第326話 女王と宰相
アンジェはその日、シヤルタ王国との国境に近い、ナハヴという町の近くにいた。
このあたりの村々は平和そのものだった。国中が戦火に焼かれる中、皮肉なことにシヤルタ王国との国境近くであることが、この周辺地域を平和にしていた。
これまで東方遠征に精を出していたシヤルタ王国は、アンジェにとってもアルフレッドにとっても、触れることをためらう相手だった。どれだけ激しい戦争をしても、国境近くに軍は寄せない。言うまでもなく、シヤルタ王国を下手に刺激しないためだ。
もちろん支配権が移り変わることはあったが、その場合も周辺地域があらかた攻略されたあとになってから小勢を差し向け、穏便に無血降伏させるという流れが多く、そのため手荒い略奪で破壊されることもなかった。
アンジェは、ナハヴに送った軽装の先遣隊からの報告を待っていた。
これから、そこでユーリ・ホウと会合することになっている。先遣隊を送ったのは、敵軍が急に現れたと思って攻撃されたら困る、と考えたからだ。敵中にある軍は常に周囲を警戒し、一触即発の緊張を孕んでいるものだ。先遣隊は彼らを刺激しないための、いってみれば入室前のノックのような配慮だった。
当たり前だが、彼らは特になにもない様子で帰ってきた。
「アンジェ様、ご報告が」
「聞かせろ」
「ナハヴに、ユーリ・ホウは来ていません。代わりに、彼の国の宰相が来ております」
「なんだって?」
どういうことだ。宰相ということは、ミャロ・ギュダンヴィエルが来ているということか。
「向こうの言い分では、宰相には摂政と同等の外交権が認められている、とのことです。だから、なんの不都合もない、と……」
全方面的な外交権など、当然ながら安易に他人に与えるべきでない大権だが、ミャロ・ギュダンヴィエルはユーリ・ホウにとって立志以来の盟友だ。そして彼が遠征する際に留守を守る役目も帯びている。まあ、外交権があること自体は嘘ではないだろう。
しかし、アンジェはユーリ・ホウと外交をしにきたのだ。事前の通告もなく交渉相手を変えるのは、ちょっとした非礼と言えなくもない。
「いかがいたしましょうか。約束が違うのでは」
確かに、事前の話とは違う。しかし、ここまで来たのだ。連中は鷲でひとっ飛びだから気楽なものだろうが、アンジェは違う。この状況で会合を再セッティングする時間を取られるのは痛い。
それに、ユーリ・ホウより彼女のほうが与し易い相手である可能性もある。
「いや、会おう」
アンジェは愛馬の腹を足で叩き、会合に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナハヴに入り、一時的に借り切っている領主の館に入ると、シャン人の女性に案内をされた。まさか会合のために給仕を連れてくるわけもない。さりとて軍人には見えない衣装と立ち居振る舞いだったので、おそらく諜報員のたぐいなのだろう。
こちらの世界は男性が主で女性は従であるべきと基本的には考えるが、あちら側は違う。その特殊な文化的背景を、アンジェはよく知っていた。
「お連れしました」
という声と共に、応接室として使われている一室に入ると、ソファに仕立てのよい服を着た女性が座っていた。
その女性は、ティーカップを口にやる手を止めてソーサーに置くと、目線を上げてアンジェのことを見た。
すると眉を強く顰め、信じがたいような顔をして、次第に睨むような目つきに変わる。
「――ふざけているんですか?」
と、開口一番に言った。
非礼である。アンジェは思わず、気色ばんだ。
「国家の将来に大きく関わる交渉だと認識している。ふざけてなどいるものか」
「なら、その顔は一体どういうつもりなんですか」
どういうつもりもなにも……と、アンジェは途方に暮れたような気分になった。
ユーリ・ホウといい、この女といい、一体なんなのだ。
「私の顔になにかついているか?」
「……その顔でユーリくんと会ったんですね?」
「当たり前だ」
「――信じられません」
ミャロ・ギュダンヴィエルは、一言いうとソファから立ち上がり、苛立ったように辺りをうろついた。
そして、
「中座します。会合は夕方からにしましょう。それでは」
勝手にそう言い残し、バタンと乱暴にドアを閉じて部屋を出ていってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
約三時間後、しれっと現れたミャロ・ギュダンヴィエルは、勝手に部屋に入ってきて、勝手にソファに座った。
「言っておくが」
と、アンジェは先に口を開いた。
「私のこの顔は、生まれつきのものだ。好んではいるが、選んでこれにしたわけではない」
「テロル語で喋ってください」
ミャロ・ギュダンヴィエルは不快そうに目を瞑り、顔をしかめながらそう言った。まるで、アンジェの口から紡がれるシャン語が、聞くに絶えない不快音であるかのような態度だった。
「構わないが……」
アンジェはテロル語に切り替えて言った。
「……なんにせよ、今回はボクが来て正解でした」
ミャロ・ギュダンヴィエルは、なぜか男の一人称を使った。男社会で我を通すための処世術なのかもしれない。
彼女のテロル語は、ユーリ・ホウほどには上手ではなかった。語彙や文法は正しいが、イントネーションにシャン人独特の癖がある。
「正解とは? ユーリ・ホウでは駄目なのか」
「ボクのほうが適任、ということです。少なくとも、色仕掛けは通じませんから」
なんだこいつ。色仕掛けなどするものか。舐めてるのか、と不快感が胸中から沸き立った。
「さっさと始めてくれ。私は外交交渉をしに来たのだ」
「ええ、早く済ませましょう。それほど長くはかかりません。こちらの要求は決まっていますから、それを飲むか飲まないか、です」
ミャロ・ギュダンヴィエルは、書類ケースを開き、こちらに地図を見せた。
それは、まったく意外性のない、アンジェが考えていた要求の中でもっとも有り得そうな、そして最悪の要求だった。
「シャンティラ大皇国の旧土をこちらに割譲すること。それがこちらが援軍を出す条件です。逆に言えば、それ以外に条件はありません」
「なんとか、交渉の余地はないだろうか。国土のおよそ四分の一を割譲するなど、王として許される行為ではない」
「無理です。まあ、援軍は出せませんが、お望みなら武装の援助はしてさしあげますよ。我々が作った武装を握る人間が、我々シャン人からクラ人になるだけで、武器を向ける相手は同じですから」
ただし、と、ミャロ・ギュダンヴィエルは一言挟んだ。
「あなたは絶対に勝利することはできません。我々は、我々を裏切ったアルフレッドを打倒した後、あなたも潰すからです。旧土の奪還は絶対に譲れません。それがなければ、実際に血を流す将兵は納得しませんから。むろん、税を支払う国民も」
「しかし……できることと、できないことがある」
父祖が営々と築いてきた国土を、割って譲ることを良しとすることなどできない。
「領土を割譲したとしても、勝てば兄王の土地を奪えるのですから、あなたの国土は倍以上になります。そう考えてみては?」
聞くに絶えない欺瞞だった。ふざけるな。
「そういう問題ではない。私が言っているのは、歴史的な領土認識の話だ。私がいいといっても、納得しない者たちが多すぎる」
「そうですか……」
ミャロ・ギュダンヴィエルはソファの背もたれに体重を預け、何かを言いたげな表情をした。だが何も言わず、こちらの理解を促すように視線だけを送り、沈黙している。
アンジェはその態度で、それは向こうも同じなのだ、ということに考えが至った。
シヤルタ王国のほうも、その土地を歴史的に自国に属する土地であると考えている。そして、こちらには折れる理由があり、向こうにはない。
「あなた自身は」
ミャロ・ギュダンヴィエルは、絶妙ともいえるタイミングで口を開いた。
「どう考えているんです? 絶対に変化しない思想信条として、割譲という選択肢は存在しないと考えているのですか? もしそうであるなら、本当に交渉の余地はありません。これ以上の交渉は無意味です」
「……いいや、私はそういう考えではない」
ティレルメ神帝国という国家が初めて誕生した時の領土、つまり本土といえる領域をティレルメ地方というが、その範囲にはミャロ・ギュダンヴィエルが指定している地域は入らない。
ティレルメ地方という概念は、クスルクセス神衛帝国時代に属州ティレルメと呼ばれていた地域のことだからだ。クスルクセス神衛帝国は統治に際して几帳面なほどに正確な地図を作り、キッチリと領域を定めて属州総督を置き、土地を統治させた。だから、それ以前に蛮域と呼ばれていた時代と違って、属州ティレルメはここからここまでという範囲が決まっている。
そこから更に北、約九百年前にシャンティラ大皇国が崩壊してから切り取ってきた部分は、ティレルメ本領に対して北部帝領と呼ばれている。
北部帝領は、歴代の帝王たちがシャン人国家から切り取ってきた土地である、という認識はアンジェにもあるし、もちろん住民の間にも浸透している。十字軍があるたびに広がるのだから、当然の話だ。
アンジェ自身も、これから彼らと友好関係を結んでいくのであれば、いちいち摩擦を生じさせる地域になるであろうことは理解していた。
「そちらの主張は理解できる。だが、我々は戦争をして敗北したわけではないのだ。立場はあくまで対等のはず……同盟を結び援軍を出す条件が、領土の割譲というのでは……」
「対等の立場、というのが建前にすぎないことは理解していますよね。先の戦争での借りも、十分すぎるほどに返しました」
「それは……分かっている」
先の戦争では、アンジェは文書を何枚か書いて、軍が領土を通過することを許した。道中無意味な衝突がないよう、手勢から何人か高位貴族を割いて送ったりはしたが、アンジェが支払った対価はその程度のものだ。シヤルタ王国軍は略奪のような行為は行わなかったため、損害というべきものは彼らを追った十字軍による略奪によるほうが大きい。それにしても大きな損害ではなかった。
その対価として、彼らは鷲を貸してくれ、火力支援と偵察によって撤退を支援してくれた上、メーレスベルクの防衛を二ヶ月間やった。鷲は今も貸してくれている。防衛に関しては実際やったのはアルビオ共和国だが、その対価を支払ったのはシヤルタ王国だ。アンジェに対しては、今日に至るまで金貨一枚の請求もない。
普通に考えれば、借りは十分すぎるほど返している。
その上で、同盟関係にもないのに、援軍を出してアンジェを救済するという交渉をしているのだから、向こうが要求する立場になるのは当然の話だ。
「あなたのおっしゃりたいことは、我々も理解しています。国民からすれば、あなたが勝っても兄上が勝っても、とてつもなく大きな違いがあるわけではない。それなのに、戦争に勝つためにシャン人に援軍を頼み、その対価として国土の四分の一に当たる地域を割譲した、というのは、非常に外聞の悪いお話です。国を売って王になったとしても、それからの自分の権力が立ち行かない、と考えるのも無理はありません」
目の前にいる小さな女は、不気味なほど正確に、そして端的に状況を整理した。
「たしかに、そういう形にすれば批判は避けられないでしょうね」
「ああ、そうだ」
「でもね、国民の受け取る形を変えるというのは、実は簡単なことなんですよ。幸いなことに、あなたの抱える国民は戦火にさらされ、窮乏に喘いでいる」
幸いなことに、だと?
アンジェは、その表現に強い不快感を覚えた。
「なにが言いたい」
「国民の困窮を見かねたあなたが、どうしてもそれを欲しがる我々に、苦渋の決断で土地を売ったという形にすればよいのです」
土地を売る……。
「日々の暮らしに困窮した人々にとっては、他の地方に住む住民の国籍より、今日貰えるパンのほうがずっと重要な関心事のはず。大多数の人々は、あなたのその選択を尊重し、一定の理解を示すでしょう」
「割譲された土地に住まう人々はどうなる」
「都市国家地帯に住んでいた人々と同じ扱いになりますね。あなたも知っての通り、そう悪い扱いではありません。税率は一般的に高いわけではなく、初年度は無税となります。それでも我々による支配を望まない人々は、国外に流出してゆくことになるでしょう」
アンジェは、彼らシャン人の政府が、そうなることをむしろ望ましいと考え、クラ人の流出を放置していることを知っていた。
最終的には、その地域に住まうクラ人をゆるやかに絶えさせ、シャン人の人口比率を上げていく計画だからだ。
「ティレルメ地方の場合は、祖国が隣接しているわけですから……まあ、出国を選ぶ比率は他の地域より高くなるかもしれません。ですが、今回の戦乱で難民として流出した人々は大勢いると聞いています。人口過密によって生じる問題は少ない」
「そんなデマカセで国民が納得するわけがない。実際に生活は豊かにならないのだから」
「いいえ、割譲が認められるのであれば、実際に支援を行う用意はあります。我々も、国土の四分の一の割譲という要求の重さは理解していますからね」
ミャロ・ギュダンヴィエルは書類鞄から一枚の紙を取り出した。予め用意していたらしい。
ぱらり、とアンジェに向けて置かれた紙の内容を確認する。そこには、三年という期限付きではあるが、かなりの量の支援が書かれていた。食料の現物支援という形らしい。三年もすれば復旧も進むだろうし、食料生産もかなりの程度戻るだろう。とりあえず民衆に食うに困らない暮らしはさせてやれる。
その下に、「第一付加条項」というテロル語があり、様々な要求が書いてあった。修好通商条約の締結、国内におけるシャン人の保護、シヤルタ王国企業の現地法人開設の許可、法人税十三パーセントの二十年の固定、現地法人によるクラ人の雇用……と、様々な項目が並んでいる。それが成るのであれば、月々幾らと書いてある。こちらは金貨でくれるようだ。
要するに、ティレルメ地方の統一が成ったあと、こちらの領域内で好きに商売をさせてくれるのであれば、お金をあげますよ……という内容であるらしい。
そして最後には、「第二付加条項」とあって、そこには旧オーランドルフ公爵領サーレ県一帯に存在する石炭鉱山の独占的採掘権、と書いてある。
そこには、月々かなりの金額の支払いが明記されていた。
「石炭……か」
石炭は、アンジェにとってはさほど利用価値のない鉱石だ。しかし、その潜在的な価値は知っていた。
「噂によれば、ホウ社は石炭から鉄を作る技術を持っているらしいな」
アンジェがそれを言うと、ミャロ・ギュダンヴィエルは眉をわずかにひそめた。
現在、すべての鉄は木炭から作られている。木炭は木の種類によって品質がバラバラであるのに加えて、製鉄に使うとなると森が丸々消えるほどの量が必要であり、制作自体にも手間もかかる。
石炭であれば、鉱山から掘り出すだけで大量に入手できる。いちいち木を伐って木炭窯で蒸し焼きにせずとも入手できるのだから、価格はずっと安価だ。しかし、石炭を使って製鉄をすると、そこから作られた鉄はすべて最悪の品質になることが知られている。
しかし、ホウ社はそれをやる技術を持っている。その情報は、一連の裏切りが発生する前にユーフォス連邦が入手したものだった。アルビオ共和国が流通路に探りを入れ、製鉄炉施設に木炭ではなく石炭が運び込まれている事実を確認したらしい。
「さあ? 私はホウ社の経営に関してはよく知りませんので」
ミャロ・ギュダンヴィエルはすっとぼけた。
「最後の条件だが、石炭鉱山を国有化して、そちらの都合のいい場所に工場用地の手配をしよう。できうる限りの支援をする」
「それは助かります」
「その代わり、ホウ社の現地法人に出資させてくれ。出資比率は49%でいい。条件にある金の支払いはいらない」
アンジェがそれを言うと、ミャロ・ギュダンヴィエルの顔色が変わった。その渋面を作れたことに、内心で気分がよくなる。
「……あなたは、株式会社の仕組みについて、よく勉強をされているようですね。正直、驚きました。即時支払われる金貨より、出資する権利を欲しがるとは。ですが、それは無理ですよ」
「なぜだ?」
「もしすべてが上手くいった場合、ホウ社が考えている現地法人への出資規模は二十億ルガに上ります。教皇領のイルフィス金貨で換算すれば……えーっと、約三百五十万枚くらいです」
三百五十万……。
それは、言い換えてみれば、それだけの金額を一地方に流し込むということだ。商人やギルドが聞いたら卒倒しそうな話である。
その金は、金庫に死蔵されるわけではない。製鉄炉が入る建屋を作るために、建材を買う金として使われ、大工を雇う金として使われ、作業員を雇うのであれば、給金として支払われる。事務所を建てる金として使われるだろうし、宿舎を建てる金としても使われるだろう。巡り巡って、ティレルメ地方を大いに潤すことになるはずだ。
「言うまでもないことでしょうが、出資比率49%ということは、その約半分をあなたが支払うということです。仮に戦争に勝ったとしても、あなたが十億ルガ相当の資金をすぐに調達できるとは思えませんし、やれたとしても行うべきではありません。まずは、国民を困窮から救うために使うべきです」
「そこは、数年後に購入できるという仕組みにしてくれればいい」
「いいえ、そもそも、私には決定権がありません。ホウ社は国営企業ではなく、民間企業ですから。ボクは株主ではありませんし、当然ですが代表権もありません」
アンジェは黙るしかなかった。国内の大商人の取引を、当人が居ないところで勝手に進めるのと同じだ。国王だろうが宰相だろうが、外交権を持っていようがなかろうが、他人に勝手に進める権利はない。
「わかった。では第二付加条項については延期にして、第一付加条項まで飲むということで条約を結ぼう」
「そうですか。では署名をしましょう」
ミャロ・ギュダンヴィエルは、嬉しがるふうでもなく書類ケースから紙束を取り出し、一冊をこちらに渡した。
「ご確認ください。ボクはこちらの条約文書の第二付加条項を削っておきます」
文房具と定規を取り出し、斜線を引いて訂正してゆくのを横目に、アンジェは紙面に目を通した。
文章はテロル語とシャン語で書かれている。内容は問題ない。言語の違いから、表現がいくつか付け足されているが、それは正確を期すための追加で、大筋の文意に変化をもたらすものではなかった。
そして、つつがなく条約締結は終わった。
「言うまでもないが、北部帝領四州の割譲については秘しておいてくれ」
「そのあたりは、ボクが司っているのでご安心を」
ユーリ・ホウはよい懐刀を抱えている。志を立ててからずっと、傍らにこの女が控えて辣腕を振るっていたのだと考えると、彼の境遇が羨ましくなった。
「今後も、こういった条約についての交渉は、できるだけボクが行います」
「なぜだ? というか、そもそもユーリ・ホウは今なにをしている」
「シャンティニオン方面の鎮定に行っています。というか、その仕事を作ったのですが。どうも様子がおかしかったので」
ミャロ・ギュダンヴィエルは、はあ、と大きなため息を吐いた。
「……他に適任者がいたらよかったのですがね。やはり、どう考えても、ティレルメ地域の安定を考えると、支配者はあなたが適任です」
「そんなに、私が気に入らないのか」
「ええ。正直に言ってしまえば、会談を延期していた間、私の独断であなたを殺害してしまおうか検討していました」
私は、殺されようとしていたのか。
アンジェは新鮮な驚きを覚えた。今まで数え切れないほど暗殺を試みられてきたが、考えてみれば兄以外に企てられるのは初めての経験だ。
「その憎悪は不当だ。私は、あなたに何もしていない」
アンジェがまっすぐに目を見ながらそう言うと、ミャロ・ギュダンヴィエルは視線に耐えられない様子で、ふいと目を逸らした。
「その通りです。すべて、なにもかも、こちらの都合にすぎません。でも、不適格なのは事実なのです」
そう言うと、書類鞄に署名を終えた条約文書を一部入れ、ミャロ・ギュダンヴィエルはソファから立った。
「今更……死者のおもかげに心惹かれるなんて、あっていいわけがありません」
そう苦々しく言い捨てると、彼女は部屋を去っていった。
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