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5.余談

 ☆ 親しみのある鳥 ☆


「あ、そう言えばさぁ?」

「ん? どうしたのさ、兄さん」

「昭、小夜ちゃん、これ……何に見える?」

 そう言って正さんは、寛いでTVゲームの画面を見つつもさらさらと指を動かした。

 その辺にあったプリントの裏に、さらさらと鉛筆が走る。

 書き上がったモノ。

 それはかつて冒険を重ねた世界で、鳥神レッグフォールと呼ばれた存在の姿で……


 妙に親しみのある、その姿。

 目にした小学生2人は、描かれた絵を見て即座に答えた。


「「白色レグホン(にわとり)」」


「やっぱニワトリだよなー……」

「うちの学校の鶏小屋にもいるよ、それ」

「こっこちゃんっていうんだよ。毎朝たまごを生むの!」

「そっかそっか、雌鶏かぁ。そりゃレッグフォール様に紹介してやりてぇな」

「?」

「レグホン?」

「いや、なんでもない……」

 かつての世界では誰にも共感を得られなかった答え。

 わかってくれる相手がいるというのは……良いなぁと。

 自分と同じ価値観を共有できる小学生達の姿に、正さんはうんうんと頷いた。


 ちなみにその後、何故か正さんの部屋に『白色レグホンに見える物体』が度々出没するようになるのだが……

 この時の正さんは、そんなことは全く予想もしていなかった。




 ★ 成長期 ★


 正さんの姿は、異世界に召喚される前とは激変していた。

 だけど昭君も小夜ちゃんもスル―していた、のだが。

 傍目にソレは明らかで。

 最初にツッコミを入れたのは、学校から帰ってきた和さんでした。


「ただいまぁ……お母さん、今日のご飯は…………って、え!?」

 台所で夕餉の支度をする、母上様。

 部活帰りでお腹を空かせた和さんは、献立を聞こうと台所へ足を向け……途中横切ったリビングで豆の皮をせっせと向いている正さんの姿を二度見した。

 うっかり最初は気付かず素通りしかけた自分に、内心で盛大にツッコミをいれる。

 震える指で兄を指さし、和さんは叫んだ。


「兄さん誰に改造されちゃったの!」

「いきなり何言い出すんだ、和!?」

「え、いやだって! 今朝と比べて縦にも横にも大きくなってるんだけど! 危険な生体実験か何か受けたんじゃないの?」

「人聞き悪いな! 俺のこれは……その、成長期ってやつだ」

「数時間でこんな激変する成長期ってなんなのさ! 正直に言って、兄さん……どこのメーカーのプロテインを呑んだの?」

「プロテイン如きでこんな見事な変貌遂げて堪るか!!」

「ほら、変貌って認めたー!!」

「言葉のあやだ、気のせいだ……!」


 しつこく追及する、和さん。

 それを必死に振り切ろうと言い逃れを重ねる、正さん。

 ちなみに一家のご両親は正さんの著しい成長を完全にスル―していた。

 

 そして翌日、学校でも。


「お、おまえ……誰だ!!」

「誰って……三倉正だ」

「嘘つきーっ!!」

「嘘じゃねえ! なんだよ、2年も同じクラスだったのに信じないってのか」

「まともな人間は一晩でそんな劇的に変わったりしねぇよ! お前、どこですり替わったんだ!」

「すり替わってねえよ! これは、その……成長期だ!」

「正……その言い訳、無理があるぜ?」

「だけど俺が三倉正なことに間違いは、ない!!」

「お前、人間の皮被った筍か! 雨後の筍か! 一晩でどんだけ育ったって言い張る気だよ!?」

「そんな……言うほど育ってねぇだろ?」

「いやいやいやいや見るからに育ちすぎだ! あとお前、制服……どうした?」

「…………ぱっつんぱっつんで、入らなくなったから、な。暫く私服登校なんだ」

「一晩で昨日まで入っていた服が入らなくなるとか、人間の成長速度突破してんだろ!!」


 一晩で筋肉をつけた男。

 メタモルフォーゼ正。

 ドッペルゲンガー疑惑。

 雨後の筍男。


 様々な噂を纏い、正さんは学校で一躍有名人になった。

 学校の先生方にもドン引きの視線を向けられ……

 体型が激しく変わったが為に入らなくなった予備の制服を新調するまでの短くない期間、仕方なしに私服登校を重ねる正さんは、学校中から注目の的となったのだった。



 ☆ テスト勉強 ☆


 異世界からの帰還を果たした夜のこと。

 夕飯を作るお母さんのお手伝いで、豆の鞘を剥く正さん。

 同じく対面で手伝いながら、ふと和さんが聞いた。

「そう言えば兄さん、明日もテストなのに勉強しなくて良いの?」

「……あ、え………………あ゛!!」

 正さんの頭の中味……高校の教育課程に相応するお勉強部分は、当然ながら冒険に全く需要はなく。

 その後の40年でも必要を感じることなく、綺麗に錆ついていたモノ。

 だが此方の世界では必要……どころか、すっかり忘れていたがそういえば正さんはテスト期間の真っ最中。

 頭の中身が吹っ飛んでいることにすら、今になって気付いたばかりだが。

 確かに、明日以降のテストを凌ぐ意味でもこんなことをしている場合ではないだろう。

 正さんは己が直面した危機に気付き、頭の中身が真っ白になった。

 顔の方は別の色に染まり……さーっと見事に青褪める。


「……どうしよう、和。お兄ちゃんは大学に行けねえかもしれない」

「えっ……兄さん、そんなに勉強ヤバかったっけ!?」


 異世界の冒険から、命を賭けた戦いから帰ってきた正さん。

 彼の本当の意味での戦いは……これからだった。

 一先ずは明日に向けて……正さんの本当の戦い(一夜漬け)が、始まる。




 正さんが17歳の頃の学力を取り戻すことが出来たかは……また、別のお話。

 とりあえず大学進学には成功したとだけ、ここに述べておこう。





 


ここで終わり……の、予定でしたが。

ついでですのでオマケのエピソードをもう一つ付けます。

次話の「余談そのに」までよろしければお付き合い下さい。

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