら協力して貰えばいいし、言ってこなければ俺たちで対処すればいいだけの話だ」


 ここがイザヨイを妥協させるボーダーラインだろうと考えて提案すると、予想通り、色を失っていたイザヨイの瞳に光が戻る。


「そうだね。事情を説明して、どうするかは姉さんたちが決めればいい。どう転ぼうと、俺たちは俺たちのすべき事をこなすだけだ」


 静かながらも固い決意の籠った声音に、シスイはほっと小さく息をついた。

 しかしサギリは不満げにシスイの手を振り払うと、


「何であたしの言葉だと納得しないのに、シスイの言葉だと納得するの……!」


 僅かに目に涙を浮かべながらそう言い残し、踵を返してさっさとその場から離れて行った。

 去って行くサギリの後ろ姿を呆然と見送るイザヨイ。

 その様子を横目で確認してからついと視線を反対側に逃がすと、シスイはこっそりと、本日何度目ともわからないため息を吐いた。


(ナギ、セツナ。僕にこのふたりの間を取り持つなんて土台無理だ……勘弁してくれ)


 シスイは心の中でぼやき、かつてこのふたりの間を取り持っていた友人たちに思いを馳せた。




 リクに事情を説明する事を決めた翌日。

 イザヨイ、シスイは他のリドフェル教の主立った使徒たちと集まって、今後の方針について改めて話し合う事にした。

 続々と会議室に集まってくるメンバーたち。しかし昨日機嫌を損ねたサギリは姿を見せていない。

 サギリの気性から待っていても来ない事はわかっているので、サギリ不在のまま話し合いは始まった。


「ゴルムアに関しては、もう何をしても無駄だろう。本来であれば共に手強いレグルスとゴルムアで潰し合って欲しかったが、ギニラック帝国の首都までゴルムアを尾行して観察した結果、結局ゴルムアはこちらで手を加えても壊れたまま正気に戻ることはなかった」


 シスイが報告すると、同席している剣士の青年が「あれはおっかない任務だったなぁ」としみじみと頷く。

 実際、シスイもゴルムアのみならず魔王レグルスまでもがいる場に潜入するのは肝が冷えた。

 幸いシスイが契約している水の精霊が気配や姿を隠す能力に長けているためゴルムアを尾行する事に成功したが、もし見つかっていたらまた仲間の誰かが命を落としていてもおかしくない場に立っていたのだ。


「現在ゴルムアは魔族領を再度南下中だ。魔族領南部に何か執着しているものでもあるのか、北西部の魔族には無関心なようだった」


 そう報告を締め括ると、皆で話し合ってゴルムアとレグルスに関しては静観する方針で意見が一致した。

 続いて、リクに関する議題に移る。ここでも報告したのはシスイだ。

 自分たちが何故リドフェル教に属しているのかをシスイがリクに話した際の会話の内容を聞くなり、イザヨイは「研究者か……調べる必要がありそうだな」と呟いた。


 イザヨイはずっと、リクが以前口にした決別の言葉の根底にあるのは、リドフェル教による希少種狩りと、それに伴って今世のリクの母親を殺めてしまった事への怒りと警戒心だと思っていた。

 しかし、どうやらそれだけではなかったようだ。


 “研究者”。

 その存在の影響も多少なりともあったのだろうという結論に至ったのだ。

 シスイが言うには、リクは「私は自分も希少種だから希少種を守りたいと思ってるし、リドフェル教が“研究者”に与して希少種を狩るなら確実に敵になる」と言っていたそうだ。


 自分たちが希少種を狩る件に関しては、今はその手を止めている。現在の“マスター”の状態を鑑みるに、これ以上狩っても無意味だと判断したからだ。それでもレグルスは確保したい。

 理由は、いざという時、これまで集めた希少種やレグルスの身に宿る魔力を用いて“マスター”の「万が一の場合の願い」を叶える必要があるからだ。

 恐らくレグルスさえ確保してしまえば“マスター”の「万が一の場合の願い」を叶えるために必要な魔力を集める作業は完了し、これ以上希少種を狩る必要もなくなるはず……。


 いずれにせよ、現在リクが希少種狩りで警戒しているのは実質“研究者”の存在の有無になるのだろうと思われる。

 ならば協力を仰ぐ上でも“研究者”という存在が実在するのか否か、実在した場合は調査し、その実態をリクに伝える事でリクの懸念を少しでも払拭する必要があるのではないかと考えた。

 同時に、リドフェル教にとって不利になりかねない存在であった場合は、排除する事も視野に入れていくべきであると、この場にいる全員の意見が一致した。


 シスイも魔族領で噂されていた“研究者”の存在が気になっていた。

 何故か自分たちの希少種誘拐が、“研究者”によるものだとされていた事が気持ち悪かったのだ。


「火のないところに煙は立たない」


 ぼそりと、大きな盾を自らの横に置いている男が口を開く。リドフェル教に所属している証の黒い神官服の上からでもわかる、筋骨隆々とした男だ。

 その表情は冷めていて読めず。声もどこか冷たさを感じる硬質なものだ。

 白神種ではないが魔力暴走事故による転生者のひとりであり、今世でリクの母親を殺害した班の長でもある。


 リドフェル教の使徒の数は少ない。

 “マスター”が拾い上げた孤児や、過酷な環境から逃げ出してきた子供たちが所属しているが、使徒として世界中を飛び回りながら“マスター”の手伝いが出来るメンバーは今や10人に満たない。

 故に方々に出向くのは難しく、魔族領で噂されている誘拐数と自分たちの誘拐数が一致していない事も疑問だった。


「そうだよね、なんの根拠もないのに“研究者”なんて名称がつけられるはずないものね」


 盾の男に同意するのは魔術師の女性。


「誘拐に関連して“研究者”なんて名称が使われるってことは、もしかしたら人体実験を行う組織があって、そこも希少種の誘拐をしてたとか!」


 不穏な内容に反して目をキラキラさせながら捲し立てる魔術師の女性の様子に、男性陣は「またはじまった」と言わんばかりの表情を浮かべた。

 そんな反応など気にせず魔術師の女性は「合成生物(キメラ)とか作っちゃってたりして!」と、嬉々として語り続けていたが、やがて盾の男に「リムエッタ」と名を呼ばれてぴたりと喋る口を止めた。


「ダン……ごめんなさい。つい喋り過ぎちゃった」


 魔術師の女性・リムエッタは盾の男・ダンを振り返ると、しゅんと落ち込んで謝罪する。


「でも、可能性はあるよなぁ。希少種が狙われているのはいつの時代も同じだけど、俺たちが絡んでいない希少種誘拐で、誘拐された後も行方知れずなんて事はそうそうないもんな。大抵は権力者の手元に置かれているのが発覚するもんだけど、そのまま見つからないのなら、人体実験に使われててもおかしくない」


 リムエッタの言葉を肯定したのは剣を佩いている青年。

 気崩した漆黒の神官服に映える長い金髪をひとつに束ねて背中に流し、剣の柄を指先で小刻みに叩きながら薄氷色の瞳をすがめて思案顔で空中を睨んでいる。

 その立ち姿は凛々しく、いかにも賢そうに見える……が、実際は頭を使う事が苦手な青年は、すぐに視線を落とすと「腹減ったなぁ」と呟いた。


「カシュザーク。先程焼いた焼き菓子、食べます?」

「さすがティア! 食う食う!」


 すかさず鈍色の髪の女性・ティアが声をかけると、剣士の青年・カシュザークが歓喜の声を上げて調理場へと走り去った。

 ティアもその場にいる面々に軽く頭を下げて、カシュザークに続く。


 その後ろ姿を見送り、残った者たちは一度顔を見合わせた。


「……そろそろ食事の時間だったっけ?」


 すっかり話の腰を折られてしまって微妙な空気が流れる中、そんな空気を読まずにイザヨイが首を傾げた。

 その場に残っていたシスイ、ダン、リムエッタはそれぞれ小さくため息を吐くと、今後の行動指針を仰ぐべく、イザヨイに当初の話題を振り直した……。




 この日以降、イザヨイたちは“研究者”に関する情報を探りつつ、魔王レグルス=ギニラックとオルテナ帝国皇弟ゴルムア=デリズ=オルテナの動向を監視することに注力した。

 その傍ら、時折イザヨイ、シスイ、サギリの内誰かしらが遠巻きにフォルニード同盟の様子を確認しに向かっている。

 どうやらフォルニード同盟は上手く歯車が回り出したようで、各集落は古代魔術の結界に守られ、万が一ゴルムアの急襲を受けても一定時間は耐えられる様子になっていた。

 物資もどうやら特殊な魔術か何かを用いて結界の外から入手出来ている様子だ。


「イザヨイの前世のお姉さんとお兄さん? 凄いねぇ。物資のやり取りはどうやってるのか聞いたら、空間を操る魔術を開発して物資を転移させてるんだって」


 今日はサギリがフォルニード同盟の様子を見に行く番だった。

 帰ってくるなりそう言い放ったサギリに、すぐさまイザヨイが詰め寄る。


「また姉さんに接触したのか!?」

「だってぇ、ここには私の話し相手してくれる人いないじゃん。私、リクの事好きだなぁ。警戒されてはいるけど、ちゃんと話を聞いてくれるんだもの。あっ、そうだ! ねぇイザヨイ、知ってた!?」


 今度はサギリがイザヨイに詰め寄り、イザヨイは仰け反った。


「リクって子供がいるんだってぇ」

「「えっ!?」」


 この言葉にはイザヨイのみならず、サギリからの報告を聞こうと寄ってきていたシスイも目を丸くする。

 そんなふたりの反応を見て、サギリは心底楽しそうな笑顔を浮かべた。何の陰りもない、心の底からの笑顔を。


「旦那さんは神位種の、転生者らしいよ。異種族婚も異種族婚だよね〜。魔王種と神位種って、対極の存在じゃない? 素敵だわぁ。ロマンだわぁ」

「神位種……」


 夢みる少女よろしく目を輝かせて語るサギリの言葉を、イザヨイは小さく繰り返した。その脳裏には、魔王ゾイ=エンと戦っていた、神位種の青年の姿が思い起こされる。

 明らかに魂還りの顔つき。しかも、その顔は睦月も知っている顔だった。


 望月(もちづき) 陽人(はると)


 前世では、身辺で割と有名だった人だ。

 常に人に囲まれていて、分け隔てなく接する姿勢から老若男女問わず好かれていた人格者。運動神経も良く、成績も優秀。イザヨイ──睦月は陽人と同じ高校に進学した際、既に卒業していた陽人の功績を校内の至る所で目にしていた。

 年齢的にも接触する事はなかったし陽人にまつわる数々の噂があまりに出来過ぎていて、自分とは関わる事などない、遠い存在だと思っていた。

 ただ、姉とは同級生だった事もあって、一度だけ姉の卒業アルバムで顔を確認した事がある。関わる事はないだろうと思ってはいても、超人の顔くらいは見てみたかったのだ。故に、顔はうっすらと覚えていた。


 前世の話とは言え、そんな人が姉の今世の伴侶……なのだろうか。

 巨城ゴート・ギャレスで遠目に見た時はさほど驚きもしなかったけれど、そう思うと急にこの世界でのリクやハルトの事が気になり出す。


「……ちょっとアールグラントに行ってくる」

「えっ! なになに、リクの旦那を見に行くならあたしも行くぅっ!」

「ふたりとも落ち着け」


 さっさと館の外へと歩き出すイザヨイをサギリが追う。それを冷静な声音で引き止めたのはシスイだ。

 冷静には言ったが、シスイの内心ではこのふたりが本気でアールグラントに行くと言って聞かなかった場合、どうやって引き止めたらいいのかを必死に考えている。

 幸い、イザヨイもサギリもシスイを蔑ろにはせず、その足を止めてくれた。それを確認してシスイはほっと息をつく。


「今はそれどころじゃないだろう。こちらはこちらでレグルス確保と“研究者”の調査がある。アールグラントはアールグラントで恐らく北部での戦争への対処で忙しいだろう。どうしても会いたいならせめてレグルスの件と“研究者”の件を片付けて……それと、戦争そのものの終結を待った方がいいだろう。戦争が終結したら“研究者”の情報を引っさげてリクにこちらの状況を話しに行った時に、リクを経由して会わせて貰うのが筋じゃないのか?」


 そう問いかければ、イザヨイとサギリは顔を見合わせ「確かに……」と頷いた。

 何とか理解して貰えた様子に、改めてほっと息をつくシスイ。人の心の機微には疎いが、このふたりの暴走を止められるのは今やシスイのみだ。

 当のシスイはその役割を重荷に感じながらも、決してシスイを軽視しないふたりの存在を有り難く思っていた……。






 こうしてリドフェル教の使徒たちが裏で暗躍している間にも戦況は着々と移り変わり、ついに魔王レグルス=ギニラックが自らの配下を引き連れてオルテナ帝国へと攻め入った。



 そして、そのひと月半後。



 オルテナ帝国が、滅亡した。

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