菫色の瞳
どうしよう・・・。アーサーに会わないと・・・。アーサーに・・・。
「ねえ、アーサー。どこに行くの?リリーが心配するよ?戻って、お菓子食べようよ!」
「うるさいな。ついて来るなよ。あっ!」
「なに?あれ?エド?」
「バカ、隠れろ。」
「なんで隠れるの?」
「エドワード、またブサイク姫の子守りかよ?可哀想だな、お前・・・。」
「・・・・。」
「せめて、美しい姫ならな。あの顔じゃ、キツイよな・・・・。エドワード、本当にあのブサイク姫と結婚させられるのか?」
「俺以外に誰が結婚するんだ?お前が俺に代わりに結婚するとでも?」
「いや・・・。お前の自己犠牲の精神には敬服するよ。まあ、綺麗な愛人を何人も作ればいいさ?」
「あぁ、そうだな・・・。」
「ネリー、今日、帰国するんじゃないの?」
「どうしても、五の姫様がビビ様と出かけたいと仰っていて・・・。」
ネリーは、髪を綺麗に結っていく。
「そう・・・。」
アーサーに会ってから帰国したい。
「ビビ様、私は今日もご一緒できないため、エドワードが同行します。」
「えっ?なんで?ネリーも行こうよ。」
ネリーが来ない?エドと二人でなんて無理だよ。
「私は陛下からの連絡を待たなくてはなりませんし、五の姫様がエドワードを気に入られたそうで・・・。」
「そう・・・。どこに出かけるの?」
「五の姫様専用の温泉があるそうで、そこへビビ様とエドワードを連れて行きたいそうです。」
「・・・・。」
「ビビ様?心配そうな顔をして?大丈夫ですか?やはり、私も行ったほうが・・・。」
ネリーは、髪を結う手を止める。
「ううん、大丈夫。エドもいるし・・・。温泉、楽しみね。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
厳しい・・・。この沈黙があと一時間は続くの?しかも馬車に乗ってから、ずっと顔を見られてるんですけど・・・。何か、話をしたほうが良いのかな。
エドと一緒にいるのが辛くて、善様と馬車に乗るを選んだのに・・・・。これもなかなか、辛いです・・・・。頑張って話しかけてみようかな?
「善様は、エドと仲が良いのですよね?」
「いいえ。」
「そっ、そうなんですか・・・。」
えっ。会話、終了ですか?いやいや、頑張れ、私!
「善様は、ネリーの恋人なのですか?」
「いいえ。」
「そうですか・・・。」
だよね。ネリーも違うと言ってたし。
「好きな食べ物はなんですか?」
「ありません。」
会話が続かない・・・。はあ、どうしよう・・・。
「好きな食べ物はなんですか?」
あっ、善様が話しかけてくれた。
「果物が好きです・・・。」
「そうですか。」
あぁ、会話が続かない。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「エレノア、ネリーとは仲が良いのですか?」
「ネリーが大好きなんです!綺麗で、優しくて、憧れます。」
「そうですか。」
善様・・・。全く、興味ないじゃないですか・・・。
「貴女は、エドワードの恋人なのですか?」
なっ!
「違います。」
「では、質問を変えます。貴女はエドワードが好きなのですか?」
顔がカーッと熱くなる。
「その質問には答えません。」
「何故です?」
「答えたくないからです。」
向かい側に座っていた善様が、立ち上がり私の隣に座る。えっ?なに?
「貴女の口を割らせるなんて簡単ですよ?」
なにそれ!キッと善様を睨む。
「あぁ、その瞳はヤバイですね。人を惑わす菫色の瞳。その瞳で、私や五の姫も惑わすつもりですか?」
なに?なんのこと?
「貴女の知りたいことを教えて差し上げますよ?」
善様が耳元である言葉を囁いた。
「知りたいでしょう?どうしますか?」
「私は・・・。」
屋敷に着くと、エドと五の姫様が門の前で待っていた。
「ビビ!遅いぞ!遅過ぎてエドがむくれて、口も聞いてくれぬ!」
そう言って、五の姫様がエドに抱きついた。
「のう?前のように抱き上げてくれぬのか?」
五の姫様が、エドを見上げる。なんて可愛いらしいんだろう・・・。
「五の姫様に変な噂が流れては、お母様が悲しまれますよ。」
エドは、そっと五の姫様から離れる。
「変な噂?ならば、誠にすればよいぞ!エド、そなたは妾のものになればよい。」
「私はヴィヴィアン王女に忠誠を誓っております。」
忠誠?そうなの?
「ビビは、アーサー王子かオーウェン王子に嫁ぐのであろう?ビビが嫁いだあとでも良いぞ?」
「ああ、A国との縁談は白紙になりました。なので、アーサー殿下にも、オーウェン殿下にも、ヴィヴィアン王女が嫁ぐことはありません。では、失礼。」
エドは私を抱き上げた。えっ?五の姫様が視界に入る。凄く、傷ついた顔を・・・・。
「エド、降ろして。」
「スミレ?顔が赤いな。どうした?」
「あぁ、馬車の中で興奮したからでしょ?それより、ウチの五の姫に酷いことしないでくれます?」
善様がエドを冷めた目で見つめる。
「お前、教育係だろ?絶対に手に入らないものもあることを教えておけ。」
部屋に案内されると、エドはすぐに侍女を下がらせた。
「スミレ?」
エドは私の名を呼びながら、私の耳朶を食む。恥ずかしい・・・。
「もう、止めて。」
「なんでだ?俺のことが好きなんだろ?」
大好きだよ。エドが大好き。
「エドが大好きだよ。でも。」
きっと物心つく前から、ずっとエドが好きなんだよ。
「でも、なんだ?」
エドの顔が近づき、キスをされる。
「んっ。んっ。でも、エドは違うでしょ?も、もう、キスとかしなくて良いから・・・。無理しなくて良いから。我慢しなくて良いから・・・。」
「違うってなんだ?」
「エドは、私のこと好きじゃないでしょ?だから・・・。」
「あぁ、確かに違うな。」
やっぱり、そうなんだ・・・。自分で聞いたのに。辛い。
呼び鈴が鳴る。
「なんだ?」
「温泉の着替えの準備が整いました。」
「わかった。今、行く。スミレ、温泉に行っておいで。後で、ゆっくり話そう。」
ゆっくり話す?エドが私を好きじゃないことを?嫌だ。聞きたくない。アーサー、迎えに来て・・・。




