91. 本格化する争いの裏側で
フォルニード同盟が魔王マナ=フォルニードの庇護の下、本格的に始動した頃。
人族領側では、セレン共和国とヤシュタート同盟国がアールグラントに共鳴。アールグラント以南の人族領では、オルテナ帝国の皇帝の弟・ゴルムアによる魔族領内での暴挙を非難する声が高まってきていた。
各国の王族や指導者たちとしてはあまりオルテナ帝国やランスロイドを刺激したくない所ではあったけれど、国民の中に渦巻き始めた不満や恐怖を抑え切る事は不可能だった。
そんな折。
魔族領と自国との国境付近に陣取って様子見をしていたオルテナ帝国・騎士国ランスロイド同盟が動いた。
先鋒は何と、姿を消していたゴルムアだった。
正気ではない様子の、更に言えば兵士同士の戦いを嫌って魔族領を南下してきたと思われていたゴルムアが、何故オルテナ帝国に戻ったのか。
しかも、この短期間でどうやってオルテナ帝国まで戻ったのか……。
不明な点は多かったものの、戦況が一気に動き始めた。
《リクさん、視えますか?》
《何とか》
《私は駄目です。妨害を受けて全く視えません》
私はギルテッド王国にいるレネと念話で連絡を取り合いながら、千里眼で戦況を確認していた。しかしゴルムアを探そうとするとレネの千里眼が妨害されるようだ。
私も妨害を受けているのか、所々千里眼で得られる視覚情報が欠落して視え難い事この上ない。
《ゴルムアを探そうとすると妨害を受けるなら、妨害を受ける場所の近くにゴルムアがいるって事なんじゃないかな》
《なるほど……しかし申し訳ないのですが、私の方は妨害を受けると視覚情報が全く得られなくなってしまうので、場所の特定は困難です》
魔力量の問題なのか、別の要因があるのか……。
それはわからないけれど、妨害を強く受けてしまっているレネにはゴルムアではなく、全体的な戦況を視て貰った方がいいのかも知れない。
《レネ。ゴルムアは私が探すから、戦場全体を視て貰える?》
《了解しました》
《その情報は、マナとアールグラント王国側に送って欲しいんだけど、出来そう?》
《はい。あっでも、アールグラント王国側はハルト様しか魔力認識をしていないのですが、この時間帯にハルト様に念話を送ってしまって大丈夫でしょうか?》
問われて今の時間帯を千里眼で見える景色から読み取る。今千里眼で視えている景色は黄昏色で、その中で多くの兵士や騎士、魔族たちが戦いを繰り広げている。
隊列を組む人族。対する魔族は多少の協力はしているものの、基本的には個々で戦っていた。この様子から察するに、知謀や戦略を行使する能力で見れば、人族が上だろう。
しかしそれを覆す力を持っているのが魔族だ。今は拮抗しているけれど、時間が経つに連れて人族が不利になる。そこには歴然とした、スタミナを始めとする身体能力の差が存在しているからだ。
……っと、つい千里眼で視える状況の方に意識を引っ張られてしまった。
夕暮れ時。これくらいの時間ならハルトも重要な会議を一通り終えて、書類整理をしている頃合いだろう。
《うん、この時間帯なら大丈夫だよ》
《では、こちらの念話は一旦切りますね。もし新たな情報がありましたら、ご連絡下さい》
《了解。レネも無理しないようにね》
《はい!》
レネは頼もしいくらい力強い返事を残して、念話を切った。
私はレネとの念話が切れた事で、千里眼にだけ集中力を注いでゴルムアの行方を探る。
確かに妨害はされているんだけど千里眼を通していても感知能力が働くのか、何となく“この方向にいる”という漠然とした確信がある。
ひたすらその感覚を信じて魔力を伸ばしていく……。
すると。
千里眼で視ている景色の中に不意に見覚えのある姿が映った。小柄な体格の、白い髪と赤い目を隠すように大きな帽子を被った少年。
シスイだ。
シスイは3人の黒い神官服の仲間を従えて、周囲で争う人族と魔族の間を悠々と歩いて北上していく。あれだけ多くの人がいる中を進んでいるのに、不思議と誰とも接触せずにすいすいと進む。
シスイの向かう先にはギニラック帝国の首都と思われる、石造りの城壁が視えた。城壁の内側には規則正しく配列された家々が建ち並び、更にその奥、城壁に囲まれた中で最も北側に聳え立つ、天を貫かんとする塔のような建造物。
恐らくあそこに、魔王レグルス=ギニラックがいるのだろう。
あんな場所で一体何をしようとしているのかと気になってシスイたちの動向に注視していると、突如強烈な妨害を受けて千里眼が遮断されてしまった。
どくん、と心臓が嫌な音を立てる。夢から目覚める瞬間に似た、千里眼で遠くへと伸ばしていた意識が自らの許に戻ってくる感覚。
眼前の景色に意識を向けてみれば目の前に在るのは戦場ではなく、フォルニード村にある本部の、自分に充てがわれている部屋の景色だった。
その事を確認して、詰めていた息を全て吐き出すように、深く長いため息を漏らす。
心臓が早鐘を打っている。それを落ち着かせるべく、その後も深呼吸を繰り返した。
妨害を受けた瞬間に僅かながらに流れ込んで来た、不安を掻き立てるような禍々しい気配から逃れられた安心感で脱力する。
この感覚は、そう……かつて関所跡地で過去視をした時、過去の記憶でしかないはずの睦月に見つかった時の恐怖に近い。
一体誰が妨害してきたのか……。
ゴルムアを探そうとして受けた妨害と比べると、格段に強い力が働いていた。そう簡単に切れるはずがない魔力の糸を、力尽くで引きちぎられたような感覚だった。
まさか千里眼を遮断されるなんて。
「あなたが、リク?」
何とか心拍数が落ち着き始めた頃、唐突に背後から声をかけられた。
折角落ち着いたのに、再度心臓が跳ね上がる。全く気配が掴めなかった!
恐怖を覚えている場合ではない。
そう考えて思い切って振り返れば、私の背後…部屋の窓が綺麗さっぱり消え去っていて、窓枠にひとりの少女が腰掛けていた。
見覚えがある。睦月と一緒にゴルムアを追って行った少女だ。
「あなたは?」
「あたし? あたしはサギリ。問い返してきたって事は、あなたがリクって事でいいんだよねぇ?」
サギリ。確かタツキの口からもその名前は聞いていた。私がフォルニード村に来る直前にも、睦月と共にフォルニード村に現れたというリドフェル教の使徒。
幼さを感じる声、外見は人族で言う十代半ばくらいに見える。ちょっとだるそうな仕草。間延びした言葉遣い。けれど、隙はない。
真っ白なショートボブの髪を指先で弄びながらも、油断なく紅の瞳がこちらを見据えていた。
睦月やシスイと違って、下手に刺激しない方が良さそうな予感がした。
なので、素直に答える事にする。
「仰る通り、私がリクだけど。何か御用?」
「ふふっ。何か御用、ねぇ。まぁ、御用っちゃ御用かな〜」
よいしょ、と小さな声を上げながら少女──サギリは窓枠から床に降り立って、私の方へと歩み寄ってくる。
反射的に椅子から立ち上がり、身を固くする。けれど気にした風もなくサギリはずんずん近寄ってくると、私よりも若干低い位置にある目を動かして、じろじろと品定めするかのように不躾な視線を向けてきた。
な、何なの、この子。
「胸ちっさいね〜。顔も地味! 普通! でもその顔、この世界基準だと可愛い部類に入るのよね〜。スタイルは……細すぎず、太すぎず。うんうん、これくらいがちょうどいいよね〜。嫌いじゃないわ〜。服のチョイスは──ちょっと惜しい! もっと足出してこうよっ!」
何だ何だ、失敬な。本当に品定めしていたとは。でも仰る通りなので反論の言葉は一切ございません。
私が黙り込んでいると、服装や髪型についてあれこれ言い募っていたサギリは改めて私に視線を合わせてきた。
「あたし、前世の名前は泉 霧香っていうの。今世の名前はみんなナギが付けてくれたんだけどさ、もう何て言うか、単純だよね〜。霧香だから霧繋がりでサギリ、とか。睦月だから月繋がりでイザヨイ、とか」
散々駄目だししてきたかと思ったら、今度は唐突に名前のネタばらしが始まった。
けれど、なるほど。睦月たちの今世の名前が日本風なのは、そういう理由だったのか。
「ん? シスイは? 水関係?」
つい気になって問いかけると、サギリは目を細めて忍び笑いを浮かべた。
「シスイはねぇ、前世の名前が鏡 明なの。姿見の“鏡”に、明るい暗いの“明”!」
あっ! 明鏡止水!?
私が思わず目を見開くと、サギリは「うふふふふ」と笑い声を漏らした。
「いやぁ、いいわぁ。やっぱり前世が同郷だとこういう会話ができるものね〜。もうイザヨイもシスイも冷めてるし、ナギとはお喋りできないし……セツナはもういないし。シスイから、リクっていう名前の妖鬼の魔王種はイザヨイの前世のお姉さんだって聞いたから、ちょっとお話ししたくて来ちゃったの」
「そんな理由で!?」
思わず声に出してしまってから口を押さえるけれど、時既に遅し。
前世から知っている睦月や少し話しただけで心の機微に疎いだけだとわかるシスイと違い、サギリは思考が読めない。私の見立てだと、彼女は沸点が低そうだ。
だからこそ、刺激しないように気をつけようと思っていたのに……。
しかしサギリは私の言葉などさらりと流して、目を細めた。
「まぁ、それだけじゃないけどね〜。お礼を言いにきたの」
お礼?
何やらサギリの笑みに不穏さが混ざり始める。
何この感じ……恐いっ。
あぁ、そうか。さっき千里眼を遮断してきたのは、サギリなのか。
あの時恐怖を抱いた気配の正体は、サギリの気配だったのか……。
サギリは私が恐怖心を抱いて青ざめている様子をたっぷり眺めた後、まるで何事もなかったかのようににっこりと明るい笑顔を浮かべた。
そこにはもう、不穏さは一切存在しない。
「ゴルムアを弱らせてくれてありがとう。おかげで簡単に“改変”できたよぉ! あっ、あとこれはお願いなんだけど、ゾイは譲ったけどレグルスはあたしたちに頂戴ねって伝えたかったの! ゴルムアの件は本当に助かったわぁ」
「それじゃあねぇ!」と弾んだ声で手を振ると、サギリは窓枠から外へと飛び出して行った。
私は慌てて窓枠に駆け寄って周囲を見回す。けれど既に、サギリの姿も気配も綺麗さっぱり消えていた……。
私は恐ろしくなってきて、すぐさまタツキの許を訪ねた。
タツキは湖のほとりでブライと共に何やら話し合っていたようだけど、私の姿に気がつくと話を中断して迎えてくれた。
「“改変”……ねぇ」
私の話を聞くなり、ちらりとタツキはブライに視線を向ける。
どうやらタツキは私と同じ結論に至ったらしい。
ブライも同じ結論を出したようだ。タツキの視線を受けて、小さく頷いた。
サギリの口調だと、ゴルムアをサギリたちが“改変”……変質させたと捉えられる。それはつまり、タツキの再構成能力に近い能力をリドフェル教側も保有しているという事だ。
タツキのように相手を服従させた訳でもないのに、あれだけの強さを誇るゴルムアに手を加えるなんて想像を絶する。
けれど、そう考えればゴルムアが突如ギニラック帝国とオルテナ・ランスロイド同盟の戦場に姿を現した事にも説明がつく。
説明はつくけれど、明らかに非人道的な事案だ。
私もタツキも顔をしかめて、恐らく同じ想像をした事はわかっていても口には出さず。
一方で、私たちのように前世の倫理観の残滓に囚われていないブライは、思考した内容をさらっと口にした。
「つまり彼の神位種……ゴルムアといったか。そのゴルムアは、リドフェル教によって人格を歪められ、何らかの方法で操られているという事か。問題はそれがいつからで、何故今戦場へ差し向けられたのか、だな」
ブライの言葉に私ははっとして顔を上げた。
そうか、そもそもゴルムアは理性を失っていた。理性が失われていたせいで敵味方関係なく襲いかかり、特に魔族に対して執拗に蹂躙してきたのだ。
それが、サギリたちがゴルムアを捕らえたと思われるフォルニード村への襲撃後はどうだったか。
魔族領南中部に、ゴルムアは現れなかった。おかげで私たちは、順調に同盟を組んだ集落に魔法碑を設置する事ができた。
そしてゴルムア自身は、母国の先鋒として魔王と対峙しに向かった……と考えられる。
「もしかしてサギリが言ってた“改変”って、洗脳って事じゃないのかも……?」
ただ単に、ゴルムアに正気を取り戻させただけとか?
でも、だとしたら“改変”なんて言い方しないか……。
「その可能性はゼロではないとは思うけど、魔王ゾイ=エンが語ってた事が真実なら、今の状態がゴルムアという人間の正常な状態なのかは疑問だね」
あっ、そうだ。そうだった。
私はタツキの言葉で、本来のゴルムアの性格を思い出す。
「魔王ゾイ=エンと白豹ゾルの記憶の中のゴルムアは、フォルニード村に現れた時みたいに理性を失ってる感じじゃなくて、自分の意志で魔族の集落を襲って楽しんでる感じだったんだよね……。そう考えると、今のゴルムアも本来のゴルムアとは違うのかも知れない」
何せゾイとゾルの記憶の中のゴルムアは「魔族は滅ぶべき種族」「だから殺してもいい」「殺すのは楽しい」っていう、自分の意志を持ちながらも狂気に満ちた思考回路をしていた。
でもフォルニード村に現れたゴルムアは違かった。
そこに己の明確な意志はなく、まるで何もその目には映っていないかのように、狂信的なまでに「魔族を殺す」事に執着していたように思える。
「なら、やっぱりリドフェル教はゴルムアに洗脳のような何かをしたって事じゃない?」
「うーん……まぁ、結局そうなるのかぁ」
タツキの出した結論に、すっきりしない気持ちのまま応じる。
何せ今のゴルムアは一般的な常識に当て嵌めると最も期待されていると思われる、模範的な行動をとっているんだもの。
本人の意思ではないのは非人道的かも知れないけれど、母国の為に勇者として魔王に立ち向かって行くという、人々から期待されている行動。
何とも複雑な気分だ。
「まぁそれはそれとして。今一番気になるのは、さっきブライが言ってた通り、何故今戦場に差し向けたのかだよね。何かしら目的があると思うんだけど、それが判然としないからリドフェル教の動きが不気味でしょうがない」
あっ!
ついサギリが口にした“改変”という言葉が恐ろしくて、他の会話内容をちゃんと伝えてなかった!
「あっ、あのね! それは多分、リドフェル教の目的が魔王レグルス=ギニラックだからだと思う。サギリから“ゾイは譲ったけど、レグルスは自分たちに頂戴”って言われたから」
私が慌てて伝えると、タツキは少しうんざりした表情で「そういう事か…。」とつぶやいた。
リドフェル教は強い魔力を持つ者たちを攫う。
最近は誘拐とか聞かなくなってすっかり“研究者”という呼称も消えつつあるけれど、彼らが強大な魔力を保有する魔王種や神位種、希少種を狙っている事は、ゾイ=エンとの戦いの後のシスイの口振りからも窺える。
その事から推察するに、リドフェル教はゴルムアを使って魔王レグルス=ギニラックを仕留めさせようとしていると考えられる。
睦月やシスイ、サギリの力量を見れば何故自分たちで手を下さないのかと思うけれど……。
その後色々とタツキやブライと相談した結果、現在リドフェル教やゴルムアの動向が完全にギニラック帝国に向いていると思われる事から、もうしばらく様子をみようという結論に至った。
リドフェル教の動きがこちらにとって不利益になるようなら動かざるを得なかったけれど、今のところ不利益に繋がる要素が見つけられなかったので、このまま傍観を決め込みつつ、引き続きゴルムアの動向を探る事になった。
そうと決まれば、私がすべき事はひとつ。ゴルムア捜索の続行だ。
私は本館の空き部屋を借りて、改めて千里眼を発動させる。その間に借り受けている部屋の窓枠を修復して貰えるそうだ。
現在私の横には、手乗りサイズのブライがいる。再びサギリのような侵入者が来ても対処出来るようにとの、タツキの配慮だ。
当のタツキは村の哨戒に向かった。前回のゴルムア襲来以降、哨戒は2人1組で行う事にして、私、タツキ、フレイラさん、センの4人で交代制で行っている。今日はタツキとセンの組み合わせだ。
あのふたりは一体どんな会話をするんだろう?
気になるけれど、駄目だ駄目だ。集中しないと!
魔力を北方へ向けて伸ばす。
空中から地上を俯瞰で見下ろしながら、千里眼で視る景色がぐんぐんと北上していく。
途中、巨城ゴート・ギャレス跡地を通過。ここからやや東寄りに魔力を伸ばす。
すると間もなく戦場が視えてきて……私は息を呑んだ。
遠目にもわかる。
大地が燃え盛っていた。
視覚情報だけでもその熱気が伝わってくるような陽炎を伴った炎は、明らかに魔術によって齎されたものだ。
大地を覆い尽くす炎の中に、ちらほらと炭化した何かが大量に横たわっている。
何か、なんて考えたくない。
けれどサギリが現れる前、千里眼が妨害される前までは、ここには沢山の人族や魔族の兵士や騎士、戦士たちがいた。
そんな彼らの気配はどこにもない。
ただ、炎に呑まれていない場所では、混乱を来している人族の兵士や騎士たちが全速力でオルテナ帝国方向へと走り去る姿が視えた。
更に魔力を北へと伸ばす。
今のところ、まだ妨害は受けていない。
もしかしてもう、ゴルムアはここにはいない?
そう疑問を抱いた時。
千里眼越しでもぞっとするような、底知れない存在感を放つ何者かがギニラック帝国側の炎の淵に現れた。
近寄りたくない。
けれど、確認しないと!
私はその人物に向けて、魔力を伸ばして行く。
徐々にその容貌がはっきりと視えてきた。
黄金の髪、血色の二本角、紅の瞳。
魔王レグルス=ギニラック……!
私が確信を得ると同時にレグルスが私の魔力の気配に気付いた。
唐突にこちらを振り仰ぎ、じろりと睨んでくる。その場にいる訳でもないのに、身が竦んだ。
レグルスは剛鬼なだけあって、長身で立派な体躯をしている。立っているだけでも圧迫感があるのに、顔つきも恐ろしげだ。
鋭い三白眼に射竦められて半ば硬直していると、レグルスに駆け寄ってきた妖鬼の女性が何事かをレグルスに耳打ちする。
途端にレグルスは戦場に視線を戻して獰猛な笑みを浮かべた。嫌な予感しかしない。
レグルスは手を振り上げ、何事かを叫んだ。千里眼では音まで拾えないのがもどかしい。
しかし、周囲にいるレグルスの配下たちが一斉にレグルスに頭を下げ、方々へ散って行くのを視て確信する。今のは号令だ。恐らく、オルテナ帝国へ攻め入るための、号令。
ゴルムアは……ゴルムアは一体どこに行ったの!?
私は急ぎレグルスから離れてゴルムアを探し始める。
しかしギニラック帝国方面にも、炎に焼かれた大地周辺にもそれらしき姿はなく、妨害も全くなく……。
結局、私はゴルムアを見つけ出す事が出来なかった。
ただただ、魔王レグルスが率いるギニラック軍がオルテナ帝国を蹂躙すべく、行軍して行く様子を視ている事しか出来なかった……。