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第1話

短編のつもりが、また連載形式になってしまいました。

6話くらいで終わる予定です。

拙い文ではありますが、楽しんでいただけたら幸いです。

「さぁ、その大層な愛を貫くために、手に手をとって二人でどこへなりとも逃げてください。私はこのような茶番にいつまでも付き合っていられませんわ。失礼させていただきます」


 やられた!!


 神殿の隅で様子をうかがっていたデガルト帝国第3王子 エリックは、その言葉を聞いて、自分の策略がわずかに予測とは違うものになることを察した。



  ※  ※  ※

 

 今日は、ファストロ国 王弟の娘 リュシールとエジェンス国 第二王子 アレックスの結婚式だった。

 どちらの国も軍事大国として知られるデガルト帝国の食卓とも呼ばれ、それゆえに両国の関係は良いものではなかった。小競り合いなどは日常茶飯事、全面戦争かとも思わせる危機も何度かあった。

 しかし、両国は農業・畜産の国である。

 戦争をしても何の利益もなく、国力を消費するだけと気付いた時の王らは、比較的年の近かったアレックスとリュシールを婚約させることで、和平の証とした。

 当時アレックス5歳、リュシール3歳のときの話である。

 それから12年がたった、今日この日二人は晴れて夫婦になる―――はずだった。


 しかし、突然神殿に現れた令嬢がアレックスへと駆け寄ったのだ。

 王族の結婚式であるまじき事態。しかし、それよりもっと問題だったのが、アレックスもその令嬢の手を取ったことだ。

 花嫁であるリュシールは、結婚する寸前で花婿に逃げられることとなった。


 普通ならば、花嫁は捨てられたと悲嘆するか恥をかかされたと激怒するところだろう。しかしリュシールは鮮やかな手並みで戦争を回避し、おまけに自分を捨てた男を逃がそうとした。

 エリックの予定では、潜ませていた兵を動かし、アレックスと女を拘束。そのまま、エジェンスの王族に全ての責任を押し付けるつもりだった。

 最悪、ファストロとエジェンスの全面戦争が起ることも予想して、王都の外に帝国軍も密かに配備していたというのに。

 予想を超えるリュシールの事態の収拾能力とあの毅然とした態度に、エリックは悔しく思うよりも「相変わらずいい女だ」と惚れ惚れしてしまう。


 しかし、アレックスを逃がそうとしたことには納得できなかった。

 見目がよく、優しいだけのくだらない男だ、とエリックは判じていた。

 リュシールを傷つけるから、と婚約破棄を言い出せず、ずるずるとここまで問題を先延ばしにした。優柔不断で、王族としての覚悟もない男。

 私情も挟まれ、エリックのアレックスに対する評価は最悪だった。


「そんなに、その男が大切か?」


 怒気を含んだその問いに答える人は側にはいない。

 恋仲ではなかったと報告されているが、リュシールの気持ちはリュシールにしかわからない。

 

 エリックが熱心に見詰める先で、リュシールがうつむくことなく神殿を出て行くところだった。

 美しい花嫁姿。

 衆人環視の中で男に捨てられたなんて思えないほど、堂々と自信あふれる態度だった。

 けれど、エリックにはブーケを持つ手が微かに震えているのが見えた。まるで縋るかのようにそれを握りしめる様子に、それほど余裕はないとわかった。

 チクリとエリックのわずかな良心が痛む。

 醜い独占欲で、あの真っ白な花嫁をおとしめた。


「早くあの手を取りたい」


 震える手を思い出して、エリックがひっそりと息を吐く。

「エリック様」

「ダリウスか」

 はい、と後ろに控えた同じ漆黒の軍服を着た細身の男が、静かに頷いた。副官であるダリウスに、エリックはとりあえずの指示を出す。

「神殿周辺の兵は、アレックスたちの逃走後、誘導したルートを封鎖し、そのまま警戒と監視をするように。帝国軍へはイズを飛ばして計画を中止、帰還せよ。と伝えてくれ」

「了解しました」

 リュシールが出て行き、招待客が今さらのように騒ぎだした神殿の中、ダリウスはエリックの指示を伝えるために人々の間を縫って外へと出て行った。

 その姿を視界の隅に収めながら、ようやく周囲の状況に気付き、真っ青な顔で震え上がったアレックスの無様な姿を睨みつけた。


「彼女に免じてこの場は見逃してやる。せいぜい生き延びて苦しめばいい」


 エリックはそう吐き捨てると、長年求めてやまなかった物を手にするために歩き出した。




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